中国では「デジタル人民元」の開発が進み
正式な発行まであとわずかです(2023年現在)
中国のデジタル通貨の開発研究は
中央銀行としては世界で一番早く
2014年から始まっています。
なぜ中国はデジタル人民元の開発を
推し進めているのでしょうか?
ここではその開発理由の一つである
「人民元の国際化」について解説します。
国際化を目指す「人民元」
中国は自国の通貨「人民元」を
「国際化」させたいと思っています。
通貨が「国際化」する、というのは
どんな時のことをいうのでしょうか?
ある通貨が国際化しているということは
- その通貨が世界中にたくさん出回っていること
- その通貨を使うインフラが整っていること
- その通貨を欲しいと思う人が大勢いること
このような条件が整うことを指します。
そのメリット 為替リスクを減らせる
自分の国の人だけではなく
世界中の人に人民元を使ってもらうことで、
波紋が広がるように「利益」が広がれば
人民元の価値が上がり、
人民元の「国際化」に近づけます。

けれど、国が違うと通貨が違うので
さまざまな問題が生まれます。
例えば「為替のリスク」です。
為替のリスク
為替リスクとは、為替相場の変動によって価値が変化して、利益や損失が生じること
「為替のリスク」とは
例えば日本を例にして考えてみます。
日本の石油の取引は全輸入量10%を占め
およそ8兆円支払っています。
このほとんどをアメリカドルで
支払う決まりになっています。
1ドルが80円だったのでそのくらいの
金額かなと思っていたのが、
1ドル160円に変動してしまうと
1ドル分で買える石油の量が半分になります。
これが「為替のリスク」です。
逆に産油国のサウジアラビアや
アラブ首長国連邦はどうでしょうか?
サウジアラビアやアラブ首長国連邦で
使用している通貨はアメリカドルと価格が
固定されているので、変動しません。
なのでドルさえ払ってもらえれば
リスクはありません。
それなら日本も固定させれば良いと
思われるかもしれませんが、
- ドルやユーロなどの主要通貨が変動相場であること
- 「お金」はいつも利益の出る方へ流れること
- 本当の通貨の価値と乖離した値のままのことがある
このような理由から
日本の経済規模を維持していくためには
通貨の現状を正確に表わしている
「変動相場」で世界の国々と取引するほうが
経済の実情と合わない指標になることのある
「固定相場」よりリスクが少ないのです。
このように海外と貿易するときに
ドルを挟んでやり取りすると
儲けが目減りしてしまうこと
「為替のリスク」が避けられません。
中国の高官の声
中国証券監督管理委員会の
星海副主席は2020年に
「中国の金融機関や企業の海外取引は
主にドルによる決済に依存している。
そうした決済が安全かどうか
大いに疑問を持つべきである。
今後10年のあいだに、人民元の国際化は
加速させなければならない」と話しています。
また、中国国際経済交流中心の
黄奇帆副理事長は2019年に
「ドルを使った貿易の国際的な
決済ネットワークSWIFT(スイフト)や、
米国の決済システムCHIPS(チップス)を、
中国企業が使用することはリスクである、
デジタル人民元の実用化を通じて
人民元の国際化を進めることで、
こうしたリスクを回避することができる」
このように話しています。
人民元が「為替リスク」にさらされることは
その金銭的リスクもありますが、
それ以上に「国の安全保障」にもかかわると
考えているのです。
自国の通貨で世界と取引をする
実は「為替のリスク」を避けるための
とっておきの方法があります。
それは海外取引の支払いに自国の通貨を使う
ことです。自国通貨をわざわざドルに換えて
相手国とやり取りするよりも
自国通貨そのもので決済することです。
もし相手国がそれを了解してくれれば
「為替のリスク」は一切考えなくても大丈夫です。
このため中国では外国との取引に
人民元での支払いを進めています。
国際銀行間通信協会(SWIFT)よると、
世界の投資や貿易に使う決済通貨としての
人民元の国際決済シェアは
2021年12月に2.7%に達し、
日本円を抜いて世界4位の決済通貨になります。
そして2022年1月には3.2%に上がり、
過去最高を記録します。
ちなみに順位はこの通りです。
1位 米ドル 40.51%
2位 ユーロ 36.65%、
3位 英ポンド 5.89%
4位 人民元 2.7%
5位 日本円 2.58%
人民元、日本円を抜き世界4位の決済通貨に 業界ニュース 深セン市政府ポータルサイト (sz.gov.cn)
もちろんまだまだ規模は小さいですが
国際化に向けて着実に力をつけているのです。
まとめ
中国がなぜ人民元の国際化を進めたいと
考えているのか、そのメリットについて
解説しました。
人民元がたくさんの国の人に使われること、
そして海外との決済で人民元で支払うこと、
それによって「為替のリスク」を避け、
国の安全保障の面からも中国は
人民元の国際化を推し進めているのです。
中国が人民元のデジタル化を進めているのは
人民元がより使いやすい通貨になるための
インフラ整備の一つなのです。
ただ、デジタル化したからと言って
すぐに人民元がアメリカドルを抑えて
国際化が進み、その地位が高まる
というわけではありません。
国際力を高めるには規制をなくすことも
必要ですが、こちらの方は進んでいないからです。
参考文献
今、なぜ中国のデジタル人民元が重要か (dir.co.jp)
人民元国際化の加速を目指す中国|日本総研 (jri.co.jp)
21世紀に向けた円の国際化(本体) : 財務省 (mof.go.jp)
焦点:着実に増える人民元の国際決済取引、ドル以外の貿易体制に道 | ロイター (reuters.com)
第2部 第1章 第3節 一次エネルギーの動向 │ 令和2年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2021) HTML版 │ 資源エネルギー庁 (meti.go.jp)