今回は「労働」という視点から、経済を考えていきます。
前回までは商品の数と、欲しい人の数、そこから決まる価格に注目してきました。
価格という「お金」は、買った人から企業に移動します、逆に売れたモノは企業から人へ移動します。ただし、これだけだと、人にモノが貯まり、企業にお金が貯まり込むだけになってしまいます。
実は、これに逆らう流れがあります、それが「労働」です。個人が「労働」という資源を企業に供給して、企業は「賃金」というお金を人に返すのです。
「労働」というとなにか個人的なもののように感じますが、「労働」は重要な経済活動の柱です。「労働」の中のお金の流れをつかめば、賃金がどのように決まっているのか、知ることができます。
労働から見た需要と供給
皆さんは自分の給料がどのように決まっているか知りたくないですか? 「口のうまい人が出世するんでしょ?」と思考停止するのは残念です。給料は決して感情で決まっているわけではありません。
ちょっと目線を上げて広い視点でお金の流れをつかんでみませんか?
きっと、もっと良い意思決定ができるようになるはずです。
財市場と労働市場のちがい
商品の価格は、その商品の量と欲しい人の数で決まります。
商品をつくる企業とモノが欲しい人との間を、お金が行ったり来たりしていることを経済学用語で「財市場」と呼びます。
これに対して、「労働市場」というお金の流れがあります。
「労働市場」は、働きたい人がその能力を「供給」し、その能力が欲しい企業が「需要」となります。そこに「賃金」というお金が受け渡されお金が流れていく場が「労働市場」です。
要するに普通に就職活動があって就職して、給料をもらうことです。もちろんバイトも同じです。
「財市場」に、たくさんのモノがあったのと同じように「労働市場」にも、たくさんの職業があります。そしてその能力を欲しい企業もたくさんあって、その中で賃金が決まっていくのです。
財市場では企業が「供給者」で家庭が「需要者」でした。労働市場では家庭が「供給者」で企業が「需要者」という反対の関係になっています。「供給」と「需要」が入れ替わり、家庭と企業の間を、お金がぐるぐる回り続けていることに注目です。

労働市場の「需要」
労働市場をもう少し詳しく見ていきましょう。
まずは「需要」から見ていきます。労働市場で「需要」とは、働いてほしいと思っている人、つまり企業である雇用主が欲しいと思う労働力の数と賃金の関係です。

労働市場の需要は、賃金が高いとき、求人の数は少なくなります。商品の価格が高いとモノが売れなくなるのと同じです。なぜこんなことが起きるかというと、企業は利益を上げるために労働単価が上がると労働者の数を減らそうとするからです。
需要曲線は右下がりですが、この下がり具合がどの程度になるのかは、つまり賃金が低くなるとどのくらい求人が増えるのかは、前回まで解説してきた「弾力性」を考えると分かってきます。
弾力性とは
価格が変わったときモノの需要や供給がどのくらい変化するのか、その度合いのこと
労働の需要は、短期的にみると弾力性がありません。
賃金を上げたとしても求人数が、同じ割合で減るということはありません。いったん人を雇うと企業はそう簡単に解雇したりすることはありません。
しかし長期的にみると、労働市場は弾力的になります。
例えば、工場の効率化を進め大規模な労働者の削減を行うことがあります。日本の自動車メーカーが、国内工場を閉鎖し海外に工場を構えると一気に雇用が減ります。また新しいテクノロジーを導入したときも雇用が失われる場合があります。
労働の需要は短期的には弾力性がないので、急に賃金が上下することはありませんが、長期的には弾力性が高くなるので賃金は変動します。
需要曲線がシフトするときはどんなとき?
「労働市場」も需要と供給のバランスで決まっているとしたら、労働の需要も同じように変化するはずです。
ではそれはどんなときなのでしょうか?
まず、ある商品がとても人気があって欲しい人がたくさん増えて、需要が多くなれば労働の需要が高まります。たくさん生産して儲けようとする企業が増えるからですね。
逆に外出制限がでたりして、人々が外に出られなくなるとイベントができなくなるので、イベント団体は休業するしかありません。

技術のイノベーションはどうでしょうか? 新しい技術が発明されると、一部の高度な技術を持っていた人しかできなかったことが、誰にでもできる職業に変わることがあります。
新しい技術が生まれると、廃れる職業もありますが、それ以上に新たな職業を生み出されます。技術の進歩は労働者の生産性を上げ、むしろ労働者の賃金を上げていることが分かります。
結局、企業が人を雇うかどうかは、その生産性にかかっています。人を雇うことでどれだけのモノが生み出されるのか? それは賃金に見合っているのか? 賃金に見合うだけの売り上げが上がらなければ、企業は人を雇いません。
まとめ
労働市場における賃金の決まり方についてみてきました。
労働市場とは家計側が企業に供給するものでした。逆に企業は求人というかたちで人を求めるので、それが需要になります。その需要量は求人と賃金で表され、賃金が上がると求人は減り、下がると増えます。
労働市場の需要は短期的には弾力性がなく、変化しにくいですが、長期的には弾力性が出てきて求人が大幅に変化することがあります。
労働市場の需要も財市場の需要と同じように、その生産物に対する需要の変化すれば需要も変化します。商品を欲しい人が増えれば求人が増え、減れば求人が減っていきます。生産性が上がらなければ賃金は上がりません。
つまり、企業が賃金を上げないのは、個人の働きが悪いとか、そういうことではありません。売り上げが伸びないので給料を上げることが出来ないだけなのです。それを個人のせいにすればなんとなく理由が付いたように感じられ、また売り上げを伸ばす方法を考えるより個人のせいにした方が簡単なので、この個人攻撃という方法はあちこちでよくみられます。
賃金とは労働が生み出すものの価値によってのみ決定されるのものなのです。
参考文献
ティモシー・テイラー 経済学入門