皆さんヒザラガイはご存じですか?
似たような貝を見たことがあるけれど詳しくは知らないという方も多いかと思います。
岩の上にへばりついて生活しているヒザラガイは岩の上で休んだり、食事をしたりしていますが、その動きはとてもゆっくりで私たちの目に動いているように見えません。
なのでぱっと見て生き物なのか、岩の一部なのか良く分かりません。
けれどヒザラガイの仲間は5億年前の化石にもみられるほど、古くから生き続けている生き物の仲間です。
地球の環境は古生代からいつも大きな変化を繰り返しています。
例えば、大陸の移動、気候変動、大量絶滅など、さまざまな困難を乗り越えて、ヒザラガイの仲間たちは生き延びてきました。そのため彼らはさまざまな環境変化に適応する能力を身につけてきました。
私たちはヒザラガイの仲間たちと比べれば、まだまだ生まれたばかりです。
ただ、地球の環境の変化は何万年、何千万年といった長い年をかけて変化するので、地球に生きる生き物たちも、その長い年月に合わせて生き延びるすべを身につけていきました。
それに対して、私たちの身の回りの社会の変化は数年間、数時間といった短い間で環境が変化することがあります。
私たちとヒザラガイたちは時間軸が違いますが、変化する環境にどのように生活するのか? という同じ問題をもっています。
ヒザラガイの仲間は環境の変化をどのように乗り越えていったのでしょうか?
私たちもそのコツをつかむことが出来れば、より毎日が楽しく豊かなものになります。
早速見ていきましょう!
ヒザラガイ
動物界
軟体動物門
多板綱
クサズリガイ目
クサズリ科
ヒザラガイのからだ
ヒザラガイは軟体動物というタコやイカ、シジミなどの貝類の仲間です。彼らの仲間は私たちと違って体に固い骨を持ちません。大切な内臓は外套膜という特別な膜で覆って守ります。
軟体動物の仲間には殻を持つものもいます。
大きい殻、複雑な殻、美しい殻やカラフルな殻などのさまざまな種類の殻がありますが、ヒザラガイはその中でも殻の数が多いという特徴を持つ軟体動物の一種として知られています。
ヒザラガイの仲間は世界中に約1000種、日本には約100種が生息し、そのうちの約20種は海岸の岩場や転石地に普通に良く見る身近な生き物です。
ヒザラガイの特徴
- 体長は楕円形で平たく、横幅は10センチ程度。
- ヒザラガイの最大の特徴は背中の8枚の殻です。これが背中に瓦のように並んでいます。
シジミやサザエなどの貝は体を貝の中に全部隠すことが出来ますが、ヒザラガイの体は並んだ殻からはみ出てしまっています。はみ出た体は短くて太い棘に覆われています - 殻から飛び出た背中側は硬いですが、裏の腹側には口と柔らかい大きな脚があります。
足の両側には小さな鰓が並びます。
触覚や目はありません。 - 足の裏には粘液腺があり、これで岩などに付着します。岩につくヒザラガイは、大人でも素手では取れないほど強く吸着しています。
- ヒザラガイの仲間の多くは潮間帯に住んでいますが、水深7000メートルを超える深海にも生息しています。
- ヒザラガイは岩の上に生えるアオサやノリなどの海藻を食べています。歯舌と呼ばれる軟体動物特有のリボンのような歯で海藻を削るとって食べます。
ヒザラガイの繁殖
- ヒザラガイは雄と雌がいます。(海の生き物では一つの個体が雄と雌の役割が出来るものも多い)
卵生で、7月から10月の満月と新月の前後の満潮の明け方、または夕方の満潮直後に放卵と放精を行うと考えられています。 - 卵は海水を漂い、数日で孵化します。
- 孵化した幼生はしばらくプランクトンとして生活し、その後岩などに付着して成長します。
ヒザラガイの古い仲間
ヒザラガイの仲間は化石からも出ます。
ヒザラガイは古生代から現在まで生息している軟体動物の一種で、その化石は古生物学において重要な研究対象となっています。
ヒザラガイの化石は、主に堆積岩の中で見つかります。堆積岩は、長い年月をかけて堆積した土砂や生物遺骸などが固まってできた岩石で、地震などの何かのきっかけで、ヒザラガイが柔らかい砂の中に閉じ込められて上手く保存されれば化石として残ることができます。
ヒザラガイの仲間は、5億年前ごろには生息していました。
そのころのヒザラガイの仲間と今のヒザラガイではその形態に大きな違いがありますが、背中に並ぶ殻の特徴はそのまま現在にも引き継がれています。殻は化石として残りやすいのでその形や模様をもとに進化の過程の研究をするのに良い目印になります。
ヒザラガイの化石が見つかれば、当時の環境を知る手がかりにもなります。
例えば、ヒザラガイの殻の厚さや酸素同位体比は、当時の海水温や水質を反映していることが知られています。
ヒザラガイのトリビア
- ヒザラガイには自分の好きな岩のくぼみを持っている個体がいます。決まったある岩のくぼみから食事に出かけて、食事が終わると元のくぼみに戻る帰巣本能をもっています。
- 岩から剥がすと体を丸く曲げることから、「爺さん貝」や「こごまり」とも呼ばれています。
- 地方によっては食用にもされています。けれど硬くて食べにくいです。
ヒザラガイの役割
ヒザラガイは、磯の生態系において重要な役割を果たしています。
ヒザラガイは岩場などに生える藻類を主食としており、その食害活動は藻類の繁茂を抑制し、多様な藻類の共存を可能にします。もしヒザラガイがいなければ、特定の藻類が優占し、生態系のバランスが崩れてしまう可能性があります。
また堅牢に見えるヒザラガイの背中の鎧もカモメなどの鳥たちや大型の魚などは食べることが出来ます。大型の生き物にとってヒザラガイは、重要な餌資源になっています。
ヒザラガイの存在は、これらの生物の生存を支え、生物多様性の維持に貢献しています。
ヒザラガイは岩についているだけの生き物に見えましたが、大型の生き物の食べ物になるなど生態系全体に様々な影響を与える重要な生物です。環境はいつも揺れ動いているので、その変化によっては影響も変化していくため、ヒザラガイの生態や個体数動態を継続的に観察していくことが大切です。
ヒザラガイから学べること
古生代から生き続けている軟体動物のヒザラガイは、私たちに多くのことを教えてくれます。
環境適応能力
軟体動物は、5億年以上前から地球上に存在し、様々な環境変化を乗り越えて生き延びてきました。その過程で、彼らは様々な環境に適応するための能力を獲得してきました。例えばこんな能力を身につけています。
- 二枚貝は、水質汚染や酸性雨などの環境ストレスに耐える能力
- イカは、温度変化や塩分濃度変化などの環境変化に適応する能力
- タコは、複雑な環境を学習し、記憶する能力
これらの能力は、私たちが将来直面するであろう環境問題に対処するヒントを与えてくれます。
進化の過程
軟体動物は、進化の過程を研究する上で貴重なモデル生物です。
彼らの化石記録は、数億年にわたる進化の過程を詳細に示しており、生物多様性の起源や進化のメカニズムを理解する上で重要な役割を果たしています。
生物多様性の重要性
種類の多い軟体動物は、地球上の生物多様性において重要な役割を果たしています。
彼らは、食物連鎖の重要な構成要素で、生態系維持にたくさんの貢献をしています。また非常に重要なこととして、多くの軟体動物が人間にとって貴重な食料源や薬用資源となっています。
生命の強さ
軟体動物は、極限環境でも生きることができる生命の強さを教えてくれます。
例えば、深海熱水噴出孔周辺に生息する軟体動物は、高温・高圧・高硫黄という極限環境に適応しています。これらの生物は、生命の起源や、地球外生命体の存在可能性を考える上で重要な示唆を与えてくれます。
人間と軟体動物の関係
軟体動物は、人間にとって古くから重要な存在でした。
私たちは彼らを食料として、また衣服、装飾品、薬などの様々な用途に利用してきました。また、体が柔らかいため解剖しやすいので、科学研究や教育の教材としても重要な役割を果たしています。
このように、古生代から生き続けている軟体動物たちは、私たちに多くのことを教えてくれます。
彼らの生存戦略、進化の過程、生物多様性における役割、生命の強さなどを学ぶことで、私たちは将来の環境問題に対処し、持続可能な社会を築くためのヒントを得ることができるでしょう。
ヒザラガイを観察しよう
ヒザラガイを楽しく観察するときは、以下の点に注意しましょう。
安全
- ヒザラガイは岩や海藻に付着していることが多いので、転倒や滑落に注意しましょう。
- 潮の満ち引きに注意し、満潮時には観察を中止しましょう。
- ゴミを持ち帰り、自然環境を守りましょう。
観察
- ヒザラガイは動きが遅いので、じっくり観察することができます。
- 殻の色や模様、触覚がないこと、ゆっくり動く足などの形態を観察しましょう。
- 餌を食べている様子や、他の生物との関わりを観察しましょう。
- ヒザラガイの生態について事前に調べておくと、より深く観察することができます。
持ち物
- 虫眼鏡や双眼鏡があると、より詳細な観察ができます。
- カメラがあれば、観察記録を残すことができます。
- メモ帳と筆記用具があれば、観察したことを記録することができます。
観察のポイント
- ヒザラガイは触っても大丈夫ですが、無理に引っ張ったり、殻を傷つけたりしないようにしましょう。
- ヒザラガイは生息地によって様々な形態や生態を持っているので、色々な場所で観察してみると面白いです。
- ヒザラガイの観察を通して、海の生物多様性について学ぶことができます。
おすすめの観察スポット
- 干潮の時に行くとたくさんの生き物に出会えます
- 岩場のくぼみはヒザラガイの良い休憩所になっているので見つけてみましょう。
ヒザラガイ観察の楽しみ
- ヒザラガイの様々な形態や生態を観察することができます。
- 海の生物多様性について学ぶことができます。
- 自然の美しさを感じることができます。
注意点
- ヒザラガイは生息地によって様々な形態や生態を持っているので、観察前に事前に調べておくことをおすすめします。
- ヒザラガイは絶滅危惧種に指定されている地域もあるため、観察の際は注意が必要です。
参考文献
日本動物大百科 平凡社
磯の生き物図鑑 トンボ出版
世界の巻貝類とヒザラガイ類 (系統樹) - 生息地の野生生物 (em-net.ne.jp)
多板綱 - Wikipedia
3億9千万年前のヒザラガイを3D復元 | ナショナル ジオグラフィック日本版サイト (nikkeibp.co.jp)
海辺の生き物【ヒザラガイ】 - アース・ミュージアム元宇品 (sanpo-motoujina.club)