はじめに:晩秋の食卓を彩る「柿」の物語
暑い夏がすぎてヒガンバナが咲くころになると、オレンジ色が鮮やかな「柿」がスーパーに並びます。
柿の学名は「Diospyros kaki Thunberug(ディオスピロス・カキ・トゥンベルグ)」です。
Diospyros とは、Dios(神)と pyros(穀物)という古代ギリシャ語が語源の造語で「神の食べ物」という意味です。これは、柿の木の学名を考えたスウェーデンの植物学者カール・ペーテル・ツンベルクが、柿の味の素晴らしさに驚いて「まるで神様の食べ物のようだ」称えたことに由来します。
日本でも柿は有史以前から、縁起の良い果実として珍重され、今でも宮中や神社の儀式の中で、神様に献上する飲食物の一つとして使われています。
秋を迎え、多忙な日々の中で自身の生活基盤を整えたいと願う50代以降の世代にとって、そんな高貴な「柿」を食卓に取り入れることは、心身の安定と豊かな人生を支える象徴的な意味を持つのではないでしょうか。
ここでは、そんな柿が私たちの美容と健康にどのように役に立つのか解説し、簡単レシピや柔らかくなってしまった柿の活用方法をご紹介します。

柿のもつ美容と健康に役立つ豊富な栄養
ビタミンC(免疫力アップ・抗酸化作用)
まずもっとも特質するべき柿の特徴は、ビタミンCが非常に豊富な果物ということです。
生の柿には、可食部100gあたりおよそ70mgのビタミンCが含まれています。
これは、他の多くの果物と比較してもトップクラスの含有量です。

普通サイズの柿(約200g)を1個食べると、成人で推奨されている1日のビタミンC摂取量(100mg)をほぼ満たすことができます。
ビタミンCは、コラーゲンの生成促進や抗酸化作用を持ち、また白血球の働きを強化して、細菌やウイルスを攻撃する力を高めるため、風邪予防することができます。
ただし、干し柿にすると、水分と一緒にビタミンCが大幅に減少してしまうため、ビタミンCを摂りたい場合は生の柿を選ぶのが良いでしょう。

β-カロテン(粘膜の健康維持)
柿の鮮やかなオレンジ色は「β‐クリプトキサンチン」と呼ばれ、カロチノイドの一種です。
「β‐クリプトキサンチン」は、小腸で必要な分だけ「ビタミンA」に変換されます。
「ビタミンA」は、目・鼻・のどなどの皮膚や粘膜を健康に保つのに不可欠な栄養素です。粘膜が強くなることで、ウイルスが体内に侵入するのを防ぎやすくなり、風邪やインフルエンザの予防に効果的です。
よく「柿が赤くなると医者が青くなる」という言い伝えがあるように、柿は健康を保つための別名「抗感染症ビタミン」と呼ばれるビタミンCやビタミンAに代わる物質を豊富に含んでいます。
柿 どんな栄養成分があるか|味の農園

タンニンの作用への配慮
柿によっては、ちょっと渋みがあることがあります。
この渋みはタンニン(シブオール)の作用です。
タンニンはポリフェノールの一種で、たんぱく質を固める働きがあります。
体の中に入ったタンニンは、粘膜のたんぱく質と結合して粘膜を引き締めて保護層を形成し、腸内の水分吸収を助け、下痢の症状を和らげる効果が期待できます。(ただし、この作用が過剰になると便秘の原因になるため、注意が必要です。)
また、肌の毛穴や皮脂腺を引き締める効果があるため、化粧品や石鹸などにも利用されています。
けれど、タンニンは体内で鉄分とも結合しやすく、過剰に摂取すると鉄分の吸収が妨げられる可能性があります。特に、鉄分補給に配慮が必要な50代以降の女性読者層にとっては、この点を認識しておくことが重要です。
健康的な食生活を維持するためには、柿の摂取量は一日一、二個を目安とすることが推奨されています。

柿を使った簡単レシピ
柿を使った簡単なますのレシピをいくつかご紹介します。
柿と大根をつかったなますは、彩りも良くおすすめです。
【柿なますの簡単な作り方】
材料 (4人分)
- 柿:1個
- 大根:10cm
- 塩(下ごしらえ用):小さじ1/2
- 甘酢の材料
- 酢:大さじ2
- 砂糖:大さじ1~2 (柿の甘さやお好みで調整)
- みりん:大さじ2分の1
- 塩:少々
作り方
大根と柿を千切りにして、塩をふってしんなりさせたら、水けを絞って甘酢を合わせて混ぜるだけです。冷蔵庫で30分~1時間ほどおいて味をなじませると、より美味しくなります。
ポイント
- 人参をプラス: 人参を少量(大根の1/5程度)千切りにして、大根と一緒に塩もみすると、より紅白の彩りが豊かになります。
- ごまを加える: 仕上げにいりごまを少々加えると、風味がアップします。
- 柚子の風味: 柚子の皮の千切りを少し加えると、さわやかな香りが楽しめます。
- 柿の食感: 柿の食感を活かすため、あまり長時間漬け込まず、和えてすぐか、軽く味がなじんだ頃に食べるのがおすすめです。

柔らかくなりすぎた柿の賢い活用法
もし柿が柔らかくなりすぎてしまった場合でも、捨てないでください。
トロトロに熟した柿は、調理に深いコクを与えるだけでなく、肉を柔らかくする万能な食材に変わります。
これは、柿に含まれるタンパク質を分解する酵素(プロテアーゼ)の働きによるものです。この酵素の力を利用して、熟柿を最大限に活用する二つの方法を紹介します。
カレーに隠し味として加える
熟した柿の種を取り除き、いつものカレーを煮込む際にそのまま混ぜ込むだけで、お店のカレーに変わります。
柿の自然な甘みと、熟成によって得られたとろみ、そしてフルーツ由来の複雑な風味がルー全体に行き渡ることで、カレーのコクが一層増し、まるで長時間煮込んだような本格的な味になります。
捨てないで! 「熟れすぎた柿」をおいしく食べる とっておきのレシピ
基本からアレンジまで!思わずつくりたくなる「柿 熟れすぎ」のレシピ集 | クックパッド
熟した柿でレンジで簡単!柿ジャム
柿ジャムの基本的な作り方をご紹介します。
材料も工程もシンプルなので、簡単に作れます。
【材料の目安】
- 熟した柿(皮と種を除いた正味) 300g
- 砂糖 90g〜120g
- レモン汁(変色を防ぐために) 大さじ1/2〜1
- スライスした柿、砂糖、レモン汁を耐熱容器に入れます。
- ラップをせずに、電子レンジ(500W目安)で5分加熱し、一度取り出してかき混ぜます。
- 再度5分加熱して取り出し、かき混ぜます。粗熱が取れたら完成です。
ついつい忘れて熟し図ぎてしまった柿も、簡単アレンジで使い切って自然の恵みをいただきましょう!

季節の恵みに感謝して
古くから親しまれている柿、その鮮やかな色とおいしさは秋を彩る果物です。
旬の柿は、私たち50代の美と健康を内側から支えてくれる、まさに自然からの贈り物です。いつもの食卓に、彩り豊かな柿を一つ取り入れるだけで忙しい毎日の体だけではなく、心にも潤いを与えてくれます。
50代は、人生で最も輝ける「実りの時」です。
その輝きを保つために、ぜひ「一日に一柿」を習慣にしてみませんか。
手軽な柿の力で、内側から自信と活力を満たし、この先の人生を楽しみ尽くしましょう!
参考文献
薬草園歳時記(22)柿 2022年9月 | 大学案内 | 静岡県公立大学法人 静岡県立大学
食材大全 NHK出版
柿 ものと人間の文化史 法政大学出版局
柿づくし 浜崎 貞弘 農山漁村文化協会