早春になるといち早く咲くホトケノザ
道端や空き地など、どこにでも生えている身近な植物です。
そのため、多くの人にとって子供の頃の懐かしい思い出と結びついていたり、ふと目にすれば、安らぎを感じる方も多いのではないでしょうか?
この小さな花を持つホトケノザは、実は、厳しい環境でもたくましく育つことができる、強い生命力を持つ花なのです。
そんな、ホトケノザの力強さと美しさのひみつを覗いてみましょう。
ホトケノザのひみつを知れば、あなたもきっと、春が待ち遠しくなるはずです。
ホトケノザ
植物界
顕花植物門
被子植物亜門
双子葉植物綱
シソ科
オドリコソウ属
ホトケノザの特徴
ホトケノザはユーラシア大陸とアフリカ大陸が原産で、日本では北海道を除く本州、四国、九州、沖縄に広く分布しています。
葉
葉は半円形で縁にギザギザがあり、2枚の葉が茎を取り囲むように生えます。
この葉っぱのの間から花が伸びている姿が、まるで仏様が座っている蓮華座に似ていることから「仏の座」という名前が付けられました。
ホトケノザは、早春の畑や道端で普通に咲く越年草(えつねんそう)です。
越年草とは、秋に発芽し、冬を越して翌年の春に開花・結実し、その後枯れてしまう植物のことです。
つまり、一年生植物の一種ですが、秋に発芽して春に開花するという特徴をもっています。
茎
茎の形は四角形をしています。
根からすぐ上の部分で分岐して、高さ10~30㎝くらいになります。
花
ホトケノザの花は紫がかったピンク色で、葉の付け根から伸びています。
花は筒状に伸びて、花の先端は2つに分かれています。
上に伸びた一枚の花びらはオレンジ色の花粉を包むように伸びて、
下の花びらは昆虫が訪れやすいようにテラス状になっています。
花びらテラスには、濃い紫の模様があります。
これはベンチマークと呼ばれていて、昆虫に蜜のありかを教えています。
ホトケノザのベンチマークに魅せられて、飛んでいた虫はまずテラスに止まり、それから、その奥にある蜜をなめるのです。
この独特な花の形のことを、唇形花(しんけいか)と呼んでいます。
テラスのように前に突き出た花びらがまるで唇のように見えるから唇形花ですね。
花は4月から6月にかけて数個の花をつけます。
花の根本にある「がく」は5mmほどの大きさで5個に裂けます。
雄花の「やく」は4本で2本は長く伸びます。
種をつくる子房は、長い花の根元部分に隠されています。
そして、虫が大好きな蜜は、この奥にあります。
ホトケノザの蜜の成分とその割合について | みんなのひろば | 日本植物生理学会 (jspp.org)
閉鎖花
ホトケノザには仏様に見立てられた長い花が咲きますが、そのほかにも小さな「閉鎖花」と呼ばれる花も付きます。
閉鎖花とは花びらが開かず、花の中にある雄花と雌花が受精する花のことです。
この花を持つことが、ホトケノザの繁殖力の強さなのです。
どういうことでしょうか?
詳しく見ていきましょう
強い繁殖力の3つの理由
ホトケノザは繁殖力が強く、コンクリートの隙間からも花を咲かせることがあります。
なぜホトケノザはこんなに繁殖力が高いのでしょうか?
ホトケノザが非常に強い繁殖力を持つのは、主に以下の3つの要因が複合的に作用しているからです。
1. 自家受粉による確実な子孫を残す能力
ホトケノザは、閉鎖花と呼ばれる特殊な花を咲かせます。
この閉鎖花は、花を開くことなく、自分自身の花粉で受粉し、種子を作ることができます。
閉鎖花を持つ植物は他にもスミレやキキョウソウが有名です。
この自家受粉を持っている植物には繁殖に有利な特徴があります。
- 環境への適応性
- 花粉媒介者を必要としない
他の植物は、昆虫や風などの花粉媒介者を頼って受粉しますが、ホトケノザなどの自家受粉をする植物は昆虫はいなくても受粉できるため、媒介者が少ない早春でも生き残ることができます。 - 迅速な繁殖
開花と同時に受粉し、種子を作ることができるため、他の植物よりも短い期間で子孫を増やすことができます。
- 花粉媒介者を必要としない
このように自家受粉のできるホトケノザは、虫に頼らなくても確実に種をつくり、仲間を増やすことができます。
2. アリの協力による種子散布
ホトケノザの強い繁殖力には、種子にも秘密があります。
ホトケノザの種にはエライオソームと呼ばれるアリが好む栄養物質がついています。
エライオソームをもつ植物には、ホトケノザの他にもカタクリ、ムラサキケマン、スミレ、アケビなどがあります。
このエライオソームを目当てに、アリは種子を巣に運び、エライオソームだけを食べ、種子を巣の外に捨てます。この過程で、種子は元の場所から離れた場所に運ばれ、発芽のチャンスを広げることができます。
アリによる種子散布のメリット
- 遠距離への散布
アリによって種子が巣に運ばれるため、風散布よりも遠くまで種子を散布することができます。 - 発芽環境の多様化
アリの巣の周辺は、土壌が豊かで、他の植物との競争が少ない環境であることが多いです。そのため、種子が発芽し、生育するのに適した環境である可能性が高くなります。
3.毒をもつ
さらに、ホトケノザには、イリドイド配糖体という化合物が含まれています。
イリトイド配糖体ある種の薬効効果があることが分かっていて、植物自身を身を守るために使われていると考えられています。イリドイド配糖体を持つのはホトケノザだけではなくオオバコ、クチナシ、センブリ、オリーブなどのいろいろな植物にも含まれていて、植物には広く利用されている物質です。
イリドイド配糖体の主な働き
- 抗菌作用
一部のイリドイド配糖体は、特定の細菌の増殖を抑制する働きがあります。
これは、ホトケノザが外部からの病原菌から身を守るための防御機構と考えられています。 - 抗炎症作用
炎症反応を抑える働きがあり、皮膚炎やアレルギー症状の改善に効果が期待されています。 - 鎮痛作用
痛みを軽減する効果も報告されており、古くから民間療法で痛み止めとして利用されてきた歴史があります。 - 抗酸化作用
活性酸素を抑える働きがあり、老化や生活習慣病予防に繋がる可能性が示唆されています。
これらの働きから、中国では漢方としてホトケノザを使います。
ホトケノザは「宝蓋草」と呼ばれ、胃腸の弱り、下痢、高血圧、節々の痛みなどに効果があるといわれています。
ホトケノザの強い繁殖力は、これらの「自家受粉による確実な子孫を残す能力」と「アリとの共生関係による種子散布」そして「イリドイド配糖体の働き」という、三つつの巧妙な戦略が隠されていました。
これらの戦略のおかげで、ホトケノザは様々な環境で生育し、素早く群落を形成することが可能なのです。
ホトケノザは、早い所ですと2月ごろから6月ごろまでの長い期間、日当たりのよいあぜ道や畑、そしてちょっとしたコンクリートの隙間にも伸びてきて、私たちにきれいなピンク色の花を見せてくれます。
ぜひ、ホトケノザが咲く季節になったら、ぜひ皆さんも探して、そのピンク色の美しい花と、強い力に驚いてみませんか?
雑草の中の雑草ってあるんですか? それと、ホトケノザって食べられるんですか? | みんなのひろば | 日本植物生理学会 (jspp.org)
熊本大学薬学部/今月の薬用植物
参考文献
原色日本植物図鑑 保育者
明日出会える雑草の花 山と渓谷社 高橋修
小学館の図鑑NEO 植物
薬用植物園かわら版 (nagoya-cu.ac.jp)
イリドイド - Wikipedia