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家事は労働です

家事は労働です

皆さん家事は好きですか?
家事はすこやかな健康と生活を保つため必ず必要な活動です。
けれど、なぜかその活動は労働としての評価が低く、世界的にも女性が当然するものと考える人が多いです。

皆さんはパートナーと家事についてもめたことはありませんか?
自分はちゃんと家事に参加しているのに「やっていない」と言われたり、初めに決めた役割分担を守らなかったりして、パートナーから文句を言われることは誰もが経験しているかもしれません。

女性が家事のほとんどを引き受け続けていると、家庭内になにか大きな問題が起こったとき、女性の立場が悪くなって、女性が問題を我慢するしか方法がない、のような状況に追い込まれてしまいます。
逆に男性側も、小さな子供を残して女性が突然亡くなったりすると、困難な状況になります。

家事は経済活動の根底を支える活動なのに、経済活動の一つとして認められていません。
「家事」は決して単純作業ではなく「私たちの生活を支える知識と経験が必要な活動」として認められば「家事」の考え方も大きく変わります。

ここでは、空気のように考えられている「家事」が、これからどのように変わっていけるのか解説します。

家事は労働です

家事は間違いなく立派な労働です。
家事には、料理、掃除、洗濯、育児、介護など、様々な活動が含まれます。これらの活動は、家族の生活を維持するために必要不可欠であり、多くの時間と労力を必要とします。

家事が労働である3つの理由

  • 家事は、時間と労力を必要とする活動である
  • 家事は、家族の生活を維持するために必要不可欠な活動である
  • 家事は、多くの場合、無償で行われる活動である

一般に家事は無償で行われることが多いため、その価値が軽視されがちですが、家事労働を時間給に換算すると、かなりの金額になることが分かります。

例えば、主婦の家事労働時間を1日5時間として考えた場合、年間で約1825時間になります。これを時間給1100円で換算すると、約200万円です。この額を主婦の方が受け取ったら、生活がかなり変わってくるのではないでしょうか?

家事は、社会にとって非常に重要な役割を果たしています。
家事労働が適切に評価され、家事を行う人たちが報われる社会になることが重要です。

家事が労働であることをもう少し具体的に見ていきましょう。

  • 料理
    料理は、食材の買い物から始まります。家庭では下ごしらえ、調理、後片付けなどの多くの工程が含まれます。
    これらの工程には、時間と労力が必要です。また、料理には栄養バランスや季節感などを考慮する必要もあり、知識と経験も必要です。
  • 掃除
    掃除には、部屋の掃除、洗濯、ゴミ捨てなど、様々な仕事が含まれます。
    これらの仕事は、家がきれいで快適な状態を維持するために必要でし、掃除には体力と忍耐力がなければできません。
  • 洗濯
    洗濯には、洗濯物の仕分け、洗濯機の設定、干し物、取り込み、たたみなど、様々な仕事が含まれます。
    これらの仕事は、衣服を清潔に保つために必要です。また、洗濯には天候や季節などを考慮する必要もあり、手間がかかります。
  • 育児
    育児には、子どもの食事、着替え、お風呂、遊び相手など、様々な仕事が含まれます。
    これらの仕事は、子どもの成長を促すためになくてはならないものです。そして育児には体力と精神力が必要です。
  • 介護
    介護には、食事の介助、入浴の介助、排泄の介助など、様々な仕事が含まれます。
    これらの仕事は、介護が必要な人の生活を支えるために行われます。そして介護には体力と忍耐力が必要です。

これらはすべて一般の仕事と変わることのない、労力と責任感が必要な活動です。

社会全体からみた家事

また、別な角度から家事を俯瞰してみましょう。

家事は、家族が健康で快適な生活を送るために必要な様々な作業のことです。
例えば、先ほども上げた料理、掃除、洗濯、買い物、育児、介護などが具体的な仕事例でした。これらの作業はすべて時間と労力が必要で、多くの場合専門的な知識や技術も必要です。

では「家事労働」は社会の中ではどのような捉え方をしているでしょうか?

  • 経済的な役割
    家事は、市場で取引される商品やサービスを生産するための基礎、土台となるものです。
    家事によって家族の生活が支えられているからこそ、経済活動が継続して行うことができます。
    つまり、家事労働は経済活動の輪の一つです。
  • 社会的な視点
    家事は、社会を維持するために必要な活動です。
    家事によって、家族の健康や教育、福祉などが支えられています。
  • ジェンダーの視点
    伝統的に、家事は女性が担うものと考えられてきました。
    しかし、家事は男女平等に担うべき労働であり、女性の社会進出やワークライフバランスの実現のためには、家事労働の負担を軽減することが重要です。

家事とGDP

1970年代から多くの女性が企業で働き始めたことから、家事代行サービスが生まれ家事が売買され始めます。今まで見えなかった「家事」が経済活動の一つとして認識されるようになりました。

「家事」は私たちの生活水準や幸福に大きくかかわっているのですが、現在GDP(国内総生産)には、家事労働は含まれていません。家事代行サービスなどで売買された分はGDPとして計上されますが、家庭内で行われた活動は反映されません。

GDPは、一定期間(通常は1年間)に国内で生産されたすべての商品やサービスの付加価値の合計を測る指標です。
その国の豊かさをはかったり、経済規模を比べたりすることが出来る指標ですが、「家事労働」は市場を介して取引されていないため、GDPには含まれていません。

しかし、家事労働は社会にとって非常に重要な活動であり、その経済的な価値は非常に大きいと考えられています。
内閣府の推計によると、2021年の日本の家事労働の経済的な価値は総額144兆円に上り、名目GDPの26.1%に相当します。これは、日本のGDPの4分の1以上を占める非常に大きな数字です。

近年、家事労働の経済的な価値を可視化し、GDPに反映すべきだという議論が活発になっています。もし家事労働がGDPに含まれるようになれば、家事労働の意識が変わり、女性の社会進出や男女平等の推進にもつながる可能性があります。

今後は、家事労働の価値をどのように評価し、GDPに反映していくのかが課題となっていくでしょう。

EUの家事の考え方

古くはどこの国でも、家事は女性がするのが当たり前、と考えられていましたが、今では家事を女性だけに押し付けるのは公平性に欠けるだけではなく、社会全体の利益にならないと考える国も多くなっています。

ここで世界でも一番先進的な考え方をしていると思われる、EU内で家事の考え方を見ておきましょう。
EUとはいってもたくさんの国の集まりなので、その国の文化や生活習慣や価値観が違いますが、EU全体の共通して重視されるものとして次の3つが挙げられます。

  • 男女共同で家事を分担する
    家事は男女の役割ではなく、家族全員で協力して行うものという意識を持つ。
    それぞれの得意分野や時間帯に合わせて、家事を分担する。
    家事分担について定期的に話し合いを行い、お互いの負担を調整する。
  • ワークライフバランスを保ちながら家事をこなせる
    仕事とプライベートの時間を明確に分け、家事を行う時間もしっかり確保する。
    家事代行サービスや家電製品などを活用し、家事にかかる時間を短縮する。
    家族や友人と協力して、家事の負担を軽減する。
  • 無理なく家事をこなせる
    完璧を目指すのではなく、自分のペースで家事をこなす。
    家事を楽しむ気持ちを持つ。
    家事をすることで得られる達成感を感じられるようにする。

EUでは、このような理想的な家事の実現に向けて、様々な取り組みが行われています。

  • 男女平等意識を高めるための教育やキャンペーン
  • ワークライフバランスを支援する制度
  • 家事代行サービスや育児支援サービスの充実

これらの取り組みを通じて、EUでは家事に対する意識が徐々に変化しており、男女共同で家事を分担し、ワークライフバランスを保ちながら、無理なく家事をこなせる社会環境が整いつつあります。
しかし、理想的な家事の実現には、まだまだ課題も多くあります。
例えば、以下のような課題があります。

  • 男女間の賃金格差
  • 長時間労働
  • 保育所の不足

男女格差を数字化したものが世界経済フォーラムから「ジェンダーギャップ指数」として発表されています。
それによるとEU各国の数値は大変良く格差は低いとされています。
それに対して日本は、2023年の日本のスコアは146か国中125位(昨年は156か国中116位)で先進国では最低ランクでした。
日本はまだまだ道半ばなのです。

ユーロスタット (europa.eu)
EU MAG 男女平等社会を目指すEU
OECD(経済協力開発機構) (METI/経済産業省)

家事は単純作業ではない

家事は私たちの生活になくてはならないもので、知識や経験、忍耐力、体力が必要な労働でした。その影響は生活の質、また一人一人の幸福にも及ぶかけがえのない仕事です。

「家事」を簡単で単純な仕事と考えると、それがさまざまな問題に繋がる可能性があります。

  • 家事の価値の低減
    家事を単純作業と捉えると、その重要性や価値が軽視されやすくなります。
    家事は、家族の健康や生活環境を維持するために必要不可欠な労働であり、多くの時間と労力を必要とします。
    しかし、単純作業と見なされると、その価値が低く見積もられ、家事労働者への負担や不満に繋がる可能性があります。
  • 家事分担の不平等
    家事を単純作業と捉えると、男女の役割分担の固定化や不平等を生み出す可能性があります。
    伝統的に、女性は男性よりも家事労働に多くの時間を費やす傾向があり、これは家事が女性にとって「当然の役割」であるという考えを助長します。
  • 家事スキルの軽視
    家事を単純作業と捉えると、家事スキルを磨く必要性や重要性が軽視されやすくなります。
    家事には、料理、掃除、洗濯など、様々なスキルが必要であり、経験や知識によって効率や質が大きく向上します。
    しかし、単純作業と見なされると、これらのスキルは軽視され、家事労働者の能力や経験が評価されにくくなります。
  • 家事の負担増加
    家事を単純作業と捉えると、家事労働の負担が増加する可能性があります。
    単純作業であれば、誰でも簡単にできるという考えから、家事労働者への負担が過剰に押し付けられるケースがあります。
  • 家事に対するモチベーション低下
    家事を単純作業と捉えると、家事に対するモチベーションが低下する可能性があります。
    単純作業は退屈で面白みに欠けるため、家事を行う意欲が低下し、家事放棄や生活環境の悪化に繋がる可能性があります。

家事は単純作業ではなく、家族の健康や生活環境を支える重要な役割を担っています。家事の価値を正しく認識し、家事労働者への負担軽減や家事分担の平等化を目指していくことが重要です。

しかし家事を単純に考えると、こんなメリットもあります。

  • 家事に対するハードルが低くなり、気軽に始められる
  • 家事の効率化や時短に繋がる
  • 家事に対する苦手意識が薄れる

家事を簡単で単純な仕事と考えることには、メリットとデメリットの両方がありますが、家事の価値や役割を正しく理解した上で、それぞれの状況や目的に合わせて、適切な捉え方を選択することが重要です。

まとめ

家事は労働であることを解説しました。
家事は知識や経験、体力や忍耐の必要な活動であって「労働」です。

家庭内で行われる家事には売買のやり取りがないため、その価値が良く分かりにくいですが、家事を時給で表すと大きな金額になります。家事の価値を数値化すれば家事の認識が変わり、家事に対する冷ややかな見方が収まり、その価値が変化するでしょう。

家事は単純作業ではありません。明日また仕事に行くための休息の場であり、再生産の場です。人々のすこやかな生活のために配慮しなければいけないこともあります。無責任な態度ではとてもその活動を続けることはできません。
これらは普通の仕事をするときと、なにも変わりません。

家事する人も、あまりしない人も「家事」の価値を改めて見つめることで、その活動がより公平に正当な評価になることが望まれます。

参考文献

家事労働ハラスメント 竹信美恵子
経済学入門 ティモシー・テイラー
家事活動等の評価について : 経済社会総合研究所 - 内閣府 (cao.go.jp)
内閣府男女共同参画局 (gender.go.jp)
全国家庭動向調査|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
Home - Eurostat (europa.eu)

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