インフレという言葉を最近よく耳にするようになりました。
インフレとは身の回りの食料品や生活必需品などの値段がジワリと上がっていくことです。
それって企業努力じゃない? 100均はそのままじゃん
と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、100均各社もインフレの影響は避けられず、内容量の変更、300円、500円などの100円以上の価格を付けている商品も多く見られます。
インフレは商品の値段だけではなく賃金も上がっていくのですが、そのタイミングは同じではありません。賃金の上がり方がモノの上がるタイミングよりずっと遅いと、私たちは生活が立ち行かなくなってしまいます。
ここでは今起きているインフレは何か、古代ローマ帝国時代のインフレのその問題点を探り、最後にインフレに対抗する方法を解説していきます。
ぜひご覧ください。
インフレとは?
インフレとは、一定期間にわたって物価水準が上昇し続けることです。つまり、同じお金で買える商品やサービスの量が減っていく状態を指します。
インフレには、主に以下の3つの原因があります。
- 需要超過
商品やサービスに対する需要(欲しい人)より供給(つくる人)が少ないと価格が上昇します。 - コストプッシュ
原材料や人件費などのコストが上昇すると企業は価格を上げざるを得なくなります。 - マネーサプライの増加
中央銀行などが通貨量(お金を刷る)を増やすと、お金の価値が下がり、物価が上昇します。
日本のインフレと世界のインフレの違い
2023年現在、日本と世界のインフレ率には大きな違いがあります。
- 日本
インフレ率は2%前後と低水準です。これは、長年にわたるデフレ経済の影響や、人口減少による需要不足などが原因と考えられます。 - 世界
欧米を中心に、インフレ率は4%~8%と高水準です。これは、主にエネルギー価格の高騰や、経済活動の回復による需要増加などが原因と考えられます。
具体的な違い
項目 | 日本 | 世界 |
---|---|---|
インフレ率 | 2%前後 | 4%~8% |
主な原因 | デフレ経済、人口減少 | エネルギー価格の高騰、需要増加 |
経済への影響 | 企業収益の悪化、家計の負担増加 | 金利上昇、景気減速 |
政府・中央銀行の対応 | 金融緩和 | 金利引き上げ |
今後、日本ではインフレが穏やかに上昇してゆくと予想され、欧米のようなインフレにはならないと考えられます。けれど世界的にはウクライナの戦争などによるエネルギー価格の影響を受ける可能性があり注意が必要です。
古代ローマ帝国のインフレ
一体インフレはどんな時に起こるものなのか、その時人々の生活はどのようになるのか、記録が良く残っていて、商売がまだ複雑でない古代ローマ帝国の例を見ていきましょう。
古代ローマ帝国は、紀元前27年から西暦476年まで存在した広大な帝国です。この帝国は、地中海全域を支配し繁栄しましたが、3世紀以降は深刻なインフレに苦しみます。
インフレの原因
古代ローマ帝国におけるインフレにはいくつかの原因がありました。
1. 貨幣の価値の下落の過程
- ローマ帝国では、銀貨や銅貨などの金属貨幣が流通していました。
- しかし相次ぐ戦争が経済活動を大きく阻害します。
- 戦争が起こると生産活動が低下します。
- すると貿易も制限され、商品やサービスの供給量が減少します。
- 売っているものが少なくなると価格が上昇します。
- すると人々はものを買わなくなります。
本来ならここでモノが売れないなら価格をもっと安くしなければ、という圧力がかかり、モノは安くなっていくはずですが、戦争中はモノが本当にないので、安くならず価格は高止まりまたは上昇していくことになります。
モノの価値が上がることは、お金の価値が下がることと同じなのです。
2. 軍備拡張
ローマ帝国は、広大な領土を維持するために、多くの軍隊を必要としていました。そのため、軍備拡張に莫大な費用がかかるので増税したり、貨幣の品質を落したりしました。このことによって貨幣の価値がさらに落ちインフレを招きました。
インフレによる人々の生活への影響
古代ローマ帝国の人々はインフレによってどのような影響を受けたのでしょうか?
1. 生活水準の低下
物価が上昇し、人々の生活は苦くなります。特に都市部に住む貧しい人々は、食料や日用品を購入することさえ困難になりました。ローマ帝国ではギルドと呼ばれる組織があり労働者を囲っていました。ギルドは既得権益者を守り賃金を上げにくい体質を持っていたためモノの値段が上がっても多くの人の給料はそのまま据え置かれたのです。
2. 社会不安
インフレによる経済の混乱は、社会不安を引き起こしました。貧富の差が拡大し、農民や市民の不満が高まりました。
3. 帝国の衰退
インフレは、ローマ帝国の衰退の一因となりました。経済の混乱や社会不安は、帝国の統治能力を弱体化させました。
インフレ対策
そんなローマ帝国ですが、政府はインフレ対策としていくつかの政策を実施しています。
1. 貨幣制度改革
貨幣の価値を安定させるために、貨幣制度改革を行いました。しかし、これらの改革は効果的ではなく、インフレは止まらず、最終的にローマ帝国は崩壊します。
2. 財政改革
財政赤字を削減するために、財政改革を行いました。しかし、財政赤字は膨大であり、財政改革の効果は限定的でした。
3. 価格統制
物価を抑制するために、価格統制を実施しました。しかし、価格統制は市場メカニズムを歪め、経済活動をさらに悪化させました。
古代ローマ帝国のインフレは、経済と人々の生活に大きな悪影響を及ぼし、帝国の衰退の一因となったのでした。
さまざまな物価指数
インフレは、あのナチスも憧れた「古代ローマ帝国」をも衰退させる力を持っていました。
この大きな力をもつ「インフレ」が起きないように、各国は常にお金の動きをチェックしています。
お金の動きはどのようにチェックするのでしょうか?
私たちの使ったお金は個人は特定しませんが、ちゃんと日々チェックされています。総務省は何にどのくらいお金が動いたのかまとめ分かりやすい指数として毎月発表しています。指数はさまざまあって、その知りたい商品に合わせていろいろな角度からチェックされます。
そのなかでももっとも有名なのが「消費者物価指数(CPI)」です。標準的なインフレ指数として広く使われています。
「消費者物価指数」とは、家計が購入する商品やサービスの価格変動を測定する指標です。現代経済において、インフレ率や経済成長率の分析、政策決定などに広く利用されるものです。
「生産者物価指数」もよく使われています。これは鉄鋼や石油など生産者である企業が購入する原材料や設備の価格を表します。
また「卸売物価指数」というものもあります。これは小売店が商品を仕入れるときの価格を対象にしたものです。
さらに「GNPデフレーター」という指数もよく使われます。これはGDPに含まれるすべてのものを対象とした物価指数です。GDPなので消費だけではなく設備投資や政府の支出、輸出入が対象になります。
たくさんの指数があるのはどれも完ぺきではないから
指数をさまざまご紹介しましたが、なぜこんなにたくさんの指数があるかというと、お金の動きを把握するのは難しく一つの指数では正確な情報にならないためです。
有名な消費者物価指数も物価変動を測定する重要な指標ですが、いくつかの課題も指摘されています。
- 代表性の問題
調査対象となる家計や商品・サービスが、実際の消費構造を十分に反映していない可能性があります。人々の嗜好はいつも変わっていきます。指数の中身がいつまでも同じでは消費の変化に対応できません。 - 品質調整の難しさ
商品・サービスの品質が向上したとき、それをどのように価格に反映させるかが難しいです。
例えば携帯電話からスマホへの変化のように技術の変化によって選択肢が増えて人々の暮らしが良くなっているのに、指数の中に入っていないと正確に読み取ることが出来ません。 - 代替品の考慮
ある商品の価格が上昇した場合、消費者は代替品を購入する可能性があります。消費者物価指数は必ずしもそれを考慮していない。一時的にある商品が値上げされると、人々は他の商品で間に合わせようとします、その行動は反映されないので本当は買いたくないのに買わされた分まで指数に入ってしまうと不正確です。
モノの値段が上がっている、とは一口にいってもモノはたくさんあります。それぞれが別々の理由で値段をつけています。
例えば、食料品は天候の影響を受けることが多いですし、高級品は為替の影響を受けます。
住宅費は比較的安定していますが交通費はエネルギー価格や人件費の影響を受けやすいです。
このように物価水準は、さまざまな商品やサービスの価格変動の影響を受ける複雑な指標です。そのため、一つの指数でインフレを正確に捉えることは困難なのです。
インフレに対抗する手段
インフレは私たちの生活水準を低くし、物価が上がり、借金が膨らむかもしれないものです。
そう思うと不安に思う方も多いのではないでしょうか?
けれどインフレも十分に対策できることがあります。
インフレに対抗する手段は、大きく分けて以下の3つがあります。
1. 支出を減らす
- 家計簿をつけて、無駄な出費を見直す
- 節約できるところは節約する
- 食費や光熱費などの生活必需品をできるだけ安く抑える
- 車を使わないようにする
- 外食を減らす
2. 収入を増やす
- 副業を始める
- 昇給を目指す
- 転職する
3. 資産運用をする
- 株式投資
- 債券投資
- 不動産投資
- 金投資
これらの手段は、それぞれメリットとデメリットがあります。
支出を減らす
- メリット:すぐに実行できる
- デメリット:生活水準が下がる可能性がある
収入を増やす
- メリット:生活水準を維持しながらインフレに対抗できる
- デメリット:努力が必要
資産運用
- メリット:インフレに強い資産を増やすことができる
- デメリット:リスクがある
さまざまなインフレ対策
またもっと積極的な方法も考えられます。
- インフレに強い資産を持つ
- 外貨建ての資産をもつなどの円安対策をする
- 金融リテラシーを高める
インフレに強い資産
インフレになると価格が上昇すると一般的に言われている財産もあります。
- 株式
- 不動産
- 金
これらの資産は、インフレ率上昇時に価格が上昇する傾向があります。
ローンがある人は
住宅ローンなどのローンを抱えている人にとって、インフレは家計への負担はさらに大きくなります。ここでは、住宅ローンなどのローンを抱える人のためのインフレ対策をいくつか紹介します。
上にご紹介したように、家計の見直し、収入を増やすのは同じですがローンのある方はさらに
1. 繰り上げ返済の検討
住宅ローンなどのローンは、できるだけ早く返済することで、利息負担を減らすことができます。
- ボーナスなどの臨時収入が入ったら、繰り上げ返済に充てましょう。
- 家計が安定している場合は、毎月の返済額を増額して、繰り上げ返済を進めましょう。
2. 金利の見直し
変動金利型のローンを利用している場合は、金利上昇リスクに備えて、金利固定型のローンへの借り換えを検討しましょう。
3. 投資
インフレ対策として、投資を検討するのも一つの方法です。
- 株式投資:インフレに強いと言われる、個別株や投資信託などに投資する。
- 不動産投資:インフレによって不動産価格が上昇する可能性があるため、投資を検討する。
4. 政府の支援制度
政府は、インフレ対策として様々な支援制度を実施しています。
- 生活困窮者向けの支援制度:生活保護制度や緊急小口資金貸付制度など。
- 中小企業向けの支援制度:融資制度や補助金制度など。
これらの制度を活用することで、家計の負担を軽減することができます。
国土交通省 (mlit.go.jp)
5. 専門家の相談
家計の状況やローン状況によって、最適なインフレ対策は異なります。
ファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談することで、自分に合ったインフレ対策をアドバイスを受けるのもよいでしょう。
インフレは長期的な問題となる可能性があるため、長期的な視点で対策を検討することが重要です。インフレ対策にはリスクも伴います。投資などのリスクを理解した上で、慎重に検討しましょう。
金融リテラシーを高める
このようにインフレ対策には様々な方法があります。
インフレに対抗するには、支出を減らす、収入を増やす、資産運用をするなどの手段があります。
自分に合った手段を選び、効果的にインフレ対策を講じましょう。
お金の考え方は人生と一緒で人ぞれぞれです。
自分は何望ましいと考えるのかまずは考えてみましょう。
それから自分に合った手段を選ぶことが大切です。
そしてインフレについて理解を深めることで、効果的な対策を講じることができます。
「金融リテラシー」って何? 最低限身に付けておきたいお金の知識と判断力 | 政府広報オンライン (gov-online.go.jp)
まとめ
インフレはモノの値段が上がり、お金の価値が下がる現象のことを言います。
インフレは古代ローマに時代から見られました。古代ローマのインフレは戦争が大きなきっかけで起こりました。戦争は生産性が下がります、世の中で売り買いできたものが少なくなってしまうと、一つのモノに対してほしい人がたくさん現れ、モノの値段が上がります。
ローマ帝国も価格の上限を決めたり、税金を上げたりするなど対策が行いましたが、結局はうまくいかずインフレは古代ローマ帝国の崩壊を招いたと言われます。
各国はインフレは国を揺るがす大きなこととして捉えていて、日々お金の動きをチェックしています。チェック方法は消費者物価指数やGDPデフレーターなどが有名です。しかしお金の動きを把握するのは難しく、さまざまな指数を組み合わせてお金の動きを把握しインフレを見つけようとしています。
私たちができるインフレ対策は、
お金を使わないこと、
お金の入り口を2つ以上にすることです。
ローンを持つ方の対策方法は繰り上げ返済、支援金の確認、専門家への相談があります。
長い目で見れば経済全体はインフレしていきます。しかし私たちは一人が何百年も生きるわけではありませんので、急なモノの価格の上昇に対応することが難しいときもあります。
一人一人がお金についての正しい知識を身につけ、積極的に情報収集し、必要があれば専門家に相談することが大切です。
参考文献
ティモシー・テイラー 経済学入門
ローマ帝国 - Wikipedia
ローマ帝国 (y-history.net)
統計局ホームページ/消費者物価指数(CPI) (stat.go.jp)