となりの生き物

スミレと托葉とエライオソーム

スミレ

3月を過ぎてだんだんと日が長くなってくると、落ち葉のたまった雑木林に多くのスミレが咲き始めます。
スミレは日本各地の道端や日当たりのよい草地、開けた海岸、また植林されたスギ林の中でも少しでも日が当たれば咲くことができます。

スミレは春を告げる花として古くから知られていて、万葉集にもスミレが歌われていますし、夏目漱石や松尾芭蕉もスミレにまつわる歌を残しました。

古くからスミレは観賞用や薬草として親しまれてきた植物で、近年ではその美しい花姿や豊富な種数から様々な分野で研究が進められています。

ここではそんなスミレの「托葉」と「エライオソーム」を最新の研究を交えて深掘りします。

スミレ

植物界
種子植物門
双子葉植物綱
スミレ科

スミレの特徴

  • 草丈 高さは6~20cm
  •  青紫、白、黄色、ピンク色。花びらは5枚。下側の1枚には距がある。
  • 雄花 葯は5つ。雌花を囲むように並び下の2個は距の中にふくらみがある。
  •  ハート形や丸形で2~10㎝くらいと種類によってさまざま。
  • 開花時期 3月下旬~6月上旬 標高が低い所では早春、高地では6月ごろ。
  • 分布 日本の全国
  • 生育場所 里山から海岸、標高2000mの高地まで適応している。

スミレと托葉

スミレには托葉たくようと呼ばれるちいさな葉が茎の根元についています。

「托葉」という聞きなれない名前かもしれませんが、托葉を持つ植物は多くスミレ以外にも、バラやモクレン、エンドウやカタバミなどに見られ、被子植物では木本の40%、草本の20%と多くの植物に托葉がついていると言われています。

スミレは世界に約300種、日本には約60種、細かい品種もわけると約220種見られ、たくさんの品種が日本に咲いています。そのため似たような種類がたくさんあり、どの種類か見分けにくいことがあります。
そんなとき、この托葉を観察すると簡単に見分けられる場合があります。

ここでは托葉について少し深掘りしてみましょう。

托葉は葉のようにも見えるので、葉から進化したものとも思えますが、実はこの托葉、もともとは葉が進化したものかどうか、科学者の間でも意見が分かれています。

托葉が葉から進化したという説

  • 托葉と葉は、類似した構造を持っています。どちらも維管束が通っており、光合成を行う細胞が含まれています。
  • 托葉は葉が変形してできたと考えられる中間的な形態の托葉を持つ植物がいくつか存在します。
  • 遺伝子解析の結果、托葉と葉の発育に関わる遺伝子が共通していることが分かっています。

托葉が葉とは独立して進化したという説

  • 托葉は、葉よりも早い時期に化石記録に登場します。
  • 托葉と葉は、異なる発生過程を持っています。
  • 遺伝子解析の結果、托葉と葉の発育に関わる遺伝子の一部が異なることが分かっています。

現時点では、どちらの説が正しいのか断定することはできません。今後、さらなる研究が必要となります。

単子葉類と双子葉類について | みんなのひろば | 日本植物生理学会 (jspp.org)
J-STAGE トップ (jst.go.jp)
植物形態 (hokudai.ac.jp)
植物の葉 生理研究H22-2 (photosynthesis.jp)
特殊な葉 (tsukuba.ac.jp)

さまざまな形の托葉

托葉の役割

托葉にはいろいろな形があります。
多くの托葉は左右1対でつくことが多いですが、その形は多様で「葉の茎に合着」しているもの「鞘の形」や「棘」になったもの「巻きひげ」になっているものがあります。また、縁が滑らかだったり、鋸歯状だったり、全裂したりするものもあります

托葉はなぜあるのでしょうか?
一般的に托葉には、主に以下の3つの機能があると言われています。

  • 保護機能 花蕾や種子を保護する役割
  • 誘導機能 昆虫を花へと誘導する役割
  • 給水機能 花や種子に水分を供給する役割

保護機能

托葉は葉よりも小さく成長が早いので、大切なつぼみを守るためいち早く成長して、つぼみを覆うようにつくことで、外敵や乾燥から守ることができます。
特に、早春に咲くスミレは寒さや霜からつぼみを守るために重要な役割を果たすことができます。

誘導機能

托葉は、目立つ色や模様を持つものが多く、昆虫を花へと誘導する役割を果たしやすいと考えられています。
もし昆虫の目印になれば、昆虫の数が少ない時期に受粉を効率的にすることができます。

給水機能

スミレの托葉は、小さな繊毛を持つものも多く、花や種子に水分を供給する役割を果たすのではないかという説もあります。
特に、乾燥した環境に生息する植物は、大きく成長する前に水を集められればより早く成長することが出来ます。

このように托葉は長い進化の歴史の中で、様々な形態や機能を獲得してきたと考えられています。
今後も、托葉に関する研究が進めば、さらに多くの機能が明らかになることが期待されます。

スミレとエライオソーム

スミレの花の種にはエライオソームというアリの好きなお菓子がついていて、スミレの種をアリが遠くまで運びスミレの種の散布を助けることは有名です。

けれど、小さなスミレなどの植物がエライオソームを作るのは、一見大変そうに見えます。

しかし、近年の研究によると、エライオソームの形成は、植物にとってそれほど大きな負担ではないことが分かってきました。エライオソームは植物の種子の一部から作られることが多く、特別な器官を必要とすることなく形成されます。
また、エライオソームの形成に関わる遺伝子は、ごくわずかしか使われません。

さらに、エライオソームの形成には植物にとっていくつかのメリットがあります。
エライオソームを介した種子散布は、風や水による散布よりも効率的で、遠距離への散布も可能になります。
また、アリは種子を巣穴に運び込むため、種子が捕食されるリスクを減らすことができます。

このように、エライオソームは植物にとって大きなコストをかけずに得られる、種子散布という重要な役割を担っているのです。

スミレ以外にも、多くの植物がエライオソームを作ります。
代表的な例としては、キク科、キキョウ科、ゴマノハグサ科などがあります。
これらの植物は、それぞれ異なる形態や大きさのエライオソームを持ち、様々な種のアリと共生関係を築いています。

エライオソームは、植物と昆虫の共進化的関係の興味深い例の一つです。
今後も、エライオソームに関する研究が進めば、植物と昆虫の生態や、種子散布のメカニズムについて、さらに多くのことが明らかにされていくでしょう。
エライオソーム - Wikipedia
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S105579031600083X
https://www.pnas.org/doi/full/10.1073/pnas.1719794115

まとめ

スミレの托葉とエライオソームについて解説しました。
スミレには托葉という小さな葉をつけます。スミレを見分けるとき托葉を観察すると見分けやすいことがあるのでぜひ注目してみてください。
托葉の研究はまだ十分ではなく、その起源については葉っぱなのか、独立したものなのか分かっていません。今後の研究が楽しみです。

種にエライオソームというお菓子を用意するのは、小さなスミレにとってほとんど負担はありません。それよりも種の分布を広げる方がスミレには効率的なことが分かってきました。

スミレは私たちにとっても身近な春の花です。
あなたの家の近くにもきっとどこかに咲いているはずです。
ぜひ探してみてください。風に揺られるスミレの花はとても美しく、きっと心がはずんでくるはずです。

参考文献

原色日本植物図鑑 保育社
スミレハンドブック 山田隆彦 文一総合出版
増補改訂日本のスミレ いがりまさし 山と渓谷社
日本すみれ研究会 (fc2.com)

おすすめの記事

-となりの生き物