銀行がつぶれそうだ!
というニュースが広まると大勢の人が自分の預金を引き出そうと殺到します。
でも、なぜ殺到するのでしょうか?
自分のお金は銀行の金庫に必ずあるはずなので、ゆっくり行ったとしても必ずお金は帰ってくるので、急ぐことはないのにな・・・
と思っている方は、ぜひこの話を聞いてください。
銀行は自分のお金を大切に保管してくれている・・・・のは本当でしょうか?
ここでは銀行のしくみを分かりやすく解説します。
銀行のしくみを理解すれば、銀行と自分はどのように付き合えばいいのか分かるようになります。
銀行の信用創造とは?
以前私は、つぶれそうな銀行に人々が殺到する理由が良く分かりませんでした。
銀行には立派な金庫があって、私の貯金を大切に保管してくれると思っていました。
それは間違いではありませんが、半分間違っていました。
銀行は預かったお金を使って、お金が必要な人に貸し出すので、銀行の金庫には私の渡した現金を大切に保管してくれる、ことはありませんでした。
銀行がつぶれるかもしれない、というニュースを聞いて多くの人々が銀行に殺到するのは不安からくるパニックのことが多いです。預金は預金保険法という法律があり1000万円までは保証されます。この法律によって、私たちは自分が銀行に預けたお金そのものを使われてしまっていても、安心して銀行に預けることができます。
さて、銀行の主な業務の一つである貸し出しの中に、私たちが一番覚えておきたい「お金のからくり」ともいえる信用創造というしくみがあります。
銀行の信用創造とは、銀行が預金として受け入れたお金を元に、さらに多くのお金を貸し出すことによって、経済全体に流通するお金の量を増やすしくみのことを言います。
お金を増やすしくみとは、一体どういうことなのでしょうか?
信用創造のしくみ
もしも、国のお金が1億円しかなかったら、つまり一万円札が1万枚だけしかないと仮定して考えてみましょう。
Aさんが1億円を持っている状態だとします。
- 預金 Aさんが1億円を銀行に預けたとします。
Aさんは銀行から残高1億円と書いてある通帳をもらいました。 - 貸出 次に、Bさんが銀行に来ました。
Bさんは銀行に1億円貸してくださいと頼みました。
銀行は了解してBさんに1億円貸してあげることにしました。
銀行はBさんの通帳に1億円と書いた通帳を渡します。
ここでAさんは一億円を、Bさんもを1億円を持っていることになりました。 - 預金の増加
さらにCさんが銀行に一億円貸してほしいとやってきました。
銀行にはBさんが銀行に預けている1億円があります。
銀行はCさんにBさんから預かった1億円を貸してあげることにしました。
そしてⅭさんの通帳に残高一億円と書いた通帳を渡しました。
初めは国のお金は1億円だけでしたが、Aさん、Bさん、Cさんと3人がそれぞれ1億円を持っていることになってしまいました。実際にあるお金は1億円のままですが、国のお金は3億円に増えたということになります。
なんだか、だまされたように感じるかもしれません、けれど、本当に行われている銀行のしくみです。銀行が見かけ上のお金を作り出しているこのしくみのことを「信用創造」と呼んでいます。
例えば、2023年の日本の家庭、企業、金融機関の現金残高は125兆でした、そして同じ年の日本の総金融資産高は2100兆円です。数字がずいぶん違いますよね? 現金は125兆なのに資産全体は16倍もあります。
このように、現金として出回っているお金は、通帳に書いてあるだけのお金と合っていません。数字だけで書いてあるお金の方がずっと多くなっているのです。
さきほどの話の中で、Bさんがお金を使ったとしたら、銀行からお金が減りそうですが、そうはなりません。
例えばBさんがDさんから5000万円の買い物をしたとします。
そうすると、Bさんの預金は5000万円に減ります。Dさんも同じ銀行に口座に口座を持っているとすれば銀行としては、Dさんの口座に5000万円増やしておけばよいだけなので、銀行としてのお金の量としてはかわりません。
このようなことが銀行全体で起きているます。ただし、Dさんが受け取ったお金をタンス預金した場合は違ってきます。
ちなみにここでは分かりやすくするために、銀行が預かったお金の100%他の人に貸し出していますが、正確には貸し出してよい金額は明確なルールがあり、銀行は預かったお金を100%貸し出しはできません。けれど、実際にお金がなかったとしても貸出する基本的な考え方は同じで、銀行は見せかけのお金を増やしています。
どうでしょうか? ちょっと信用ならないと思ったでしょうか?
銀行にはお客様から預かった現金はほとんどおいていません。現金を保管しておくのは、かさばりますし、重いし、安全面でも結構お金のかかるものです。そんなことより銀行は、お金を貸して利子で稼がなければいけません。
信用創造のポイント
信用創造をもう少し細かく見ていきましょう。
信用創造には3つのポイントがあります。
- 信用創造は、銀行が信用に基づいて行います。お金を借りる人が返済能力があると銀行が判断すれば、実際にお金を持っていなくても貸し出すことができるのです。
- 信用創造をすることによって、経済全体に流通するお金の量が増え、企業の投資や消費者の購買意欲が高まることが期待できます。
- 一方、信用創造をやりすぎると、インフレ(物価上昇)を招く可能性があるため、中央銀行は金融政策によって、お金の量を調整しています。
誰もがお金を無制限に借りることはできませんが、お金を貸し出すことによって銀行は利子で儲けることができて、借りる人は欲しいものを素早く手に入れることができます。
信用創造のメリット
銀行の信用創造は、経済活動に様々な影響を与える重要な仕組みです。メリットとデメリットを理解することは、経済全体を把握する上で重要です。
信用創造のメリットは主に経済が活性化が期待できることが一番大きいです。
経済活性化
- 資金供給の増加
信用創造によって経済全体に流通する通貨量が増加します。
企業や個人は銀行からの融資を受けやすくなり、投資や消費を活発に行うことができます。結果として、経済成長を促進することができます。 - 金利の低下
信用創造によって資金供給量が増加すると、お金の価値が下がり金利が低下する傾向があります。金利が低くなると企業は設備投資をしやすい環境となり、個人も住宅ローンやマイカーローンなどを借りやすくなります。 - 雇用の創出
企業が活発に活動することで、雇用創出につながります。
決済手段の円滑化
- 預金の活用促進
預金者は預金をただ預けておくだけでなく、それを元手に融資を受けることができます。預金がより活発に利用されることで、経済全体の活性化につながります。 - 小切手やキャッシュカードなどの利用促進
信用創造によって預金通貨量が増加することで、小切手やキャッシュカードなどの決済手段がより普及しやすくなります。
信用創造のデメリット
反対にデメリットもあります。
信用創造によって見かけ上のお金が増え、実態に合わない経済状況が思わぬ不安を煽る場合があります。
金融システムの不安定化
- バブル経済のリスク
信用創造によって過剰な資金供給が行われると、資産価格が急騰しバブル経済が発生するリスクがあります。バブル経済が崩壊すると、金融システム全体に大きな打撃を与えます。 - 金融危機のリスク
金融機関の貸出が焦げ付いたり、預金者が取り付け騒ぎを起こしたりすると、金融危機が発生するリスク急に高まります。金融危機は、経済全体に大きな混乱をもたらします。
インフレのリスク
- 通貨価値の低下
信用創造によって通貨量が増加すると、インフレが発生するリスクがあります。インフレが進むと、物価が上昇し国民の生活が苦しくなります。 - 所得格差の拡大
インフレになると富裕層は資産価格の上昇によって利益を得ることができますが、低所得層は生活費の増加によって苦しい生活を強いられることになります。
バブル崩壊と貸付
最後に、日本経済の低迷と銀行の貸付との関係はどうなっているのか見ていきましょう。
みなさんの中には、もしかしたらバブル崩壊の反省から貸付が憶病になったため、日本経済は停滞したままだったのか?と考えた方もいらっしゃるかもしれません。
もしかしたらそのような面もあるかもしれません。
確かに、バブル崩壊後の長期的な経済停滞(失われた20年)には、金融機関の不良債権問題が大きな影響を与えました。金融機関は、バブル期に膨らんだ貸出債権の焦げ付きに苦しみ、貸出を抑制せざるを得ない状況に陥りました。
しかし、景気低迷の原因はそれだけではありません。以下のような複合的な要因が絡み合い、日本の経済成長を阻害しています。
- 人口減少と高齢化
- 労働力人口の減少と高齢化による生産性の低下
- 社会保障費の増加による財政負担の増大
- 内需の停滞
- 企業の競争力低下
- 世界的な競争激化の中で、日本の企業が国際市場でシェアを奪われている
- イノベーション不足
- 経営体質の硬直化
- 規制緩和の遅れ
- 労働市場やサービス業などの規制緩和が遅れ、経済の活性化が妨げられている
- 新規事業の参入障壁が高い
- 財政赤字の累積
- 長年にわたる財政赤字の累積により、財政規律が緩み、将来への不安が高まっている
- 政府による投資や公共事業の縮小
- グローバル化への対応
- 世界経済の変動や米中貿易摩擦などの影響を受けやすい
- 新興国の台頭による競争激化
バブル崩壊後の貸出抑制は、確かに景気回復を遅らせる要因の一つとなりました。
近年では金融機関の不良債権処理が進展し、貸出姿勢も改善されつつあります。しかし、依然としてリスク回避的な傾向が強く、企業や個人への貸付は慎重に行われています。
政府は積極的な財政政策や金融政策を通じて景気回復を図っていますが、十分な効果が出ているとは言えません。
今後は、構造改革を進め、企業の競争力強化やイノベーション創出を図ることが重要となります。また、社会保障制度改革や労働市場改革なども、景気回復に向けて不可欠です。
バブル崩壊の反省を活かしつつ、様々な課題に果敢に取り組むことが、日本経済の再生に必要なのです。
まとめ
銀行の行っている信用創造について解説しました。
銀行の貸し出しは、実際の現金の量によって行われるわけではありませんでした。実際の現金以上の貸し出しをすることが世界中で認められています。お金は現金として流通している以上に存在していました。
銀行ができるだけ多くの貸し出しを行えば、経済は活気づきます。人々の使えるお金が増えて、世の中の総需要が増えます。
逆に景気が悪くなれば銀行は貸し出しを控えます。そうすると経済は停滞します。
バブルの崩壊は日本の経済の停滞のきっかけをつくりましたが、本質的な原因は日本の高齢化や経営陣の硬直化、グローバル化に乗り切れないこと、イノベーションが起きにくくなっていること、政府の財政赤字など多くの構造的な問題がありました。
これからの日本はバブルの反省をもとに、それらの問題を解決していき経済再生の道を探っていくことになるでしょう。
参考文献
3時間目 | 政治・経済 | 一般社団法人 全国銀行協会 (zenginkyo.or.jp)
預金保険法 - Wikipedia
お金以前 土屋剛俊
ティモシー・テイラー 経済学入門