ぽれぽれ経済学

政府の介入 価格下限規制 

政府の下限価格規制

前回は政府が価格の上限を設定する上限価格規制について見てきました。

上限価格設定とは、あるのモノの価格が高くなりすぎた場合、「この値段より高く売ってはいけないよ」と上限をつけることです。一見買う側はモノが安くなるのでうれしいことですが、売る側は利益が少なくなるので、業者がモノつくりをやめてモノ不足になったり、利益が得られないので質を低下させたり、不正行為の蔓延が起こりやすくなります。

ここでは、逆に政府がモノの価格に「この値段より安く売ってはけないよ」と価格の下限を設定する「下限価格規制」について詳しく見ていきましょう。

「下限価格規制」とは、私たちの身近な最低賃金やタクシーの初乗り運賃にあたります。労働者は規制があって守られていますが、デメリットもあることをしっかり確認していきましょう。

価格下限規制とは

価格下限規制とは、政府などが特定のモノやサービスに対して、販売できる最低価格を法律で定める制度です。最低価格とも呼ばれます。

代表的な例としては、最低賃金があります。最低賃金は、労働者が1時間あたり最低でもいくら支払われるべきかを定めたもので、生活保護費などの基準にも利用されています。

価格下限規制は、主に以下の目的で設けられます。

  • 低所得者層の保護
    最低賃金のように、生活に必要最低限の所得を保証するために設けられます。
  • 農林水産業などの保護
    農産物などの価格が暴落するのを防ぎ、生産者の生活を安定させるために設けられます。
  • 公共サービスの維持
    電気料金や水道料金などの公共サービスの料金を一定水準に保つために設けられます。

下限価格があれば、例えば農産物が価格が下落して利益が小さくなった場合、最低限の取引価格を設定し生産者を守れます、また最低賃金のように労働者の保護が目的のものもあります。

日本では1995年まで政府がお米の価格を決めていました。
国内の食料を確保するためにお米は絶対に欠かすことができないものです。けれど当時は戦争などの情勢の変化や天候などで価格が変化しやすく、小麦などの代替品も十分になかったため、価格が高騰し多くの人が食べるものがなく飢えて社会が混乱したのです。そこで政府はお米の流通を管理し、価格も決めて、農家の収入を安定させ農業に取り組んでもらうようにしました。

しかし、政府がいくら価格を規制したとしても「需要」と「供給」の力は常にはたらき続けているので、もし強制的に下限価格を決めると、どうしてもそこに歪みがでてきます。

価格下限規制の弊害

価格下限規制には以下のような弊害が指摘されています。

  • 供給過剰
    価格が下限で固定されるため、企業は利益を確保するために必要な量よりも多くの生産を行って供給過剰となり、価格競争が起きずに廃棄ロスが発生する可能性があります。
  • 品質低下
    価格が下限で固定されるため、企業はコスト削減のために品質を低下させる可能性があります。
  • 闇市場の発生
    下限価格よりも高い価格で取引される闇市場が発生する可能性があります。
  • 財政負担
    政府が価格下限を維持するために財政負担を強いられる場合があります。

例えば、ある農産物の価格を「需要」と「供給」の均衡点より高くなるように下限価格を設定したとします。つまり市場価格より高い価格になったとします。

  • 売る側はその価格でたくさん売りたいと思うので供給量が増えます。
  • けれど買う側は高すぎると感じるため、買いたい人つまり需要量が減ってしまいます。
  • 供給量が需要量を上回って、モノが余ってしまします。

そのようなことがないように政府は、さらに地域の生産量を制限して、それ以上作らせないようにしたり、余った農産物を買い取ったりするなどのルールを追加します。

不安定な石の上にまた石を乗せる感じニャー

下限規制はまた違った問題を引き起こします。

たとえば、作物の価格が上がると、農家の資源である農地の価格が上昇します。自分の土地で農業をしている人にとってはとてもうれしいことですが、土地を借りて農業をしている人もたくさんいます。日本でも約6割の人が借りている土地で農業を行っています。

土地を借りている人は農地が高くなってしまうと地代の負担が高くなって苦しくなります。下限価格があるので農作物が高く売れたとしても、高くなった地代を払うのであれば、利益が相殺されてしまいます。

また、土地の価格が高いところを避けて、土地の低いところで農業を始めようとして開墾したり、生産量を増やすために有害な農薬を使ったりする人も増えるので、環境破壊につながることもあります。

余った農作物を発展途上国の食糧支援に使うこともあります。しかしこれは飢餓を減らそうという意味では有効かもしれませんが、同時にその国の農業をダメにしてしまう可能性があります。大量の農作物がタダで送られてきたら、その国の農家は太刀打ちできないからです。

下限規制の弊害 最低賃金

最低賃金のケースはどうでしょうか?

最低賃金の引き上げは、労働者にとって生活水準の向上や労働条件の改善につながるというメリットがある一方、企業や経済全体に以下のような弊害をもたらす可能性も指摘されています。

  • 雇用の減少
    最低賃金が引き上げられると、企業にとって人件費負担が大きくなり、特に中小企業の場合、雇用を抑制したり、パート・アルバイト労働者を雇用したりする動きが懸念されます。特に、単純労働や低生産性の仕事は、機械化や自動化で代替されやすいため、雇用が失われるリスクが高くなります。
  • 価格上昇
    人件費増加分を価格に転嫁することで、消費者物価が上昇する可能性があります。特に、サービス業や飲食業など、人件費がコストに占める割合が高い業種では、価格上昇が顕著になる可能性があります。
  • 中小企業の経営悪化
    人件費負担が大きい中小企業にとって、最低賃金の引き上げは経営悪化につながる可能性があります。特に、利益率が低い企業の場合、採算が合わずに廃業したり、事業規模を縮小したりする可能性があります。
  • 地域格差拡大
    最低賃金は地域ごとに設定されていますが、地域によって経済状況や物価水準が異なるため、引き上げ幅が均一だと、地域格差が拡大する可能性があります。特に、地方と都市部の格差が大きくなることが懸念されています。
  • 労働市場の硬直化
    最低賃金が引き上げられると、企業は労働者を解雇しにくくなり、労働市場の流動性が低下する可能性があります。また、企業が新しい雇用を創出しにくくなることも懸念されます。
  • 脱法行為の増加最低賃金を遵守せずに、実際よりも低い賃金を支払うような脱法行為が増加する可能性があります。特に、監督が行き届きにくい中小企業でこのような問題が発生しやすいと考えられます。

最低賃金の引き上げには、労働者にとってのメリットと、企業や経済全体への弊害の両方があります。これらのメリットとデメリットを慎重に比較検討し、経済状況や地域の実情に合致した適切な引き上げ幅を設定することが重要です。また、最低賃金の引き上げと合わせて、雇用促進策や中小企業支援策などの対策を講じることも必要です。

価格下限規制は、その効果と弊害が常に議論されています。近年では、経済全体の効率性を重視する立場から、価格下限規制を撤廃すべきだという意見も出ています。
一方、低所得者層や農林水産業などの保護が必要だという意見もあり、価格下限規制のあり方については今後も議論が続くことが予想されます。

まとめ

政府の価格下限価格について詳しく見てきました。

価格下限規制とは、政府などが特定のモノやサービスに対して、販売できる最低価格を法律で定める制度です。政府はあるモノの価格が下がりすぎていると判断すると、それ以上価格が下がらないように下限価格を決めて規制することができます。しかし、均衡点より上に設定された価格は売る側にモノをたくさん作られてしまうため、買う側に価格が高いと感じさせモノ余りを増やします。

最低賃金も世界中で行われている価格下限規制の一つです、労働者の保護のため必要な政策ですが、雇用の減少、価格への転嫁、労働市場への影響などの問題も指摘されています。

政府の価格の規制は本当に困っている人だけではなく、困っていない人にも影響があり不公平感がでやすく、規制の隙をついて儲けようとする人も現れ不正の温床になる場合があり注意しなければいけません。

参考文献

20130628.pdf (zennoh.or.jp) JA農協 
経済学入門 ティモシー・テイラー

おすすめの記事

-ぽれぽれ経済学