前回は政府が権力を使って価格の上限を設定するケースについて見てきました。
政府の上限価格設定とは、あるのモノの価格が高くなりすぎた場合、「この値段より高く売ってはいけないよ」と上限をつけることです。一見買う側はモノが安くなるのでうれしいことですが、売る側は利益が少なくなるので、業者がモノつくりをやめてモノ不足になったり、利益が得られないので質を低下させたり、不正行為の蔓延が起こりやすくなります。
逆に、政府がモノの価格に「この値段より安く売ってはけないよ」と価格の下限を設定するケースもありますので、ここで詳しく見ていきましょう。
低くなった価格を盛り上げる
あるモノの値段が「安すぎて正当な値段ではない」と判断される場合があります。
そんなとき、政治的に力がある人が政府に働きかけをして、そのモノに最低価格を設定すること、つまり「下限価格」をつくり規制することがあります。
「下限価格」を付ける理由は、例えば、農産物の価格が下落して利益が小さくなった場合、最低限の取引価格を設定し生産者を守るためだったり、最低賃金のように労働者の保護だったりします。
たとえば、日本では1995年まで政府がお米の価格を決めていました。
国内の食料を確保するためにお米は絶対に欠かすことができないものです。けれど当時は戦争などの情勢の変化や天候などで価格が変化しやすく、小麦などの代替品も十分になかったため、価格が高騰し多くの人が食べるものがなく飢えて社会が混乱したのです。そこで政府はお米の流通を管理し、価格も決めて、農家の収入を安定させ農業に取り組んでもらうようにしました。
しかし、政府がいくら価格を規制したとしても「需要」と「供給」の力は常にはたらき続けているので、もし強制的に下限価格を決めると、どうしてもそこに歪みがでてきます。
価格の歪み
例えば、ある農産物の価格を「需要」と「供給」の均衡点より高くなるように下限価格を設定したとします。
売る側はその価格でたくさん売りたいと思うので供給量が増えます。けれど買う側は高すぎると感じるため、買いたい人つまり需要量が減ってしまいます。
すると供給量が需要量を上回って、モノが余ってしまします。そのようなことがないように政府は、さらに地域の生産量を制限して、それ以上作らせないようにしたり、余った農産物を買い取ったりするなどのルールを追加します。

不安定な石の上にまた石を乗せる感じニャー
下限規制はまた違った問題を引き起こします。
たとえば、作物の価格が上がると、農家の資源である農地の価格が上昇します。自分の土地で農業をしている人にとってはとてもうれしいことですが、土地を借りて農業をしている人もたくさんいます。日本でも約6割の人が借りている土地で農業を行っています。
土地を借りている人は農地が高くなってしまうと地代の負担が高くなって苦しくなります。下限価格があるので農作物が高く売れたとしても、高くなった地代を払うのであれば、利益が相殺されてしまいます。
また、土地の価格が高いところを避けて、土地の低いところで農業を始めようとして開墾したり、生産量を増やすために有害な農薬を使ったりする人も増えるので、環境破壊につながることもあります。
余った農作物を発展途上国の食糧支援に使うこともあります。しかしこれは飢餓を減らそうという意味では有効かもしれませんが、同時にその国の農業をダメにしてしまう可能性があります。大量の農作物がタダで送られてきたら、その国の農家は太刀打ちできないからです。
最低賃金のケースはどうでしょうか?
各県に設けられている最低賃金は下限価格です。最低賃金は均衡点より上にあります。
すると、需要側の数より供給側の数のほうが多くなり供給側つまり労働者が余り、失業者になります。
最低賃金は賃金の低い人への収入の底上げという、国が国民に対して行う最低限の生活保障という面があって本当に効果があるか議論があるものの、多くの国で導入されています。
ところで先ほどお話ししたお米の価格規制ですが1995年に廃止されました。戦中戦後の食糧不足の時代には必要でしたが、インフラ整備が進んだことや、お米の代替品小麦が手に入りやすくなったので廃止されました。
お米には今も様々な規制はありますが価格は自由に設定できるようになっています、けれど日本では人口減少もあってか、おコメの消費量は下がり続けていて、お米の作付け面積やその価格は下がる一方です。
shiryou1_2.pdf (cao.go.jp) 内閣府 農地(耕地)面積の推移

まとめ
政府の下限価格の設定について詳しく見てきました。
政府はあるモノの価格が下がりすぎていると判断すると、それ以上価格が下がらないように下限価格を決めて規制することができます。しかし均衡点より上に設定された価格は売る側にモノをたくさん作らせるようになり、買う側に価格が高いと感じさせモノ余りを増やします。
政府の価格の規制は本当に困っている人だけではなく、困っていない人にも影響があり不公平感がでやすく、規制の隙をついて儲けようとする人も現れ不正の温床になることもあるので注意が必要です。
参考文献
20130628.pdf (zennoh.or.jp) JA農協
農地の現状|アグリウェブ (agriweb.jp)
お米の値段の変遷③~激動の昭和初期編 | わくわくお米本舗 (waku2okome.com)
経済学入門 ティモシー・テイラー
(maff.go.jp) 経営局構造改善課 小作料について