となりの生き物

岩のじゅうたん さいみ

さいみ

私たち生き物はみんな海から生まれました。
長い長い時間、海で過ごしてきたので、海にはたくさんの生き物が暮らしています。

さて、今回は「さいみ」という海藻についてご紹介いたします。
「さいみ」とは人の名前のようですが、とある海藻の名前です。

「さいみ」とは、漢字で「細美」または「細美布」と書きます。
広辞苑によると「細美」とは目の粗い布を指す言葉です。
手触りのゴワゴワした海藻の「さいみ」にはピッタリな名前です。

「さいみ」はゴワゴワした布と一緒にされてしまいましたが、名前が「さいみ」というかわいらしく、親しみやすい名前を付けてもらえたのが幸いです。

海岸に生える「さいみ」

さいみ

紅藻綱
スギノリ目
オキツノリ科

さいみの特徴

  • 体は3センチくらいの小さくて丸い円柱状
  • 茎のような体は、二股に枝分かれをしながら小枝がでている
  • 岩の上に群生してマット状に広がる
  • 海水にぬれていると薄い褐色で潮が引いて乾燥すると真っ黒に変化します

さいみは潮が引くと海水から顔を出し私たちが観察しやすい場所に姿を現します。
さいみは、お互いが岩の上に絡まり合って生活しています。
絡まった枝はとても硬く踏んずけてもびくともしません。
枝は乾燥すると真っ黒になるので、まるで岩を覆う黒いじゅうたんのようです。

この「さいみ」海藻なのに海の中にいなくても大丈夫な体を持っています。
ワカメや昆布などはいつも海水の中にいて柔らかい体を保っていますが、さいみの枝は短くて細い針金のような体をしています。

さいみの生態の推測

さいみ(Ahnfeltiopsis concinna) の生態について、現時点で詳細な情報が公開されているものは多くありません。

けれど、一般的に紅藻類の生態から推測できることや、これまでの研究で明らかになっていることを総合すると、以下のことが考えられます。

  • 生育環境
    • 潮間帯上部:波の穏やかな岩上に付着して生育していることが多いです。
    • :光合成を行うため、光が当たる場所を好みます。
    • 水温:冷水から温水まで、比較的広い範囲の水温に適応していると考えられます。
  • 繁殖
    • 有性生殖
      紅藻類は一般的に世代交代を行いながら有性生殖を行います。そのため「さいみ」も同様の繁殖方法をとると考えられます。
    • 無性生殖
      環境条件が悪化したり、個体が損傷した場合には、無性生殖によって個体数を増やすことがあります。
  • 光合成:海藻は光合成を行い、無機物を有機物に変えて栄養を得ます。
  • 天敵
    • 海産無脊椎動物:ウニやアワビなどの海産無脊椎動物に食害されることがあります。
    • 魚類:一部の魚類も海藻を食料とする場合があります。
  • 季節変動
    水温や日照時間の変化に伴い、生育量や形態が変化すると考えられます。

なぜ詳細な情報が少ないのか?

さいみの詳しい研究がされていない理由はなんでしょうか。

  • マイナーな種であること
    食用や産業利用が盛んな海藻と比較して、研究が比較的進んでいないマイナーな種のため。
  • 形態の類似性
    他の紅藻類との形がよく似ているので、種同定が難しいこと。

良い営利事業にならないことや、形態がにていて区別がつきにくいと身近な海藻でも研究があまり進みません。

今後の研究の展望

さいみの生態に関する更なる解明のためには、下に挙げるようなの研究が期待されます。

  • 形態の比較研究
    まずは他の近い種類との形態的な比較を行って、さいみの独自の特徴を明らかにします。
  • 遺伝子解析
    分子生物学的な手法を用いて、系統関係や遺伝的多様性を解析する。
  • 生育実験
    異なる環境条件下での生育実験を行い、最適な生育条件を明らかにする。
  • 群落構造の解析
    群落内の個体間の相互作用や、他の生物との関係を解析する。

これらの研究を通じて、さいみの生態に関するより詳細な情報が得られることが期待されます。

さいみの最新研究

さいみにはいくつかの興味深い研究結果があります。

  1. 韓国での新記録:
    • 韓国の南海岸でさいみが初めて記録されました。
      この研究では、形態学的および分子データに基づいてこの種が同定されました。
      特に、ハワイから記載されたA. concinnaと同じクレードに属することが確認されています。
      New record of an economic marine alga, Ahnfeltiopsis concinna, in Korea
  2. 経済的価値
    さいみは、カラギーナンの重要な供給源とされており、医薬品、食品、化粧品産業での抗酸化化合物の商業的材料としての可能性が示されています。
    New record of an economic marine alga, Ahnfeltiopsis concinna, in Korea
  3. 分類学的見直し
  4. 日本での研究:
    • 日本産のさいみのDNA配列が、ペルー産のGymnogongrus durvilleiおよびハワイとメキシコ産のA. concinnaのDNA配列と近似していることが確認されました。このため、日本産のA. concinnaもG. durvilleiとするのが妥当と考えられています。
      サイミ Gymnogongrus durvillei (tonysharks.com)
海藻のさいみ

カラギーナンとは

ちなみに、「さいみ」に含まれる経済価値のある「カラギーナン」とはなんでしょうか?
ここで詳しくご紹介いたします。

カラギーナンは、海藻の一種である紅藻類から抽出した多糖類の一種です。
食品添加物として食品の形状を保持したり、とろみをつけたり、食品の分離を防いだり、口当たりをよくするために使われています。

  • カラナーギンの構造
    D-ガラクトースと硫酸から構成されており、その結合様式によってκ(カッパ)、ι(イオタ)、λ(ラムダ)の3つのタイプに大別されます。
  • カラナーギンの性質
    水に溶けると粘性のある溶液となり、特定の条件下でゲルを形成します。
    このゲル化の性質は、含まれる硫酸基の量や種類によって異なります。
  • カラナーギンの機能
    食品添加物として、ゲル化剤、増粘剤、安定剤などとして広く利用されています。

カラギーナンの利用

カラギーナンは、その多様な性質から、食品産業を中心に幅広く利用されています。
具体的には次のような商品に使われています。

  • 食品
    • 乳製品
      ヨーグルト、プリン、アイスクリームなどの乳製品の粘度を調整したり、安定性を高めたりする。
    • 飲料
      清涼飲料水や乳飲料の粘度調整、沈殿防止
    • 加工食品
      肉製品、魚肉練り製品、デザートなどの食感の改善
  • その他:
    • 化粧品:エモリエント剤(肌の水分を保持して、肌を柔らかくする作用がある)、増粘剤(とろみをつけて使用感を調整できる)
    • 医薬品:錠剤の崩壊剤(体内で速やかに崩壊して有効成分の効き目を早くすることができる)、懸濁剤(液体の薬の粘性を有効成分の沈殿を防ぐ、軟膏やクリームにカラギーナンを添加することで、粘性を高め、皮膚への密着性を向上させることができる)
    • 工業製品:ペイント、接着剤

このように液体の粘度を調節して、有効成分をより安定させるため、カラギーナンは幅広く使われています。

カラギーナンの種類と特徴

カラギーナンには大きく分けて3つの種類が知られています。

  • κ-カラギーナン
    カゼインと結合して強いゲルを形成するため、乳製品によく利用されます。
  • ι-カラギーナン
    カリウムイオンと結合して弾力のあるゲルを形成するため、アイスクリームやデザートなどに利用されます。
  • λ-カラギーナン
    水溶性が高く、粘度を高める効果が強いため、飲料などに利用されます。

カラギーナンの安全性

カラギーナンは、食品添加物として世界中で広く利用されており、安全性についても多くの研究が行われています。

一般的には安全な物質とされていますが、過剰摂取による影響や、特定の体質の人への影響については、まだ解明されていない部分もあります。

まとめ

海の海藻のさいみについて見てきました。
さいみは岩の上に絨毯のように生える、3センチほどの小さな固い海藻です。
硬くて食用にはなりませんが、食品添加物のカラギーナンを分離する研究が行われています。

カラギーナンは、海藻から得られる天然の食品添加物で、食品の食感や形状を改善する働きがあります。

安全性についても多くの研究が行われており、一般的に安全な物質とされています。
けれど、過剰摂取による影響については、今後の研究が必要になっています。

参考文献

アンフェルティオプシス属 (bishopmuseum.org)
New record of an economic marine alga, Ahnfeltiopsis concinna, in Korea
カラギーナン - Wikipedia

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