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情報の非対称性とはなんですか?

情報の非対称性

私たちは毎日何かを決めたり、なにかをあきらめたりしています。

例えば、コンビニでチョコを買うとき、どの商品にしようかと迷ったり、スーパーで大特価の大根を買おうか、買わないかで迷ったりします。でも勇気を出して新商品のチョコを買ってみたら期待外れだったり、安売り大根は中がスカスカかもしれません。

このような的外れなことが起こるのは、私たちが買い物をする前にその商品の情報をつかめないので起こる「情報の非対称性」と呼ばれる現象です。

私たちはモノを買うとき、それをどこまで納得して買っているでしょうか? 安い買い物なら失敗も響きませんが、高い買い物の場合、間違った選択をするとお金と心にダメージが大きいです。

この「情報の非対称性」の知識は、きっとあなたの味方になってくれるはずです。

情報の非対称性

私たちがモノを買うときに起こる「情報の非対称性」は、身近なあらゆる場面で存在しています。以下に、身近な例をいくつか挙げてみましょう。

  • 中古車の売買
    中古車の販売店は車の状態をよく知っていますが、買い手はよく分かりません。そのため、売り手は買い手よりも有利な取引条件を獲得しやすくなります。
  • 保険の契約
    保険会社は契約者全体のリスクを入念に見積もっていますが、契約者は保険会社のリスク評価をよく知りません。そのため、保険会社は契約者よりも有利な契約条件を設定しやすくなります。
  • 金融商品の取引
    投資家は金融商品の価値をよく知っている投資家もいれば、よく知らない投資家もいます。そのため、よく知っている投資家は、よく知らない投資家よりも有利な取引条件を獲得しやすくなります。
  • 医療行為
    医師は患者の病状をよく知っていますが、患者は医師の判断をよく知りません。そのため、医師は患者よりも有利な治療方針を決定しやすくなります。
  • 雇用関係
    雇用主は従業員の能力や実績をよく知っていますが、従業員は雇用主の評価をよく知りません。そのため雇用主は従業員よりも有利な賃金や労働条件を設定しやすくなります。

これらの例のように「情報の非対称性」は、私たちの生活の様々な場面で存在しています。

知っている人と知らない人の違い

情報を良く知っている側は、情報を良く知らない側よりも有利な取引条件を獲得しやすくなります。これが「情報の非対称性」といわれる問題です。

情報を知っている人と知らない人との差、つまり「情報の非対称性」が大きいと、お互いが公平な立場の取引ができず「価格」が、売り手にとって有利な「ゆがんだ価格」になってしまいます。これは消費者にとって不利なだけではなく、企業にとっても取引効率が下がり、企業の価値の過大評価につながったり、不正行為が生み出されやすい社内環境になります。

なので市場は「情報の非対称性」を解消するためにさまざまな対応策を用意しています。

例えば、品質保証書をつけて「ある基準」を満たしていることを証明し、消費者が粗悪品を買わされて損することをふせぎます。また品質認証や商標、ブランドも商品の品質を知るためには便利な手掛かりになります。
また雇用関係では履歴書がそうした役割を果たしていますし、資格や免許も簡単にお互いを知りあうことができる方法の一つです。

多くの市場で情報が偏らないように取り決めをつくり、取引をスムーズに成立させられるようになっています。もしもこれが上手く働かないときは、政府の仲介も必要になることがあります。つまり情報の提供を法律で義務付けます。

例えば、食品の原材料や栄養成分の表示は消費者が十分な情報に基づいて選択できるようにしてくれるものですし、企業には財務情報の開示、会計検査が義務付けられています。

けれどそれでも「情報の非対称性」が解消されないケースがあります。

保険市場のリスク

保険市場は、とくに「情報の非対称性」が大きなリスクをともないます。

保険市場とは生命保険や自動車保険といった民間の保険だけではなく、年金な失業保険などの公的保険も含まれます。

保険を売る側は、買い手側がどのような時に保険金の支払いを請求するのか? を事前に知りたいのですが、その予測はとても困難です。この予測できない問題が保険市場の大きな弱みになっています。

この問題を理解するために、保険市場のおさらいをしておきましょう。

まず統計的に悪い出来事は、ある一定の確率で起こることがわかっています。しかし、それが誰に当たるかまでは分かりません。私たちが保険に加入するのは、その万が一に備えて保険会社にお金を出すのです。もしトラブルが起きたら、保険会社がその集めたお金から対象者に保険金を支払う、ということになります。

自動車保険を例にして見ていきましょう。
ある自動車保険に1000人の加入者がいるとします。過去のデーターから1000人のうち900人までが1年間無事故で過ごすことが分かっています。そして残りの100人のうち半分の50人がドアのへこみ、擦り傷など5万円以下の軽い事故を起こします。そして30人は30万円程度のそこそこの事故に巻き込まれます。さらに残りの20人は大きな事故にあい100万円以上の損害を受けます。
第1章 道路交通事故の動向|令和3年交通安全白書(全文) - 内閣府 (cao.go.jp)

保険会社はこの情報を元に、必要な保険金額を見積もっています。
先ほどの事故例を単純に計算すると、1年間で必要な保険金支払いの増額は 3150万円です。
50人×5万円 = 250万円
30人×30万円 = 900万円
20人×100万円 = 2000万円

つまり1000人の加入者が 3万1500円 づつ掛け金を支払えば、1年間に起こるすべての事故に対する補償が可能になるということです。

ざっと計算しましたが、この計算では抜けている点が2つあります。1つは保険会社の運営費や人件費などの諸経費、2つ目は保険会社は、集めた掛け金を投資して利益を得ていますが、その収益が抜けています。
ここでは、保険市場の基本的なルールを分かりやすくするため、諸経費と運用益をぬかして考えていきます。

保険金の支払いでは、少人数の人が多額のお金を受け取るのが、その典型的なパターンです。
先ほどの例でもわずか20人の人が支払いの60%以上を持っていきます。1000人のうちの20人ですから、わずか0.2%の人がそのお金の60%持っていくのです。このもらった人たちは「保険に加入して本当に良かった」と思っているでしょう。

しかし大多数の人は「支払って損をしているんじゃないか・・・」と考えてもおかしくありません。

ここではどの人も同じ確率で事故が起きるものと考えてきましたが、実際はそうではありません。
事故を起こさないように慎重に振舞う人、荒っぽい運転をして事故を起こしやすい人など様々なタイプの人がいます。保険会社はこのような個人の特徴までつかむことはできません。

情報の非対称性の2つの問題

このような個人の特徴までつかむことが出来ないことは、保険会社にとって、大きな2つの問題につながっていきます。
その2つの問題を経済学用語で「逆選択」と「モラルハザード」とよんでいます。

  • 逆選択
    逆選択とは、保険会社にとって望ましくない人が集まってきて、望ましい人が離れていく傾向のことです。
    健康な人よりも不健康な人の方が医療に対する関心は高くなります。単純に考えれば健康な人が、不健康な人の保険金を支払うことになるので、平均より健康な人は保険から離れていきます。
    逆に不健康な人にとっては魅力なのでどんどんと加入が増えていきます。こうしてリスクが高い人が多くなると、保険金の支払額は平均より高くなり、保険料の引き上げが必要になってきます。
    このような事態を避けるため、保険会社は低リスクの人を集めることに力を入れなければいけません。
    また逆選択対策として保険会社は、損害の一部を自己負担にする対策を取り入れているところもあります。加入者が金銭的リスクの一部を負担することで医療費を抑えてもらうように促すのです。
  • モラルハザード
    モラルハザードとは、保険に加入することで、悪いことを回避する慎重さが失われる傾向のことです。
    これは、保険に加入することで、万が一のときに損失を補償してもらえるため、人は悪い出来事をふせぐための行動をさぼりがちになります。「保険があるから」という安心感でトラブルが起きやすくなり、保険金の支払額が膨らむことになります。

そして最後に、保険会社が行う大きなリスク対策は「加入者を一人でも多くすること」です。
加入者が多ければ多いほど、低リスクの人の割合が高くなり、高リスクの人によるダメージが少なくなります。
なので保険会社は加入者の数を増やそうと、あの手この手を使って今日もがんばっているのです。

保険市場の「情報の非対称性」対策

保険会社はリスク解消の方法として次のような対策をしています。

  • 保険料を段階的にする
    保険料をリスクの高い人ほど高く設定して、逆選択を抑制します。
  • 免責を設定する
    免責金額を設定します。軽微な事故を起こした場合に保険金が支払われないように設定し、モラルハザードを抑制するのです。
  • 告知義務
    被保険者は、保険契約の際に保険会社に自己の健康状態や過去の事故歴などの情報を告知することが義務付けられています。これにより、保険会社は被保険者のリスクをより正確に評価することができます。

しかし、これらの取り組みにも限界があり、完全に「情報の非対称性」を解消することは難しいと考えられています。

まとめ

情報の非対称性について解説しました。

私たちが何かを買ったり、契約するときに必要な情報がないと正しく判断することができません。正しい判断ができないと、私たちは不当に不利益を被ることになります。
逆に、販売者側は不当な販売によって一時は大きな利益を見込めるかもしれませんが、価格が非効率になったり、販売会社が過大評価されることになり、社内に不正が起きやすい土壌が生まれます。

そのために各業界で自主的に品質を評価する基準をもうけたり、商品をブランド化するなどして、品質を分かりやすくアピールする方法が良くとられています。
またそれでも十分でないと国が判断した場合は、政府は法によって「情報の開示」を義務付けています。食品関係については原材料や栄養表示、また企業の財務状況の開示や会計検査はその例の一つです。

しかし保険市場は情報が偏り公平さを保つことが難しい市場です。
保険の必要な人は得をして、必要のない人が損をする構造がどうしても避けられません。必要のない損する人もたくさんいてもらわないと商品が成り立ちません。
また、保険をかけているからといってメンテナンスを怠る人が多くなると、トラブルが発生しやすくなり保険金額が高くなってしまいます。

保険会社は保険金額を段階的にしたり、免責事項を増やし支払い金額を抑制したりするなどして対策をしていますが、取り組みには限界があります。

私たちは商品の情報をすべて得ることはできませんが、判断に必要な情報は販売店側に出してもらわなければいけません。必要な情報がそろっているのか判断するのは難しいことですが、疑問があったら誠実に答えてくれる、そんな販売店と取引することがリスク対策として有効です。
それでも、保険については公平さを保つ仕組みはまだ整っていないので、より慎重に選ぶ必要があります。
国民全体を広くカバーしつつ、医療費を抑えるような理想的な医療制度は残念ながらまだ開発の途中にあるのです。

参考文献

ティモシー・テイラー 経済学入門

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