春が訪れると、小さな畑や草むらにモンシロチョウが現れます。
白くてひらひらと舞う姿は、春の訪れを感じさせてくれる美しい光景の一つですよね。
モンシロチョウは、あの薄くて小さな2枚の翅で飛び回ることができます。
蝶の翅は、和紙のように見えますが、
実は、和紙よりも複雑な構造を持ち、モンシロチョウの羽ばたきを支えています。
そんな構造を知るために、普段見ている姿ではなく、ず―――っと近寄ってみましょう。
あなたも、ちょっと視点を変えてモンシロチョウを見てみませんか?
きっと驚きと、楽しい発見があるはずです!
モンシロチョウの強さのひみつ
モンシロチョウの羽は、その見た目からは想像できないほど繊細で巧妙で、さらに丈夫にできています。
翅の土台部分になる膜、翅膜(しまく)
翅の骨格をつくる 翅脈(しみゃく)
翅に強さと機能を与える 鱗粉(りんぷん)
この3つが、モンシロチョウの翅の強さを支えています。
翅膜(しまく)
蝶の翅膜(しまく)は、翅の土台をつくる薄い膜のことです。
この翅の土台になる膜は、さなぎの時に幼虫の表皮細胞からつくられます。
昆虫ホルモンによる翅形成の制御機構(u-tokyo.ac.jp)
蝶の翅は、表皮細胞が分泌する薄い2層のクチクラの膜からできていて、非常に軽く、柔軟性があります。
クチクラとは、体を保護する膜のことで、水をはじき、弾力性と柔軟性に富んでいるので、昆虫たちの間では外骨格として広く使われています。
そんな昆虫の体を形作る強い素材が、蝶の翅の土台を作っています。
翅脈(しみゃく)
羽の膜の中に翅脈(しみゃく)と呼ばれる筋が入っています。
先ほどの蝶の写真を見ても、筋が入っているのが分かります。
蝶の翅脈は、翅を支えるための重要な構造で、主にキチン質という物質でできています。
キチン質とは、多糖類の一種で、セルロースと似た構造を持ってて、クチクラの一種で特に硬くて軽い物質です。
翅脈はストローのようになっていて、中に体液が流れています。
この体液は翅脈に2つの大切な役割を与えています。
- 翅の伸展
蝶が蛹から羽化するときに、翅脈の中に体液が流れ込んで、翅を物理的に伸ばします。
翅が完全に広がると、翅に強度が出て、飛行に適した形態になります。 - 熱伝達
翅脈は、日光浴中に翅で吸収した熱を体に伝える役割も持っています。
これによって、蝶は体温を調整し、活動に必要なエネルギーを体に伝えることができます。
https://www.pteron-world.com/topics/anatomy/seichu/wingntemp.html - 体液の循環
翅脈の体液は、翅に栄養を供給したり、老廃物を排出したりする役割も担っています。
翅脈は、翅の中に網目状に広がっており、翅の形を保つだけでなく、太陽の熱を吸収したり、翅をすこやかに保つ循環器として働いています。
鱗粉
蝶をつかむと、粉のようなものが指につきます、これが鱗粉です。
一つの鱗粉の大きさは、0.1mmほどの大きさで、隙間なく瓦のように翅膜に並んでいます。
一つひとつの鱗粉が一つの細胞から作られたもので、鱗粉にはたくさんの機能があると考えられています。
鱗粉の主な役割
- 翅の模様と色を作る
鱗粉は翅の色や模様を作り出し、これにより外敵から身を守るためのカモフラージュや警戒色を提供します。 - 飛行の補助
鱗粉の凸凹した構造が空気抵抗を減らし、効率的な飛行を可能にします。
また、鱗粉が水をはじくことで、翅が濡れて飛行が困難になるのを防ぎます。 - 体温調節
鱗粉は体温調節にも役立ちます。黒っぽい鱗粉は太陽の熱を吸収し、体を温めるのに役立ちます。一方、白っぽい鱗粉は過剰な熱を反射し、体温の上昇を抑えます。 - 交尾の促進
鱗粉の一部はフェロモンを放出するため、オスとメスが互いを認識しやすくし、交尾を促進します。
このように小さな鱗粉は、蝶の非常に重要な器官の一つです。
鱗粉が大量に失われると、飛ぶ能力が低下したり、体温調節がうまくいかなくなってしまいます。
鱗粉のページ (pteron-world.com)
このように和紙のように思っていたモンシロチョウの翅には、その土台の膜、翅を支える管として、そしてそれを覆う鱗粉という複雑な構造をしていました。
そんな複雑で繊細な構造をもった翅を使ってモンシロチョウは飛んでいたのです。
モンシロチョウの一生
モンシロチョウをもっと知るために、その一生を覗いてみましょう。
モンシロチョウは「完全変態」を行う昆虫です。
「完全変態」とは、卵から幼虫、さなぎ、そして成虫へとダイナミックに姿を変えながら成長していく昆虫を指します。
- 卵
キャベツやアブラナなどのアブラナ科の植物の葉の裏などに、小さな黄色の粒のような卵を産みつけます。 - 幼虫(アオムシ)
卵から孵化した幼虫は、最初は黄色い色をしていますが、成長するにつれて緑色になり、春から秋にかけて、いわゆる「アオムシ」と呼ばれる姿になります。アブラナ科の植物の葉を盛んに食べます。4回の脱皮をしながら大きくなり、「さなぎ」になります。 - さなぎ
さなぎの色は緑色や褐色など、周りの環境に合わせた保護色をしています。
さなぎの中では、中がどろどろになって蝶に変わる準備が行われ、約2週間で成虫になります。 - 成虫
さなぎの中で大きく変化し、美しい白い羽を持つ成虫になります。
成虫は花の蜜を吸ったり、他の蝶と交尾をしたりして過ごします。
モンシロチョウの生態のポイント
- 食性
幼虫はアブラナ科の植物の葉を、成虫は花の蜜を主食とします。
モンシロチョウがキャベツ畑のまわりによく飛んでいるのは、幼虫がキャベツ科の葉しか食べないためです。
モンシロチョウのお母さんは子供が生まれたら、食べ物の上で生活できるようにキャベツの上に卵を産みます。お母さんはキャベツのどこに卵を産むのか考えていることが多いので、キャベツ畑に多くのモンシロチョウが集まっています。 - 発生回数
暖かい地域では年に数回、寒い地域では年に数回発生します。 - 寿命
成虫の寿命は、種類や環境によって異なりますが、一般的には数週間程度です。 - 分布
世界各地に広く分布しており、日本でもごく普通にみられる蝶の一つです。
成虫になり、蝶の姿になったモンシロチョウは花の蜜を吸って生活します。
私たちが目にする、モンシロチョウは緑色の青虫の時代を生き延びて、さなぎから蝶になった姿でした。
モンシロチョウを観察するコツ
- 観察場所
菜園、畑、公園など、アブラナ科の植物が生えている場所で見られます。
モンシロチョウの幼虫はキャベツや菜の花、イヌガラシなどの黄色い花のつく葉を食べるので、黄色い花を探すと良いでしょう。 - 観察時期
春から秋にかけて、成虫の姿をよく見ることができます。
モンシロチョウは、風に乗って飛ぶことが多いので、風のない日に観察すると、ゆっくり飛ぶので観察しやすくてお勧めです。
モンシロチョウを目で追うのは結構大変です。
なぜかというと、モンシロチョウなどの蝶の羽ばたきは、一定のリズムではなく、予測できない動きをして、次にどちら側へ飛んでいくのか予想ができず、目線を移動させるのが難しいからです。
モンシロチョウは天敵である鳥の攻撃から身を守るために、あのような不規則な飛翔をしていると考えられています。
モンシロチョウの飛び方にも、身を守る意味が隠されていて、自然のバランスのしくみに、本当にびっくりさせられます。
みなさんもぜひ春になったら、モンシロチョウを見つけてみませんか?
きっとモンシロチョウの美しい姿と力強い飛翔が、私たちに勇気を与えてくれます。
生物の構造をマネする最新研究 バイオミメティクス
蝶の翅膜は、その美しさだけでなく、その構造の巧妙さから、様々な分野で研究されています。
特に、生物の構造を模倣する研究のことを「バイオミメティクス」と呼んで注目されています。
例えば、蝶の翅の構造を模倣して、新しい材料や構造の開発や、蝶の翅の撥水性や自己修復能力を応用した製品が開発されたり、また、昆虫の嗅覚を模倣したバイオセンサーの研究も進んでいます。
例えば、ガの嗅覚受容体を利用して、特定の匂い物質を検出するセンサーが開発されています。このような技術は、爆発物の検出や疾病の早期発見などに応用されることが期待されています。
蝶たちのバイオミメティクスは多岐にわたる分野で応用されており、今後もさらなる発展が期待されています。
微細加工で創るバイオミメティクスの最前線 (jst.go.jp)
バイオミメティクス/バイオミミクリー(生物模倣)のネクストノーマルとは? ) (astamuse.co.jp)
【研究成果】トンボの翅の断面にある凹凸は空気の流れを制御し、瞬間揚力を最大約10%も増やせる〜昆虫型ドローンへの応用に期待〜 | 広島大学 (hiroshima-u.ac.jp)
真黒な蝶がヒント――薄くて軽量の黒色塗膜材料の設計手法 - fabcross for エンジニア
遺伝子システム革新学分野
参考文献
手塚治虫名作集 集英社
フィールド図鑑 チョウ 東海大学出版社
学研の図鑑 昆虫
芋虫ハンドブック 文一総合出版
チョウの翅に新たな機能を発見!! 生きた細胞をもつ翅のヒミツ | つくばサイエンスニュース (tsukuba-sci.com)
モンシロチョウ - Wikipedia
鱗粉のページ (pteron-world.com)