私たちは400年前から比べれば、ずっと豊かになっています。
国の経済は長い目で見れば必ず上昇していきます。
経済は必ず上昇するかもしれませんが、自分がもし不景気の真ん中にいたら、何百年も次の景気回復を待ってはいられません。豊かになったころは死んでいて、残念ながらその利益を受けることができないでしょう。
経済は上がったり、下がったりを繰り返します。
もしも景気が下がっていたとき、人生の大切な時間だったり、体を壊して生活が破綻してしまっては、その後の人生を立て直すのは簡単ではありません。
ここでは、経済学の考え方の一つ「自由に任せておけば必ず良くなる」といった古典的な考え方から、世界恐慌を経て「政府の政策が有効」という考え方が主流になったわけを解説します。
経済学は私たちの生活と無関係では決してありません。
世界の賢い人たちが、私たちの生活について真剣に考えてくれた理論を理解しておくのはきっと生活に役に立ちます。
一緒に見ていきましょう。
大昔から比べれば豊かな暮らし
私たちの生活は、時間の経過とともに豊かになる傾向はあります。
豊かさの定義として代表的なのは「1人当たりのGDP」や「平均寿命」などがありますが、これらの指標は、過去100年の間に世界中で向上してきました。
例えば、1900年の世界の平均寿命は31歳でしたが、2022年には73歳にまで延びています。
また、1900年の世界の1人当たりGDPは$2,000でしたが、2022年には$12,000にまで増加しています。
もちろん、豊かさは経済的な側面だけではありません。
教育や医療、文化、環境などの面でも、時間の経過とともに向上してきました。
例えば、識字率や平均寿命、平均教育年数は、過去100年の間に世界中で向上しています。
また、公害や貧困などの問題は、依然として存在していますが、過去100年の間には改善されてきました。
このように、時間の経過とともに豊かさの指標は向上してきました。
しかし、豊かさの向上は必ずしもすべての人に平等に行き渡っているわけではありません。
先進国と途上国との格差は依然として大きく、また、貧困や格差などの問題は依然として存在しています。
私たちの生活が豊かになってきたからと言って、この先も豊かさが続くかどうかは分かりません。それはさまざまな要因によって決まってくるでしょう。経済成長や技術革新、社会制度の改革などによって、豊かさの向上が促進される可能性は十分あります。
けれど、環境問題や格差問題などの課題が解決されなければ、豊かさの向上は逆に鈍化する可能性があります。
急な不景気や変化
しかし、経済はいつも向上するわけではありません。
「不況」とは、経済活動が停滞した状態、そして失業率や物価が上がっていくことを指しています。不況になると、家計や企業の収入が減少し、生活が苦しくなる人が増えます。
不況は、さまざまな要因によって引き起こされます。主な原因としては、次のようなものがあります。
- 金融危機
- 戦争
- 自然災害
- 技術革新
- 人口動態の変化
不況は、私たちの生活に大きな影響を与えます。具体的にはこのようなものがあげられます。
- 収入の減少
- 失業の増加
- 物価の上昇
- 消費の減少
- 投資の減少
不況が自分にとって大切な時間に起こると、より大きなダメージを受けることになります。
例えば、就職活動や結婚、出産、子育てなど、人生の節目に不況が起こると、大きな不安やストレスになります。
不況はいつ訪れるかわからないので、日ごろから不況に備えて、次のような対策をお勧めします。
- 貯蓄を増やす
- 資産運用をする
- 経済学の勉強をする
- ネットワークを広げる
また、不況に陥ったとしても、落ち込まずに、前向きに乗り越えることが大切です。不況は必ず終わるものであり、その先には新たなチャンスが待っています。
見えざる手から政府の手へ
18世紀に経済学の祖と呼ばれるアダム・スミスは「私たち一人ひとりが堅実に行えば、世界は確実に良くなっていく」といって市場経済を後押ししました。これは大勢の人が情報の偏りなく自由に商売を行えば必ず利益が上向くという考え方です。
近代以前までは市場の規模も小さく、その影響も一部に限られていたためスミスの考え方は広く受け入れられていました。
しかしそれは、20世紀に起きた大恐慌によって見直されることになります。
それから150年後、1930年に世界恐慌が起きます。
この恐慌を経験したジョン・メイナード・ケインズは、経済は常に上昇していくわけではなく、不況や景気後退が存在すると主張します。そして、このような時は「政府の政策」によって景気を安定させることができると考えます。
ケインズは、提供されている財やサービスの総量が減ると不況が起こるので、その減った分を政府が「財政政策」や「金融政策」で補えばよいと主張しました。
「財政政策」とは、政府の支出や税制を調整する政策です。
ケインズの財政政策とは、政府が公共投資を増やして需要を増加させ、景気を刺激すること。また、失業手当や社会保障などの支給を増やし、国民の消費を上向かせる政策を提案しました。
「金融政策」とは、政府が中央銀行を通じて金利や通貨供給量を調整する政策です。
ケインズの金融政策とは、中央銀行が金利を低下させて、企業の投資を促進して景気を刺激する方法です。
この2つのケインズの経済理論は、1930年代の不況を脱するために、世界各国で採用され不況の緩和や経済の回復に一定の効果を発揮することが出来ました。
しかし、今ではケインズの考えは次のような批判も受けています。
- 政府の政策は、経済に歪みをもたらす可能性がある。
- 政府の政策は、長期的には効果が乏しい。
公共事業を増やしたり、金融政策の実施というケインズの考えは、経済の短期的な安定を図るための有効な手段でしたが、現在では長期的な経済成長を実現するためには、他の経済政策も必要であると考えられています。
戦後日本の政策
日本では、第二次世界大戦後の経済復興にあたり、ケインズ経済学の考え方が積極的に取り入れられました。
第2次大戦後の日本は、戦争によって経済が大きな打撃を受けていたので、政府は財政政策や金融政策によって経済の立て直しをしなければいけませんでした。
何もなくなった日本では大国の支援を受けた政府が、公共事業や社会保障支出を増やし、また金利を下げることで消費需要や投資需要を刺激しました。
その結果、日本経済は戦後から高度経済成長へと向かう道を歩むことができました。
日本におけるケインズ経済学の導入は、以下のような特徴があります。
- 政府の積極的な介入を重視した。
- 経済の短期的な安定を重視した。
しかしその後、日本経済は「バブル崩壊」や「リーマンショック」などの不況に見舞われ、ケインズ経済学の考え方が必ずしも有効ではないという意見も出てきます。
近年ケインズ経済学に加えて、新自由主義経済学などの考え方も取り入れられるようになり、日本の経済政策はより多様化しています。それでもなお、ケインズ経済学の考え方は日本の経済政策において、重要な役割を果たしています。
まとめ
経済は長い目で見れば上昇していくものですが、短期的には上昇したり、下降したりを繰り返していきます。
その間隔は10年から数年といわれ、不景気の間に生活の大切なイベントを迎えてしまった人は、人生に大きな影響を与えることは避けられません。
世界恐慌や不況の影響を抑えるために、イギリスの経済学者ケインズは「政府の政策」をてこにして経済を安定させる方法を考え出しました。公共事業を増やし、社会保障や失業者手当を充実させ、金利を引き下げ経済を活性化させる方法でした。
日本は戦後ケインズの考えをもとに世界でもまれな復興を遂げることが出来ました。
しかし、日本のバブルの崩壊やリーマンショックなどの不況から立ち直ることが出来ず、新自由主義といった政府の政策を最小限に抑える方法が注目されるなど、ケインズの考え方は必ずしも有効ではないのでないか、と今では考えられています。
この先経済がどのように変化していくのかは誰にも分かりませんが、自分が不景気にあっても影響を最小限に抑えられるように、貯蓄を増やし、経済学を勉強して次の好景気を待てるように対策をしておきましょう。
参考文献
ケインズ (y-history.net)
ジョン・メイナード・ケインズ - Wikipedia
この世で一番おもしろいマクロ経済学 ヨラム・バウマン
経済学入門 ティモシー・テイラー