前回は価格を上げたとき、または下げたときの需要の変化率「弾力性」について見てきました。弾力性がわかれば、商品の適切な価格がどのあたりにあるかがわかってきます。また価格が上下したとき需要と供給がどう変化していくのかを予想することが出来ます。
ではここでさらに「弾力性」の具体的な例について解説します。
弾力性がわかれば適正価格が見える
自分で作った商品を売るとき、価格をいくらにするか決めるのは、なかなかむつかしい問題です。高すぎると嫌がられるだろうし、安いと利益が出なくなります。
ここではまず一人のハンドメイド作家に注目していきます。
彼女があるフェスティバルに出店するとします。ここでの出店料は売り上げに関係なく一律ですので売り上げが増えても、減っても出展料の負担は変わりません。ここで作品の値段を決めるとき、お客さんに「高いね」と思われてしまうと買ってくれる人が少なくなります。値段を下げれば、たくさんの人が買ってくれるでしょう。
では、この作家の収入を最大限に増やすには、どうしたらいいのでしょうか?
まあまあの人気作家だけど、どうしても買いたいというファンが少ない、という中堅作家について考えてみましょう。この作家の売り上げは、高くすればするほど売り上げがぐっと下がってしまう状態、つまり弾力性が高くなります。なぜかというと、この作家のファンは、買うか買わないかを慎重に財布と相談するタイプが多いからです。
この作家の収入を増やす最適な戦略は、価格を低くすることです。そうすればお手頃感がでて、買ってくれる人も大きく増え、トータルの売り上げを増やすことが出来ます。
一方でとても人気のある有名作家の場合は、価格をかなり高く設定しても売り上げ数の減りが少ない状態、つまり弾力性が低くなります。いくらでもいいから欲しいというファンが多いので、作品の価格を上げても売り上げは減ることがありません。

利益を出すためには、適正な価格を設定する必要があります。むやみに高い値段をつけても売り上げが伸びずトータルで損するかもしれませんし、売れなければ出展料も賄えなくなるかもしれません。
今回は小さな個人を例にしましたが、大企業でもやっていることは同じです。もちろん規模が大きい場合、広告費や人件費がコストとして乗ってくるので、これほど単純ではありませんが、利益をだすために適正な価格を見つけるため、商品の需要の弾力性を考慮して価格を設定しなければいけません。
長期的には商品は弾力的になっていく
次に、ガソリンの価格の弾力性はどうでしょうか?
ガソリンの価格は社会に与える影響が大きくて、よくニュースに取り上げられてます。ガソリン価格の値上げは、需要にどのような変化をもたらすのでしょうか?
私たちは、ガソリン価格が上がったとしても、すぐにガソリンの使用量を減らすことはできません。やれることと言ったらできるだけ車を使わないように交通機関を使ったり、ドライブの回数を減らすとかですが、それでもガソリンを減らせる量はわずかです。短期的にはガソリンの需要は弾力的ではありません。
しかしガソリン価格の上昇が続くと、私たちはもっと抜本的な対策をとる可能性が増えてきます。例えば燃費の良い車に買い替えたり、通勤は自転車や交通機関に切り替えたり、それこそ会社の近くに引っ越したりするなどの選択肢が考えられます。
逆に供給側つまり、企業側の生産数の変化の弾力性はどうでしょうか?
工場は生産量を急に増やせと言われても、たいていすぐには対応できません、けれど数年かけて工場のラインを増やしていくことは可能です。供給も短期的には弾力性はありませんが長期的にみれば弾力性を高めることができます。
このように価格の弾力性が分かってくると、モノの価格が不安定に揺れ動くのも理解できます。たとえ急に価格が上がっても、すぐに供給を増やしたり、買いたい人を減らしたりすることが出来ないので価格はいつも揺れ動くのです。
けれど長い目で見ると、需要量も供給量も落ち着いていきます。均衡点でぴったり停止することはありませんが均衡点にゆっくりと近づいていきます。
コストが上がった分はだれが負担する?
エネルギー価格が上がると、価格が値上って私たち消費者がそれを支払います。つまり値上がりコストは消費者が負担します。経済学では値上がりをコストと考えます。
その値上がりコストですが、実はいつも消費者が支払っているわけではありません。企業側がコストを支払う場合もあります。生産量を減らし、世の中の出回る量を減らします。企業は売り上げ数を減らすことで、コストを支払っているのです。
例えば、前回も例で挙げたオレンジジュースはどうでしょうか?
オレンジジュースは代替品がたくさんあって、どうしても買わなければいけないと思わせる商品ではないので、「弾力性の高い」商品でした。
今、天候不順でオレンジジュースの価格が上がったとき、その値上がり分を価格に上乗せして消費者に負担してもらうことはできるのでしょうか? 答えは ✖ です。オレンジジュースは弾力性があるのでちょっとした値上げも大きく売り上げが下がります。そのため消費者に値上げ分を負担してもらえるコストは多くはありません。オレンジジュースをつくっている工場は生産を少なくし、出回る量を減らして企業の利益を減らしてそのコストを支払うのです。
ではタバコはどうでしょうか? タバコは生活必需品ではありませんが、愛好者にとって代替品がなくどうしても必要な商品なので、価格が上がっても売り上げの減らない「弾力性が低い」商品でした。なのでタバコの価格は上がっても売り上げが減らないため、企業は安心して・・・というわけではないのでしょうけど、かけられた税金分を価格に上乗せしていつも通りに販売できます。この場合は税金分を消費者が負担しているわけです。
弾力性を推測する3つの質問
ガソリン価格やタバコで見たように、価格と売れる数にはその商品の価値によって、値上がりしたからと言って売り上げが下がらないものやごっそり下がるものなどさまざまでした。
でも実際には、タバコもやめようかな・・・と思っている人にとっては価格が上がるというのは、買うことをやめる一つのきっかけになり、やめようとしている人にとってはタバコも弾力性の高い商品になることもあります。
商品の弾力性を正確につかむのは難しいですが、弾力性を推測するには次の3つの質問が目安になります。
- それは購入を延長できるものですか?
- 適切な代替品はありますか?
- 自分にとってそれはとても高額ですか?
この3つのうち「はい」が2つ以上あれば、その商品は弾力的です。「いいえ」が2つ以上なら、弾力的ではありません。ただし医療費など高額で急を要するものは当てはまらない場合もあります。
まとめ
価格を上下させたときに商品の売れる数がどのように変化するのかをみてきました。熱狂的なファンがついていれば高く売っても売れ残る心配はありません。それほどファンのついていない場合は少し安いなという価格で販売してすべて売り切ることを目標にするといいでしょう。
原材料が高くなったとき、そのコストを負担するのは、弾力性の高い商品は供給者側が負担します。弾力性の低い商品は消費者側が負担します。
つまり、世の中にたくさん競合品が出回っている商品の値上げは、業者側が負担していて、希少品で熱狂的なファンがついているものは消費者側がそのコストを負担しています。
実際の商品の弾力性を正確につかむには、さまざまな方面から検討しなければいけないでしょう。今回はたばこ税について見てきましたが酒税や関税などの効果がどの程度あるのか、どこまで影響するのかをつかむのは簡単ではありません。
けれど、需要や供給の弾力性の考え方を知っておけば、モノの価格がイメージしやすくなります。そして税金の効果も理解することができるのです。
参考文献
ティモシー・テイラー 経済学入門
アメリカの高校生が学ぶ経済学 ゲーリーE.クレイトン