ぽれぽれ経済学

弾力性と適正価格

弾力性と適正価格

前回は、経済学における弾力性について解説しました。

経済学の「弾力性」とは、ある変数の変化率ともう1つの変数の変化率の比で表される指標です。

一般的に、「AのB弾力性」という表現で用いられ、Bの1%の変化に対するAの変化率を意味します。Bの変化に対してAが大きく変化するとき、「弾力的だ」といい、Bの変化に対してAがあまり変化しないとき「非弾力的」と言います。

弾力性は、需要、供給、所得、価格など、様々な変数について考えることができます。

ここでは、さらに弾力性の具体的な例を挙げ、皆さんが、商品の弾力性を自分でイメージできるように解説していきます。

弾力性と適正価格

私たちはモノを買うとき「この値段は適正なのか?」とは考えることはありません。お店の人と値段交渉することも、特別な場合を除きほとんどありません。

もし、商品の種類によって基準となる値段が分かったら、商品を比べるときの良い判断材料になります。弾力性の考え方を使って商品価格について考えてみましょう。

ハンドメイド作家の場合

ハンドメイド作家さんの場合を考えてみます。

自分で作った商品を売るとき、価格をいくらにするか決めるのは、なかなかむつかしい問題ですよね。高すぎると嫌がられるだろうし、安いと利益が出なくなります。

ある一人の作家がフェスティバルに出店するとしましょう。
ここでの出店料は売り上げに関係なく一律とします。

出店料が一律だと、作家の売り上げが増えても、減っても出展料の負担額は変わりません。

作家は作品の値段を決めるとき、どんな風に考えるでしょうか?
お客さんに「高いね」と思われてしまうと買ってくれる人が少なくなります。
逆に、一般的な商品より値段を下げれば、たくさんの人が買ってくれるはずです。

では、この作家の収入を最大限に増やすには、どうしたらいいのでしょうか? 

この場合作家の人気度によって弾力性が違うことが分かっています。

中堅作家の場合

まあまあの人気作家だけど、どうしても買いたいというファンが少ない、という中堅作家の場合は、この作家の売り上げは、価格を高くすればするほど売り上げが下がります。つまり、中堅作家の弾力性は高いです。なぜかというと、この作家のファンは、買うか買わないかを慎重に財布と相談するタイプが多いからです。

中堅作家の収入を増やす最適な戦略は、価格を低くすることです。そうすればお手頃感がでて、買ってくれる人も大きく増え、トータルの売り上げを増やすことが出来ます。

人気作家の場合

とても人気のある有名作家の場合は、価格をかなり高く設定しても売り上げ数の減りが少ない状態、つまり弾力性が低くなります。いくらでもいいから欲しいというファンが多いので、作品の価格を上げても売り上げは減ることがありません。

新人ハンドメイド作家の場合

新人作家は、まだ知名度や実績がないため、高価格の作品は売れにくい可能性が高いです。そのため、初期段階では、価格弾力性が高いと思われる日常的に使う商品を手に取りやすい価格にして販売し、徐々に価格帯を上げていく戦略が有効です。

このように同じハンドメイド作家の戦略でも、その経験値によって利益を出すための適正な価格は違います。むやみに高い値段をつけても売り上げが伸びずトータルで損するかもしれませんし、売れなければ出展料も賄えなくなるので、自分がどのような立場なのか客観的に判断して価格を設定しなければいけません。

今回は小さな個人を例にしましたが、大企業でもやっていることは同じです。
事業の規模が大きい場合、広告費や人件費がコストとして乗ってくるので、これほど単純ではありませんが、適正な価格を見つけるため、商品の需要の弾力性を考慮してどの企業も価格を設定しています。

ガソリン価格の場合

ガソリン価格の弾力性は、様々な要因によって変化します。それぞれがどのような影響があるのか見ていきましょう。

短期弾力性と長期弾力性

まず、ガソリン価格の弾力性は、短期長期で大きく異なる点に注意する必要があります。

  • 短期弾力性
    短期的な弾力性は、一般的に低く見積もられます。
    これは、短期的には人々の移動手段や生活習慣を変えることが難しいためです。たとえガソリン価格が上昇しても、車通勤を公共交通機関への乗り換えにすぐに切り替えることはできないでしょう。
  • 長期弾力性
    一方、長期的な弾力性は高くなります。
    ガソリン価格の上昇が長引けば、人々は車種変更や燃費の高い車への買い替え、あるいは引っ越しなど、ガソリン消費を減らすための行動をとる時間ができます。

価格変動の大きさ

ガソリン価格の変動幅が大きいほど、弾力性も大きくなります。
例えば、価格が10%上昇した場合と、50%上昇した場合では、需要への影響は大きく異なります。

代替品の存在

ガソリンにとって代替となる燃料や交通手段が存在するほど、弾力性が高くなります。
例えば、公共交通機関が発達している地域や、ハイブリッド車や電気自動車の普及が進んでいる地域では、ガソリン価格上昇の影響を受けにくいと言えます。

個人の経済状況

個人の経済状況によっても、ガソリン価格への反応は異なります。
所得が高い人ほど、ガソリン価格上昇の影響を受けにくい傾向があります。

その他の要因

上記以外にも、以下の要因がガソリン価格の弾力性に影響を与えます。

  • 季節:夏や冬など、旅行需要が高まる時期は、ガソリン価格への反応が鈍くなります。
  • 政府政策:政府によるガソリン税の補助金や規制緩和などは、価格弾力性を変化させる可能性があります。
  • 国際情勢:中東諸国などの政情不安や、原油産出国による協調減産などは、国際的なガソリン価格の高騰を引き起こし、弾力性に影響を与えます。

ガソリン価格の弾力性は、様々な要因によって複雑に変化します。短期的には低く、長期的に高くなる傾向がありますが、価格変動の大きさ、代替品の存在、個人の経済状況などによっても大きく左右されます。

逆に供給側つまり、企業側のガソリン価格の値上げに対する生産数の弾力性はどうでしょうか?

工場は生産量を急に増やせと言われても、たいていすぐには対応できません、けれど数年かけて工場のラインを増やしていくことは可能です。供給も短期的には弾力性はありませんが長期的にみれば弾力性を高めることができます。

このように価格の弾力性が分かってくると、モノの価格が不安定に揺れ動くのも理解できます。たとえ急に価格が上がっても、すぐに供給を増やしたり、買いたい人を減らしたりすることが出来ないので価格はいつも揺れ動くのです。

けれど長い目で見ると、需要量も供給量も落ち着いていきます。均衡点でぴったり停止することはありませんが均衡点にゆっくりと近づいていきます。

価格上昇分はだれが負担するのか

商品の価格はいつも一定ではありません。
世界情勢や天候などによって原材料の価格が変化するからです。原材料が急に変化したとき、その上昇分の負担はだれが負担するのでしょうか?

消費者でしょうか?
企業でしょうか?

例えば、エネルギー価格が上がると、商品の価格が値上ります。商品の値上がりはエネルギー価格の上場分を、消費者が支払うことになります。

逆に、エネルギー価格の上昇分を企業が支払う場合もあります。
企業は生産量を減らし、世の中の出回る量を減らします。売り上げ減少になりますが、売り上げの減少として企業がエネルギー価格の上昇分を負担したことになります。

もう一つの例として、オレンジジュースはどうでしょうか?
オレンジジュースは代替品がたくさんあって、どうしても買わなければいけないと思わせる商品ではないので、「弾力性の高い」商品でした。

今、天候不順でオレンジジュースの価格が上がったとき、その値上がり分を価格に上乗せして消費者に負担してもらうことはできるのでしょうか?

 答えは ✖ です。オレンジジュースは弾力性が高いので、ちょっとした値上げも売り上げに大きく響き、売り上げは下がります。そのため消費者に値上げ分を負担してもらえるコストは多くはありません。オレンジジュースをつくっている工場は生産を少なくし、出回る量を減らして企業の利益を減らしてそのコストを支払うのです。

では、タバコはどうでしょうか? 
タバコは生活必需品ではありませんが、愛好者にとって代替品がなくどうしても必要な商品なので、価格が上がっても売り上げの減らない「弾力性が低い」商品でした。

そのため、タバコの価格に税金が上乗せされ、価格が上がったとしても売り上げが減らないため、企業はかけられた税金分を価格に上乗せして販売できます。この場合は税金分を消費者が負担しているわけです。

弾力性を推測する3つの質問

実績別のハンドメイド作家場合やガソリン価格について価格の弾力性について解説しました。

価格と売れる数にはその商品自身の価値以外にも、ブランド力や流行、長期的、短期的、代替品があるのかないのか、などの様々な変数によって変化していきます。

でも実際には、タバコもやめようかな・・・と思っている人にとっては価格が上がるというのは、買うことをやめる一つのきっかけになり、やめようとしている人にとってはタバコも弾力性の高い商品になることもあります。
商品の弾力性を正確につかむのは難しいですが、弾力性を推測するには次の3つの質問が目安になります。

  • それは購入を延長できるものですか?
  • 適切な代替品はありますか?
  • 自分にとってそれはとても高額ですか?

この3つのうち「はい」が2つ以上あれば、その商品は弾力的なので安い商品をゆっくりと探すのがいいでしょう。「いいえ」が2つ以上なら、弾力的ではないので、少し高くても購入を検討しても良い商品です。ただし医療費など高額で急を要するものはこのチェックに当てはまりませんが、何か商品を買おうと思ったときの参考にお役立てください。

まとめ

価格を上下させたときに商品の売れる数がどのように変化するのかをみてきました。熱狂的なファンがついていれば高く売っても売れ残る心配はありません。それほどファンのついていない場合は少し安いなと、思ってもらう価格で販売してすべて売り切ることを目標にするといいでしょう。

原材料が高くなったとき、そのコストを負担するのは、弾力性の高い商品は供給者側が負担します。弾力性の低い商品は消費者側が負担します。

つまり、世の中にたくさん競合品が出回っている商品の値上げは、業者側が負担していて、希少品で熱狂的なファンがついているものは消費者側がそのコストを負担しています。

実際の商品の弾力性を正確につかむには、さまざまな方面から検討しなければいけないでしょう。現実の商品の売り上げが価格にどこまで影響するのかをつかむのは簡単ではありません。
しかし、自分にとってその商品の購入は急がないのものなのか、商品の代替品があるか、自分にとって高いかどうか、を検討すれば、その商品にどれだけのお金を使っていいのかどうかが見えてくるでしょう。

参考文献

ティモシー・テイラー 経済学入門
アメリカの高校生が学ぶ経済学 ゲーリーE.クレイトン

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