前回は資産形成としてのインデックスファンドについて解説しました。
インデックスファンドとは、日経平均株価などの指数の動きに合わせて動く信託投資のことです。
インデックスファンドは、株式市場の指数以上に成績を上げて利益を得るのではなく、あくまでも平均の伸びでリスクを少なく、長期に渡って投資して利益を得ようとするのがその特徴でした。
資産形成の最後に「不動産」について見ていきましょう。
一般的ではないですが、不動産も資産形成の対象になります。
「不動産」といえば一般的には「持ち家を買うこと」ではないでしょうか?
持ち家は生活の場になるものなので、リスクやリターンを考えなくてもいい。と考える人も多いと思います。
しかし、住宅の購入は大抵の人がローンという借金を背負って購入するため、銀行への利子払いや、将来の生活が変わったときのリスクは存在しています。
ここでは不動産購入を「投資」と考えて住宅購入を検討する方法について解説します。
「投資」ですから住宅を購入することでなんらかの利益を求める、または利益を意識するという考え方です。持ち家をもつことを将来の財産として「投資としての住宅購入」と考えると住宅購入のまた新しい面が見えてきます。
人生最大のお金をかけて決断する住宅購入を、また違った面から覗いて検討してみましょう。
家を買うということ
自分の家を買うときに検討するべきことは何でしょうか?
立地や周囲の環境、土地の値段、お気に入りのハウスメーカーなど長い間に渡って生活するのですから、後で後悔しないように調べておくことは重要です。
ハウスメーカーの広告は「マイホームの安心」「夢の実現」「家族のよりどころ」といった美辞麗句が盛りだくさんです。しかし住宅購入は夢ではなく自分の財布からお金を出して買う「現実」です、夢では済まされません。
自分の家を買えば、家賃を支払わなくてもよくなり、部屋の間取りも大きくなり周囲に気兼ねなく暮らすことが出来ます。しかし子供はいずれ独立しますし、住んでない部屋がいくつもある住宅は掃除も大変になってきます。いつまでも同じ家に住み続けるのはリスクが高いと考えて、最近では持ち家を不動産投資として考える人が増えています。
同じ家に住み続けることがリスクとは一体どういうことなのでしょうか?
投資としての不動産
多くの人が若いころ、自分の生活スタイルを十分検討して住宅の購入を決めたはずです。
しかし、30年、また40年以上年を重ねると、私たち一人一人の人生設計は変化し生活を見直さなければならなくなります。
多くの人の持ち家を買うとき「ここに一生住む」と考えて決断する方がほとんどではないでしょうか?
持ち家なら家賃を払う必要がなくなり、自由に間取りや設備を決めることができ、自分の後は相続財産にすることもできる、などのメリットがあります。
しかし、住宅購入には初期費用や維持費などのコストが高額です。
手に入れるときまた、手に入れてからも多くの費用が掛かるため、住宅購入を「投資」として考えることが難しく、持ち家を買うことは「資産形成」ではなく、「生活の基盤づくり」と捉え、たとえお金がかかったとしても、必要経費だったと考えてしまう方がほとんどではないでしょうか?
しかし、近年では、持ち家を買うことを投資として考える人も増えています。
それは、不動産価格の長期的な上昇や、日本の一部地域での賃貸需要の増加などの理由によるものです。持ち家を買うことで、将来的に売却して利益を得たり、賃貸収入を得たりすることで、投資として成功する可能性もあるからです。
持ち家を買うことが投資として成功するためには、以下の点に注意する必要があります。
- 立地やエリアを慎重に選ぶ
将来にもわたって人口が減少せず雇用が拡大される土地であること。
治安が良く商業施設、病院、学校があること。
これらの条件を満たす立地は、賃貸需要が高く、空室リスクが低いため、投資として成功する可能性が高くなります。 - 賃貸需要を調査する
賃貸の空室率、賃料相場、入居者の属性を調べると、どこに賃貸物件の需要があるのかわかります。そのような土地に住宅を構えておけば投資として成功する可能性が高まります。 - 適切な融資を受ける
住宅の融資は住宅を担保として借りることが出来るため、比較的低い金利で融資を受けることが出来ます。
自分の住むところとして住宅を買う場合と、投資として買う場合とでは購入時から買い方が違います。多くの人に人気のある場所は売りに出すときも買い手がすぐにつく可能性が高く投資としても十分役割が果たせます。自分の買う場所がどのようなところにあるのか考えて価値の有無を調べなければいけません。
「自分のもの」になるとき価値は残っているか?
住宅購入を投資として考えた場合、その住宅が必要なくなった時、売却するときにどのくらいの価値が残っているのかが重要になります。価値が下がりにくい住宅を購入できれば、売却もスムーズに行うことができます。
住宅の価値は、必ずしも下がるわけではありませんが、多くの場合、購入時の価格よりも低くなることを覚悟する必要があります。
住宅の価値とは、主に3つの要因によって決まります。
- 時間経過
一般的に、住宅は築年数が経過するにつれて価値が下がっていきます。
これは、建物の劣化や周辺環境の変化などが原因です。 - 立地
駅や学校、商業施設などの公共施設に近いなど、便利な立地の住宅は、駅から遠い住宅よりも価値が高い状態を保つことができます。 - 物件の状態
広さや間取り、設備などの物件の状態が良好な住宅は、そうでない住宅よりも価値が高くなります。
中古だけではなく、新築住宅であっても、ローン完済時の価値が購入時よりも低くなることがほとんどです。
具体的な減価率
国土交通省の「住宅市場動向調査」によると、新築一戸建て住宅の平均的な減価率は以下の通りです。
- 築5年 約90%
- 築10年 約80%
- 築15年 約70%
- 築20年 約60%
実際の住宅の価値が減っていく割合は個々の住宅によって大きく異なりますが、築年数が増えていけばいくほどその価値は下がる傾向にあります。
ローン完済時の価値が購入時よりも高くなるケース
新築住宅のローン完済時の価値は、多くの場合、購入時よりも低くなります。
しかし、次のようなケースでは、購入時よりも高くなる可能性があります。
- 希少性の高いエリア
人気の高いエリアや、将来的な開発が期待されるエリアの住宅は、価値が上がりやすい傾向があります。 - 高品質な住宅
高級住宅や、高性能な設備を使用した住宅は、価値が下がりにくい傾向があります。 - リフォームやリノベーション
定期的にリフォームやリノベーションを行うことで、住宅の価値を維持することができます。
新築住宅のローン完済時の価値は、様々な要因によって決まります。必ずしも購入時よりも下がるわけではありませんが、多くの場合、減価する可能性が大きいです。
割引現在価値
不動産を投資として考えるプロの方や投資家などの間では、ものの価値を判断するための一つの指標として「割引現在価値」を使うことがあります。
割引現在価値(Discounted Present Value, 略称: DPV)とは、将来受け取れるお金を、今受け取るとしたらいくら価値があるかを表す指標です。
例えば、1年後100円を受け取れる権利があるとしましょう。
今、100円持っていれば、1年後も100円使えます。
しかし、今100円持っていなくても、1年後100円受け取れる権利があれば、今100円借りて、1年後に100円返すことができます。
つまり、1年後100円を受け取れる権利は、今100円を持っているのと同等の価値と考えられます。
しかし、実際には今100円を受け取れる方が価値が高いですよね。
なぜなら、今100円があれば、今すぐ使うことができるからです。
そこで、将来のお金を現在のお金に換算するために、割引率という金利のようなものを用いて計算します。
割引現在価値には次のような計算式があります。
割引現在価値 = 将来のお金 / (1 + 割引率)^n
- 将来のお金 将来受け取れるお金
- 割引率 年利(金利)
- n 将来のお金を受け取るまでの期間(年)
例えば、1年後100円を受け取れる権利の割引現在価値を、年利5%で計算するとしましょう。
割引現在価値 = 100円 / (1 + 0.05)^1 = 95.24円
つまり、1年後100円を受け取れる権利は、今95.24円持っているのと同等の価値ということになります。
割引現在価値は、次のような場面でよく用いられます。
- 投資判断
企業の価値評価や投資案件の採算性の分析など - 不動産投資
不動産の価格評価など - 個人金融
ローン返済計画の策定など
割引現在価値を理解すれば、将来のお金の価値を現在のお金に換算し、より合理的な意思決定を行うことができます。
割引現在価値の特徴
- 割引率とは将来のお金の不確実性を反映するものです。
割引率が高ければ高いほど、将来のお金の価値は低くなります。
これは、将来のお金を受け取れるかどうかがより不確実なため価値が低くなります。 - 割引現在価値は、将来のお金を現在のお金に換算するための指標の一つです。
他にも、正味現在価値(NPV)などがあります。 - 割引現在価値の計算には、将来のお金の確実性やインフレなどの不確実性を考慮する必要があります。
一般的に、お金は時間とともに価値が下がります。
例えば、1年後に1万円を受け取れる約束と、今1万円を受け取れるのでは、今受け取れる方が価値が高いです。今自分の好きなものを買ったり、投資したりして増やすことができるからです。
割引現在価値は、この「お金の時間の価値」を考慮し、将来のお金を現在のお金に換算するための指標なのです。
不動産投資の割引価値の使い方
不動産投資のプロの間では、割引現在価値(NPV)は、投資物件の価値を判断する指標として使うことがあります。どのような場面で使われるか見てみましょう。
1. 投資物件の価格評価
不動産投資では、まず投資物件の価格が適正かどうかを判断する必要があります。
NPVを用いることで、将来得られる家賃収入や売却益などを現在価値に換算し、物件の価値を客観的に評価することができます。
2. 複数の投資物件の比較
複数の投資物件を検討している場合、それぞれの物件のNPVを比較することで、より収益性の高い物件を選ぶことができます。
3. 投資判断のシミュレーション
金利や空室率などの条件を変えた場合のNPVをシミュレーションすることで、投資のリスクやリターンを分析することができます。
割引減算価値を活用した不動産投資の具体的な例をご紹介します。
■ 例: 投資物件の価格評価
東京都内のワンルームマンションを投資物件として検討している例です。
- 購入価格:3000万円
- 想定家賃収入:月8万円
- 想定空室率:5%
- 修繕費等:年間100万円
- 保有期間:20年
- 割引率:5%
上記条件でNPVを計算すると、約4200万円となります。
つまり、この物件のNPVは4200万円であり、3000万円で購入する場合、4200万円の価値があると判断できます。
■ 例: 複数の投資物件の比較
複数の投資物件を検討している場合、それぞれの物件のNPVを比較することで、より収益性の高い物件を選ぶことができます。
例えば、上記に加えて、別のワンルームマンション(購入価格2500万円、想定家賃収入7万円、想定空室率10%、修繕費等年間80万円、保有期間20年、割引率5%)を検討した場合、それぞれの物件のNPVは以下の通りとなります。
- 物件A:4200万円
- 物件B:3800万円
このように、物件Aの方が物件BよりもNPVが高いため、物件Aの方がより収益性の高い物件であると言えます。
■ 例: 投資判断のシミュレーション
金利や空室率などの条件を変えた場合のNPVをシミュレーションすることで、投資のリスクやリターンを分析することができます。
例えば、上記条件で金利を3%に変更した場合のNPVを計算すると、約5000万円となります。これは、金利が5%の場合よりもNPVが高くなります。つまり、金利が低い方が、投資物件の価値が高くなることがわかります。
このように、割引減算価値は不動産投資において、投資物件の価値判断や、複数の物件の比較、投資判断のシミュレーションなど、様々な場面で役立つ指標です。
けれど、割引減算価値とは、あくまで将来の収益を現在価値に換算した指標であり、実際の投資結果を保証するものではありません。投資判断を行う際には、割引減算価値だけでなく、空室リスクや修繕リスク、金利変動リスクなどの様々なリスクを考慮する必要があります。
このように、不動産の購入を投資として考えた場合は、さまざまな指標を使って購入するに値するのかを検討して購入する必要があります。家賃収入があったとしても将来の収益が、今現在の価格と比べて高くなければ投資する意味がありません。
住宅購入時には、住宅の価値が下がること、金利のリスクがあること、そして将来に渡って住み続けることができるのかどうか、十分に検討することが大切です。
まとめ
投資としての住宅購入について見てきました。
住宅の購入は住む場所の確保であることがほとんどで、それを投資の対象と考えて買う人はほとんどいません。日本の大抵の住宅は年を重ねていくごとに価値が下がることがほとんどで、資産価値を考えたくても考えられません。
しかし、多くのお金をかけて購入するのですから、投資として考えられればお金が必要になったとき現金化して自分を助ける大きな財産になって助けてくれる可能性があります。
もし、持ち家を「投資」資産として考えるなら手に入れる前から準備することが大切です。
その土地は将来にわたって人口が増え、雇用がある地域にあることが前提になります。商業施設があり病院、学校があり教育の心配がないことも重要です。多くの人が住みたいと思ってくれる土地にあることが「投資」成功のカギになります。
そして、不動産を購入するときに一番大切なのは「自分が持ち家を買う目的はなんなのか?」をはっきりさせておくことです。
自分はその土地に将来に渡って住み続けるのか、住み続けられるのか?
今の仕事はこの先ずっと続けることが出来るのか?
子供の教育はどうなのか?
不動産は売却するのか、または賃貸に出すのか?
など大きな方向性を決めてから、不動産という大きな買い物を始めると良い買い物ができるでしょう。