あなたは「経済成長」と聞くとどのように感じるでしょうか?
「希望に満ちている」と感じる方もいらっしゃると思いますが、
逆に「意味がない」と感じる方も多いかと思います。
地球環境を保護しなければいけないと考える方は多いですが、そのためには経済成長を犠牲にするのには賛成できない、つまり「自分の手取りが減ったり、職場がなくなってしまう可能性があるかもしれないので、手放しで賛成できない」と考える方も多いかもしれません。
産業革命以降、人が変えてしまった環境を守っていくためには、経済成長は必要なのでしょうか?
ここでは、環境問題を解決するためのには何が必要なのかを解説します。
環境問題に積極的な企業もご紹介しますので、ぜひご覧ください。

経済成長は環境の敵?
少し前までは環境保護というと「環境を守るためには経済成長を犠牲にしなければならない」と考えられてきました。
もし、どこかの工場の裏の川で汚染物質が垂れ流されているのが分かれば、その企業は排出を抑制するために、新たな設備投資や操業方法の変更しなければいけません。
環境に配慮した新たな設備をつくるには、コストがかかります。そのコストを補うため、商品の価格を上げなければいけません。それは収益の低下につながる可能性が高いため、環境に配慮する企業はほとんどありませんでした。
このように「環境保護」と「経済成長」は、しばしばトレードオフの関係にあると考えられてきました。
つまり、環境保護を優先すると経済成長が鈍化し、逆に経済成長を優先すると環境が悪化するという関係です。
しかし、近年では、環境保護と経済成長は必ずしも相反するものではなく、両立が可能であるという考え方が主流になりつつあります。
環境保護が経済成長に貢献する
最近私たちの身の回りでも、異常気象による災害の高まりや、環境破壊による生物の多様性が失われること、そして地球の資源は無限には存在しない、ということを嫌でも意識させられるようになっています。
私たちは、環境問題を解決しなければ生きていかないのでは?
という危機意識が人々の間に広がっていき、各国の政府も環境の規制や技術開発に力を入れるようになってきています。
日本における事例
日本でも、かつては高度経済成長期に水俣病、四日市ぜんそくなどの、環境汚染が深刻化したことがあります。これらの反省から「環境基準」の規制の強化が進みました。
そして、自動車の排ガス規制は、自動車メーカーの技術革新を促し、燃費の良いクリーンな自動車の開発につながっていったのです。
大気汚染という公害をきっかけにして「規制」が強まり、それに合わせて技術革新が進み、経済を成長させることができました。
環境保護は投資
そして最近では、環境保護への対策を「コスト」として考えるのではなく「投資」として考える企業が増えています。
「環境保護」と「投資」は、両立しないように感じますが、そうでもありません。
私たちは普段、お金を預金したり、株を買ったりすることで、将来のためにお金を増やそうとしますよね。
実はこれと同じように、環境保護も未来への大切な「投資」と考えることができるのです。
空気が悪くなったり、水質が汚染されたりすると、私たちは困ってしまいます。
大気汚染がひどくなると病気になる人が増え、医療費がかさんだり、農作物が育たなくなったりするかもしれません。
もしも、お金をかけて汚染物質が広がらないようにしておけば、これらの問題を未然に防ぎ、私たちは、未来にわたってより良い生活をおくることができます。
つまり「環境保護」への対策にかかるコストは、未来への大切な「投資」なのです。

環境保全事業で利益を上げている注目の企業
環境保全の活動で利益を上げている企業は、近年ますます注目を集めています。環境問題への意識の高まりとともに、持続可能なビジネスモデルが評価され、企業価値向上や新たな市場開拓につながっているからです。
様々な分野で「環境保護」と「利益」の両立に成功している注目の企業をいくつかご紹介いたしましょう。
1. 再生可能エネルギー分野
まずは、自然界に常に存在する、風、水、地熱などを利用して繰り返し利用できるエネルギー「再生可能エネルギー」の技術に優れた企業です。
- オーステッド(Ørsted)
デンマークのエネルギー企業で、かつては石油・ガス事業を中心に行っていましたが、近年は洋上風力発電事業に大きく舵を切り、世界の中心的な役割を果たす企業となりました。
また、コーポレート・ナイツ社による「世界で最も持続可能なエネルギー企業」に選出されたり、CDPの気候変動Aリストでグローバル・リーダーに認定されたりと、第三者機関からも高い評価を受けています。
環境負荷の低い再生可能エネルギー事業で大きな利益を上げている好例と言えます。
オーステッド - Wikipedia - ネクステラ・エナジー(NextEra Energy)
アメリカの電力会社で、風力発電、太陽光発電などの再生可能エネルギー事業に積極的に投資しており、アメリカ国内で最大の再生可能エネルギー発電事業者の一つとなっています。
FPLという大規模な公益事業を抱えているため、安定した収益を確保しています。
この安定した収益が、再生可能エネルギー事業への積極的な投資を支えています
ネクステラ・エナジー - Wikipedia
2. 電気自動車(EV)関連分野
ガソリンを使わない、環境に配慮したデザインの良い自動車への需要増加が、新たな市場と雇用を創出しています。
- テスラ(Tesla)
電気自動車の製造・販売で世界的に知られる企業です。
環境負荷の少ない電気自動車の普及に貢献するだけでなく、バッテリー技術や充電インフラの開発など、関連事業でも大きな成功を収めています。
従来の「環境に良いが性能は劣る」という電気自動車のイメージを覆し、「高性能で魅力的、かつ環境に良い」という新しい価値観を創造したことが、大きな成功要因です。これにより、環境意識の高い層だけでなく、性能やデザインを重視する層からも支持を集め、大きな需要を創出することに成功しています。
テスラ (会社) - Wikipedia - BYD(比亜迪)
中国の自動車メーカーで、電気自動車やプラグインハイブリッド車の販売で急成長を遂げています。中国からの支援も受けて、創業以来培ってきたバッテリー技術は、BYDのEV事業の大きな強みです。特に、リン酸鉄リチウムイオンバッテリー「ブレードバッテリー」は、安全性、耐久性、コストパフォーマンスに優れており、BYDのEV競争力を支え、EV市場の拡大とともにさらなる成長が期待されます。
比亜迪 - Wikipedia
3. リサイクル・廃棄物管理分野
リサイクル業者や廃棄物の管理から、環境への取り組みに積極的な企業です。
- ヴェオリア(Veolia)
創業160年のフランス老舗企業です。
上水と下水の処理、水処理施設の設計と建設、水道管路の維持管理など、水に関する幅広いサービスを世界中で提供しています。
廃棄物を資源として捉え、リサイクルやエネルギー回収を行うことで、環境負荷低減と利益の両立を実現しています。
ヴェオリア・エンバイロメント - Wikipedia - WM(Waste Management)
北米に広大なネットワークを持ち、1,200カ所以上の廃棄物処理施設を運営しています。収集車両の数も膨大で、顧客密度が高い地域での効率的な収集を可能にしています。この規模の経済性がWMの大きな強みです。
環境規制の遵守はもちろんのこと、持続可能な廃棄物管理を目指し、リサイクル率の向上や温室効果ガス排出量の削減など、環境負荷低減に向けた取り組みを積極的に行っています。
ウェイスト・マネジメント - Wikipedia
4. サステナブル素材・製品分野
環境に配慮した素材を積極的に利用して、製品として消費者に提供している有名企業です。
- ユニリーバ(Unilever)
世界190か国で展開するイギリスを本拠地とする世界最大級の一般消費財メーカーです。
ビジネスやブランドを通して、SDGsの17の目標すべてに直接的・間接的に貢献しています。環境と社会に配慮した製品開発を進めています。
日本では、事業所で使用する電力を100%再生可能エネルギーに切り替えました、またパーム油、紙・大豆など必要な原材料の調達はほぼ森林伐採ゼロが達成できています。そしてそれを継続することを約束しています。
ユニリーバ・ジャパン - Wikipedia - パタゴニア(Patagonia)
アウトドア衣料品メーカーで、環境保護活動に積極的に取り組んでいることで知られています。リサイクル素材の使用や環境負荷の少ない製法を採用するなど、環境に配慮した製品づくりを行っています。
パタゴニア (企業) - Wikipedia
5. 環境コンサルティング・技術分野
日本ではあまり知られていませんが、企業が環境に配慮していることを第3者の目線から評価する企業があります。
エコバディス(EcoVadis)
環境だけでなく、労働と人権、倫理、持続可能な調達を含む4つのテーマで企業の持続可能性を評価する企業です。世界175カ国、10万社以上の企業がエコバディスの評価を受けていて、持続可能性の共通基準として広く認識されています。
グローバルサプライチェーン向けの最先端のサステナビリティインテリジェンスプラットフォーム | EcoVadis
エコバディスの評価は、GRI(Global Reporting Initiative)、国連グローバル・コンパクト、ISO 26000などの国際的なサステナビリティ基準に準拠しています。この知識を持った専門家が客観的に企業を評価します。
例えば、日本では富士フイルムやブリヂストンエコバディスの評価を受けています。
富士フイルム [日本]
株式会社ブリヂストン 企業サイト
企業が自社のサステナビリティ(持続可能性)への取り組みを主張するだけでは、利害関係者(投資家、顧客、従業員、地域社会など)からの信頼を得るのは難しい場合があります。第三者機関による客観的な評価があれば、企業の取り組みの信頼性を高め、利害関係者からの信用を持ってもらうのが容易になるという大きなメリットがあります。
エコバディスがフランスで創業されたということもあり、欧米ではエコバディスを利用している企業が多いですが、日本ではあまり広がってはいません。もしかしたら、日本特有の言葉の問題や文化の違いがあって、評価基準や質問内容の意図を十分に理解できないこともあります。
けれど、エコバディスも日本市場への対応を強化し、日本語ウェブサイトの充実や、日本企業向けのセミナー開催などを行っています。そのため今後は、より多くの日本企業がエコバディスを活用し、サプライチェーン全体の持続可能な事業の向上に取り組むことが期待されます。
いかがでしたか?
どの企業も、環境に配慮した事業によって利益をだし、事業を持続可能なものにしようとしています。つまり、環境保護と経済成長を実現しているのです。経済成長をするには環境は犠牲にしなければいけないという考え方は、過去のものとなりつつあります。
大切なのは、環境保護を単なるコストとして捉えるのではなく、持続可能な経済成長のための投資として捉えることです。
今後も、各国は環境問題への対策を強化していくことが予想されます。
環境政策で最も進んでいる国は、今後も世界をリードしていく存在となるでしょう。

まとめ
経済成長と環境問題について考えてきました。
企業の活動は時に環境に負荷をかけ、有害になることがあります。
環境に配慮した活動には「コスト」がかかるため、環境問題を解決するには経済成長をあきらめなければいけない、と考えられてきました。
しかし最近では、環境に配慮した事業が従来よりも省エネになったり、新しい技術によって高性能でスタイリッシュで、さらに環境にも良い商品が生まれ、消費者の理解も得やすくなりました。
私たちが、どんなに注意深く活動したとしても環境への負荷はゼロになることはないでしょう。
しかし、環境問題をゼロにすることはできませんが、改善していくことは可能です。
持続可能な事業は「コスト」ではなく、それは「未来への投資」と考えることが何よりも大切です。
実際に、多くの企業がすでに環境保護と経済成長を両立しています。
環境保護と経済成長はは両立可能であり、むしろ経済成長を通じてこそ、より効果的な環境保護が実現できるのです。
あなたも買い物をするときは、ちょっと美しい高原やサンゴの海を思い浮かべてみてください。
もしかしたら、手に取った商品ではなく隣の環境に配慮した商品が目に入るかもしれません。
参考文献
経済学入門 ティモシー・テイラー
中高の教科書で分かる経済学 菅原晃
日本産業規格 - Wikipedia
カーボンニュートラルとは - 脱炭素ポータル|環境省 (env.go.jp)
デコ活(脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動) (env.go.jp)