あなたはいつも何かをするとき、自分が行っている行動が、他の人にどのような影響があるかどうか考えたことはありますか?
「家族くらいには影響があるだろうけど、近所の人や地域に人に影響を与えるようなことはしていない」
「仕事ならそれなりにあるかもしれないけど、社外になるとどうだろう・・・」
と感じる方が多いかもしれません。
私たち一人ひとりがする行動は、とても小さく感じますが、経済学で考えると、ちょっとまた違った視点が見えてきます。
あなたの行動が周囲に与える影響を、正確にイメージすることができれば、社会にあるさまざまな問題を解決することができるからです。そしてそれはビジネスチャンスにもなります。
小さな行動を分析することが、本当に社会の問題を解決するのでしょうか?
ここでは、人々が行う活動がどのように社会に影響を与えるのか見ていきましょう。
活動の影響を正しくつかむことは、社会のしくみを理解するために大切です。
あなたも広い視野をもち、経済のトレンドを見逃さない力を身につけましょう。

私たちの行動の影響
まず、私たちの何気ない活動が、社会全体にどのように影響を与えているか、ちょっと例をあげてみましょう。
あなたは、スーパーでかわいらしい鉢植えが気に入ったので買ったとします。
それを庭に植えました。
庭に植えられたかわいらしい植物は、通りがかる人をなごませてくれるでしょう。
また、植物は二酸化炭素を取り込んで酸素を放出してくれるので、空気をきれいにしてくれます。
もしも、その植物が大きくなれば、夏には日陰を作り、冬には風を遮ることで、都市のヒートアイランド現象を緩和します。
また、道路からの騒音を吸収し、生活環境の質を向上させてくれます。

もう一つ例をあげてみましょう。
例えば、新しい知識を身につけることはどうでしょうか?
あなたは、面白いものを見つけたので、ちょっとした好奇心でいろいろ調べてみました。
そうしたら、知識がつきました。
これは、個人の能力向上しただけではなく、社会全体にプラスの影響を与えます。
知識の高い人々は、生産性が高く、経済成長に貢献します。
また、 知識によって冷静な判断ができるようになるので、犯罪に手を染める可能性が低くなります。

このように、自分のためにした行動は、安らぎや好奇心を満たせたという、「利益」だけではなく、意図せず社会全体に良い影響を及ぼすことがあります。
これを経済学用語で「正の外部性」と呼びます。
ちょっと難しい言葉ですが経済のしくみを考えるために便利な言葉ですので、使っていきましょう。
正の外部性がなぜ問題になるのか?
「正の外部性」は、ある人の行動が思いがけず、他の誰かに利益をもたらすことを指します。
例えば、前にもお話したように、庭に木を植えることで、周りの人々が涼しい影や美しい景色を楽しめたり、環境まで改善したりすることがあります。
また、自分のために知識を身につけたことが、社会全体の生産性向上につながる場合を「正の外部性」と呼んでいます。
「正の外部性」は、個人にとっても社会にとっても良いことしかなさそうなので、特に問題にすることはないように感じます。
けれど経済学では「正の外部性」は、そのメリットが十分に活かせていないと言われます。
なぜでしょうか?
それは、市場メカニズムが、この良い効果を十分に反映できていないからです。
「市場のメカニズム」?
なぜ市場メカニズムがうまく機能しないのか?
「市場のメカニズム」とは「欲しい人」と「提供したい人」が、取引するしくみのことです。
自分の利益を最大限にしようとすると、自然に適正価格が決まることを指しています。

欲しい人が多かったら、値段が上がったり、誰も欲しがらないものは値段が下がって、商品の売れ残りが減るようなそんなしくみです。
ここでもし、ある人が他の人のメリットになるような行動をしたのに、そこで生まれた利益が何も評価されなかったとします。(木を植えるような行動ですね)
木を植えた人は「誰かからお金をもらいたくてやっているわけじゃないからかまわない」と、おっしゃるかもしれません。
でも、経済活動として考えると問題なのです。
- 市場価格に反映されない
一つ目の問題は、そのメリットが価格に反映されないことです。
当然と言えば当然なのですが、例えば、木を植えた人が、その美しさによって周囲の人々が安らいだり、喜んだりすることを直接お金に換えることは難しいですよね。
つまり、木を植えたというサービスによって、「良い影響」という「利益」が生まれたのに、木を植えたことが金銭的に評価されない、ということが起こっているのです。 - 供給不足
そして、メリットが金銭的に評価されないと、その商品やサービスは不足しがちになります。
木を植えた人も、自分の庭のならポケットマネーでやるかもしれませんが、環境に良いからと言って多くの木を植えることは、金銭的に難しいと感じる方がほとんどです。
また、教育は社会全体に大きな利益をもたらしますが、個人が教育から受けるメリットは、社会全体のメリットより小さくなりがちです。
教育から受けるメリットが感じられないし、また個人が支払える費用も限られているため、多くの子供が教育の機会が受けられないということが起きます。

技術革新が進まないわけ 正の外部性
個人の小さな行動の「正の外部性」について考えてきましたが、これは企業の動向にも当てはまります。
経済を成長させるには「技術革新」が必要だ。
という話を耳にした人も多いかと思います。
なぜ「技術革新が必要」と、声高に言われるのかと言えば、企業が新しい技術開発に積極的でないことが多いためです。
もし、新しい技術が開発されれば、生産効率が向上し、新たな製品やサービスが生み出され、経済全体が活性化して 人々の生活がより便利で豊かになる、といいことばかりです。
けれど、新しい技術が生み出す利益は、社会全体に広がりやすく、企業がその利益を独占することが難しいです。新しい技術の開発には、多額の研究開発費が必要です。
また、新しい技術が開発できたとしても人々に受け入れられるかどうかはっきりしません。
技術開発は、失敗するリスクが非常に高い行動です。
社会全体に利益があると分かってはいても、企業は新しい技術開発に対して十分なインセンティブ(動機)を感じないことがあります。なぜなら、企業が開発費用を負担しても、その利益の多くは社会全体に回ってしまい、企業自身は十分な利益を得られないからです。
そのため、企業が「正の外部性」の影響によって、新しい技術開発を躊躇することは、社会全体の大きな損失になるのです。
「正の外部性」が正しく評価されるために
社会にとって利益になる行動が、正しく評価され、「利益」に結びつくようになるにはどうしたらよいでしょうか?
- 正の外部性の存在を可視化する
企業が自腹を切って社会全体の利益になるような行動、つまり「正の外部性」を生み出す活動やプロジェクトをしている場合は、積極的に情報発信し、その効果を数値化したり、具体的な事例を示したりすることで、その価値を分かりやすく伝えることは大切です。
多くの人がその情報を見て企業の行動を正しく評価することができます。 - 経済的なインセンティブ
企業だけの力では限界があるので政府が補助金や税の優遇を行うことが必要です。
政府は「正の外部性」を生み出す活動を奨励するための経済的なインセンティブ制度を導入します。
そうすれば、技術開発に積極的になる企業が多くなります。 - 知的財産の保護
特許制度の強化などを通じて、企業の知的財産権を保護することも大切です。
苦労して得た新しい技術を簡単にまねされて、利益が薄まらないようにすることが大切です。
自社の活動を積極的に発信して、多くの人に理解してもらうこと、それは企業のイメージを底上げします。そして、技術開発に費やしたコストを政府が守ること。
つまり、新しい技術開発に積極的に取り組めるように、政府や社会全体が一体となって、様々な政策を整備していく必要があるのです。

正の外部性を理解して未来を見通す
「正の外部性」を正しく判断することができると、社会の流れやトレンドに敏感になるための、非常に有効な手段になります。
それは「正の外部性」とは、社会にとって必要なものなのに全く評価されていないことなので、もしもそれが利益がでる形としてデザインできれば、そのビジネスモデルは社会全体に急速に広まる可能性があります。
つまり、社会にとって必要なのに、利益に結び付かないので評価されていない、活動を「正の外部性」は、見極めるための手掛かりになるからです。
みなさんも、自分の活動をもう一度見直してみませんか?
もしかしたら、大きな可能性を秘めているかもしれません。
まとめ
私たちがしている行動には、意図しなくても周りの人に安らぎを与えたり、生活を便利にしたりするなどの、良い影響を与える活動がたくさんあります。
その活動はもっと広がっていくことが望ましいですが、大きく広がっていくためには、行動した人が正しく評価とそれに伴う利益が得られることが必要です。正しい評価と利益がなければ、その行動はやがて廃れてしまいます。
特に、深刻なのは新しい技術を生み出す力がそがれることです。
新しい技術を生み出すには、長い月日にわたってコストが掛かります。
新しい技術を生み出したときに、そのコストを十分に回収できれば良いのですが、良い技術はすぐに盗まれたり、理解されなかったりして回収できない可能性があるので、新しい技術開発はなかなか進みません。
そのようなことがないように、政府はルールをつくって開発者を守ることが大切です。
社会の流れやトレンドは、常に変化しています。
「正の外部性」を正しく評価し利益に結び付けることができれば、より良い未来を創造していくことができるでしょう。
あなたも、自分の行っている小さな行動が、周りの人にどのような影響があるかちょっと考えてみてください。自分のためにやっている活動かもしれませんが、見方を変えたらもしかしたら他の人に良い影響を与えられているかもしれません。
もし、そんな行動ができたら、みんなとシェアしてみてください。
もしかしたら大きなうねりになって、社会のトレンドになっていくかもしれません。

参考文献
経済学入門 ティモシー・テイラー
外部性 - Wikipedia