日本政府の赤字は世界でもトップクラス、ということはよくニュースにもなっていて皆さんもよくご存じだと思います。
「政府の借金が多いと将来に負担を押し付けるので悪いこと」という意見がある一方で「政府の借金は個人とは違うので気にすることはない」という意見も多くあり、一体何が問題なのか良く分からない、という方も多いのではないでしょうか?
ここでは、そんな国の財政赤字が私たちの暮らしにどのような影響があるのかを詳しく解説します。
国が借金をしたことのメリットとデメリット、そしてそれが私たちの暮らしにあたえる影響を理解して、実生活にお役立てください。
財政赤字と私たちの暮らし
政府が借金をたくさんしているらしいけれど、日常の生活には全く影響がない気がする・・・。と思われる方も多いかもしれません。
けれど、政府の財政赤字は、将来的に私たち国民の生活に様々な影響を与える可能性があります。
- 将来世代への負担増加
財政赤字とは、政府がしている借金のことです。
借金なので利子をつけて借りた以上のお金を返す必要があります。
これは政府が将来世代にそのツケを回していることを意味します。
赤字を補填するために、将来税金が増えたり、社会保障料の削減が必要となる可能性が高く、その場合の国民の生活負担が重くなります。特に、若い世代は現役世代よりも長い期間、高負担を強いられることになります。 - 金利上昇
政府が赤字を穴埋めするために国債を発行すると、市場に出回る国債の量が増え、金利が上昇する可能性があります。
金利上昇は、企業の借入コストが増加すること、また私たちに身近な住宅ローン金利上昇などを通じて、国民の生活を圧迫します。住宅ローン金利上昇は、住宅購入を難しくし、家計の負担を増加させます。また、企業の借入コスト増加は、企業業績の悪化や雇用削減につながるかもしれません。 - 公共サービスの削減
政府が財政赤字を縮小するために、公共サービスを削減する可能性があります。
例えば、教育、医療、福祉などの分野で予算削減が行われ、サービスの質低下や利用制限が行われるかもしれません。
特に、高齢化社会が進む日本では、医療や介護サービスへの需要が高まっているため、こうした削減は国民生活に大きな打撃を与える可能性が高いです。 - 経済成長の停滞
財政赤字が続くと、政府は将来への投資を抑制する可能性が高くなります。
投資の抑制は経済成長の停滞やイノベーションの停滞につながり、また財政不安が高まると企業投資も萎縮し、経済全体に悪影響を及ぼします。 - 国民の不安
財政赤字が続くと、政府の財政運営に対する国民の不安が高まります。
国民の不安が高まると、経済活動が萎縮したり、海外からの投資が減少したりする可能性があります。海外からの信用がなくなると経済全体にとって悪循環を生み出し、それが国民の不安をいっそう高めることになります。
財政赤字と金融市場
私たちがする借金と同じように、政府の借金も取引されて一つの金融市場の中で売買されています。
国が借金できるのは、お金の余っている人がその借金を買っているからです。
買ってくれた人には借りた分より多めに返すことによってウィンウィンの関係が成立します。
ここに需要(買いたい人)と供給(借金を提供する人)の関係が生まれています。このような需要と供給の関係が生まれている場所のことを「金融市場」と呼んでいます。政府の借金も金融市場で取引されています。
金融市場の需要者と供給者
金融市場には、資金を必要とする需要者と、資金を余らせている供給者が存在します。
1. 資金を必要とする需要者
資金を必要とする需要者は、大きく以下の3つに分けられます。
- 企業
設備投資や運転資金調達のために資金を必要とします。
その方法は銀行からの融資、社債の発行、株式の発行などを通じて資金を調達します。 - 政府
財政赤字を補填するため、あるいは公共事業への投資資金を調達するために、資金を必要とします。
具体的は国債の発行などで資金を調達します。 - 個人
住宅購入や教育費など、様々な目的で資金を必要とします。
銀行からの住宅ローンや教育ローン、クレジットカードの利用などを通じて資金を調達します。
2. 資金があまっている供給者
資金を余らせている供給者も、大きく以下の3つに分けることが出来ます。
- 家計
貯蓄や退職金など、余剰資金を持っている家計です。
家計は、銀行預金や投資信託、保険商品などを通じて、金融市場に資金を供給します。 - 金融機関
銀行や証券会社などの金融機関は、運用資金などの利益を得るために金融市場に資金を供給します。 - 海外
海外投資家や国際機関なども日本の金融市場に資金を供給しています。
金融市場の需要者と供給者は、互いに資金のやり取りをすることで、それぞれの目的を達成することができます。
需要者は必要な資金を調達することができ、供給者は資金を運用することで利益を得ることができます。また、金融市場を通じて、資金の需給が調整され、経済全体の円滑な運営に貢献しています。
政府の財政もこの金融市場の中の一部として需要と供給のバランスの中に組み込まれています。
もし、財政赤字が膨らんで、政府の借入額が大きくなれば、そのバランスが崩れて、新たなバランスが生まれることになります。
国債を発行しすぎたらどうなるの?
国が借金をするときは国債と呼ばれる形で発行されます。
国がたくさん国債を発行すると市場にどのような影響が起きるのでしょうか。
- 金利の上昇
国債発行量が増えると、市場に出回る国債の量が多くなります。
出回る量が増えるとその希少性が低下します。
すると投資家は国債をより安い価格で購入しようとします。
なぜなら、多くの国債が売りに出ている状況では、投資家は価格を下げないと購入者を見つけるのが難しくなるからです。
投資家は国債の購入に対してより高い利回りを要求するようになり、結果として金利が上昇するのです。 - 長期金利と短期金利への影響
金利上昇の影響は、短期金利と長期金利で異なって表れる場合があります。
一般的に、短期金利は中央銀行の金融政策の影響を受けやすく、長期金利は経済成長やインフレ期待などの影響を受けやすいと言われています。
短期金利:政府が短期国債を大量に発行した場合、短期金利は上昇する可能性があります。これは、中央銀行が金融緩和政策を解除し、景気過熱を抑制しようとしている場合があります。
長期金利:政府が長期国債を大量に発行した場合、長期金利は上昇または下降する可能性があります。長期金利は、経済成長やインフレ期待などの様々な要因によって影響を受けるため、一概にどのように動くとは言えません。しかし、政府が財政赤字を拡大させている場合は、将来のインフレ懸念から長期金利が上昇する可能性があります。 - 財政赤字の拡大
大量の国債発行は、財政赤字の拡大懸念を招き、市場心理悪化につながります。
政府が赤字を補填するために国債を大量に発行することは、将来的な財政破綻リスクを意味します。投資家は、財政破綻リスクが高まると、国債の購入を控え、金利上昇や債券価格下落を加速させる可能性があります。 - 為替レートへの影響
金利上昇は、投資家が自国の通貨を保有する魅力度を高めるため、自国通貨の価値が上昇する(為替レートが円高になる)傾向がに、逆に財政赤字の拡大は、自国の経済成長懸念を招き、自国通貨の価値が下落する(為替レートが円安になる)傾向があります。 - 経済成長への影響
金利上昇は、企業の資金調達コストを増加させ、投資活動を抑制する可能性があります。投資活動が抑制されると経済成長が鈍化してしまいます。
けれど、政府が国債発行を通じて得た資金をインフラ整備や教育などの公共事業に投資すれば、経済成長を促進する可能性もあります。 - その他の市場への影響
国債発行量の変化は、株式市場や債券市場など、他の金融市場にも影響を与える可能性があります。投資家は、国債市場の動向を参考に、他の金融商品の投資判断を行うためです。
国が大量に国債を発行すると、金利上昇、債券価格下落、財政赤字拡大懸念、為替レート変動、経済成長への影響など、様々な市場動向が考えられます。国債の規模は大きいため、その影響はひろく複雑に絡み合って経済全体に波及しています。その影響がいつ、どのように及ぶのかは専門家でも予想できず、今もその対策の論理も確立していません。
国が経済を活気づけるために借金という形をとったこと、その量が莫大になってしまっていること、そしてその出口が見えないでいること、これが今の日本の借金の状態なのです。
国民の貯蓄が多ければ財政赤字は問題ないの?
日本では国民の貯蓄率が多いので財政赤字を膨らましても問題はないという意見もあります。
日本の全体の貯蓄金額は約2000兆円、そして借金の総額は1070兆円です。(2023年)
統計局ホームページ (stat.go.jp)
日本全体の貯蓄金額は借金の総額よりは少ないです。
国民の貯蓄と財政赤字には何か関係があるのでしょうか?
- 国民の貯蓄と国の借金の関連性
国民の貯蓄が多いということは、国内の貯蓄を利用して国が借金を返済することが可能であるということを意味します。
しかし、国の借金が増加し続けることが持続可能であるかどうかは、単純に国民の貯蓄だけでなく、国の経済状況や将来の成長見通し、債務の返済能力などを総合的に考慮する必要があります。 - 貯蓄と投資
貯蓄が多いことは経済的に安定していることを示す一方で、貯蓄が投資に回らない場合、経済成長を阻害する可能性があります。国が借金をしても大丈夫だという意見は、その貯蓄が国内経済に活用されることを前提としていますが、実際には貯蓄が銀行預金や低利回りの資産に留まっている場合活用できているとは言えません。 - 将来の負担
国が借金をすることで、将来の世代に負担がかかる可能性があります。
貯蓄が多いからといって無計画な借金が行われると、将来の財政安定性や経済成長に悪影響を及ぼす可能性があります。
もしも、自国以外の国に借金をお願いする場合、利益という魅力がなくなったときには、あっという間に手放されてしまいます。そうなるとその国の経済は大打撃を受けます。
日本の場合、日本銀行が借金の半分を買っています、日本銀行は国内の危機があったとしても売りに出したりはしないはずです。けれど、この先これがずっと続けられるかどうかは、経済力や貯蓄などの変化次第で大きく変わる可能性があります。
国の経済を活発にするための赤字でしたが、このまま赤字を積み重ねていくことは慎重に考える必要があります。また最近では日本国民の貯蓄率も下がってきていて、この先も高い貯蓄率を続けていかれるかどうかは分かりません。
私たちは不安定な財政の上で豊かな生活をしているのです。
まとめ
国の借金について解説しました。
国の借金は私たちの借金と同じように金融市場の中で取引されていました。お金の余っている人に借金を買ってもらって利子をつけて返すことによって、政府はお金を借りて公共事業や社会保障に使っています。
しかし、これは返さなければいけないお金です。私たちは稼ぐお金以上に膨らんでしまった借金を長期に渡って返却しなければいけません。
政府の借金である国債の発行はとても大きい額なので、金利、為替、経済など広範囲に影響が及びこれらが相互に関係しています。実際の影響がどのような結果になるのか専門家でも予想できず、その対策への論理もありません。
私たちは政府が経済を活気づけるために大きな借金をし続けていること、その影響が専門家でもどうなるか分からないことを知っておくことが大切です。
参考文献
ティモシー・テイラー 経済学入門
国債が買われると、金利が低下するのはなぜ?国債価格と金利の関係をわかりやすく解説|サクサク経済Q&A|NHK
図録▽主要国の家計貯蓄率の推移 (honkawa2.sakura.ne.jp)
経済財政白書/経済白書 - 内閣府 (cao.go.jp)