モノの値段はどのように決まっているのか、気になりませんか?
「そりゃ、かかった経費にちょっと利益を乗せて決めているんでしょ?」と多くの人が感じていらっしゃるかもしれませんが、よくよく考えてみると、品薄になったマスクが高値で売られたり、野菜のように値動きの激しい商品もあります。
かかった経費は同じなのになぜ値段が上下するのでしょうか?
それは、価格の中には「つくるときに必要な経費」だけではなく、欲しい人と売りたい人のうつろいやすい思惑がつまっているからです。
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けれど、モノの値段に影響を与えるのは「欲しい人と売りたい人の思惑」だけではありません。
ここではさらに「価格」の知識を深めるために「価格と政府の関わり」についても見ていきましょう。
「価格と政府」に関係があるの?
と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれませんが、「欲しい人と売りたい人の思惑」だけで価格を決めると、一部の人が大儲けし、一部の人がその恩恵を受けられないということが発生することが、多くの研究から分かっています。
そんな、価格についての一歩踏み込んだ知識を手に入れて、市場経済のより深い理解を得ていきましょう!
政府の価格規制
価格は「欲しい人と売りたい人の思惑」によって市場で決まりますが、市場はいつも市民にとって適正な価格になるとは限りません。生活必需品、例えば、お米やガソリン、そしてマスクのようなものが高騰してしまうと、私たちの生活に大きな影響を与えることになります。
そのため各国の政府は「消費者保護」または「生産者保護」のため「価格」を規制することがあります。
経済界の一般的な意見として、モノの価格は市場に任せると「資源配分が効率的になる」また「競争によるサービスの向上」が期待できるので、政府のような権力が市場に規制をかけることは、望ましくないとされています。
けれど「食料の問題」や「公共の利益」のような、人の命に直結するような場面では、全てを市場に任せると、一般に人々に情報が十分行き渡らないまま、一部の人が短期的な利益を得ることに成功し、格差が拡大する可能性があります。
また、環境汚染や破壊の問題が放置されることもあります。
このような問題を解決するために、政府が市場に規制をかけることは、WTO(世界貿易機関)をはじめとする国際機関も認めています。WTOは、一般的に政府の価格規制を自由貿易の原則に反するものと見なしていますが、例外として、食料の安全保障や公共の利益のために必要な場合など、一定の価格規制を認めています。
もちろん、日本でも価格の規制は行われたときがありました。
日本の価格規制の歴史を振り返ってみましょう。
第二次世界大戦後の日本の価格規制
日本で価格の規制が行われた有名な例では、第二次世界大戦後の「物価統制令」があります。
「物価統制令」とは、戦況の混乱と物資不足により深刻なインフレに見舞われたため、政府がモノの価格の上限を決めてそれ以上高い価格で売った場合は罰則、罰金を課すことを定めたものです。
具体的には、米、小麦、砂糖などの食料品、石炭や石油などの燃料、布地や衣料品の生産・販売にも規制がかけられ、国民の消費が制限されました。また、その他にも鉄鋼、非鉄金属、化学製品なども価格が規制されたのです。
価格規制の効果と課題
戦後の混乱期のように、ものが全くない時に価格を規制することは仕方のないことでした。
1946年から始まった「物価統制令」は、一時的には物価を抑えることができましたが、数年すると次のような弊害が現れてきます。
- 生産意欲の低下
生産者にとっては、価格が低く抑えられ、利益が出にくい状況となり、生産意欲が低下しました。 - 品質の低下
生産者が利益を確保するために、製品の品質を低下させる傾向が見られました。 - 黒市場の発生
価格規制が厳しすぎると、闇市場が活発化し、物資が不足する地域が出現しました。 - 経済の歪み
価格メカニズムが機能しにくくなり、資源の効率的な配分が阻害されました。
「物価統制令」は発行当初からこのような問題が見られ、6年後の1952年には、ほとんどの品物の統制がなくなりました。
第二次世界大戦後の日本の価格規制は、戦後の混乱期において、国民生活の安定を図るために不可欠な政策でした。しかし、その一方で、経済の歪みや黒市場の発生など、様々な問題も引き起こしたのでした。
なぜ政府は全ての価格をコントロールできないのか?
もし、お米のような生活必需品の価格が高騰したら、政府がそれ以上価格を上げたら罰則を設ける、などの規則を作ってくれれば、私たちの生活も少し楽になるかもしれません。
「物価統制令」は6年という短い期間でほとんどの品物を除いてなくなってしまいました。
物価は上がっていたのに、なぜ規制を続けられなかったのでしょうか?
政府が全ての価格を規制できない理由は、実は非常に複雑で多岐にわたります。主な理由をいくつか挙げてみましょう。
- 市場のダイナミズム
- 需要と供給の変動
消費者の需要や生産者の供給は、日々変化します。
天候、流行、技術革新など、様々な要因によって需要と供給が変動し、価格もそれに応じて変動します。政府が全ての変動に即座に対応することは事実上不可能です。 - 情報の非対称性
政府は、市場の全ての情報を完全に把握することはできません。
企業が持つ独自の情報や、消費者の個々の嗜好など、政府が把握できない情報は数多く存在します。
- 需要と供給の変動
- 行政能力の限界
- 膨大な品目
市場には無数の商品やサービスが存在します。
全ての品目の価格を詳細に管理することは、行政能力の限界を超えます。 - コスト
全ての価格をコントロールするためには、膨大な行政コストがかかります。
- 膨大な品目
- 副作用
- 市場の歪み
価格を人工的に固定すると、需要と供給のバランスが崩れ、品不足や過剰在庫が発生する可能性があります。 - ブラックマーケットの発生
価格規制が厳しすぎると、闇市場が生まれ、経済が非効率になります。 - イノベーションの阻害
価格規制は、企業の価格設定の自由度を奪い、イノベーションを阻害する可能性があります。
- 市場の歪み
- 政治的な圧力
- 様々な利益団体
各業界には、自らの利益を守るために政府に働きかける様々な利益団体が存在します。
政府は、これらの団体からの圧力に左右され、価格設定に影響を受けることがあります。
- 様々な利益団体
歴史的な教訓
過去、多くの国が物価を厳しく統制しようと試みましたが、その多くが失敗に終わっています。例えば、ソビエト連邦のような計画経済では、物不足や品質の低下といった深刻な問題が発生したのでした。
現代の上限価格規制
政府による価格の規制とても難しいですが、完全になくなったわけではありません。
現代でも価格の規制はされている身近な商品がいくつかあります。
例えば次のような商品には規制が掛けられています。
- 医薬品
多くの国で、医薬品の価格に上限規制が厳しく規制が設けられています。
これは、医薬品が生活必需品であり、価格が高騰すると国民の健康被害につながる可能性があるためです。 - 公共料金
電気料金やガス料金などの公共料金は、多くの国で政府によって規制されています。
これは、公共料金は国民生活に不可欠なサービスであり、価格が高騰すると国民生活に大きな負担がかかるためです。 - 家賃
一部の国では、家賃の上限規制が設けられています。
これは、住宅が生活必需品であり、家賃が高騰すると低所得者層が住む場所を失う可能性があるためです。(日本でも1986年まで行われていました)
このように、身近なところにもモノの価格が上がりすぎて、生活必需品が手に入らなくならないように、政府が高くなりすぎるものの価格の上限を規制をしているのです。
規制は万能じゃない
政府が規制をかければなんでもうまくいくか、といえばやっぱりそんなことはありません。
もし、もともとあった欲しい人と売りたい人の思惑が交差した点より、価格が低くなるように政府が上限を規制すると、どうなるでしょうか?
例えば、福祉器具のレンタル会社があったとします。
福祉器具のレンタル業者が少なく、どの企業の貸出料金が分かりずらく、とても高額でした。
そんな利用しづらい状態を見かねて、政府が規制をつくります。
そして、ある高い福祉器具の上限価格(これ以上の価格でレンタルしてはいけません)が決まったとします。
それ以上の価格をつけてはいけませんよ、というルールです。
もし、その決められた価格が今までよりずっと低い価格になれば、今まで借りられなかった人も借りられるようになって、欲しい人がたくさんいる状態、つまり需要が多くなります。
逆に、売る方は収入が減ります。
現に福祉器具の上限設定を行ったら7割の会社が収入が減ったと回答しています。
これでは割に合わない業務だ、と感じて業務をやめる業者も出るかもしれません。
やめる業者が増えれば、当然供給量が減るので、必要な時に器具が借りられなくなる人もでるかもしれません。
また「上限価格規制」は違った弊害が起こることもあります。
物価が上がって福祉器具そのものの価格がアップしたとします。
そこに上限いっぱいで価格をつけていた企業は、規制があるため価格を上げらず、今度はメンテナンスの手を抜くようになります。
借りる方としても、貸し出し業者が少ないので文句を言っても別な業者がいないで、少しぐらい古くでも我慢しなければいけなくなります。
その結果福祉器具のレンタル品の質がどんどん下がってきてしまうのです。
さらに、貸し出し業者はあの手この手でお金を取ろうと画策するようになります。
例えば、後で返金するという約束で保証金をとって、返却するときにあれこれ理由をつけて返金に応じないなどの犯罪まがいの事例が増えていきます。
また、闇業者が出現し、正規の金額でレンタルし、又貸しで稼ぐ手法もみられます。
正規の値段で借りたものを、必要な人に上限より高い価格で又貸しして儲けようとする業者がわいてくるのです。
政府が価格に上限を付けることは簡単に行えます。
しかし、自由な社会で、いくら売る側に「生産量を増やしなさい」強制したとしても売る側にメリットがなければ上手くいきません。
どんなに注意深くルールをつくったとしても、「人は悪いことをするときにとても創造的になる」と言われるように法の隙をついて不正をしようとする人が出るため、取り締まることはできないのです。
価格上限規制は消費者の保護のためにおこなわれますが、商品によっては規制が上手く機能しないことも多くあります。規制の抜け道が開かないように常にアップデートしていくことが大切です。
まとめ
市場経済の政府の上限価格規制ついて解説しました。
生活必需品の価格が急に上がると、生活が成り立たなくなるため、政府が価格の上限を設定して規制をかけることがあります。
しかし、規制をかけたからといってすべてがうまくいくわけではありません。
供給側がメリットがないと感じ業務から撤退したり、アフターサービスを怠ったりしてサービスの低下が避けられません。自由な社会では政府から強制されたからと言ってメリットのない事業を続けることはできないのです。
日本では、社会保険診療報酬、公共料金、電気料金規制など、様々な価格上限規制が設けられています。これらの規制は、生活必需品の価格を抑え、国民の生活を守るために重要な役割を果たしています。
近年では、インターネットの普及やグローバル化の影響で、価格上限規制の効果が薄い、また規制が企業の競争力を弱め、経済成長を阻害する可能性があるという懸念も 指摘されています。
今後も、価格上限規制の効果とデメリットを慎重に検討し、必要に応じて規制の見直ししていかなければなりません。
参考文献
ティモシー・テイラー 経済学入門
どさんこ北国の経済教室 (kitaguni-economics.com)
消費者庁ウェブサイト (caa.go.jp)
資源エネルギー庁 (meti.go.jp)