ぽれぽれ経済学

政府の介入 価格上限規制

政府は価格を強制できないわけ

前回まで需要と供給がぴったり合ったところが価格になる、ということを見てきました。
そのぴったり合った「均衡点」は、あるモノの価格と量がちょうどよく効率的で無駄のない状態になっています。

でも、実際モノの値段はどう思いますか?

安ければ安い方が良いニャー


私たちは、たとえ価格が均衡点にあったとしても、だれもが納得できる価格になるわけではありません。売り手は「もっと高くてもいいはずだ」と思いますし、買い手は「もっと安ければいいのに」と、いつも思っているからです。

自由な取引は、たいていうまくいっていますが、いつも望ましい結果になるというわけではありません。生活必需品が急に値上るなど、多くの人に影響があると思われる場合は、市場経済をとっている国でも「政府」が、その権力で強制的にルールを決めること、つまり「政策」を決めて価格を調整する場合があります。

ここでは政府の介入の一つ「価格上限規制」について詳しく解説します。

政府が価格を規制する、と聞くと良くないもののように感じますが、良く調べてみると私たちの身近なところに、価格の規制は行われていることが分かります。

価格上限規制とは

価格上限規制とは、政府が法令などで定めた価格よりも高い価格で商品やサービスを販売することを禁止する制度です。この価格を上限価格と呼びます。

上限価格は、消費者を守るために設けられることが多いのですが、場合によっては生産者や事業者の保護、市場の安定化などを目的とすることもあります。

上限価格規制の種類

上限価格規制には、大きく分けて2種類あります。

  • 個別価格規制 特定の商品やサービスごとに上限価格を設定する規制です。
  • 一般価格規制 幅広い商品やサービス群に対して上限価格を設定する規制です。

上限価格規制のメリットとデメリット

メリット

  • 消費者にとって、価格が高騰するのを防ぐことができる
  • 生活必需品などの価格を安定させることができる
  • 市場における独占企業の力を抑制することができる

デメリット

  • 生産者や事業者の利益を減らす可能性がある
  • 供給不足を引き起こす可能性がある
  • 闇市場を生み出す可能性がある

上限価格規制の例

  • 医薬品
    多くの国で、医薬品の価格に上限規制が設けられています。これは、医薬品が生活必需品であり、価格が高騰すると国民の健康被害につながる可能性があるためです。
  • 公共料金
    電気料金やガス料金などの公共料金は、多くの国で政府によって規制されています。これは、公共料金は国民生活に不可欠なサービスであり、価格が高騰すると国民生活に大きな負担がかかるためです。
  • 家賃
    一部の国では、家賃の上限規制が設けられています。これは、住宅が生活必需品であり、家賃が高騰すると低所得者層が住む場所を失う可能性があるためです。(日本でも1986年まで行われていました)

このように身近なところで価格の上限が法律などで設定され、価格が上がりすぎないように規制されています。

なぜ価格上限規制が必要なのですか?

なぜ、価格上限規制が必要なのでしょうか?
もし、すべての価格を自由な市場に任せるだけでしたら、私たちは安定した暮らができるのでしょうか?

例えば、原油価格は私たちの暮らしに大きな影響があります。原油はモノをつくるときの材料になるだけではなく、輸送にも使うので値上がりすると生活に大きな影響があります。

日本は原油をサウジアラビアやアラブなどの中東地域に90%依存しています。この地域は小競り合いも多く、情勢が変化すれば原油価格が高騰し、町のガソリンスタンドの価格はすぐに上昇します。
すると、物流全体に経費が上乗せされてモノの値段がすべて上がってしまいます。

自由な市場では、需要と供給は「環境の変化」や「石油価格の変化」でシフトして価格が動くものでした。簡単にモノの値段が変化する社会は安定した生活ができるとは言えません。

値段が上がったら嫌だニャー

このように実際、価格に対して人々はいつも不満をもっています。

企業側、供給者側はいつも「もっと高い価格で売りたい」と思っています。「もっとお金があれば人を雇ったり、工場を新しく建設して事業を拡げられるのに」・・・と夢見るからです。

逆に、買う側、需要者側はいつも「もっと安い価格でモノが手に入らないかしら?」と思っています。「自分の限られた枠内では欲しいものが買えない」と不満に思っています。

こんなときに、政治的影響力を持つ人が声を上げると、政府が価格統制に踏み切られることがあります。

福祉用具の上限価格設定

日本では福祉用具の貸し出しに上限価格が設定されています。

車いすや特殊な寝台、床ずれ防止用具など高額な福祉器具の貸し出しする企業があります。そのレンタル代が企業によって同じ製品でも大きく差があることや、レンタル代の中にサービスがセットになってしまって価格が分かりずらいこと、また不当に高い値段に設定されているケースが後を絶たなかったので上限価格設定をしました。
福祉用具貸与価格の上限設定について (mhlw.go.jp)

日本以外の国でも上限価格の設定あります。
その代表的な例は、アメリカでの家賃の上限価格規制や、インドの薬の上限価格規制があります。どちらも生活に必要なものであること、そして市場にまかせておくと価格が多くの人にとって高くなりすぎるので規制がかけられています。

規制は万能じゃない

政府が規制をかければなんでもうまくいくか、といえばやっぱりそんなことはありません。

もし、もともとあった均衡点より低くなるように上限を設定すると、どうなるでしょうか?

例えば、政府の規制ができて、ある高い福祉器具の上限価格が決まったとします。
それ以上の価格をつけてはいけませんよ、というルールです。

もしその決められた価格が今までよりずっと低い価格になれば、今まで借りられなかった人も借りられるようになって、欲しい人がたくさんいる状態、つまり需要が多くなります。

逆に売る方は収入が減ります。
現に福祉器具の上限設定を行ったら7割の会社が収入が減ったと回答しています。これでは割に合わない業務だ、と感じて業務をやめる業者も出るかもしれません。それに供給量が減るので、必要な時に器具が借りられなくなる人もでるかもしれません。

また「上限価格規制」は違った弊害が起こることもあります。
物価が上がって福祉器具そのものの価格がアップしたとします。そこに価格の規制があると企業は価格を上げられないので、メンテナンスの手を抜くようになります。借りている方も貸し出し業者が少ないので文句を言っても別な業者がいないで、少しぐらい古くでも我慢しなければいけなくなります。その結果福祉器具のレンタル品の質がどんどん下がってきてしまうのです。

さらに貸し出し業者はあの手この手でお金を取ろうと画策するようになります。
例えば、後で返金するという約束で保証金をとって、返却するときにあれこれ理由をつけて返金に応じないなどが行われます。

他にも、価格が上昇しているときは必要ないのにレンタルし、又貸しするケースもよく見られます。正規の値段で借りたものを他の人に上限より高い価格でまた貸しするのです。

政府が価格に上限を付けることは簡単に行えます。
しかし自由な社会において、いくら売る側に「生産量を増やしなさい」強制したとしても売る側にメリットがなければ上手くいきません。
どんなに注意深くルールをつくったとしても、「人は悪いことをするときにとても創造的になる」と言われるように法の隙をついて不正をしようとする人が出るため、取り締まることはできないのです。

まとめ

市場経済の政府の上限価格規制ついて解説しました。

生活必需品の価格が急に上がると、生活が成り立たなくなるため、政府が価格の上限を設定して規制をかけることがあります。
しかし、規制をかけたからといってすべてがうまくいくわけではありません。

供給側がメリットがないと感じ業務から撤退したり、アフターサービスを怠ったりしてサービスの低下が避けられません。自由な社会では政府から強制されたからと言ってメリットのない事業を続けることはできないのです。

日本では、社会保険診療報酬、公共料金、電気料金規制など、様々な価格上限規制が設けられています。これらの規制は、生活必需品の価格を抑え、国民の生活を守るために重要な役割を果たしています。

近年では、インターネットの普及やグローバル化の影響で、価格上限規制の効果が薄い、また規制が企業の競争力を弱め、経済成長を阻害する可能性があるという懸念も 指摘されています。

今後も、価格上限規制の効果とデメリットを慎重に検討し、必要に応じて規制の見直ししていかなければなりません。

参考文献

ティモシー・テイラー 経済学入門
どさんこ北国の経済教室 (kitaguni-economics.com)
消費者庁ウェブサイト (caa.go.jp)
資源エネルギー庁 (meti.go.jp)

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