となりの生き物

楊貴妃も愛した桃と毒

桃の生存誠意略

夏の訪れを告げる、ジューシーで甘い桃。誰もが大好きな果物ですよね。

私も桃は大好きです。
ちょっとかためな「あさつき」や「川中島白桃」、やわらかい「白鳳系」、みずみずしい黄桃など、生でいただくのも良いですし、桃サワーや桃ジュースなどに加工したジュース系は、とろっとしたのどごしと香りがたまりません。

実は、あの中国の美人、楊貴妃も美容のために桃を好んで食べていました。

そんなコロンとしたかわいらしい形と柔らかい色をもつ桃ですが、実はその裏には驚くべき生存戦略を隠しています。

ここでは、そんなしたたかな桃の戦略を徹底解説します。

桃について

桃はバラ科スモモ属の落葉低木または小高木です。

原産は中国で、日本では縄文時代から利用され「古事記」や「日本書紀」にもその名がみられます。桃の原種は果肉は少なく、あっても固かったため、主に薬として、また花の観賞用として中国から持ち込まれました。

現在のようなみずみずしい果物に改良されたのは日本では江戸時代後期です。

今では世界各地で品種改良され、特に中国やイタリアでよく栽培されており、食用以外にも観賞用としても人気があります。

桃は薬として中国から輸入した

桃はもともと日本には生えていませんでした。

桃は日本の文明が始まった縄文時代後期(約3,500年前)に、中国から日本に持ち込まれました。
岡山県や長崎県の遺跡から、故人の副葬品として桃の種の核がたくさん出土しています。このことから、桃は呪術的で神聖なものとして扱われていたと考えられています。というのも、中国では古くから桃の木は邪気を祓い、鬼神を遠ざける力があると信じられており、その信仰が日本にも伝わっていたと考えられます。

また、桃は中国で薬として重宝されていました。
桃の種子は「桃仁(とうじん)」と呼ばれ、不老不死や長寿の薬として珍重されていました。

中国では桃の果肉や種だけではなく花や葉も薬として様々な形で利用されています。

  • 果肉
    • ビタミンC、カリウム、食物繊維が豊富で、夏バテ予防、疲労回復、便秘解消などに効果があるとされています。
    • 咳や痰、喉の痛みなどの風邪症状の緩和にも役立つと言われています。
    • 血液やリンパの流れを改善し、冷え性やむくみの改善に効果があるとされています。
    • 胃腸の調子を整え、消化不良や食欲不振の改善にも役立つと言われています。
    • 滋養強壮効果があり、体力増強や老化防止に効果があるとされています。
    • 風邪予防や美肌効果も期待できます。
  • 種子(桃仁)
    • 咳止めや鎮痛効果があり、喘息や気管支炎などの症状の緩和
    • 血行促進効果もあり、冷え性やむくみの改善
    • 便秘解消効果があり、痔核の改善
    • 虫歯予防や口臭予防
  • (桃葉湯)
    • 利尿作用があり、むくみや高血圧の改善
    • 下痢や胃腸炎などの症状の緩和
  • (桃花酒)
    • 血行促進効果があり、冷え性やむくみの改善
    • 美肌効果やアンチエイジング効果も期待できると言われています。

注意点

  • 上記はあくまでも一般的な情報であり、個人の体質や体調によって効果や副作用は異なります。
  • 桃仁や桃花など、一部の部位には毒性があるため、用法用量を守って使用することが重要です。
  • 服薬中の方は、医師に相談してから桃の薬効を利用するようにしましょう。

中国では、桃は単なる果物としてだけでなく、様々な薬効を持つ貴重な食材として古くから重宝されてきました。現代においても人々の健康維持に役立っています。

桃の毒

なぜ桃は薬として珍重されたのでしょうか?

それには桃の木には、「アミグダリン」と呼ばれるシアン化合物の一種が含まれています。このアミグダリンを適切な量で摂取すると、いくつかの薬効をもたらすことが知られています。

アミグダリンとは、バラ科サクラ属の植物(アンズ、ウメ、モモ、スモモ、アーモンド、ビワなど)の未熟果実の種子に多く含まれる青酸配糖体(シアン化水素(青酸)と糖が結合した化合物)です。アミグダリン自体は毒性を持っていませんが、体内の消化酵素によって分解されると、シアン化水素(青酸)が発生します。

シアン化水素(青酸)は細胞内の酸素運搬を阻害することで、鎮痛作用、鎮咳作用また抗菌作用を発揮します。漢方薬ではこの毒成分を乾燥させたり、粉にしたりして弱毒化し適切な量を摂取してその効能を得ています。

桃の種、または葉や根に、この「アミグダリン」が含まれています。
もちろん桃の果肉部分にはほとんどアミグダリンが含まれていないため、普通に桃を食べる分には問題ありません。

ただし、小さなお子様の場合は、念のために種を取り除いてあげることをおすすめします。お子様は体格が小さく、大人よりも少量のアミグダリンで影響を受けてしまう可能性があるからです。

桃の生存戦略と毒

桃には種だけではなく、根にもアミグダリンが含まれています。

なぜ、桃の木は毒をもっているのでしょうか?

それは、桃が自分自身を守るための生存戦略です。毒を持っていれば生存に有利なことが2つあります。

  • 害虫や動物から身を守る
    アミグダリンは、昆虫や動物が桃を食べることで分解され、シアン化水素という強い毒に変わります。シアン化水素は、呼吸や細胞のエネルギー代謝を阻害し、昆虫や小動物に嫌な思いをさせ、次に食べるのを思いとどまらせることができます。

    また、桃の木の根にある毒は、他の植物の成長を阻害する性質を持っています。
    これは、桃の木がその毒で周囲の草花などの競争相手を排除できます。(植物たちは常に日の光を求めて競争しています)

    ちなみに、根に毒のある植物は他にもアジサイやレンゲツツジ、アセビ、ユーカリなどがあり、これらの樹のまわりには他の植物が生えにくくなります。
  • 種子散布を助ける
    桃の種子には、アミグダリンがより高濃度に含まれています。これは、動物が桃の果実を丸ごと食べ、遠くまで運ぶことで種子散布を助けるためと考えられています。
    動物が桃の果実を丸ごと食べると、動物たちはアミグダリンによる中毒症状を起こさずに移動しつつ消化され、途中で糞と一緒に排出されます。そして、その糞から種子が発芽し、新しい桃の木が育つのです。

このように、桃の木のもつ毒は、害虫や動物から身を守り、種子散布を助ける飛び道具の一部なのです。

桃と楊貴妃の美貌

桃には毒がありましたが、毒は適量を守れば薬にもなります。

みなさんは楊貴妃は美容のために桃を好んで食べていたという話はご存じでしょうか?

楊貴妃はライチやリンゴ、桃などの果物がとても好きで庭に果樹園をつくり食べていたと言われています。

楊貴妃の食べていた桃は、私たち日本でよくみられる丸いタイプの桃ではなく、平べったい形をしたちょっと固めで、濃厚な味の「蟠桃(ばんとう)」という桃を食べていました。
「蟠桃」とは、中国の神話で不老不死の仙果(果物)といわれ、当時は「蟠桃」は非常に希少価値の高い桃で、楊貴妃のような身分の高い人しか口にするこができない貴重な果物でした。

蟠桃 wikipediaより

また、楊貴妃が桃を好んで食べていた理由には、次のようなものが考えられます。

  • 桃に含まれるビタミンCは抗酸化作用があり美肌効果がある
  • 食物繊維のペクチンが多く、腸の調子を整えたり便秘解消に役立つため
  • 桃は体を冷やす効果があるとされていた

当時、中国では白い肌が美しいとされ、楊貴妃は美貌を維持するために様々な努力をしていたと言われています。桃を食べることも、その一環だったのでしょう。

ちなみに楊貴妃が好んで食べていた「蟠桃」という桃は、今では中国で桃の生産は盛んにおこなわれ「蟠桃」もスーパーで買うことができます。

桃の種を取り除く、簡単な方法

桃の種を取り除く方法はいくつかありますが、ここでは最も簡単な方法をご紹介します。

  1. 桃をよく洗い、水気を拭き取ります。
  2. 包丁で桃の側面にぐるっと一周切り込みを入れます。
  3. 両手で桃を握り、上下にひねるようにして二つに割ります。
  4. 種を取り除きます。
  5. 種の周りの果肉を取り除きます。

種を取り除いたら、あとはお好みのようにお召し上がりください。

まとめ

桃は縄文時代中国から日本に渡ってきた植物です。
まだ品種改良されていないころの桃の実は硬かったため、その薬としての効果や花の美しさを観賞するために各地に植えられました。

かわいらしい桃ですが、果物の種や根にはアミグダリンという毒があります。
アミグダリン自身は毒はありませんが、ひとたび昆虫や動物のお腹に入り、消化酵素によって分解されるとシアン化合物(青酸)が発生します。
もちろん、果肉には毒は含まれていません。 桃にとって果肉は動物に種を運んでもらうためにつけているものなので、果肉に毒をつけてしまうと運んでもらえないので困るでしょう。逆に動物たちに種をガリガリ食べられてしまうと、種を広げたい桃にとって困るので、そこには毒を用意して、食べにくくしています。

根に毒があるのは、その周辺に他の植物が生えてこれなくするためです。
光を求める競争には常に勝たなければいけない植物たちにとって、場所争いは重要です。

楊貴妃も美白効果や健康維持のために桃を好んで食べました。楊貴妃の食べたのは、蟠桃と呼ばれる平べったい形の桃です。

桃は品種改良のおかげで、人々から愛され世界中に広がることができました。

これからも、病原菌に強かったり、日持ちの良い桃を目指して品種改良が進んでいくことが期待されています。

日本の桃は糖度が高く、安全性にも優れ、その香りも世界でトップクラスです。日本の桃の旬は7月初旬から9月上旬までです。ぜひ旬の時期に味わってみてください。

参考文献

日本の土壌と文化へのルーツ㊿ 中国文明以来の果実 桃 | 東邦大学医療センター大森病院 東洋医学科 コラム (toho-u.ac.jp)
平べったい桃(ぺスカ・タバッキエラ)のシーズン みゅうローマ みゅう
アミグダリン - Wikipedia
モモ - Wikipedia
奈良県立青翔高等学校2015SSHdayori05.pdf (kai.ed.jp)
バントウ - Wikipedia
有毒植物について |「食品衛生の窓」東京都保健医療局 (tokyo.lg.jp)
楊貴妃 - Wikipedia

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