ぽれぽれ経済学

経済は成長が前提

経済は成長が前提

経済は各国の情勢や景気、そして自然災害などの影響を受けて良くなったり悪くなったりを繰り返しています。

景気を判断する一番の指標「GDP」は注目度が高く、指数が発表されるとニュースで報道されます。思ったよりも高い値になれば「喜ばしいこと」、逆に悪い値になったり、他国に抜かされた場合は「悪いこと」のように報道されます。

景気は上がったり下がったりするものです。永遠に上がり続けることはないのに、なぜ下がると悪く言われるのでしょうか?

これは、私たちの社会が「経済は成長することが前提」になって設計されていることが原因です。

なぜ「成長が前提で設計」されているのでしょうか? 

ここでは、商売の歴史を紐解いて、商売の目的がどのように変わってきたのか、その結果、経済が社会の構造をどのように変化させたのか徹底解説します。

経済は成長は必要なの?

まず「GDP」についてかんたんにおさらいしておきましょう。

「GDP」は商品を売ったときにでる利益のことです。
例えば、企業がモノを売ります。その売り上げからその材料費などを除いた分の利益(付加価値)が残ります。GDPはこの残った利益を国でまとめたものです。
参考に2023年の各国のGDPはこちらです。

GDP(ドル)1人当たりGDP(ドル)
アメリカ26兆1900億7万8420
中国19兆2400億1万3630
日本4兆3700億3万5030
イギリス3兆4800億5万1080

日本は中国にずいぶんと差をつけられています、もちろん人口や経済体制が違うので単純には比較できませんが、日本はどうも景気が良くなさそうだな・・・ということが分かります。

日本はどうして景気が良くないのでしょうか?
人口が減少しているからなのでしょうか?
それとも、利益を上げられない理由でもあるのでしょうか?

商売とは利益をだすこと

企業は利益がでれば、その商売を続けることができます。
もし、企業は何かをつくって売ろうとするとき、まず材料費を支払ってモノを売ります。
そのモノが売れたとして、そこから材料費を抜いて、利益が残らないようでは、その商売を続けていくことはできません。

あたりまえですよね?

このことは歴史を見ても明らかです。
例えば、古代中国では、商人は常に新しい商品やサービスを開発し、市場を拡大することで利益を追求していました。
また、古代ギリシャの経済学者でもあるアリストテレスの言葉に「経済成長を促進するために、政府が積極的に介入すべきである」という主張もあります。

このように、古代から人々は経済成長を意識し、それを実現するためにさまざまな取り組みを行ってきました。

商売の目的の変遷

中世までの商売の目的は、自分の利益を得ることだけでした。

当時のアラビアのマフムード、イタリアのメヂィチやユダヤのソロモンなどの商人たちは、物資や情報の流通が不安定だったのでかなりのリスクを冒して商売を行っていました。

世界中ですべてのものの生産力が低く、輸送するのも各地の情報が少なく大きなリスクがありました。
当時は、今なら生活必需品のようなものでも高値で取引ができたので、商人は「リスクを取って大きな利益を得る」ことができます。そしてその商売の目的も自社の利益を得ることに集中していました。

しかし、現代では、生産性が高くなり、輸送コストも下がり、どこでも似たようなものが簡単に手に入るようになりました。すると商売の目的も変化していきます。商売は単に利益を拡大することだけでは差別化ができないので「社会の発展に貢献すること」「顧客の満足を高めること」など、消費者に選ばれる企業になることも、商売の大きな目的になっていったのです。

近代以前のころの商売は、そのような考え方は一般的ではありませんでした。

このように、産業革命以前までの経済は、経済規模が小さく、生産手段や生産技術が限られ、経済活動が与える影響は小さなコミュニティーだけに納まり、商売の目的も、現代とは大きく異なっていました。

中世の経済

中世以前の商売の形は「伝統的経済」や「封建制経済」が主流でした。

「伝統的経済」は、手工業が中心の家族経営の形が多く、生産手段や生産技術が限られているため生産量が限られています。
「封建制経済」は、領主と農奴という二階級制度に基づいて経済活動が行われます。領主は土地を所有し、農奴はその土地を耕作して収穫物を領主に納めます。そして領主は農奴に生活に必要な物資やサービスを提供します。

これらの経済活動の形では生産量が限られ、成長の余地がありません。伝統的経済では、生産手段や生産技術が限られたため生産量を増やすことは難しく、また封建制経済では、領主と農奴という二階級制度によって経済活動の規模が限られてしまいました。

中世以前の社会では「経済成長」は、むしろ望ましくないものと考えられていました。

伝統的経済では、経済成長によって全体の生産量が増え、ものがあまって物価が下落すると考えられていました。また、成長によって領主の支配が揺らぎ、社会の秩序が乱れると怖れられたのです。

そのため、中世以前の社会では、経済活動は「現状維持が前提」と考えられていました。

ただし、中世以前の社会でも、経済活動の成長を追求する動きはありました。
例えば、古代ギリシャや古代ローマでは、都市国家の間で貿易が盛んに行われ、経済活動が活発化しました。また、中世のヨーロッパでは、都市の発展とともに、商工業が盛んになり、経済活動の規模が拡大しています。

しかし、これらの動きは、あくまでも例外的なもので、中世以前の社会全体としては「経済活動は現状維持」が望ましいと誰もが考えていました。

現代の経済

「成長を前提としない社会」から「前提とする社会」に変わったのは、産業革命以後大量生産が可能になってからです。

  • 生産手段や生産技術の進歩
    産業革命によって、蒸気機関や電気などの新しいエネルギー源が開発され、機械化が進みました。
    これにより、生産性が大幅に向上し、大量生産が可能になります。そして大量生産によって商品の価格が下落し、多くの人々が商品を買うことが出来るようになりました。これが市場が拡大させ経済活動が活発化しました。
  • 資本主義経済の普及
    産業革命によって資本主義経済が普及しました。
    資本主義は個人や企業が自由に資本を所有し、それを事業に投資することで、経済活動が行われる形です。そこでは競争を通じて常に効率的な生産やサービスの提供が求められます。そのため企業は常に成長を追求し、競争力を高めようとしました。
  • 社会の変化
    産業革命によって社会構造も変化します。
    農業社会から工業社会へと移行し都市化が進みました。都市部では、人々が集まり多様な価値観や生活様式が生まれます。これにより、経済成長が社会の進歩や繁栄につながるという考え方が広まりました。

このように、産業革命によって、生産手段や生産技術が進歩し、資本主義経済が普及したことで豊かな人がもっと豊かになり、そうでない市民も豊かな生活ができるようになりました。

そして経済成長が社会の重要な目標となります。市民の間に社会構造の変化を望む声が生まれ、経済成長が社会の進歩や繁栄につながることが分かり、次第に人々は「経済成長するべきである」という考えに変化していきました。

成長を前提とする社会

経済が成長することが目標になった社会では、企業、そして政府は、将来の計画をどう立てていくのでしょうか?

  • 企業の計画
    成長することが企業の目的になれば、企業は、将来きっと成長するだろうと信じて、設備投資や研究開発投資を行うようになります。
    設備投資や研究開発投資を行うためには、資金が必要です。
    企業は、その資金を集めるために、自社の事業は将来必ず高い利益を得られることをアピールし、資金提供者に納得してもらう必要があります。自社の事業の必要性はもちろん、社会の取り巻く環境、国全体の経済成長がその利益を後押ししてくれることもその理由の一つとして使われます。
  • 政府の政策立案
    政府は、経済成長を刺激するための財政政策を行うことになります。

    財政政策には、増税や減税、公共投資などがあります。増税や減税や公共投資を行うためには、議員、また国民に利益があることを分かってもらう必要があります。そのため政府は将来的に経済成長によって税収が増加したり、公共投資の効果によって経済成長が促進されると信じて政策を立案するようになります。

つまり、例えばこのような動きが加速されることになります。

  • 企業が、将来の需要増加を見込んで、新製品の開発や生産設備の増強を行う
  • 政府が、将来の人口増加や高齢化に対応するために、社会保障制度の拡充やインフラの整備を行う
  • 国民が、将来の結婚や子育てを見込んで、住宅の購入や教育費の準備を行う

これらの経済活動はすべて将来の経済成長によって利益や収入、生活水準の向上などのメリットを得ることを前提として行われています。

もちろん、経済成長が必ずしも実現するとは限りません。
景気循環によって停滞や後退が繰り返されることもあります。
天災や災害に見舞われることも十分予想できることですが、企業や政府、私たちの将来の予想も、経済は成長すると信じて設計されているのです。

まとめ

現代の社会は産業革命以降、商品の価格が下がり、多くの人がモノを手にすることができるようになりました。
また、技術革新によって、より良い暮らしを求めることがあたりまえになっています。

企業は投資家への説得のために、自社ブランドが大きな利益が生まれると声高にアピールします。

政府は自身の正当性のために、経済成長が私たちの豊かな暮らしを保証すると言います。

私たち個人は将来の人生設計のためにお金を貯めたり、借金をしたり、投資をします。

将来はどうなるかわかりません。
けれど、私たちは将来が良くなるものと信じて、多くの行動をしています。

GDPのニュースが悪い方向へ向かうと批判的になのは、良くなるという予想と反しているものだからなのです。

私たちの暮らしは将来が分からなのに、良い方向に向かう場合のことを考えて設計されていることを頭に入れておきましょう

良いことばかり書かれていたあの報告書は正しかったのでしょうか? 
自分の身の丈に合わない借金をしようとしていないでしょうか?
政府の立案は楽観的すぎないでしょうか?

産業革命以前は経済は成長しないもの、現状を維持するものと考えられていました。
経済が成長してしまうと、ものが作られすぎて物価が下落してしまって利益が落ちると考えられました。また経済が成長して一般市民がお金と知識をつけると、主人に歯向う者が増えることを怖れました。

現在は生産力が上がり、流通もよくなり、私たちの生活も良くなっています。
企業は選ばれるために利益を出すだけではなく、社会的な問題に取り組むことが求められるようになりました。

経済成長が本当に良いことなのか、そうでないのかは議論が続いている問題ですが、成長は多くのメリットがあったので国も企業も成長前提でさまざまな取り組みをしています。
けれど所々に楽観的な成長計画が紛れ込んでいるので騙されないようにしましょう。

参考文献

お金以前 土屋隆俊
国民経済計算(GDP統計) : 経済社会総合研究所 - 内閣府 (cao.go.jp)

おすすめの記事

-ぽれぽれ経済学