となりの生き物

スギが花粉を飛ばすとき

スギ

寒い冬が終わると、本州の各地で多くの方の鼻がムズムズし始めます。

スギという木から花粉が飛び出て、風に乗って街中に花粉が巻き散らかされることはわかってはいるけれど、花粉がどこから飛び出るのかよく知らないし、そもそもスギを見たこともないという方も多いかもしれません。

スギは私たちの生活で一番身近な木材です。
加工がしやすいので古くから植えられ、使われてきました。長い植林の歴史からたくさんの種類のスギも生まれました。今では国土の18%がスギに覆われています。

ここでは、そんなスギがどうしてこんなに花粉を飛ばすようになったのか? そもそも花粉はどのようにできるのか解説します。

スギ

植物界
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スギ属

500万年前スギは中国から渡ってきた

スギは500万年前中国から陸橋を渡ってやってきました。

そのころ中国大陸と日本列島は陸続きだったので、多くの植物が大陸から陸を伝って日本まで簡単に繁殖地を広げることができたのです。

500万年前地球は寒冷化していました。
インド大陸が大陸に衝突し、ヒマラヤの山々がつくられつつありました。ヒマラヤ山脈の上昇が同時に激しい岩石の浸食を招き、これによって大量のカルシウム塩が海に流入していきました。このカルシウム塩が二酸化炭素を吸収し石灰岩化していったため大気中の二酸化炭素量は激減していき、寒冷化をさらに推し進めたと考えられています。

大陸と地続きになっていた日本大陸は、植物や動物が自由に移動できる環境でした。この時代はスギ以外にもコナラ、クヌギ、クリ、ブナ、ヨモギ、イネ、カヤツリグサ、キクなどが渡ってきています。
第4紀研究 2017年12月

それから100万年たったころ、日本大陸の気候も温暖に変化し、温暖な気候の好きなスギや他の植物も広く分布するようになります。

スギの利用

スギは人々の生活に欠かすことのできない材として早くも縄文時代から利用されてきました。

建築材

  • 竪穴住居の柱や梁
  • 高床式倉庫の床や壁
  • 集落を囲む柵

生活用具

  • 丸木舟:スギは加工がしやすい上に水に強いので、丸木舟を作るのに最適
  • 食器:スギの板をくり抜いて作った椀や皿
  • 容器:水や食料を貯蔵するための桶や樽
  • 弓矢:狩猟や武器として
  • 掘っ立て柱:祭祀や儀式のための柱

その他にも

  • 棺桶:死者を埋葬するための棺
  • 宗教的な祭具:神に捧げる供物台や神像
  • 木簡:文字を記すための板

このように、縄文時代から日本では、住居、生活用具、宗教など、生活のあらゆる場面でスギを活用していました。

スギが選ばれた3つの理由

  • 加工がしやすい:スギは木目がまっすぐで柔らかく、石器でも簡単に加工できたため
  • 耐久性がある:スギは腐りにくい木材なので、長持ちする道具や建築物を作ることができた
  • 軽量:スギは他の木材に比べて軽いので、運搬や組み立てが容易だったため

これらの理由から、スギは縄文時代から日本ではスギが多く利用され、北海道を除く日本全国に植林されてきました。

杉と日本人のつながりについて: http://repo.kyoto-wu.ac.jp/dspace/bitstream/11173/1946/1/0160_025_008.pdf

スギ花粉のつくられ方

スギ花粉は、5mmほどの卵型の雄花の雄花序でつくられます。

1. 雄花序の形成

  • 雄花序は5mmほどの大きさで松ぼっくりのような形をしています。
  • 雄花序は雄ずいがうろこのようにならんで卵型をしています。
  • 雄花序は前年の7月頃、春に伸びた枝の先端付近に作られます。
  • 雄花序は徐々に成長し、関東地方では10月下旬には成長を完了します。

2. 花粉の成熟

  • 雄ずいの根元に花粉の袋が作られ、その袋の中で花粉が形成されます。
  • 花粉は、植物のオスの配偶体であり、2つの精細胞を含む球形の粒子です。
  • 花粉は、約30μmの大きさで突起を持ちます。一つの雄花序の中に40万個の花粉が入っています。

3. 花粉の飛散

  • 花粉は、冬の間は休眠状態に入りますが、冬の寒さに一定期間さらされることで覚醒します。
  • 覚醒した雄花は、気温が上がり始める2月から4月にかけて花粉を放出します。
  • 花粉は風に乗って遠くまで運ばれ、雌花に受粉すると種ができます。

4. 受粉

  • 風に乗って運ばれた花粉が、雌花の柱頭に付着して受粉します。
  • 花粉は柱頭から花粉管を伸長し、子房内の卵細胞と受精し、種子が作られます。

スギの花粉の飛び方

スギの雄ずいで出来た花粉は自力では飛べません。その代わり非常に小さく、軽くできていて空気の流れに乗って遠くまで飛ぶことができます。

  • 風による飛散
    スギの花粉は、直径約30μmと非常に小さく重さは約0.00003mgです。そのため、微弱な風でも簡単に持ち上げられ遠くまで飛ぶことができますし、10m/sの風に乗れば1kmも飛ぶことが出来ます。
  • サーモス による飛散
    サーモスは、地表が太陽光で温められた際に発生する上昇気流のことです。花粉がサーモスに乗ればさらに空高く飛んでいき、遠くまでとぶことが出来ます。
  • 気圧配置による飛散
    気圧配置によっても花粉の飛散距離が左右されます。高気圧に覆われている場合は、花粉は遠くまで飛ぶことができます。一方、低気圧の場合は、花粉は地上に落下しやすくなります。

日本のスギの種類

最後に日本にあるスギの代表的な品種についてご紹介します。
生えている場所によって大きく2つに分けられています。

  • 表杉:太平洋側に生息する杉
  • 裏杉:日本海側に生息する杉

それぞれの特徴と代表的な産地を紹介します。

表杉

表杉は太平洋側に広く分布し、もっとも普通に植林されています。
成長が早く木目が美しいので、建築材や家具材などに多く利用されます。

表杉の代表的な産地と特徴を見ていきましょう。

  • 日光杉(栃木県):日光東照宮の建築材として有名。木目が細かく、美しい光沢がある。
  • 山武杉(千葉県):房総半島で産出。軽量で加工しやすい。
  • 春日杉(奈良県):春日大社の建築材として有名。耐久性に優れている。
  • 吉野杉(奈良県):日本三大美林の一つ。木目が通直で、香りが良い。
  • 魚梁瀬杉(高知県):日本三大美林の一つ。木目が密で、強度が高い。
  • 霧島杉(鹿児島県):霧島山地で産出。年輪幅が広く、耐久性に優れている。
  • 屋久杉(鹿児島県):屋久島で産出。樹齢数千年のものもあり、希少価値が高い。ウィルソン杉は生育が良く幅が2メートルほどで2000年以上経っていると言われる。

裏杉

裏杉は日本海側に分布しているスギを指します。
雪の多い所に生えるため、ときどき枝が雪に押され地につき、そこから根が出ることもあります。
成長が遅く、木目が密なのが特徴です。
強度や耐久性に優れており、建築材や土木用材などに多く利用されています。

浦杉の代表的な産地と特徴を見ていきましょう。

  • 秋田杉(秋田県):日本三大美林の一つ。木目が細かく、美しい光沢がある。
  • 北山杉(京都府):京都御所の建築材として有名。耐久性に優れている。

上記の代表的な種類以外にも、日本各地には様々な園芸品種のスギも多くあります。

  • エンコウスギ 短い枝と長い枝が交互に生える 生け花に利用されている。
  • ヨレスギ 葉が枝のまわりを左下から右上へねじれて巻く
  • ヤワラスギ トウスギとも呼ばれる。葉が柔らかく平たくて反り返る
  • エイザンンスギ 葉が短く曲がっている。ときに黄色や白の斑点が出る。 

杉は日本の文化や生活に深く根差した木であり、今後も様々な形で利用されていくでしょう。

みなさんも里山を訪れたら、スギの樹を見つけてみてください。里山で暮らすために先人たちが植林し続けてきた末裔のスギかもしれません。

参考文献

日本杉の種類と用途、ヒノキとの違いは?: | ロイヤルホームセンター公式オンラインストア「ロイモール」 (roymall.jp)
杉(スギ)の種類 | 一枚板比較 (solidwood.jp)
スギ - Wikipedia
空を舞う スギ花粉の秘密 | ミクロワールド | NHK for School
マツ科(まつか)とは? 意味や使い方 - コトバンク (kotobank.jp)
鮮新世 - Wikipedia
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