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これも外来種? オオイヌノフグリの意外な物語

これも外来種?オオイヌノフグリ物語

早春の畑に群れて咲くオオイヌノフグリ
小さなころから親しんでいて、あなたももうご存じかもしれません。

でもこの花、実は外来種であることはご存じでしたか?
外来種といえばあまり印象が良くないですよね?
今まで日本に咲いていた草花を押しのけて、わさわさ繁茂しているイメージですが、このオオイヌノフグリは、高さも10㎝ほどと大きくなく、花は1㎝ほどの小さな花で、とても大繁殖しているイメージもありません。

外来種なんて本当でしょうか?

ここでは、早春のかわいらしい花の代表である「オオイヌノフグリ」の生態と、いつ日本に入ってきたのか? そして可憐な花に似合わない、したたかな生存戦略を徹底解説します!

1. 春の足音、小さな青い輝き:オオイヌノフグリとの出会い

まずは「オオイヌノフグリ」の生態から見ていきましょう。
オオイヌノフグリの花は、直径は約8mmと小指の爪ほどですが、群れて咲くためそのコバルトブルーの花がよく目立ちます。

花びら(花弁)は4つに深く裂けていて、前側の一枚がやや小さいです。
草の大きさは10〜20㎝ほどで、地面を這うように広がりながら成長します。
開花時期は2月から5月と比較的長く、次々と花を咲かせますが、地域によって違いますが、だいたい3月の終わりから4月にかけてが開花のピークです。

そして夏の間に種を作ります。
秋になると種は熟し、下に落ちます。
良い地面に到達した種は、すぐに芽吹きます。
芽吹いた芽はそのまま雪や霜といった冬の厳しい環境に耐え、春の開花までじっとその時を待って、暖かくなると一気に咲きます。

この他の植物よりも早く芽吹いておいて、暖かくなと一気に成長できるのが、オオイヌノフグリの特徴です。
農研機構 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構

オオイヌノフグリ:基本情報

項目詳細
和名オオイヌノフグリ (大犬の陰嚢)
学名Veronica persica Poir.
分類オオバコ科 クワガタソウ属 (旧ゴマノハグサ科)
原産地ヨーロッパ、西アジア
日本への渡来明治初期 (1884年頃)
開花時期2月~5月 (ピークは3月下旬~4月)
主な特徴草丈10-20cm、コバルトブルーの小さな花、一日花、極めて高い繁殖力、耐寒性・乾燥耐性
別名星の瞳、瑠璃唐草、天人唐草、Bird’s eye

異国からの旅人:明治に渡来した帰化植物の歴史

オオイヌノフグリは、日本の豊かな自然に溶け込んでいるものの、その原産地はヨーロッパ大陸と言われています。

日本への渡来は、明治時代初期、1884年あるいは1887年に東京で初めてその存在が確認され、その後わずか数十年後の1919年には、全国的にありふれた草花になりました。

現在では、日本全土に広く分布する外来植物として完全に定着しています。その拡散は日本国内にとどまらず、アジア、北アメリカ、南アメリカ、オセアニア、アフリカなど、世界中の様々な地域で外来種として定着していることが確認されています。

小さくもしたたかな生命力:オオイヌノフグリの驚くべき生態

小さく可憐なオオイヌノフグリですが、世界中に広がって咲いていて、実は強い繁殖力をもっていました。

さきほどもあったように、オオイヌノフグリは秋に発芽し、雪や霜といった冬の厳しい環境にも負けずに越冬します。寒さに耐えるために、細胞内の糖濃度を高める機能を持ち、また葉や茎に生える短い毛が雪や霜を遠ざけて体を温めることができます。

さらに、オオイヌノフグリの茎は、枝分かれしながら横へ横へと広がるように育ち、太陽の光を効率よく利用できるよう地面を這っていきます。高さは10㎝ほどと短いですが、春の早いうちに地面を覆うことで他の草花よりも優先的に成長することができるのです。

おしべが2本

そして、注目したいのがおしべです。
オオイヌノフグリには、おしべの数が2本しかありません。
一般的に、植物の持つおしべの数は植物によってまちまちですが、オオイヌノフグリのようにおしべが2本しかない花はゴマノハグサ科、シソ科、アカバナ科の一部しかありません。

おしべ数の進化
植物の持つおしべの数は、進化の過程で変化してきたと考えられています。原始的な被子植物(例えばモクレンや朴の木など)には、多数のおしべがあります。進化が進んでいくと受粉の効率化や花粉の節約などの理由で、おしべの数が少ない植物も現れたと考えられています。

このおしべの数は、花の形や機能にどのような影響があるのでしょうか?
例えば、おしべの数が多い花は、より多くの花粉を生産することができ、受粉の成功率を高めることができます。一方、おしべの数が少ない花は、花粉の生産量が少ない代わりに、花粉を効率的に運ぶことができるというメリットがあります

残念ながら、オオイヌノフグリのおしべが2本になった理由は、まだ完全には解明されていませんが、おしべの数が少ないことは、オオイヌノフグリにとって必ずしも不利というわけではありません。

むしろ、花粉の生産量を減らすことで資源を節約することができますし、花粉の散布を効率化することで、確実に受粉することができます。

おしべの数については、まだまだ謎に包まれていますが、もしかしたらこれもオオイヌノフグリの繁殖の成功率を上げる戦略の一つなのかもしれません。今後さらなる研究によって、オオイヌノフグリを含むこれらの植物の進化の謎が解き明かされるのがたのしみですね。

繁殖の方法は2種類

おしべの少ないオオイヌノフグリですが、おしべにある花粉を目当てに小さな昆虫が訪れます。

オオイヌノフグリの受粉は、ハチ、ハナアブ、チョウなどの昆虫が助ける「虫媒花」ですが、自家受粉も可能であり、自家受粉による近交弱勢がほとんど見られないか、非常に小さいという特性を持っています。

万が一昆虫が訪れてくれなくても自家受粉ができれば、昆虫が少ない環境下でも確実に子孫を残せるので、自家受粉のできるオオイヌノフグリは繁殖上とても有利です。

落ちやすい花びら

オオイヌノフグリのの花びらはちょっと触られるとふらふらと揺れ、しっかり茎についていません。なぜしっかりついていないのでしょうか?

これはちょっとしたしかけになっていて、小さな虫がオオイヌノフグリの花粉を食べようとオオイヌノフグリの花に乗ると、花びらは虫の重さで下向きになってしまいます。すると虫は急いでおしべにしがみつかなければなりません。

するとしっかりしがみついた虫のお腹に花粉がたくさんつくのです。
昆虫にたくさん花粉をつけることができれば、花粉をたくさん運んでもらえるようになる、というおもしろい仕掛けなのです。

またオオイヌノフグリの花びらは、雌しべに花粉がついた瞬間にぽろっと落ちてしまう習性を持っています。もしもあなたがオオイヌノフグリを、摘んで家に持ち帰ろうとしたとすると、花は家に帰り着く頃には振動で受粉が成立し、花が全部なくなっているかもしれません。

この「すぐに落ちる」という特性は、受粉が完了したら迅速に次のステップである種子形成へと移行し、限られた開花時間(一日花)の中で最大限に効率的な繁殖を行うための、巧妙な生存戦略の一つです。

オオイヌノフグリは、たくさんの花粉を昆虫に運んでもらうこと、そして自家受粉で受精を確実に行うこと、これらがオオイヌノフグリの繁殖力の強さの秘密なのです。

名前の秘密:オオイヌノフグリの物語

ところでオオイヌノフグリという和名は、いったいどのようにつけられたのでしょうか?

実はこの名前の「フグリ」と言う部分は「犬の陰嚢」を意味しています。
陰嚢(いんのう)とは、つまり「きんたま」です。

オオイヌノフグリは、近縁種に「イヌノフグリ」という植物があります。「イヌノフグリ」の果実は、丸い毛のついた2個の玉がくっついていて、その形が両面にふくれています。その形が雄犬の陰嚢に似ているので「イヌノフグリ」と言う名前が付けられました。

イヌノフグリの果実 参照/保育社野草図鑑7

オオイヌノフグリの果実はイヌノフグリよりも長細く丸っこくないのですが、とても似ています。

ちょっと長細いオオイヌノフグリの果実

オオイヌノフグリは、在来種のイヌノフグリよりも草花が大きいことからつけられました。

オオイヌノフグリの花言葉

オオイヌノフグリの花言葉は

  • 信頼
  • 忠実
  • 清らか

これらの花言葉は、学名の「Veronica(ベロニカ)」が、十字架を背負ってゴルゴダの丘を上るキリストの汗を拭った聖女ベロニカに由来するとされていることにちなんでいます。聖女ベロニカの敬虔な行動から、「忠実」や「信頼」、「清らか」といった意味が込められたと言われています。

春の野辺で、小さな星を探して

オオイヌノフグリは、その小さく可憐な姿からは想像できないほどの強靭な生命力と適応力を持つ植物です。明治初期に遠い異国から日本に渡来し、わずかな期間で全国の野辺に深く根を下ろし、今や春の風景に欠かせない存在となりました。

その名前のユニークな由来や、自家受粉のできること、花びらがしっかりくっついていないこと、またおしべが2本しかないことなど、可憐な小さな花にも、したたかな繁殖戦略をもっています。

次に春の陽だまりを散歩する際には、ぜひ足元に広がる小さなコバルトブルーの絨毯、オオイヌノフグリに目を留めてみてください。その小さな花一つ一つに秘められた、異国からの旅路、したたかな生存戦略、そして日本の文化に深く溶け込んだ知られざる物語に思いを馳せることで、きっと新たな発見があるはずです。

オオイヌノフグリは、身近な植物でありながら、奥深い生態を持つ興味深い植物です。
春の野原で見かけたら、ぜひじっくりと観察してみてください。

参考文献

原色日本植物図鑑 保育社
あした出会える雑草の花 山と渓谷社
小学館NEO 植物 小学館
野草図鑑 保育社
オオイヌノフグリ - Wikipedia
オオイヌノフグリ / 国立環境研究所 侵入生物DB (nies.go.jp)
野生植物[民間療法で利用されている種](和名順)一覧表示 (amami.or.jp)
オオイヌノフグリ,大犬の陰嚢,Veronica persica,ゴマノハグサ科クワガタソウ属 (e-yakusou.com)

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