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日本銀行とお金のコントロール

日銀とお金のコントロール

皆さん日本銀行について興味ってありますか?

「お札を発行しているところでしょ?」
「銀行の銀行って習った」
「ちゃんとやってくれているだろうから、良く分からなくてもとりあえず問題はない」

と興味はないわけじゃないけど、関係ない。と考える方がほとんどではないでしょうか?

皆さんご存じのように、日本銀行はお札を発行しています、けれど古くなったお札をきれいなピン札に変えているだけではないですし、適当に発行しているわけでもありません。

もしも、人気のない日本銀行が国民の人気取りのために、突然国民サービスとして「すべての人に欲しい分だけお金が渡るように紙幣を刷ろう」キャンペーンを打ち出すとします。

欲しい分だけお金が手に入る・・・・・
それは、好きな分だけお金をもらって、車でも住宅でもなんでも好きなだけ買えるようになる・・・・ということ?

残念ながらそのような流れにはなりません。
このようなことをすると、日本円が消滅してしまう可能性があります。

すこし大げさな例でしたが、紙幣の発行するためには、なんらかの調節が必要なことがイメージできたかと思います。

日本銀行もたくさんの仕事をしていますが、ここではそんな日本銀行の一番大事な仕事「お金の量をコントロール」について分かりやすく解説します。

日本銀行がお金のコントロールすることは、経済全体と個人の生活に様々な影響を与えています。これらの影響を理解することで、経済ニュースや政策動向をより深く理解することができ、将来の経済動向を予測したり、自身の資産運用を検討したりする際にも役立ちます。

なぜお金の量をコントロールするのですか?

そもそも、なぜお金の量をコントロールする必要があるのでしょうか?

紙幣は単なる紙に書いてある印刷物なので、もったいぶらずにたくさん刷って、全ての人に好きなだけ使えるようにすれば、すべてが丸く解決するような気がしますが、ダメなのでしょうか?

お金をたくさん作って財政を潤そうとした国は歴史上たくさんあります。
ここでは分かりやすように、経済圏が単純だった古代中国の例をご紹介します。

古代中国の五銖銭

中国は漢の時代に統一通貨「五銖銭(ごしゅせん)」が、紀元前119年に鋳造されます。

五銖銭の「五銖」とは重さの単位で約3g程度、表には五銖のマークのついている穴の開いた硬貨です。

五銖銭 wikipediaより


前漢の皇帝だった武帝は、領土を広げようと、中国の南部、朝鮮、またモンゴルの進出していました。その戦費に多額のお金がかかっていたので、国の中でどこでも通用する、安定した通貨を必要としていました。そこで各地でばらばらだった通貨を一つにまとめるため「五銖銭」を新たに鋳造したのでした。

けれど、広い中国では、中央官庁だけで国全体の必要な分のお金を鋳造が技術的にできませんでした。そこで中央官庁は各地の地方政府や私鋳業者によっても五銖銭をつくることを許可したのです。しかしこれは当然、粗悪品が大量に製造されます。
例えば、こんな粗悪品がありました。

  • 重量不足 規定の重量よりも軽い
  • 形状の不規則 規定の形よりも歪んだり、欠けている
  • 金属成分の不足 規定の銅や鉛の含有量よりも少ない

これらの粗悪品が出回ると、人々はこのお金を信用することができず、取引をスムーズに行うことができなくなり、経済活動に混乱を招きます。すると五銖銭自身の信頼がなくなり、五銖銭の価値が下がると、物価が上昇しインフレが起こってしまいます。

当時の中央官庁の前漢政府は粗悪品の取り締まりを強化しましたが、完全には撲滅できませんでした。

五銖銭は国全体で使える通貨でしたが、広く使われるためには、それが本物かどうか、はっきりしないと取引がスムーズにおこなわれません。五銖銭の粗悪品の存在は、中央政府の権力と経済統制の限界を示しています。粗悪品の流通は社会の混乱と経済的な不安定さを招き、前漢王朝が最終的に崩壊する要因の一つとなりました。

ヴァイマル共和国のハイパーインフレ

もう一つ通貨のコントロールに苦労した国、ヴァイマル共和国の例を見ていきましょう。

ヴァイマル共和国とは昔のドイツ、つまり1919年から1933年までのドイツのことです。第一次世界大戦後のドイツ革命で成立し、当時世界で最も進歩的な民主憲法を備えていたと言われています。

その先進的なヴァイマル共和国で、なぜ通貨を安定させることができなかったのでしょうか?

主な理由は5つにまとめることができます。

  • 第一次世界大戦の賠償金
    第一次世界大戦で敗戦したドイツは連合国に巨額の賠償金を支払う義務を負いました。この賠償金支払いのために、政府は大量の紙幣を発行しました。これがインフレ率上昇のきっかけになります。
  • 政府支出の増加
    ヴァイマル共和国政府は失業対策や社会福祉などのために、政府支出を大幅に増加させました。
    しかし、政府の財源は限られており政府は赤字財政を続けます。赤字財政が、さらに通貨供給量の増加につながりました。
  • 中央銀行の独立性の欠如
    ヴァイマル共和国の中央銀行であるドイツ帝国銀行は、政府からの政治的圧力を受けやすく独立性が欠如していました。政府は中央銀行に圧力をかけて、より多くの紙幣を発行させました。
  • 金本位制の放棄
    1924年ヴァイマル共和国は金本位制を放棄します。
    金本位制が放棄され通貨供給量は金保有量によって制限されなくなり、政府はより多くの紙幣を発行できるようになりました。
  • 投機
    インフレ率が上昇すると投機家たちはさらに紙幣の価値が下落するのではないかと考え、紙幣を買いだめしました。これが、さらにインフレ率上昇の一因となりました。

これらの要因が複合的に作用し、ヴァイマル共和国はハイパーインフレーションに陥ります。ハイパーインフレーションは、経済を混乱させ、社会不安を引き起こします。そしてヴァイマル共和国はナチス政権に取って代わられたのでした。

ヴァイマル共和国の例は、中央銀行が通貨供給を効果的に制御することがいかに重要であるかを示しています。中央銀行は、政府からの政治的圧力に抵抗し、物価安定を維持するために独立性を保つ必要があるのです。

金利を操る中央銀行

このように数々の経験から通貨の発行は中央銀行(日本なら日本銀行)という一つの場所で行うこと、その中央銀行は政治的な圧力を受けないこと、などが分かってきました。

けれど今でも、お金の量の調節は解決の難しい問題です。

それでは実際に現在、各国の中央銀行が行っているお金の量のコントロール方法を見ていきましょう。

一つ目は「公開市場操作」です。
この「公開市場操作」は、とてもややこしく理解するのがとっても難しいので、イメージしやすいように「国債」という魔法の杖と「金利」という呪文にして例えてみます。

中央銀行という魔女は魔法の杖を売ったり買ったりするのが好き、という設定です。

公開市場操作のしくみ

魔法の杖:国債の売買
中央銀行という魔女は「国債」という名の魔法の杖を使って呪文を操ると「金利」が操れます。

例:景気低迷時だったら

景気が低迷しているとき、中央銀行は景気を回復させるために魔法の杖を買います。
そのまじないの手順は・・・

  1. 魔法の杖(国債)を大量に買い取る
  2. 市場に出回るお金の量が増える
  3. 金利が下がる
  4. 企業がお金を借りやすくなり、投資や雇用が増える
  5. 景気が回復する

例:景気が上がりすぎていたら

物価が上がりすぎている(インフレ)ときは、中央銀行は物価を安定させるために魔法の杖を手放します。

  1. 魔法の杖(国債)を大量に売却する
  2. 市場に出回るお金の量が減る
  3. 金利が上がる
  4. 企業がお金を借りづらくなり、投資や雇用が減る
  5. 物価上昇が抑制される

公開市場操作とは国債という名の魔法の杖を売ったり買ったりして金利を操作して、お金の量をコントロールする方法です。

量的金融緩和のしくみ

もう一つお金の量を調節する方法として「量的金融緩和」があります。
量的金融緩和は、日本銀行が2001年3月に世界で初めて導入した政策です。

経済が悪いときや、金利がもうほとんどゼロになってしまって、普通のやり方(政策金利を下げること)では効果がないときに使われます。中央銀行が経済にもっと多くのお金を回すことで、経済を活性化させようとします。

  1. 中央銀行が資産を買い入れる
  2. 市場にお金を増やす

この流れを使ってお金をコントロールします。

中央銀行が買い入れる資産とはどんな資産ですか?

  • 国債(政府が発行する借金の証書)
  • その他の債券(企業の借金の証書や不動産に関連する証書)

なぜ資産を買うの?

  • 市場にお金を流すためです。中央銀行が資産を買うとその分のお金が市場に供給されます。

市場にお金が増えるとどうなる?

  • 金融機関(銀行)や企業は、お金が増えてさらに貸し出しやすくなります。
  • 金利が低くなることで、人々や企業が借りやすくなり消費や投資が増えます。

公開市場操作と量的金融緩和の違い

大まかなイメージをつかむために、単純化して公開市場操作と量的金融緩和を見てきましたが、両者ともほとんど違いがないように思えます。共通点とその違いをまとめると以下のようになります。

2つの共通点

  • どちらも中央銀行が行う金融政策
    景気や物価の安定を目的として、中央銀行が金融市場に介入し金利や資金量を調整する政策です。
  • 金融緩和の一環として実施される
    景気が低迷している場合などに、経済を活性化するために金利を低くしたり、資金量を増やしたりするために用いられます。
  • 国債の売買を通じて行われる
    中央銀行は、公開市場操作や量的緩和策の一環として、金融機関から国債を買い入れたり、売却したりします。

2つの違い

名称公開市場操作量的金融緩和
目的金利の調整資金量の調整
操作方法国債の売買を通じて金利を調整国債の大量買い入れを通じて資金量を増やす
規模比較的小規模比較的大規模
効果短期的長期的
日銀が、短期金利の引き下げを目的として、国債を買い入れる日銀が、景気回復を目的として、大量の国債を買い入れる

まとめ

  • 公開市場操作は、金利を調整することを目的とした小規模な政策です。
  • 量的金融緩和は、資金量を増やすことを目的とした大規模な政策です。
  • 量的金融緩和は、公開市場操作の一種と捉えることもできますが、より積極的な金融緩和策と言えます。

金融緩和と引き締め

中央銀行は国債を使ってお金の量を変化させ、それぞれの金融機関の融資を増やしたり、減らすことを狙っています。それが上手くいけば、世の中お金の量をコントロールすることができます。

お金の量を増やしたいとき、金利を引き下げて、お金を借りたいと思う人を増やすこと、つまり融資を増やそうとします。このことをよく「金融緩和」と呼んでいます。

反対にお金の量を減らしたいとき、金利を上げて、お金を借りたいと思う人を減らします、つまり融資を減らそうとします。このことを「金融引き締め」と呼ばれています。

ニュースなどでも金利が上がった、などとよく言われますが、これは日本銀行が直接金利を決めているわけではなく、金融緩和や引き締めによって、銀行が融資できるお金の量をコントロールしているのです。

金融緩和されれば銀行はより多くのお金を貸し出せるので、金利が下がります。
逆に金融引き締めされれば、銀行は貸し出せるお金が少なくなります。

このように日本銀行(中央銀行)ではお金の量をコントロールして景気を安定させようとしているのです。

まとめ

日本銀行(中央銀行)が行っている大切な仕事の一つ、お金の量のコントロールについて解説しました。

お金の量をコントロールしないと、モノの値段が上下することは昔から知られていました。

古代の中国のように中央政権の力が弱い場合、全国統一の貨幣を作ることは技術的にも難しく、インフラも整っていないので全国で安定した通貨を普及は困難でした。

ヴァイマル共和国のように、お金がかかる戦争によって国内に多くのお金が出回るとモノの値段が上がります。そして政府の圧力によって中央銀行が機能しないと人々は飢えて生活できなくなり、正常な判断もできなくなります。

品質の安定した通貨が流通したとしても、そのお金の量をどのようにコントロースすればよいのかについてはさまざまな理論があります。

お金の量を調節する方法として、公開市場操作、また量的金融緩和と呼ばれる政策があります。

この政策は、中央銀行が資産を買い入れて、市場にお金を供給し、経済を元気にする方法です。
特に、量的金融緩和とは、金利がほとんどゼロの時に行われ、経済活動を促進し、物価を安定させるのが目的です。これにより、お金の流れを良くし、全体的に経済を活性化させることを狙って行われます。

参考文献

ティモシー・テイラー 経済学入門
五銖銭 - Wikipedia
五銖銭 (y-history.net)
武帝(漢) (y-history.net)
ヴァイマル共和政のハイパーインフレーション - Wikipedia

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