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私たちのガバナンス

私たちのガバナンス

皆さんは「ガバナンス」という言葉をどこかで聞いたことがあるでしょうか?

カタカナ英語で分かりずらく、その言葉の意味も、なんとなく経営者側に立ったもののようで、自分には関係のないものに思われる方も多いかもしれません。
「ガバナンス」は、経営者のモノではありません。従業員や社会のメンバーすべての人のもつことのできる大切な考え方です。
「ガバナンス」を知れば、今、社会や自分にとって何が大切か? 何が問題なのか? を、自分で判断できるようになります。

日本のガバナンス問題を中心に一緒に見ていきましょう。

ガバナンスとは

「ガバナンス」とは、組織の持続的な成長と発展のために、各メンバーが自主的に全体の動きを監視・評価することです。
そして、すべてのメンバーの権限や責任を適切に分配し、組織の活動を統制・監督するしくみを指します。

ガバナンスには、組織のメンバーが守るべき規範と、その規範を実現するための仕組みの両方を含む概念です。ガバナンスを強化することは、組織の公正性、透明性、効率性、効果性を高めるために重要です。

けれど、日本のでは「ガバナンス」するのは、つまり、全体の動きを監視するのは経営者だけで十分だ、という間違った考え方が横行しています。
これは、日本が伝統的に「企業を経営者の所有物」と捉え、経営陣の裁量権を尊重する考え方が根強く残っていることが背景にあるからです。
日本の99%は中小企業なので、経営者がオーナー経営者であることが多く、経営陣と取締役会、株主などの利害関係者との間で、ガバナンスの考え方を共有するのが難しいのです。

そのため、日本では、ガバナンスは経営者だけが担うものであり、他の利害関係者は関与する余地がない、という考え方が広まっています。
しかし、ガバナンスは「経営者」だけでなく、すべての利害関係者が関与することで初めて機能するものです。

経営者だけでなく、取締役会、監査役会、社員、株主などの利害関係者全員が、それぞれの立場からガバナンスに参画することで、企業の持続的な成長と発展が実現されます。日本で「ガバナンスするのは経営者だけ」という考え方は改め、すべての利害関係者がガバナンスに参画する意識改革が重要です。

日本人は利益にドライになれない

日本のガバナンスの考え方は、株主の利益だけでなく、従業員や取引先、地域社会などの利益も考慮する「ステークホルダー重視型」です。

従業員や地域社会の利益を第一に考えると、その企業の発展に大きなマイナスになる場合があります。その決断が日本人は苦手ということです。

これは日本が伝統的に企業を社会の一員として捉え、企業の活動が社会全体に与える影響を重視してきたことに由来しています。

しかし、近年では、2000年の三菱自動車のリコール隠し、2015年の東芝の不適切会計、2018年のセブン&アイ・ホールディングスの不正会計など企業の不祥事が相次いだことから、株主の利益を重視する「株主資本主義」の考え方が広まっています。そのため、日本のガバナンスも、株主の権利をより強く保護する方向に改革が進められつつあります。

具体的には、次のような取り組みが進められています。

  • 株主総会の権限強化
    株主総会の権限を拡大し、経営陣の決定をより厳しく監視できるようにする。
  • 取締役会の構成見直し
    社外取締役の割合を増やし、経営陣の監督・監査機能を強化する。
  • 内部統制の強化
    不正や不祥事の防止を目的とした内部統制の構築・運用を徹底する。

これらの取り組みが進めば日本のガバナンスは、今後株主の利益を重視する傾向になっていくと考えられます。

しかし、日本企業の経営者が、株主の利益を重視するガバナンスを受け入れられるかどうかはまだ不透明です。というのも、日本企業の経営者には、従業員や取引先、地域社会などの利益も考慮する考え方が根強く残っているからです。

そのため、日本のガバナンスが、本当に株主の利益を重視する方向に進むためには、次のような経営者層の意識改革が不可欠です。

  • 経営者層にガバナンスに関する教育や研修を実施し、ガバナンスの重要性やすべての利害関係者が関与する意義を理解させる。
  • 取締役会や監査役会などの役割や機能について、社員や株主などの利害関係者に周知しガバナンスへの理解を深める。
  • 社員や株主などの利害関係者が、ガバナンスに関与するための機会や仕組みを整備する。

中小企業の多い日本でガバナンス強化は難しいのですか?

しかし、日本は中小企業の割合が99%以上と、とても多いためガバナンスの強化が難しいという側面があります。

中小企業は、経営資源の予算が限られているため、ガバナンスに関する制度や慣行を整備するためのコストを負担できません。

この問題に対し、日本政府は中小企業のガバナンス強化に向けた取り組みが進められています。

例えば、中小企業向けのガバナンスに関する情報や支援の充実、経営者への教育、また制度や慣行の見直しがあります。

また「中小企業ガバナンス・コード」を策定し、中小企業のガバナンスに関する基本的な考え方を示すとともに、具体的な対応策を示すガイドラインを公表しています。また、民間団体においても、中小企業のガバナンスに関するセミナーや研修を実施するなど、支援を行っています。

これらの取り組みにより、中小企業のガバナンスの強化が進み、企業の持続的な成長と発展、そして社会の信頼の向上が実現さることが期待できます。

第3章 第2節 成長力強化に向けて企業の積極的な行動を促す仕組み - 内閣府 (cao.go.jp)
デジタルガバナンス・コード (METI/経済産業省)

世界のガバナンス比較

ここで世界のガバナンスが良く効いている国を挙げてみましょう。

  • イギリス
  • アメリカ
  • オランダ
  • スウェーデン
  • ノルウェー

これらの国では、ガバナンスに関する制度や慣行が整備されており、企業の意思決定や業務運営が、透明性・公正性・効率性をもって行われています。

具体的な内容には次のようなものが挙げられます。

  • 取締役会の独立性・専門性の向上
  • 社外取締役の割合の増加
  • 内部統制の強化
  • 株主総会の権限の強化

これらの取り組みにより、企業の不正や不祥事の防止、経営の効率化、企業価値の向上が図られています。

また、これらの国では、ガバナンスの重要性に対する意識が高く、企業や政府、投資家などが、ガバナンスの強化に向けた取り組みを積極的に進めています。

一方で、ガバナンスが良く効いていない残念な国を挙げてみましょう。

  • 中国
  • インド
  • ブラジル
  • ロシア
  • アフリカ諸国

これらの国では、ガバナンスに関する制度や慣行が整備されておらず、企業の意思決定や業務運営が、透明性・公正性・効率性をもって行われていません。

具体的な問題としては、下のようなものが挙げられます。

  • 取締役会の独立性が低い
  • 社外取締役の割合が少ない
  • 内部統制が不十分
  • 株主総会の権限が弱い

これらの国では、企業の不正や不祥事が頻発していて企業価値の向上が阻害されています。
また、これらの国では、ガバナンスの重要性に対する意識が低く、企業や政府、投資家などが、ガバナンスの強化に向けた取り組みを積極的に進めていないという課題がある国です。

アメリカのガバナンスの考え方

アメリカでの「ガバナンス」とは、企業の意思決定や業務運営で株主の利益を最大化することを主な目的としています。そしてそのガバナンスの重要な3つの要素として、

  • 株主の権利の保護
  • 経営陣の責任の明確化
  • 透明性と説明責任の確保

この3つが強く意識されています。

アメリカでは、企業は株主から資金提供を受けることで事業を展開することができます。そのため株主の利益を最大化することは、企業の存在意義そのものであると考えられています。

具体的には、アメリカでは、以下のようなガバナンスの制度や慣行が存在しています。

  • 単一株主代表制
    1株1議決権の原則に基づき、すべての株主が平等に経営に参画する制度。
  • 株主総会の権限
    株主総会は、取締役の選任・解任、定款の変更などの重要な事項を決定する権限を有する。
  • 取締役会の責任
    取締役会は、経営陣の監督・監査を行う役割を担う。
  • 内部統制の構築・運用
    企業は、不正や不祥事を防止するために、内部統制の構築・運用を行う必要がある。

近年、アメリカでも企業の不祥事や金融危機などの問題を契機に、ガバナンスの強化が求められています。そのため、上記のような制度や慣行の見直しや強化が進められており、今後もガバナンスの重要性がますます高まっていくと考えられます。

なお、アメリカのガバナンスは、日本やヨーロッパなど他の国々と比べて、株主の利益を重視する傾向が強いです。
これは、アメリカの資本主義社会において企業の役割は、株主の利益を最大化することであるとの考え方が根強く残っていることが背景にあります。
日本とアメリカではガバナンスに対する考え方は大きく違いますが、企業の持続的な成長と発展を願う気持ちは同じです。取り入れられるところは積極的に取り込んで、日本の成長に結び付けていく必要があるでしょう。

ガバナンスの強化は利益を上げることですか?

ガバナンスを強化するのは「株主」の利益を最大化するため、だけなのでしょうか?

実は、ガバナンスを強化することは、利益を上げることだけに必ずしも直結するわけではありません。

ガバナンスの目的は、企業の持続的な成長と発展を実現することです。そのためには、企業の意思決定や業務運営が、透明性・公正性・効率性をもって行われることが重要です。

ガバナンスが強化されれば、以下のようなメリットが期待されます。

  • 不正や不祥事の防止
    ガバナンスの強化により、経営陣の独断や不正を防ぐことができ、企業の信頼を高めることができます。
  • 経営の効率化
    ガバナンスの強化により、経営陣の意思決定の透明性や公正性が向上し、経営の効率化につながります。
  • 企業価値の向上
    ガバナンスの強化により、企業の透明性や信頼性が向上し、企業価値の向上につながります。

これらのメリットは、いずれも企業の持続的な成長と発展につながるものです。そのため、ガバナンスが強化されると、利益の向上につながる可能性は高くなります。

しかし、ガバナンスの強化が必ずしも利益の向上につながるとは限りません。

例えば、ガバナンスの強化によって経営判断ののスピードが遅くなると、競争力を失って利益が減少する可能性があります。また、ガバナンスの強化に伴うコストは利益を圧迫する可能性もあります。

そのため、ガバナンスを強化する際には、利益の向上だけでなく、そのメリットとデメリットをよく検討すること、そしてそれを継続的に改善、改良していくことが何よりも大切です。

このような点に留意して、ガバナンスの強化を進めることで、利益の向上と企業の持続的な成長と発展の両立を図ることができるでしょう。

まとめ

ガバナンスとは、その組織の持続的な成長と発展をするために、組織のメンバー全員が主体的に全体の動きを監視・評価することです。
それぞれの権限と責任が適切に配分され、守るべき規範となります。

日本では経営者だけがそれを担う役割であるという考えが大きいため、ますは、すべての利害関係者がガバナンスに参加する、という意識改革を進めることが重要です。
また人情から経営にとって不利だったとしても決断できない場合が多く不利益を膨らましがちです。第3者からの目線を取り入れ冷静な判断ができるようなしくみをつくらなければいけません。

参考文献

ティモシー・テイラー 経済学入門
コーポレートガバナンスに関する各種政策について (METI/経済産業省)

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