ぽれぽれ経済学

貧困と福祉

「市場経済」は貧富の差を生みやすいシステムといわれています。
だからといって「計画経済」が良いのかといえば、計画経済を取った国でも貧富の差はなくならず、さらにすべての人の生活水準が下がる傾向があります。生活水準が下がれば貧困におちいる人々も増えていくので良い方法とは言えません。

「市場経済」は最善な方法ではないかもしれませんが、知られている中では一番良い方法なので、なんとか工夫していこう、というのが多くの国の方針です。

ここではそんな社会のシステムの中でいつも問題になる「貧困」とその対策について解説します。貧困はなぜ生まれ、その対策にはどんなものがあるのか見ていきましょう。

市場経済と貧困

まず「市場経済」とその反対の意味の「計画経済」についておさらいしておきましょう。

計画経済

国がすべての生産や分配を決める社会

市場経済

全ての人が自由に売買を行うことが出来る社会

市場経済とは、モノの売買をすべての人が自由にできる社会のことです。
すべての人が自由に売買できれば競争が激しくなるので、ときには失業者がたくさんでてしまい貧困におちいる人が増えることがあります。

計画経済とは、その市場経済の欠点を補うためにつくられた考え方です。
一部の偉い人がその国が何をどれだけ作るか先に計画してしまいます。市民はその計画どおりにモノを生産しなければいけません。計画通りにいけば競争もなく、売れ残りもなくなり、失業者もでない、と考えられました。

しかしどちらの政策をとっても「貧富の差」がなくなることはありませんでした。

計画経済で貧富の差が生まれる主な原因は2つです。

  • 一部の権力者がすべてを決めることに無理があった
    その土地の気候や特徴、そして急な天候の変化によってその年につくることが出来る農産物の量は違ってきます。計画が達成できなくて罰せられることになれば、それを逃れるためのごまかしやわいろが生まれ、官僚にお金が流れていきました。
  • 競争がないので人々の労働意欲がわかない
    働いても、働かなくても同じ分しかもらえない場合、人々はやる気を失い、動かなくなるので生産高が落ち必要な食料がつくられなくなります。

そして私たちのとっている市場経済での「貧富の差」はどのような理由で生まれるのでしょうか? 

  • 人気のあるものに富が集中する
    市場経済は市場の需要と供給によって価格が決まるシステムです。 そのため、特定のモノやサービスの需要と供給が大きいとき、その生産に携わる人々は富を獲得しやすくなります。逆に需要や供給が少ないものやモノやサービスの生産に携わる人々は、富を獲得しにくくなります。
  • 一人一人の能力の差
    市場経済では、人々の所得はその人が市場で提供できる労働力や所有する財産によって決まります。そのため労働力や財産の少ない人は、必然的に所得が少なくなり、貧富の差が生じやすくなります。
  • 資本家に富が集中する
    資本主義においては、資本家が労働力を雇用してモノやサービスを生産します。そのため、資本家は労働者に賃金を支払う一方で、生産活動から得られる利益を獲得します。この利益が資本家の富を増やすことにつながります。

市場経済だけが必ずしも貧富の差を生み出すわけではありませんが、その差を縮小するには市場に任せるだけではなく、政府が適切な政策を実施することが必要です。例えば、政府が教育や医療などの社会保障を充実などが、貧困層の生活水準の向上が期待できます。

そもそも貧困とは

日本で「貧困」とはどのように計算されているのか簡単に見ていきましょう。

貧困は、主に「相対的貧困」として算出されています。相対的貧困とは世帯の可処分所得が世帯人員の平方根で割った等価可処分所得の中央値の半分未満である状態を意味します。

具体的には、厚生労働省が実施する「国民生活基礎調査」を元にして世帯の「可処分所得」を調査しています。可処分所得とは、収入から税金や社会保険料などの支出を差し引いた金額のことです。この調査結果をもとに、世帯人員の平方根で割った等価可処分所得の中央値を算出します。そして、その中央値の半分を「貧困線」として設定します。

2022年の貧困線は、単身世帯で約127万円、2人世帯で約175万円、3人世帯で約215万円、4人世帯で約248万円となっています。

貧困率とは、人口に占める貧困層の割合です。日本の貧困率は、2022年で約15.3%となっています。これはOECD加盟国の平均の上回る貧困率で、またG7の中で最も高い割合です。

ちなみにこの日本の貧困の算出方法は、あくまでもひとつの指標です。開発途上国では、絶対的貧困率が使用されることが多いです。これは、最低限の生活を送るために必要な最低限の所得を下回っている人の割合を示すものであり、世界銀行が定めた1日1.9ドル(約220円)が基準として使用されています。

貧困の定義や算出方法は、国によって異なるため、日本の貧困の実態を正確に把握するためには、さまざまな角度から検討する必要があります。

日本の貧困対策

日本の貧困対策は、主に以下の3つの柱から構成されています。

  • 教育支援
  • 経済支援
  • 就労支援

教育支援
教育支援は、子どもたちが貧困から抜け出すための重要な要素です。義務教育の就学援助や高等学校等就学支援金制度など、子どもの教育費を支援する制度があります。
また、子どもの貧困を解決するためには、教育の質を高めることも重要です。近年では、学力格差や教育格差の解消に向けた取り組みが進められています。
教育:文部科学省 (mext.go.jp)

経済支援
経済支援は、貧困世帯の生活を支えるためのものです。生活保護や児童扶養手当など、生活に困窮している世帯を支援する制度があります。また、貧困世帯の経済的自立を支援するために、就労支援や起業支援などの取り組みも進められています。
生活保護を申請したい方へ|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
特別児童扶養手当・特別障害者手当等 |厚生労働省 (mhlw.go.jp)

就労支援
就労支援は、貧困世帯の就労機会を創出するためのものです。就労訓練や職業紹介など、就労に困難を抱える世帯を支援する制度があります。また、貧困世帯の就労意欲を高めるために、教育やキャリア支援などの取り組みも進められています。
仕事をお探しの方へ|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

近年では、貧困対策に取り組む民間団体も増えています。これらの団体は、教育支援や生活支援、就労支援などさまざまな分野で貧困対策に取り組んでいます。しかし、相対的貧困率は依然として高く貧困の解消にはさらなる努力が必要です。

貧困から抜けだしてもらうためには

「人に魚を与えれば1日で食べてしまうが、釣りを教えれば一生食べていける」という分かりやすい古い言い伝えがあります。

この言葉の意味は「人に魚を与えると一時的な飢えを満たすことができます、けれど魚の釣り方を教えれば、その人が自分で魚を獲ることができるようになるため一生涯の糧となる」という教えです。

この教えのように貧困対策は、貧困層に直接的に現金や食料を配給するだけではなく、教育や就労支援などを通じて自立して生活できる力を身につけてもらうことが大切です。

貧困から抜け出すための3つのポイント

  • 自立した生活を送るための力を身につける
  • 自分で問題を解決する力を身につける
  • 継続的に学び、成長する力を身につける

貧困の罠

けれど現実的には難しい面がたくさんあります。
当面の生活費を与えることと、長期的な教育訓練との間には共存できない関係になるからです。
釣りの練習をしている間、なにも食べないというわけにはいきません。けれど練習している間だけ魚を与えて、釣りを覚えたらいきなり魚を取り上げていいのでしょうか? また、魚をもらうことに慣れてしまって、釣りを覚えようとしなくなる人はいないのでしょうか?

貧困を助けるためのプログラムには、つねにそうした葛藤がつきまといます。金銭支援が充実していて働くより支援を受けたままでいる方が有利な場合、自分で何とかしようという意欲がなくなり、支援の意味がなくなってしまいます。このような「貧困の罠」にかからないように、貧困支援は次のような支援をバランスよく行うことが大切です。

  • 経済的な支援の充実
    生活保護を受給する人の経済的な負担を軽減することは、働く意欲を高めるうえで重要なことです。政府は生活保護の給付額の引き上げや、生活保護受給者に対する税金の減免などの対策を講じています。
  • 精神的な支援の充実
    生活保護を受給する人はさまざまな理由で困窮しています。そのため精神的な支援を受けることで働く意欲を高めることができます。例えば就労支援や生活相談窓口が各行政機関にあり支援を受けることが出来ます。
  • 社会的・制度的な支援の充実
    生活保護制度には働く意欲を高めるための支援が十分に整備されていないという指摘もあります。そのため就労訓練や就職支援、また職場に定着支援事業などを充実させることが重要です。

また、一人一人に合ったきめ細やかな対策には政府や自治体だけでなく、民間やNPOの力を借りる方法もあります。政府の支援を受けた民間企業による就労支援事業の実施やNPOによる生活相談事業の実施、地域コミュニティによる見守り・支援活動は、個人に合わせたプログラムをつくるのに最適です。

私たちができることは、貧困に陥っている人に対して生活ギリギリのお金を分け与えることではありません。目まぐるしく変化と成長を続けていく社会の中で、自分の力で生きていけるだけの技能を身につけてもらうことなのです。

まとめ

貧困とその支援について解説しました。
私たちの住む市場経済のシステムでは、人気のあるモノに富が集中すること、一人一人の能力に差があること、そして資本家に富が集中する社会になっています。そのため貧困に陥る人が生まれます。

貧困とは国によってその算出方法が違います。日本では全国民の平均の収入からどれだけ離れているかを元にして貧困の度合いを測っています。そしてその計算を元に支援が決められていきます。

支援は支援金や税金の減額また就労支援などですが、支援金を分け与えることだけでは、働く意欲が失われることがあります。一人一人が自立した生活を取り戻せるように、精神的な支援も同時に行っていくことが大切です。

参考文献

経済学入門 ティモシー・テイラー
日本における貧困の実態 | グラミン日本 (grameen.jp)

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