前回は企業の「独占」について見てきました。
「独占」とは、ある企業が特定のサービスや商品の販売を独占していることです。独占はその事業の規模が大きいほど起こりやすい特徴があります。それは一度大きな事業が決まってしまうと、次に参入するのは資金面や顧客集めも苦戦する場合が多く新規参入が難しくなるからです。
次にここでは、独占よりも少し競争が見られる「独占的競争」について解説します。
「独占的競争」は、私たちの日常生活のあらゆる場面で見ることができます。例えば、スーパーマーケットの食品売り場、レストラン街、衣料品店などが「独占的競争」に日々さらされています。
「独占的競争」とはいったいどんな競争なのでしょうか?
独占的競争ってなんだろう?
独占的競争が行われている市場には「独占企業」の時とは違って、多くの企業が存在しています。そして多くの企業が互いに「差別化」された商品を生産して競い合っています。
商品を「差別化」するとは、どういうことでしょうか?
それは、お互いの商品は似ているけれど、よく見ると違うところがあるというような場合のことです。
例えば、Tシャツを買いに行くとしましょう。お店にはジーンズやチノパン、スラックスなどさまざまな色や形がそろっています。気に入ったものがなければほかの店を回るでしょう、そこでまた違ったデザインのものが見つかります。つまり同じズボンを扱っているけれど、そのラインナップに差があるという状態です。
また、場所によっても差別化が生まれることがあります。
近所にあるガソリンスタンドはよく利用すると思いますが、隣町のスタンドまで行くことはあまりないでしょう。同じガソリンを扱っていても、お店のある場所によって利用しやすさに差がでるのです。
また、消費者へのサービスで差別化する企業もあります。
ガソリンスタンドによって値段やサービスに差があるのはよくありますし、割引チケットやポイントカードなどのその店舗の特別サービスをして他者との差別化を図っています。
同じ製品を扱っていてもデザインやサービスに違いを出して競争すること、このような競争のことを「独占的競争」と呼んでいます。
独占的競争の特徴
独占的競争が起きやすい市場には、こんな特徴があります。
- 多くの企業が存在する
独占的競争市場には、完全競争市場と同様に多くの企業が存在します。そのため、企業は価格を自由に設定することができず、競争によって価格が下がる傾向があります。
- 差別化された製品が存在する
独占的競争市場では、個々の企業が差別化された製品を生産しています。そのため、企業は価格以外の要素で顧客を獲得するのです。
- 参入障壁が低い
独占的競争市場では、参入障壁が低いため、新しい企業が容易に参入することができます。そのため、既存企業は競争を維持するために、常に新製品やサービスの開発に努めています。
独占的競争が起こりやすい職種
独占的競争はライバルがたくさんいて、参入障壁がひくい業種です。つまり下のような業種が独占的競争をすることになります。
- 食品:スーパーマーケット、コンビニエンスストア、レストラン
- 衣料品:アパレルショップ、百貨店
- 家電:家電量販店
- サービス:ホテル、レストラン、理容店
どの業種も多くの企業が参加し、似たような商品やサービスを提供しています。独占的競争のない社会は、お店に行っても商品がほとんど並びません。いつも同じ服や靴、同じパンが店に並んでいるだけです。消費者は商品やサービスをほとんど選べなくなります。独占的競争は、私たちの生活に欠かせない競争なのです。

独占的競争市場の価格の決まり方
では気になる独占的競争での「価格」の決まり方はどのように決まるのでしょうか?
独占的競争にある市場でも価格は需要の「弾力性」で決まります。
ただ、独占的競争にある商品は「弾力性」が低かった(価格が高くなっても売り上げ数が変化しにくい製品)としても、独占市場のように自由に価格を引き上げることはできません。ライバルがたくさんいるため、高い値段にすると顧客を取られてしまうからです。
独占的競争には、独占と違って初期投資が安いので、新しい競争相手が参入する障壁が低いです。そのためどこかで商売がうまくいっていると、続々と新規オープンが続きます。
入れ替わりが激しい市場ですが、逆にブームに乗るなどして短期的には大きな利益を上げられます。けれどライバルが多いので、長期的には利益を上げるのが難しい傾向があります。どこかで儲かっているとすぐに他の企業が参入し、価格が引き下げられていくので儲けが引き下げられていってしまいます。
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独占的競争のメリットとデメリット
独占的競争は消費者にどんなメリットがあるのでしょうか?
独占的競争は各企業が差別化を図るため、常に流行を意識し様々な新商品開発に取り組みます。そのため市場には、常に新しい機能を持った、より優れた商品がたくさん並びます。そのため消費者は自分の好みに合った商品を選ぶことができます。
独占的競争は自由市場の多様化にもつながります。市場にさまざまな企業や商品・サービスが存在するので、消費者の選択肢を広げ、価格や品質の向上します。
けれど、自由市場の多様化は、どの程度が望ましいものなのでしょうか?
これは経済学の中でも大きなテーマの一つになっています。
多様化はあった方が良いでしょう、どこかの国のように長靴が1種類しかなかったり、パン屋に長蛇の列が出来たりする町は住みにくいです。けれど長靴の種類が何百種類もあるような世界が本当に望ましいものなのか、経済学者ものそれはまだ良く分かっていないのです。
まとめ
独占的競争について解説しました。
独占的競争は、完全競争市場と独占市場の中間に位置する市場です。商品やサービスの価格は完全競争市場よりも価格が高く、独占市場よりも価格が低くなる傾向があります。また、参入障壁が低いため、競争が活発になり、消費者利益が高まるのが特徴です。
独占的競争にある業種は、コンビニ、スーパー、レストラン、家電量販店、ホテルなど私たちの身近にたくさんあります。それぞれが同じような商品やサービスを提供しているので差がほとんどありません。各企業はそのわずかな差を前面に押し出して「差別化」に力を入れています。独占的競争のある社会には商品やサービスがたくさん並び、消費者は自分に合ったものを選ぶことができます。この好循環が経済を動かす原動力になっていきます。
参考文献
経済学入門 ティモシー・テイラー