私たちが何かを欲しいと思う気持ちは商品の価格にどのような影響があるのか、気になりませんか?
「私たちがどう考えていても商品の価格に影響はないだろう」と考えている方も多いかもしれません。
私たちの嗜好がすべての価格に大きな影響を与えているわけではありませんが、価格は私たちの嗜好ととても関連性があります。そんな私たちの嗜好、そして農家や企業側の供給の関係について経済学では一つの指標を設定しています。
それが「弾力性」と呼ばれるものです。
経済学における弾力性とは、ある変数の変化率ともう1つの変数の変化率の比で表される指標です。比率が大きく変化するとき、「弾力的だ」といい、比率があまり変化しないとき「非弾力的」と言います。
弾力性は企業が価格を設定するときに重要な指標のひとつです。
企業がどのような戦略で価格をつけているのかを知れば、買い物をするときにより厳しい目で商品を見れるようになります。
かしこい消費者になるために、経済学の視点を生活に取り入れましょう。
価格の弾力性
経済学における弾力性とは、ある変数の変化率ともう1つの変数の変化率の比で表される指標です。一般的に、「AのB弾力性」という表現で用いられ、Bの変化に対してAがどれくらい変化するかを表します。
例えば、需要の価格弾力性であれば、商品の価格が1%変化したとき、需要が何%変化するかを表します。
弾力性は英語で 「elasticity」、 elastic は英語の「柔軟」からきています。
弾力性とは、売り上げ、つまり需要がまるでゴムのように伸びたり、縮んだりすることに例えてつけられています。
要するに、「お客さんは価格をどのくらい上げても平気で買ってくれるのか?」を販売者側が知るための一つの指標になっています。
需要と供給のそれぞれについて弾力性が高い場合、低い場合について具体的な例を挙げて詳しくみていきましょう。
需要の弾力性が低い具体的な例
需要の弾力性が低い商品は、価格が変動しても需要が大きく変化しない商品です。以下に、いくつかの例を挙げます。
1.生活必需品
- 食料品: 米、パン、野菜、肉類など
- 水道代、電気代、ガス代などの公共料金
- 医薬品
- 住宅
生活必需品は、生活に欠かせない商品であるため、価格が多少変動しても購入を控えることができません。
例えば、食料品価格が値上がりしても、ある程度までは購入を我慢するでしょうが、大幅に値上がりすれば、食生活の内容を変更したり、節約できますが完全に購入をやめることは考えにくいからです。
2.ブランド品
- 高級ブランドの衣料品、バッグ、時計など
- 高級車
ブランド品は、品質やステータス性などの付加価値が高い商品であるため、価格が多少変動しても購入する人の多い商品です。むしろ、値上げによって希少価値が高まると考える消費者もいるでしょう。
3.嗜好品
- タバコ
- アルコール飲料
- ギャンブル
嗜好品は、習慣性や依存性がある商品であるため、価格が多少変動しても購入を控えることができません。むしろ、値上げによって購入を抑制しようとする政府の政策に対して、反発する消費者もいるでしょう。
4.医療サービス
- 手術
- ガン治療
- 透析
医療サービスは、生命や健康に関わる重要なサービスであるため、価格が多少変動しても利用を控えることができません。むしろ、高額な医療サービスでも、必要であれば受けるでしょう。
5.教育
- 大学教育
- 塾
教育は、将来のキャリアや人生に大きな影響を与える重要な投資であるため、価格が多少変動しても受けることを控えることができません。むしろ、高額な教育でも、将来の利益につながると考える親は多いでしょう。
これらの例以外にも、需要の弾力性が低い商品には武器があります。
武器は他に代わりになるモノがないので、弾力性は低く売り手の言い値になり高額になります。
需要の弾力性は、商品の種類だけでなく、消費者の所得や代替品の存在など、様々な要因によって決まります。
需要の弾力性が低いことのメリットとデメリット
需要の弾力性が低い商品は、価格変動の影響を受けにくいというメリットがあります。そのため、企業は価格競争に巻き込まれにくく、安定的な収益を上げることができます。
一方、需要の弾力性が低い商品は、価格戦略の効果が限定的というデメリットもあります。例えば、値下げしても需要が大きく増加しないため、販売には工夫が必要となります。
需要の弾力性が高い具体的な例
需要の弾力性が高い商品は、価格が変動すると需要が大きく変化する商品です。以下に、いくつかの例を挙げます。
1.嗜好品・贅沢品
- 高級ブランドの衣料品、バッグ、時計など
- 高級車
- 旅行
- 外食
- ジュエリー
嗜好品や贅沢品は、生活必需品ではないため、価格が変動すると購入を控える消費者が多いです。
例えば、高級ブランドのバッグが値上げされると、別のブランドのバッグを購入したり、購入自体を先延ばしにする人が増えます。
2.代替品が多い商品
- 食料品: 米、パン、野菜、肉類など
- 日用品: 洗剤、シャンプー、ティッシュなど
- 家電製品: テレビ、冷蔵庫、洗濯機など
代替品が多い商品は、価格が変動すると、消費者は別の商品に代替しやすいです。
例えば、米が値上げされると、パンや麺類に代替したり、量を減らしたりするでしょう。
3.所得弾力性が高い商品
- 高級住宅
- 高級外車
- ヨット
所得弾力性が高い商品は、所得が上がると需要が大きく増加する商品です。
例えば、高級住宅は、所得が高い人しか購入できないため、所得が上がると需要が大きく増加します。
4.短期的な需要変動が大きい商品
- ファッション 流行の最先端を行く衣料品など
- イベント: コンサート、スポーツ観戦チケットなど
短期的な需要変動が大きい商品は、一時的に需要が急増したり、急減したりする商品です。
例えば、流行の最先端を行く衣料品は、流行が過ぎると需要が急減します。
5.価格が比較的安価な商品
- 菓子パン
- ペットボトル飲料
- ファストフード
価格が比較的安価な商品は、消費者が気軽に購入できるため、価格が変動すると需要が大きく変化しやすいです。例えば、菓子パンが値上げされると、購入量を減らしたり、別の商品に代替したりするでしょう。
需要の弾力性が高いことのメリットとデメリット
需要の弾力性が高い商品は、価格戦略の効果が大きいというメリットがあります。
例えば、値下げによって需要を大きく増加させることができます。
一方、需要の弾力性が高い商品は、価格変動の影響を受けやすいというデメリットもあります。そのため、企業は常に市場動向を注視し、適切な価格設定を行う必要があります。
需要の弾力性がちょうど等しくなる具体例
需要の弾力性が1になる、つまり価格と需要量が同割合で変化する具体的な例を見ていきましょう。
- 嗜好品
嗜好品とは、消費者が価格に関係なく購入する財・サービスです。
例えば、高級ブランド品、希少価値の高いコレクターズアイテムなどが挙げられます。嗜好品の場合、価格が多少上がっても、消費者は代替品に切り替えにくい傾向があります。そのため、需要量の変化は価格変化に対して比較的鈍感になり、需要弾力性が1近辺になることが考えられます。
例 高級ブランドのバッグ。価格が10%上がっても、熱狂的なファンは購入を続ける可能性が高い。 - 短期的な需要
短期的には、消費者の需要は価格に対して比較的非弾力的になる傾向があります。これは、消費者がすぐに代替品を見つけたり、生活習慣を変えたりすることが難しい場合があるためです。
例えば、ガソリンや電気などの必需品は、短期的には価格上昇の影響を受けにくいと言えます。
例 ガソリン。短期的には、公共交通機関への乗り換えなど、代替手段が限られているため、価格上昇の影響を受けにくい。 - 錯覚財
錯覚財とは、消費者が価格が高いほど質が高いと誤解している財・サービスです。
例えば、高価なワインや高級レストランなどが挙げられます。錯覚財の場合、価格が上がることで需要が増加する可能性があり、需要弾力性が1を超えることもあります。
例 高級ワイン。価格が高いほど、消費者はそのワインが質の高いものであると考える傾向があり、需要が増加する可能性がある。
これらの例はあくまでも代表的なものであり、すべての嗜好品、短期的な需要、錯覚財が需要弾力性1になるわけではありません。実際の需要弾力性は、個々の財・サービスや市場環境によって異なることに注意する必要があります。
需要弾力性が1になるかどうかは、企業にとって重要な意味を持ちます。需要弾力性1の場合、企業は価格を上げても売上は減少しないため、利益を最大化することができます。一方、需要弾力性1より小さい場合、価格を上げると売上減少につながるため、企業は価格戦略に慎重になる必要があります。
その他の例
上記以外にも、需要弾力性が1になる可能性のある例としては、以下のようなものが挙げられます。
- 価格差別化された市場
企業が異なる顧客層に異なる価格で販売している場合、それぞれの顧客層における需要弾力性が異なる可能性があります。 - 政府による規制
政府による価格規制や補助金などが、需要弾力性に影響を与える可能性があります。 - 技術革新
新しい技術の出現によって、代替品が開発されたり、生産効率が向上したりすることが、需要弾力性に影響を与える可能性があります。
これらの例以外にも、供給の弾力性の高い商品はたくさんあります。一般的には、以下の商品・サービスは供給の弾力性が高い傾向があります。
- 嗜好品や贅沢品 (例:宝石、ブランド品)
- 代替品が多い商品 (例:食料品、日用品)
- 短期間で生産できる商品 (例:農産物、加工食品)
- 生産設備の稼働状況を調整しやすい商品 (例:衣料品、電子機器)
供給の弾力性が低い具体例
次に、供給側を見ていきましょう。
供給の弾力性が低いとは、価格が変化しても供給量が大きく変化しないことを意味します。
- 生活必需品
水、電気、ガスなどの生活必需品は、価格が多少変動しても、消費者は生活のために購入せざるを得ません。そのため、供給の弾力性が低い傾向があります。
例えば、電気料金が値上げされても、多くの人は節約する努力はしても、電気を使わないという選択肢は選びません。 - 独特な専門知識や技術が必要な製品・サービス
医療機器や航空機などの製品、高度な専門知識や技術が必要とされるサービスなどは、供給者数が限られている場合が多く、供給量をすぐに増やすことができません。そのため、供給の弾力性が低い傾向があります。 - インフラ
道路、橋、鉄道などのインフラは、建設に時間がかかり、莫大な費用がかかります。そのため、価格が変化しても、供給量をすぐに増減することはできません。 - 希少価値の高い商品
天然ダイヤモンドや骨董品などの希少価値の高い商品は、供給量を増やすことが困難な場合が多く、供給の弾力性が低い傾向があります。 - 短期間に生産できない商品
ワインやチーズなどの商品は、熟成期間が必要なため、短期間で供給量を増やすことができません。そのため、供給の弾力性が低い傾向があります。
これらの例以外にも、供給の弾力性が低い商品はたくさんあります。
一般的には、以下の商品・サービスは供給の弾力性低い傾向があります。
- 代替品が少ない商品 (例:生活必需品)
- 供給に時間がかかる商品 (例:インフラ、住宅)
- 技術革新の影響を受けにくい商品 (例:伝統工芸品)
- 政府の規制を受けている商品 (例:医薬品、たばこ)
供給の弾力性低い商品は、価格変動の影響を受けにくく、安定した利益を上げやすいという側面があります。一方、供給の弾力性高い商品は、価格変動の影響を受けやすく、利益率が不安定になりやすいという側面があります。
供給の弾力性が高い具体例
供給の弾力性が高いとは、価格が変化したときに、供給量が大きく変化することを意味します。
- 農産物
農産物は、天候や害虫などの影響を受けやすく、収穫量に大きな変動が生じます。
そのため、価格が上昇すると、農家はより多くの土地を耕作したり、肥料や農薬の使用量を増やしたりして、供給量を増やすことができます。逆に、価格が下落すると、農家は栽培を控えたり、廃棄したりして、供給量を減らさなければなりません。 - 鉱産物
鉱産物は、採掘量を増減することで供給量を調整することができます。しかし、採掘には時間がかかり、設備投資も必要となるため、短期的な価格変動には対応しにくいという側面もあります。 - 加工食品
加工食品は、原材料となる農産物や鉱産物の価格変動の影響を受けますが、それ以外にも、生産設備や人材の調達状況などによって、供給量を調整することができます。 - 衣料品
衣料品は、海外からの調達が多い場合、為替レートの変動によって供給価格が大きく変化することがあります。また、ファッションの流行などによって需要が変動することもあり、それに応じて生産量を調整することができます。 - 電子機器
電子機器は、部品の調達状況や生産設備の稼働状況によって、供給量を調整することができます。また、技術革新によって新しい製品が次々と開発されるため、短期間で供給量を大幅に増減することが可能です。
供給の弾力性が等しい具体例
供給の弾力性 1 となる例は、現実世界では非常にまれです。
理論上は存在するものの、多くの要因が複雑に絡み合い、供給量と価格の関係が常に 1 である状況を維持するのは困難です。
しかしながら、以下のようなケースでは、供給の弾力性が 1 に近似する可能性があります。
- 短期的な市場
短期間であれば、企業は生産量を大幅に増減することが難しいため、供給量と価格の関係が 1 に近似する可能性があります。
例えば、農産物の場合、収穫量はある程度決まっており、短期間で増やすことはできません。そのため、価格が上昇しても、供給量は大きく変化しない可能性があります。 - 政府による価格統制
政府が価格を規制している場合、供給量と価格の関係は 1 になります。
例えば、公定価格制度では、政府が定めた価格でしか商品を販売することができないため、企業は価格を自由に設定することができません。 - 市場に参入・退出する企業が少ない
市場に参入する企業や退出する企業が少ない場合、供給量は大きく変化しないため、供給の弾力性が 1 に近似する可能性があります。
例えば、独占企業の場合、市場に他の競合他社が存在しないため、供給量を自由にコントロールすることができます。 - 代替品の存在
代替品が存在する場合、価格が上昇すると、消費者は代替品に切り替える可能性があります。そのため、供給量は大きく変化せず、供給の弾力性が 1 に近似する可能性があります。
これらの例以外にも、供給の弾力性が 1 に近似する可能性があるケースは考えられます。しかし、あくまでも理論的な可能性であり、現実世界では様々な要因が複雑に絡み合い、供給量と価格の関係は常に変化しています。
企業にとって、自社の取り扱う商品・サービスの供給の弾力性を理解することは、価格戦略を立てる上で非常に重要です。
供給の弾力性が高い商品は、価格変動の影響を受けやすく、利益率が不安定になりやすいという側面があります。一方、供給の弾力性低い商品は、価格変動の影響を受けにくく、安定した利益を上げやすいという側面があります。
まとめ
需要や供給に対してどのような割合で価格は変化していくのかを表わす指標である「弾力性」について解説しました。
需要が落ちても上がっても価格が変化しにくい商品を「需要の弾力性が低い」
需要が変化すると価格が大きく変化する商品は「需要の弾力性が高い」
供給が変化しても価格に変化が起きにくい商品を「供給の弾力性が低い」
供給が変化すると価格が大きく変化する商品を「供給の弾力性が高い」
需要と供給の変化と価格は同じように変化する場合
がありました。
弾力性は、変化の割合を量ではなく、比率で表しているため、商品が違っても、また時代や国、通貨が違っても同じように比べられます。
次回は、引き続き「弾力性」を使って、商品の適正な値段がどこにあるのか? 価格を変えたとき需要と供給がどのように変化するのか予測する方法についてさらに詳しく解説します。
参考文献
ティモシー・テイラー 経済学入門