あなたはモノの価格がどのように決まるか知りたくないですか?
モノの価格は「買いたい人と売りたい人の思惑」が交差しているところに決まってきます。
実際には価格はそれだけで決まるわけではありません。
価格の設定に大きな影響を与えるものとして「政府の価格規制」があります。
価格規制は、政府が特定の商品の価格の上限や下限を設定することで、市場の価格メカニズムに介入する政策です。この政策は消費者が安定してモノを買うことができること、特定の産業の衰退を防ぐことなどのメリットがある反面、市場の自然なメカニズムを歪め、モノ不足、モノ余り、闇市がうまれ、かえって消費者の負担が増すこともあります。
市場に任せておくと、一部企業の独占、製造による思いがけない環境破壊などの悪影響を防ぐことができません。
価格規制のデメリットを最小限にし「市場の失敗」をカバーして社会全体の福祉を向上させるためには、どのような政府介入があるのか考えていきましょう。
価格規制以外の政府介入
価格規制は「市場の失敗」を補うための有効な手段の一つですが、万能ではありません。
政府は市場の状況や問題の種類に応じて、最適なさまざまな政策を組み合わせて選択していきます。
実は「市場の失敗」をカバーするには、価格規制だけではなくさまざまな政策があります。
- 数量規制:生産量や販売量を制限する政策(例:乳製品の生産制限)
- 補助金:生産者や消費者に補助金を支給することで、生産や消費を奨励する政策(例:農産物の収入保険)
- 税金:特定の財やサービスに税金を課すことで、消費を抑制したり、生産を抑制したりする政策(例:軽減税率)
- 国有化:民間企業を国が買い取り、運営する政策(例:戦後の財閥解体)
- 規制緩和:既存の規制を緩和し、市場競争を促進する政策(例:電力の自由化、タクシー、医療の緩和)
価格の規制にはこれらの政策と合わせて行い、問題の解決に取り組んでいきます。
より良い政府介入を考えるための視点
災害や戦争、社会不安から起こる恐慌、不況、一部企業の独占などが続いているとき、消費者また供給者を保護する目的で価格規制は行われます。
消費者また供給者を保護するために、政府はどのような視点を持つべきなのでしょうか?
経済学では次のような視点を持つことが望ましいとされています。
- 市場メカニズムの尊重
市場が効率的に機能するように、政府介入は最小限にとどめるのかどうか?
介入は市場を狂わします、それを乗り越えても行うべきなのかどうか? - 公平性と効率性のバランス
全ての人にとって公平な政策であることと、経済全体の効率性を高めることのバランスをとるには? - 長期的な視点
短期的な効果だけでなく、長い目で見た影響はどうか?
政治家は短期的な利益に走りがち。長期を考慮した政策設計が必要。 - 国際的な視点
国内経済だけでなく、国際的な経済状況も考慮した政策が必要。 - 政策評価の重要性
政策の効果を客観的に評価し、必要に応じて政策を見直す仕組みが必要。
長期的な広い目線をもって、価格を評価して、常に見直しできる体制を整えておくことが大切です。
政府介入の理想的な形:複雑な問いへの多角的なアプローチ
私たちが文明を築いて数千年、政府の役割についても、多くの偉人が考えてきたのだから、これが一番正しい政府のあり方、のようなものがあっても良いような気もします。
けれど、残念ながら政府介入の理想的な形は、経済状況、社会状況、そして目指す政策目標によって大きく異なります。なので一言で「これが理想」と断言することができません。
人々が増えていくと、その利益の追求方法がさまざまになり、誰かにとっての利益が、誰かの損になります。
そんな中で、規制をかけて一つの線を引くことは難しいことです。
それでも、この複雑な問題に何人もの先人たちが培ってきた歴史と経済学の知見があります。
市場に任すだけではなく、社会全体の福祉のため、より良い政府の仲介の形を探していきましょう。
市場と計画のバランス
市場は完ぺきではありませんが、無視していいものではありません。
- 市場メカニズムの尊重
市場を無視した例としては、ソ連の計画経済が有名です。
計画経済は需要と供給の不均衡を生んでしまいます。
政府介入が成功するためには、市場の需要と供給のシグナルを尊重し、それに基づいた調整を行うことが重要です。 - 市場補完的な介入
政府は市場の失敗を補完する形で介入するべきであり、完全な置き換えを目指すべきではありません。
例えば、公共財の提供や外部性の是正といった分野での介入が効果的です。
柔軟性と適応性
計画は常に見直します。
- 経済計画の柔軟性
政策は柔軟でなければならず、変化する経済環境や市民のニーズに迅速に適応できるようにする必要があります。固定的な計画は、変化に対応できず失敗しやすいです。 - 実証に基づく政策
政策決定は実証的なデータに基づいて行い、効果の検証とフィードバックを通じて、必要に応じた修正を行うことが求められます。
インセンティブの設計
行動を促すためには、報酬が必要です。
- 適切なインセンティブ
政府介入が実行されるには、適切なインセンティブを設計することです。
節税になったり、利益がアップするような政策にすれば、個人や企業の創造性や効率性を引き出せます。 - 競争の導入
政府が介入する分野でも競争要素を導入し、企業や個人が効率性やサービス向上に努めるような環境を作るべきです。
透明性と説明責任
納得できる説明ができなければいけません。
- 透明な政策決定
政府の介入政策は透明でなければならず、市民に対して十分な説明責任を果たす必要があります。政策の意図、実施方法、期待される結果について、明確に伝えることが信頼を高めます。 - 市民の参加
政策形成や決定プロセスに市民の意見を取り入れ、社会の多様な声を反映させることが重要です。
技術とイノベーションの推進
技術革新がなくして成長なしです。
- 技術革新の支援
支援金などを設けて技術革新を促し、研究開発への投資や新技術の普及を促進することで、経済の持続可能な成長を支えるべきです。 - インフラの整備
技術革新を促進するために、教育、研究施設、通信、交通インフラなどの基盤整備に政府が積極的に取り組むことが求められます。
長期的な視野
政治家は短期的な視点を持ちやすいので気を付けます。
- 短期的な成果よりも持続可能性
政策は短期的な成果にとらわれず、持続可能な経済成長と社会の安定を重視すべきです。これには、環境保護、社会的包摂、経済的公平性などの長期的な目標が含まれます。 - 持続可能な資源利用
資源の過度な消費を避け、持続可能な方法での資源利用を促進するための規制や政策を導入することが重要です。
このような市場を尊重し、長期的な視線で、インセンティブをもった政策が理想的です。
立てた計画も常に見直し現状に合わせて柔軟に見直します。
世界には介入に成功している例もいくつかあるので、見ていきましょう。
各国の具体例
北欧諸国の社会民主主義モデル
北欧諸国は、政府の積極的な介入を市場経済と融合させた成功例としてよく知られています。
政府は高水準の社会福祉や教育、医療サービスまた社会の安定化に大きく貢献しています。
また、企業活動の自由も尊重しています。これにより、経済成長と社会的公平性の両立を実現しています。
しかし、その一方で、高い税負担が市民にかかっていること。
長く培われた制度や規則に過度に縛られ、新しいアイデアや変化に対応しにくいこと。
また高い水準の公共サービスを期待する国民のニーズに応えようとするあまり、官僚組織が肥大化して非効率になることがあります。
北欧の官僚主義は、効率性や柔軟性の低下、国民との距離感などの課題を抱えています。
これらの問題を解決するため、北欧諸国では様々な改革が試みられており、その動向は日本にとっても、社会保障制度のあり方を考える上で重要な示唆を与えてくれます。
日本の産業政策
日本の高度成長期(1950年代から1970年代)には、政府が選択的に産業を育成し、技術開発を支援する政策を取っていました。
その中でも特に、政府による産業政策やインフラ整備、また教育や金融政策といった仲介が大きな影響を与えました。これにより、自動車や電子機器などの分野での競争力を高めることができました。
しかし、政府による重化学工業や自動車産業などの特定産業への過度な支援は、市場の歪みを引き起こし、競争力を低下を引き起こします。
また、経済成長を優先した結果、環境汚染や資源の枯渇などの問題が深刻化し、都市部と地方の経済格差が拡大という問題を抱えることになります。
1980年代以降は市場の変化に合わせた改革が必要とされ、産業政策も見直しが行われます。政府の役割は時代とともに変化しており、現代においても、経済成長と社会課題の解決を両立させるための政府の役割が問われています。
現代社会における政府介入の課題
現代社会では、グローバル化、デジタル化、人口の高齢化など、新たな課題が山積しています。これらの課題に対応するためには、従来の政府介入の枠組みを超えた、より柔軟で多様な政策が必要となります。
- 規制のあり方
革新的な技術の普及を阻害しないような、柔軟な規制のあり方が求められます。 - 社会保障制度の改革
高齢化が進展する中で、持続可能な社会保障制度の構築が急務です。 - 所得格差の是正
富の偏在が社会不安につながるため、所得再分配の仕組みを強化する必要があります。
価格統制はなぜ今も残っているの?
政府がモノの価格に口を出すのは、よくないことが分かっているのに、なぜ今も多くに国でそれが選ばれているのでしょうか?
価格の規制は、簡単なのでよく使われます。
補助金を出したり、税金を優遇することは、一つ一つ精査しなければいけないので、時間も手間もかかります。それに比べて「この価格でやりなさい」と言ってしまうだけなら、ずっとコストがかかりません。
上限価格があるモノは、買う方は安く手に入って良いのですが、その影にはモノが不足して手に入らない人が存在します。
下限価格があるモノは、生産者側の収入は増えますが、そのコストはまわりまわって買う方に押し付けられています。
経済学の考え方はあらゆるコストを検討します。
選んだことに対してかかったコスト、選ばなかったことで失われたコストという目に見えないコストも考えます。
福祉用具のレンタル代の上限を決めれば安く借りられて一部の人は助かるでしょう。
しかし、レンタル業者は売り上げが下がるのでメンテナンスに手を抜くかもしれません。
お米の価格の下限価格を決めれば農家は収入が増えますが、農家以外の人にコストを押し付けることになります。所得の多くない家庭では必要な食材を買うのに苦労するかもしれません。余った農作物を発展途上国に送ることは、その国の農作物の売り上げを奪い、農家は深刻な打撃を受けるかもしれません。
生産物の不足や過剰といった無駄は、表に現れることがありませんが、大きなコストとして存在しています。
政府の政策は対象が大きいので関係者がどの範囲にまたがるのか見えにくいですが、広い範囲を考慮する姿勢が大切なのです。
まとめ
より良い政府の介入は、
市場に過度に介入せず尊重すること、
現場や環境にあった柔軟な設定、
官僚制ができる限り抑えられるような透明性のある行政運営、
そして個人のインセンティブを起こすようなしくみ、
技術革新の推進、
持続可能な長期的視野の保持が、
効果的な政府介入の鍵となります。
これらの教訓を活かすことで、現代の経済政策においても政府介入がより良い形で機能することが期待されます。
政府の価格介入は、均衡点と違うところに価格を設定するので、富の効率的な配分を歪めます。
望ましい支援とは、困っている人へ直接支援することですが、それには時間と手間がかかるため、簡単にできる価格介入が選ばれることがあります。
政府の介入を見てきたのですが、私たちの日常の選択にも役に立つようなことが多かったのではないでしょうか?
モノを買うときに商品の利用を長期的に考えたり、自分の利益に注目したり、買うのか買わないのか柔軟に考えたりすることは、役立ちます。
もちろん、選挙の時の判断にもお役立てください。選挙人は、このような問題に対して、どのように解決しようとしているのかに注目しても良いですね。
参考文献
食糧管理法 - Wikipedia
経済学入門 ティモシー・テイラー