ぽれぽれ経済学

よりよい政府の介入へ

より良い政府介入へ

前回まで政府がモノの価格を設定して、私たちの暮らしを保護する「価格介入」について解説しました。

政府の価格介入は本当に困っている人だけではなく、そうでもない人にも影響があるので、公平な政策に見えても、不公平感がぬぐえませんでした。また需要と供給のバランスを無視して線引きするため、モノ余りや失業者が増加を招きます。

では、政府は余計なことはせずに国防だけ行い、経済に口を出さない方が良いのでしょうか?

ここでは、ソ連の計画経済の失敗から、よりよい政府の介入について考えます。

計画経済の失敗

ソビエト連邦(ソ連)の計画経済の失敗から学べる重要な教訓はたくさんあります。

計画経済とは、政府が生産、配分、価格など経済の主要な要素を決定する経済システムです。以下に、ソ連の計画経済の失敗について学べる主な点を解説します。

市場の役割の軽視

  • 需要と供給のミスマッチ
    ソ連の計画経済では、政府が生産目標を設定し、それに基づいて資源を配分しました。
    しかし、消費者の需要を正確に反映しないことが多く、供給不足や過剰生産が頻繁に発生しました。
  • 価格の硬直性
    政府が価格を固定することで、商品の真の価値や希少性が価格に反映されず、資源の効率的な配分が妨げられました。

イノベーションの欠如

  • 競争の欠如
    計画経済では、企業間の競争がなく、競争を通じた技術革新や効率改善のインセンティブが失われました。
  • 技術遅延
    ソ連は西側諸国に比べて技術的な遅れが顕著で、新技術の導入が遅れました。

官僚主義と非効率性

  • 官僚的な硬直性
    政府による計画と管理が膨大で、官僚主義が蔓延し、柔軟な対応や迅速な意思決定が困難でした。
  • 情報の集中化
    経済の各部門についての正確な情報を政府が完全に把握することは困難で、計画の非効率性や誤りが生じやすかったです。

政治と経済の融合

  • 政治的影響
    経済政策が政治的目標に従属し、経済的な合理性が無視されることがありました。例えば、重工業優先の政策は軍事力強化には有効だったものの、消費財の不足を招きました。
  • 経済政策の硬直化
    政治的に重要とされた計画や政策が長期間にわたり修正されず、柔軟な経済対応が困難でした。

人材と資源の浪費

  • 資源の無駄遣い
    計画達成を優先するあまり、実際の資源利用や生産効率の改善が二の次にされ、資源の浪費が頻繁に発生しました。
  • 労働者のモチベーション低下
    生産目標の達成が優先される一方で、労働者の報酬や労働環境の改善は二の次にされ、労働者のモチベーションが低下しました。

改革の困難

  • 制度改革の困難さ
    ソ連の計画経済は、一度導入されるとその修正や改革が非常に困難でした。市場原理に基づく改革は、既存の経済構造や政治体制と矛盾し、抵抗を招きました。
  • ペレストロイカの限界
    1980年代にミハイル・ゴルバチョフが導入したペレストロイカ(再構築)は計画経済の一部改革を目指しましたが、経済の根本的な問題を解決するには至りませんでした。

ソ連の計画経済の失敗からは、中央集権的な計画が持つ限界と、市場メカニズムが持つ柔軟性や効率性の重要性を学ぶことができます。また、経済と政治が密接に結びつくと、経済的合理性が失われるリスクも高まります。

ソ連の実際におこなわれた計画経済は、現代の経済政策においても、市場の役割や競争の重要性、官僚主義の問題などを考慮する際の貴重な例になります。

より良い政府の介入へ

ソ連の計画経済で行われた「政府の介入」は、実際の市場を軽視して崩壊しました。しかし、政府の介入の一切ない国、というのはまた不平等の温床になります。

ソ連の失敗から、より効果的で効率的に介入するにはどうすればよいのでしょうか?

市場と計画のバランス

  • 市場メカニズムの尊重
    ソ連の計画経済は市場メカニズムを無視したため、需要と供給の不均衡が発生しました。政府介入が成功するためには、市場の需要と供給のシグナルを尊重し、それに基づいた調整を行うことが重要です。
  • 市場補完的な介入
    政府は市場の失敗を補完する形で介入するべきであり、完全な置き換えを目指すべきではありません。
    例えば、公共財の提供や外部性の是正といった分野での介入が効果的です。

柔軟性と適応性

  • 経済計画の柔軟性
    経済計画や政策は柔軟でなければならず、変化する経済環境や市民のニーズに迅速に適応できるようにする必要があります。固定的な計画は、変化に対応できず失敗しやすいです。
  • 実証に基づく政策
    政策決定は実証的なデータに基づいて行い、効果の検証とフィードバックを通じて、必要に応じた修正を行うことが求められます。

官僚主義の最小化

  • 効率的な行政
    ソ連では官僚主義が経済の硬直性をもたらしました。政府介入においては、過度な官僚主義を避け、効率的で透明性のある行政運営を行うことが重要です。
  • 分権化と地方の権限
    一部の権限を地方に分権化し、地域ごとの実情に合わせた対応ができるようにすることで、中央集権的な硬直性を避けることができます。

インセンティブの設計

  • 適切なインセンティブ
    ソ連では、計画達成が優先され、労働者や企業のインセンティブが不足していました。政府介入においては、適切なインセンティブを設計し、個人や企業の創造性や効率性を引き出すことが重要です。
  • 競争の導入
    政府が介入する分野でも競争要素を導入し、企業や個人が効率性やサービス向上に努めるような環境を作るべきです。

透明性と説明責任

  • 透明な政策決定
    政府の介入政策は透明でなければならず、市民に対して十分な説明責任を果たす必要があります。政策の意図、実施方法、期待される結果について、明確に伝えることが信頼を高めます。
  • 市民の参加
    政策形成や決定プロセスに市民の意見を取り入れ、社会の多様な声を反映させることが重要です。

技術とイノベーションの推進

  • 技術革新の支援
    ソ連の計画経済では技術革新が遅れました。政府は、技術革新を支援し、研究開発への投資や新技術の普及を促進することで、経済の持続可能な成長を支えるべきです。
  • インフラの整備
    技術革新を促進するために、教育、研究施設、通信、交通インフラなどの基盤整備に政府が積極的に取り組むことが求められます。

長期的な視野

  • 短期的な成果よりも持続可能性
    政策は短期的な成果にとらわれず、持続可能な経済成長と社会の安定を重視すべきです。これには、環境保護、社会的包摂、経済的公平性などの長期的な目標が含まれます。
  • 持続可能な資源利用
    資源の過度な消費を避け、持続可能な方法での資源利用を促進するための規制や政策を導入することが重要です。

各国の具体例

北欧諸国の社会民主主義モデル

北欧諸国は、政府の積極的な介入を市場経済と融合させた成功例としてよく知られています。

政府は高水準の社会福祉や教育、医療サービスを提供する一方で、企業活動の自由も尊重しています。これにより、経済成長と社会的公平性の両立を実現しています。

日本の産業政策

日本の高度成長期(1950年代から1970年代)には、政府が選択的に産業を育成し、技術開発を支援する政策を取っていました。これにより、自動車や電子機器などの分野での競争力を高めることができました。

ただし、1980年代以降は市場の変化に合わせた改革が必要とされ、産業政策も見直しが行われました。

ドイツのエネルギー転換

ドイツの「エネルギー転換」(Energiewende)は、政府が再生可能エネルギーの導入を促進するために、法規制や経済的インセンティブを導入した例です。市場の需要と環境保護のバランスを取りつつ、持続可能なエネルギーシステムへの移行を支援しています。

ソ連から学べること

このように、ソ連の計画経済の失敗は、政府が経済に介入する際の重要な指針を示しています。
市場メカニズムの尊重、柔軟性と適応性、適切なインセンティブの設計、透明性と説明責任の確保、技術革新の推進、持続可能な長期的視野の保持が、効果的な政府介入の鍵となります。これらの教訓を活かすことで、現代の経済政策においても政府介入がより良い形で機能することが期待されます。

価格統制はなぜ今も残っているの?

政府がモノの価格に口を出すのは、よくないことが分かっているのに、なぜ今も多くに国でそれが選ばれているのでしょうか?

政治家の怠慢だニャー

価格の規制は、簡単なのでよく使われます。
補助金を出したり、税金を優遇することは、一軒一軒精査しなければいけないので、時間も手間もかかります。それに比べて「この価格でやりなさい」と言ってしまうだけなら、ずっとコストがかかりません。

上限価格があるモノは、買う方は安く手に入って良いのですが、その影にはモノが不足して手に入らない人が存在します。

下限価格があるモノは、生産者側の収入は増えますが、そのコストはまわりまわって買う方に押し付けられています。

経済学の考え方はあらゆるコストを検討します。選んだことに対してかかったコスト、選ばなかったことで失われたコストという目に見えないコストも考えます。

福祉用具のレンタル代の上限を決めれば安く借りられて一部の人は助かるでしょう。しかしレンタル業者は売り上げが下がるのでメンテナンスに手を抜くかもしれません。

お米の価格の下限を決めれば農家は収入が増えますが、農家以外の人にコストを押し付けることになります。所得の多くない家庭では必要な食材を買うのに苦労するかもしれません。余った農作物を発展途上国に送ることは、その国の農作物の売り上げを奪い、農家は深刻な打撃を受けるかもしれません。

生産物の不足や過剰といった無駄は、表に現れることがありませんが、大きなコストとして存在しています。政府の政策は対象が大きいので関係者がどの範囲にまたがるのか見えにくいですが、広い範囲を考慮する姿勢が大切です。

まとめ

ソ連の計画経済の失敗から、よりよい政府の価格介入について見てきました。

ソ連は市場の役割を無視して、計画にこだわり、資源を配分しようとしたため多くの弊害が現れました。計画に従うことを強制されるとそこに汚職が生まれ、より良くしようとする動機が生まれず、人々は無関心になります。政府が短期的な計画を一律に押し付けただけでは計画通りに進みませんでした。最終的に国が崩壊して計画経済は失敗しました。

つまり、より良い政府の介入は、現場や環境にあった柔軟な設定、官僚制ができる限り抑えられるような透明性のある行政運営、そして個人のインセンティブを起こすようなしくみ、技術革新の推進、持続可能な長期的視野の保持が、効果的な政府介入の鍵となります。これらの教訓を活かすことで、現代の経済政策においても政府介入がより良い形で機能することが期待されます。

政府の価格介入は、均衡点と違うところに価格を設定するので、歪みを生み出します。
望ましい支援とは、困っている人へ直接支援することですが、それには時間と手間がかかるため、簡単にできる価格介入が選ばれることがあります。

経済学の視点は、あらゆるコストに目を向けることです。選んだことによるコスト、選ばなかったことによるコストも考慮し判断します。

私たちの生活の中でも何かを買うとき「選んだ方のコスト」と「選ばなかった方のコスト」を考えれば、また違った視点でモノを考えることができます。その経済学の視点はきっと役に立つでしょう。

ぜひ日常に取り込んでよりよい生活を送ってください。

参考文献

食糧管理法 - Wikipedia
経済学入門 ティモシー・テイラー

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