ぽれぽれ経済学

技術革新をうながすために

技術革新を促すために

前回は、ある人や企業の経済活動が、無関係な人に悪い影響を及ぼすことについて解説しました。

例えば排気ガスや渋滞など、自分は効率よく振舞っているだけなのに、まったく関係のない人に悪い影響を与えます。そんなときは政府がその権力を使って対象企業へ課税などをして、その対策費用を負担させることが有効でした。

ここでは逆に、良い影響がある場合についてみていきましょう。
この良い影響には技術革新を促進させる力があります。最近日本では「革新的な技術の開発ができていない」とよく言われます。どのような方向を向けば日本に新しい開発が促されるのでしょうか?

努力が報われるために

そもそも私たちは生産したものを自分の好きなようにできないとやる気をなくします。

それが良く分かる例として、毛沢東の時代から鄧小平の時代に変わったときの中国のお話があります。

国民の多くが飢えに苦しんでいたときに権力者に変わった鄧小平は、まず始めたのは農家の人たちの農作物を「自分たちが収穫したものは自分たちのもの」になるように変えたことでした。

私たちの社会では当たり前のことですが、当時の中国では当たり前ではありませんでした。
作った農作物はすべてを国に納めなければいけなくて、食べ物や農機具もすべて配給でした。そうすると人々はやってもやらなくても同じものしかもらえないのでやる気がでません。また道具については配給された道具なので大切に使う意識も持てません。このため収穫量が下がり続け、農作物が手に入らず多くの人が飢えたのでした。

鄧小平の「自分で収穫したものは自分のものになる」という政策は、多くの農民に受け入れられ鮮やかに成果がでて、あっという間に餓死者がいなくなりました。中国経済のV字回復はここから始まります。

この話はとても分かりやすく納得いきます。
私たちはがんばったら、その分なんらかの報酬がなければやる気を失ってしまいます。文字通り食べられなければ新しいアイデアが浮かぶこともありませんが、そこまでいかなくても、なにか新しいアイデアがあって形にしようと努力してようやく製品にこぎつけたとしても、簡単にその技術が他の人に流れてしまったら、今までの苦労が水の泡になってしまいます。

新しいアイデアの実現の難しさ

新しいアイデアを形にするのはどんな天才と言われる人でも苦労をしています。

例えば、今では発明王と呼ばれるエジソンですが、彼は初めての特許を取ったのは1868年に取得した「電気投票記録機」です。この発明は、議会での投票を電信によって自動的に記録する機器で、当時画期的な発明でした。しかし、当時の議会では、この発明の必要性が認められず、実用化されることはありませんでした。それ以来エジソンは売れるものを発明しようと固く心に誓っています。

また、人類初の飛行をしたライト兄弟は、1903年に「飛行機の飛行制御手法」に関する特許を取得しました。しかしライト兄弟のライバルだったサミュエル・ラングレーも、1903年以前から飛行機の開発に取り組んでおり、ライト兄弟の特許に異議を唱えました。両者の間で特許訴訟が起こり1909年にライト兄弟が勝訴しましたが、訴訟費用は膨大なものとなりライト兄弟の財政状況は悪化し、新しい飛行機開発はできなくなりました。

これらのエピソードは、完全な自由市場において科学的な研究や技術革新が生まれにくいことを教えてくれます。すばらしい発明をしたとしても、経済的に報われる保証はないからです。

ある企業が多額の資金をかけて新しい技術開発に取り組んだとします。しかし失敗の連続で費用ばかりで費用がかかりすぎて、利益が減れば競合他社に負けてしまいます。大きな損失を出せば倒産する可能性もあります。
しかも、めでたく開発に成功したとしてもそこで終わりではありません。新技術に対する規制がまったくなければ、新しい商品はすぐに真似され、アイデアは盗まれてしまいます。

そんなことになれば新しい技術を開発したとしても費用を負担しただけで、何の利益も得ることがありません。これでは新技術開発はすすみません。

利益を確実に受け取ること

新しい技術が生まれると、その影響は技術を開発していない人たちもその恩恵を受けることができます。

前回の環境汚染では売買に関係のない人に悪い影響がありましたが、反対に新しい技術が広がった場合は売買に関係のない人も費用をかけることなくその技術の恩恵を受けることが出来ます。
環境汚染はその汚染コストを外部の人が支払うことになるので「負の外部性」と呼んでいましたが、それに対して良い影響が受けられることを「正の外部性」と呼びます。新しい駅ができるとその周辺に人々が集まって経済活動が活発になるようなことを指します。

「正の外部性」があることで新しい技術の利益はみんなが受けられますが、新技術が簡単にまねされて開発者自身が利益を受けられない可能性があります。それでは新しい技術の研究が進みません。

技術革新を進ませるには、研究開発にかかる費用をさらに上回るような経済的利益が受け取れるようなシステムにすることが有効です。中国の例のように、その技術の利益が自分のものになるしくみをつくっておくのです。これを経済学用語で「利益の専有可能性」と呼んでいます。つまり、技術革新の生み出す利益を、どれだけ本人が利益として確保できるのかということです。この利益を本人が受ける程度が高ければ技術革新が起こる可能性が高くなります。

そこで政府は革新的な技術の見返りが受けられるようルールを整えています。例えば、特許権や商標登録、著作権などが良く知られています。

次回はそのルールについて詳しく見ていきます。お楽しみに!

まとめ

新しい技術の開発を促すのは経済成長のために欠かせないものですが、開発を促進させるには簡単ではありません。新しい技術は生み出すには、成功するかしないか分からない中で、長い年月をかけて様々な失敗からもぎ取っていくものです。運よく開発が出来たとしても、受け入れられなかったり、すぐにまねされて利益が得られないこともあります。

開発にかかったコスト以上に利益が得られることが保証されてこそ、開発が進むことが分かっているので、政府は開発をデメリットから守るため、ルールを作る必要があります。

参考文献

経済学入門 ティモシー・テイラー
そうだったのか中国 池上彰 

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