ぽれぽれ経済学

労働市場3つの問題

労働市場の問題

人々は多くの時間を労働に費やしているため、労働環境が生活に与える影響はとても大きいです。

また、すべての仕事は、労働として平等かもしれませんが、賃金は平等ではありません。
そのため、その配分に疑問が残りやすく、差別が格差に直結します。人は差別されていると感じると後ろ向きになりやすく、仕事に打ち込むことができなくなります。

労働は差別の生まれやすい場所なので、さまざまな対策が求められていますが、どこの国も格差や差別などの問題を抱えたままです。

ここではそんな労働市場が、いまだに解決できない根深い3つの問題について考えていきます。

最低賃金の問題

最低賃金とは、労働者が生活に必要な最低限の賃金を法によって定めたものです。労働者の賃金水準を向上させ、貧困を削減するために定められました。

最低賃金は1938年初めてアメリカで導入されました。それから世界中に広まり、日本は1947年「最低賃金法」が制定され、1959年に初めて最低賃金が設定されます。その後何度も批判にさらされながら改変を続け今に至ります。

最低賃金の目的とその問題について詳しく見ていきましょう。

最低賃金の目的

  1. 生活水準の向上:労働者が基本的な生活費をまかなえるようにするため。
  2. 貧困削減:低所得労働者やその家族の貧困を緩和すること。
  3. 労働者保護:労働力の過度な搾取を防ぎ、不公正な賃金を是正するため。
  4. 社会的公正:経済的な格差を縮小し、社会の安定を促進するため。

問題点と議論

1. 雇用への影響

  • 賃金の上昇によるコスト増
    最低賃金の引き上げは企業の人件費を増加させます。
    特に中小企業や労働集約型産業では、コスト負担が大きくなり、雇用削減や価格転嫁、業務の自動化が進む可能性があります。
  • 失業の可能性
    最低賃金が高すぎると、企業は雇用を減らしたり、パートタイムやアルバイトにシフトする可能性があります。
    特に、若年労働者や低技能労働者の雇用機会が減少する懸念があります。

2. インフレーションのリスク

  • コストプッシュ・インフレーション
    企業が人件費増加分を価格に転嫁することで、インフレーションを引き起こす可能性があります。
    これは特に、賃金の上昇が広範な商品やサービスの価格に反映される場合に問題となります。

3. 地域差

  • 地域ごとの経済状況の違い
    一律の最低賃金は地域ごとの生活費や経済状況に適合しない場合があります。
    例えば、都市部と地方では生活費や平均賃金に大きな差があり、地域ごとに異なる最低賃金が設定されています。

4. 非公式経済への影響

  • 非公式労働の増加
    最低賃金を遵守しない「非公式経済」や「闇雇用」が増加する可能性があります。
    これにより、労働者の社会的保障や法的保護が欠如するリスクがあります。

最低賃金政策の考慮点

  • 適切な水準の設定
    経済成長、労働市場の状況、物価上昇などを考慮した、バランスの取れた最低賃金の設定が求められます。
  • 段階的な引き上げ
    企業や経済へのショックを和らげるため、段階的に最低賃金を引き上げるアプローチが有効です。
  • 効果のモニタリング
    最低賃金の引き上げによる労働市場や経済への影響をモニタリングし、必要に応じて調整することが重要です。

最低賃金に関する研究と政策

  • 経済学的な研究
    最低賃金の効果については多くの経済学的研究が行われています。研究結果は地域や産業によって異なるため、労働市場の特性を考慮した政策設計が必要です 。
  • 政策アプローチ
    最低賃金政策の効果的な運用には、労使双方の意見を取り入れた政策決定、違反への厳しい取り締まり、労働者への支援策(スキルアップ支援や職業訓練など)が求められます 。

最低賃金は労働者保護と社会的公正を推進する重要な政策ですが、労働市場や経済への影響を慎重に評価し、バランスの取れたアプローチを採ることが求められます。

価格の下限規制と最低賃金

最低賃金とは、つまり国による価格の「下限規制」です。

下限規制とは

最低限の価格を決めて、それより安い価格をつけて売ることを禁じること。

最低賃金とは、需要と供給で決まる賃金より、高い賃金で雇うよう強制することです。労働者の賃金を守ってくれる良いルールのように思えますが、本来の価格より高くなるよう雇用主に強制すると、そこに歪みが生まれます。

均衡点以上の賃金を支払わなければならなくなった雇用主は、余分に上がったコストを削減するために求人を抑えます。またコストがモノの価格に上乗せされる可能性もあります。

最低賃金の仕事は主にパートですから、パートの求人が減る可能性もあります。賃金の低い仕事は専門性がなく、だれでもできる仕事です。その求人がすくなくなってしまうと、技術を持っていない人が社会に出る足掛かりがなくなってしまいます。最低賃金によって少しだけ賃金が上がったとしても、仕事に就けない人が増えたのでは問題です。

人々の賃金を上げる方法の一つに労働者自身の専門性を高めるやり方があります。労働者に技能訓練を受け技術を身につけるのです。労働者へ教育という投資を行うことで、教育を受けた労働者は、より給料の高い仕事に移ることが出来ます。

そうすれば最低賃金だった労働者が減り、賃金の上昇へつながっていきます。

最低賃金 (日本) - Wikipedia

埋まらない男女格差

日本の労働市場は、男女格差が大きいと言われています。
男女格差とは、女性と男性が対等に就業・賃金を得ることができない状態のことを言います。

労働市場における男女格差は、性別による賃金、雇用機会、昇進の差異や職場環境における不平等を指します。

この問題は世界中で見られ、経済的な不平等や社会的な格差を助長する要因となっています。

男女格差の主な要因

賃金格差

  • 同一賃金の不平等
    同じ仕事をしているにもかかわらず、男性と女性で賃金に差があること。
  • 職業の水平的分離
    男女が異なる職種や産業に集中し、一般的に女性が従事する職業の賃金が低いこと。
  • 職業の垂直的分離
    昇進や管理職への登用の際に男女差があり、女性が高位のポジションに就く機会が少ないこと。

昇進・キャリアの違い

  • ガラスの天井
    女性が管理職や上級役職に昇進する際に見えない障壁が存在すること。
  • 昇進差別
    昇進やキャリアアップの際に、性別による偏見や固定観念が影響すること。

職場環境

  • ハラスメント
    職場におけるセクシュアルハラスメントやジェンダーハラスメントが、女性の働きやすさやキャリアに影響を与えること。
  • 育児・介護の負担
    育児休暇や介護休暇の利用がキャリアに影響することが多く、女性に過度の負担がかかること。

雇用形態

  • 非正規雇用
    女性が非正規雇用(パートタイム、契約社員、派遣社員など)に従事する割合が高いこと。非正規雇用は一般的に賃金や福利厚生が劣るため、これが格差の一因となっています。
  • 時間外労働
    フルタイムでの就労が難しい場合、パートタイムや短時間労働を選択せざるを得ないこと。

教育と訓練

  • 教育の選択
    高等教育や職業訓練の選択において、男女で異なる選択肢を取る傾向があり、これが就職先や賃金に影響してしまう。
  • スキル開発
    職場でのスキル開発や訓練の機会が、男女で異なる場合がある。

男女格差の影響

経済的影響

  • 賃金の低下
    女性の賃金が男性に比べて低い場合、家庭の総収入や女性自身の経済的自立に影響を与えてしまう。
  • 社会保障への影響
    女性の賃金格差は、年金や社会保障の額にも影響し、老後の生活にも大きな影響があります。

社会的影響

  • ジェンダーの固定観念の強化
    女性が家庭内や低賃金労働に集中することで、ジェンダーの役割に対する固定観念が強化されてしまう。
  • 社会的な排除
    職場での機会均等が達成されない場合、女性が経済活動や意思決定の場から排除される可能性がある。

職場環境の影響

  • 職場の多様性の欠如
    性別による不平等は、職場の多様性や創造性を阻害し、企業の生産性や革新性に影響を与えます。

男女格差の解消に向けた取り組み

法的措置

  • 同一労働同一賃金
    同じ仕事に対して同じ賃金を支払うことを法的に義務付ける。
  • 男女雇用機会均等法
    雇用における性差別を禁止し、男女の雇用機会均等を推進するための法律を制定。

企業の取り組み

  • ダイバーシティ推進
    企業内でのダイバーシティ(多様性)を推進し、ジェンダーに配慮したポリシーや文化を作る。
  • 柔軟な働き方
    テレワークやフレックスタイムなど、育児や介護と仕事の両立を支援する働き方の導入する。

教育と啓発

  • ジェンダー教育
    教育現場や職場でのジェンダー平等に関する教育や啓発活動を行う。
  • 女性のキャリア支援
    女性のキャリア開発やリーダーシップを支援するためのプログラムやネットワーキングを提供する。

政策支援

  • 育児・介護支援
    育児休暇や介護休暇の整備、子育て支援施設の充実など、仕事と家庭の両立を支援する政策を実施。

男女格差に関する事例

  • アイスランド
    世界で最もジェンダー平等が進んでいる国とされ、2018年には企業に対して賃金平等証明書の取得を義務付ける法律が施行されました。
  • アメリカ
    一部の州では、企業に対して男女の賃金差を公表することを義務付ける法案が提案されるなど、透明性の向上が進められています。
  • 日本
    女性活躍推進法の施行や、政府による「女性活躍推進企業データベース」の設置などにより、女性の労働参加とキャリア支援が進められています。

しかし、日本の労働市場では、女性の就業率は男性より低く、また、女性の賃金は男性より低い傾向にあります。さらに、女性は男性より非正規雇用の割合が高く、また、女性は男性より管理職に就く割合が低いです。

その主な原因は、世界に比べて日本の女性は、仕事より家庭や育児を大切にする傾向があることが指摘されています。
また女性は職場で、男性に比べて偏見や差別を受けやすく、昇進や昇給の機会が少なく、賃金が低い仕事をさせられていることも、男女格差の大きな原因となっています。

男女格差は、社会全体の経済成長や活力を阻害するだけでなく、女性の健康や幸福にも影響を与えます。そのため、男女格差を解消することは、日本社会にとって重要な課題になっています。

男女格差を解消するためには、政府や企業、個人が協力する必要があります。政府は、女性の就労を促進するための施策を実施し、企業は女性の活躍を支援する制度を導入し、個人は女性の活躍を継続して応援する姿勢を示す必要があります。

男女格差を解消するためには、一人ひとりの意識を変えていくことが重要です。男女平等を当たり前のこととして捉え、男女が対等に活躍できる社会を実現していくことが大切です。

労働組合の役割

また3つ目に指摘されるのは、日本の労働組合の機能不全があります。

日本の労働組合は、戦後、労働者の権利を守るため重要な役割を果たしてきました。けれど近年は、組織率の低下や、非正規労働者の増加など、多くの課題に直面しています。

労働組合の主な機能

団体交渉

  • 労働条件(賃金、労働時間、福利厚生など)について、使用者(企業)と交渉する。
  • 労使間の合意を形成し、契約として明文化することが目標。

労働者の権利保護

  • 労働者の権利を守るための法律や規則の遵守を監視。
  • 不当解雇、労働基準法違反などの問題に対する法的な支援や相談。

集団的活動

  • ストライキやデモ、集会などを通じて、労働者の要求を公にし、労働条件の改善を求める。

教育と訓練

  • 労働者に対する職業訓練、法的知識の提供、リーダーシップ研修などを実施。

安全衛生の改善

  • 労働環境の安全性を向上させるための活動や、健康診断の実施を支援。

労働組合のメリット

労働条件の改善

  • 労働者が個別に交渉するよりも、団体で交渉する方が労働条件を有利に改善できる可能性が高い。
  • 賃金の引き上げや福利厚生の充実、労働時間の短縮などが実現されやすくなる。

権利の擁護

  • 労働者の声を集約し、法律や規則に基づいて、労働者の権利を守る活動を行う。
  • 労働基準法や労働契約法などの遵守を企業に求め、不当な労働慣行に対抗することができます。

雇用の安定

  • 企業の経営状況が悪化した際に、整理解雇やリストラに対する交渉を行い、雇用の維持や再配置を支援。

職場の安全性向上

  • 安全衛生に関する基準の遵守を企業に求め、労働災害の防止に努める。

社会的な影響

  • 労働組合の活動は、労働市場全体や経済、社会政策に影響を与え、社会の公平性や平等性の向上を目指します。

労働組合のデメリットと課題

経済的コスト

  • 高コストの労働
    労働組合による賃金引き上げは、企業の人件費を増加させ、競争力に影響を与える可能性がある。
  • 生産性の低下
    労働組合が強力すぎる場合、柔軟な労働力の配置や効率的な運営が妨げられることがある。

労使関係の対立

  • ストライキのリスク
    労使間で合意が得られない場合、ストライキや争議が発生し、企業活動に支障をきたすことがあります。
  • 敵対的な交渉
    労働組合と企業間の関係が対立的になると、労使関係が悪化し、双方にとって不利益となることがあります。

組合の内部問題

  • 運営の非効率
    労働組合内部での運営が非効率であったり、リーダーシップの欠如が問題となる場合があります。
  • 組合内の不平等
    組合内部でも特定のグループや個人に権力が集中することで、不平等が生じることがあります。

経済全体への影響

  • インフレーション
    労働組合の要求による賃金上昇が物価上昇につながる可能性があります。
  • 競争力の低下
    労働組合が強力すぎると、企業の競争力が低下し、経済全体に影響を与えることがあります。

組織率の低下

  • 組合員の減少
    近年、多くの国で労働組合への加入率が低下しており、組織率の低下が課題となっている。これは、産業構造の変化や労働市場の多様化が影響しています。

労働組合の役割と今後の展望

デジタル経済と新しい働き方

  • デジタル化やリモートワーク、フリーランス労働の増加に伴い、従来の労働組合の役割や活動方法を見直す必要があります。
  • 非正規労働者やフリーランスの労働条件改善のための新しいアプローチが求められます。

グローバル化

  • グローバル経済に対応するため、国際的な労働基準や労働者の権利保護の強化が求められます。
  • 多国籍企業との交渉や、国境を超えた労働者の権利保護に焦点を当てた活動が必要。

持続可能な労働環境

  • 労働組合は、環境問題やサステナビリティの観点からも労働条件を検討し、企業の持続可能な発展を支援する役割を担うことができます。
  • グリーンジョブや環境保護活動に関連する職業の労働条件改善も、労働組合の重要な役割を果たすことができます。

多様性と包摂

  • 労働組合は、ジェンダー、エスニシティ、年齢、障害など、多様な労働者のニーズに応じた活動を行うことが重要です。
  • 包摂的な組織としての機能を強化し、全ての労働者が平等に権利を享受できるよう支援します。

労働組合に関する事例

  • 北欧諸国
    北欧諸国では、労働組合の組織率が高く、労働条件の改善や福祉国家の維持に重要な役割を果たしています。
  • アメリカ
    労働組合の組織率は比較的低いものの、特定の産業や職種においては強力な影響力を持つ組合が存在します。特に製造業や公務員などで活動が活発です。
  • 日本
    労働組合の組織率は減少傾向にありますが、定期的な春闘(春季労使交渉)などを通じて、労働条件の改善を目指す活動が行われています。
    日本の労働組合の組織率は、1950年代には約50%に達していましたが、現在では約18%にまで低下しています。日本では非正規労働者の増加したため労働組合の加入者が減っています。また労働組合の組合費が高い割わりにメリットがなく、困ったときに頼りにならないという声も多く、加入者は年々減少しています。

労働組合は、労働者の権利を守り、労働条件を改善するための重要な組織であり続ける一方で、現代の労働環境や経済の変化に対応するために進化が求められています。

最近では、労働市場のグローバル化や、IT技術の進歩などにより、フリーで働く人も増えています。この変化に対応するために、労働組合は、組織のあり方を改革し、新しい課題に取り組み、新しい役割を模索していくことが期待されています。

まとめ

労働市場の抱える3つの問題について解説しました。
「最低賃金」は貧困をなくすためには必要かもしれませんが、その余計にかかったコストが消費者、またはほかの求職者に降りかかる危険があるので注意が必要です。

「男女格差」は日本では特に大きな問題です。女性は男性より賃金の低い仕事が優先的に与えられ、昇進の機会を損なわれています。社会全体の考え方も十分でなく解決には至っていません。

「労働組合」は労働者を守るために必要な組織のはずですが、日本では組合費ばかり高額で、それに合った働きがないので加入率は低いです。組織を効率の良いものに変革し本来の目的を果たさなければいけません。

参考文献

ティモシー・テイラー 経済学入門
令和4年労働組合基礎調査の概況|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

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