前回は分業のメリットについて見てきました。
一人で完成品をつくって販売するよりも、手分けして作ればずっと早いし、作れる量も多くなります。そんな「分業」を後押しするために「市場」がうまれ、モノとモノとのやり取りがスムーズになり、生産と消費のバランスを調整できるようになりました。
欧米や日本などの高所得の国では、この「市場経済」と呼ばれるしくみで社会が成り立っています。ここではその「市場経済」の成り立ちを、もう少し詳しく見ていきましょう。
市場経済のしくみ

市場経済って難しいニャー
「市場経済」とは私たちにとって当たり前すぎてほとんど意識されませんが、自由に売り買いができる社会のことを指します。
市場経済を考えるには、別の経済のかたちをとっているところをみるとはっきりします。市場経済の反対には、個人が自由にモノをつくって売ることができない社会「計画経済」があります。こちらは国が何をどのくらいつくるのかを決める社会です。
市場経済のメインキャラクターは「家計」と「企業」です。
「家計」とは、普段の生活でモノを買う私たちのこと。私たちは市場経済の中のメインキャラ、主人公なのです。私たちの「何を買おうかなー」という、なにげない行動は経済に大きな影響を与えています。
「企業」は、モノやサービスを提供する人たちのことです。
市場経済が行われているとき、お金は「家計」と「企業」の間をぐるぐるとまわります。ぐるぐる回っているのをさらに細かくみると3つにわけることができます。

- 財市場
商品やサービスが取引されること。スーパーや通信費などの購入できるすべてのモノが含まれます。ここでは商品やサービスが企業から家計に向かって流れ、お金は逆に家計から企業に流れます。経済学用語でいうと企業が財の供給者であり、家計は財の需要者です。 - 労働市場
家計は労働力を供給します。労働は家計から企業に流れ、賃金が企業から家計に流れます。ここでは家計が労働の供給者であり、企業が労働の需要者です。 - 資本市場
ここでは人々が企業にお金を投資します。株式の購入といった直接の投資だけではなく、銀行の預貯金も間接的な投資です。私たちが銀行に預けたお金は銀行が企業に投資されています。家計はその対価として配当や利子を受け取ります。ここでの供給者は家計で、企業が需要者です。
このように「家計」と「企業」は、お互いが「供給する人」と「それを受ける需要する人」その両方の役を果たしていて、財はその間を行ったり来たりしています。
価格はどうやって決まるの
あの商品がもうちょっと安くなったら買いたいな・・と思わなかった人はいないと思いますが、モノについている値段はいったいどのように決まっているのでしょうか?
それをつくるときに必要なお金によってじゃね?

でも、同じ商品が店によって違ったり、欲しくても全く手に入らなかったマスクのように同じ商品なのに、価格が急に値上がりすることもありましたよね。
「お店がぼったくってた」わけですが違法ではありません。商品の価格に絶対的なものはありません。じゃあどのように決まるのでしょうか?
経済学者の父と呼ばれるアダム・スミスは、価値について考えた有名なたとえ話があります。それは「水とダイヤモンドのパラドックス」です。スミスはモノの価値には「交換価値」と「使用価値」の2つがあるということに気が付きました。
ダイヤモンドは欲しい人がたくさんいるのに、世の中に少ししか存在してないので高いです。水は生きていくうえでなくてはならないものですが、たくさんあるので安いですね。
このようにダイヤモンドは、使うという点においては何の価値もありませんが、欲しい人がたくさんいて少ししか存在しません。つまりダイアモンドの「使用価値」は低く、「交換価値」は高くなります。
反対に水は飲むだけではなく、発電ができるなどの高い価値を持っています。水は「使用価値」が高いですが、「交換価値」は低くなります。

このように、交換価値と使用価値というのはいつも一致するわけではありません。
なのでモノの価格の話をするときは、どちらの価格について話しているのか明らかにしておく必要があるのです。
経済学で「価値」といったら「交換価値」のことを指しています。モノの「交換価値」とは、それを欲しがっている人の数に注目します。交換価値の高いモノは、人気があるから値段が高い、逆に必要なモノであっても簡単に手に入るものだと安い。モノの値段はそのように決まっていて、そのもの自身の価値は考えません。
経済学の視点でモノをいみるということは、モノの実用的な価値や必要性ということは一切考えません。そのような価値判断はしないで、価格だけに注目します。
この考えはなんだかドライに感じられますが、モノの価値が「正しい」のか「間違っている」のか、自分の価値感にあっているのか、そうでないのか一切考えないので、どんな文化を持つ人とでも、同じ認識が持てるというメリットがあります。
価格とは世の中の需要と供給のバランスで決まってくるものです。人々は何を欲しがっているのか? そしてそれはどれだけあるのか?
価格とはその関係を反映したものにすぎないのです。
まとめ
市場経済ではモノを自由に売り買いできます。企業はモノを生産してその対価に家計から企業に財が流れます。家計は労働力を提供して、企業は家計に賃金を支払います。さらに家計は企業の資本を支え、企業はその対価を家計に支払います。このように財は企業と家計の間を回っています。
経済学では、モノの価格はそのものがもつ価値を参考にしません。モノの価格はどれだけほしい人がいるのか、それはどのくらいあるのか、それで決まるだけのものなのです。
私たちは高額な商品をなにかありがたがったり、安い商品に対して軽く見たりすることがありますが、モノの値段はほしい人が多くて数が少ないときに高くなり、欲しい人すべてに行き渡る場合価格が安くなる、ということに過ぎないのです。
価格にはだまされずに冷静な判断がしたいですね。
参考文献
経済学入門 ティモシー・テイラー