ぽれぽれ経済学

規制緩和の始まり

規制緩和

前回は政府による規制について見てきました。
すべての人が必要な水道やガス、電気などの公益事業は初期投資が莫大になることと、一回整備された後の運転コストが少ないという特徴から、特定企業の「独占」が起こりやすい事業です。ある企業の「独占」は社会全体の不利益になることが分かっているので、大抵の国では「独占禁止法」を設けて規制をかけています。

しかし、経済が好調な時はそれでも十分でしたが、10年、20年と時間がたってくると次々に矛盾が吹き出してきました。そして戦争などの紛争をきっかけに原油価格が上昇しインフレと次々に不景気の波がやってきます。この不景気を改善するために注目されたのは、政府の介入を最小限にする自由化路線の「規制緩和」です。

ここではそんな景気対策の一つ「規制緩和」について解説します。

規制緩和とはなんですか?

「規制緩和」とは、政府の役割を縮小して民間活力を活性化させるための政策です。
つまり、競争が行われれば市場は最適化する、という経済の原則に基づいた考え方と同じことです。

しかし、現代的な意味での規制緩和は、1970年代から80年代にかけてアメリカやイギリスなどの先進国で積極的に進められた政策を指します。アメリカでは、1978年に航空規制緩和法が成立し、航空運賃の自由化や新規参入の規制緩和が実施されました。また、1980年に銀行規制緩和法が成立し、銀行の合併や新規参入の規制緩和が実施されています。

イギリスでは、1979年にマーガレット・サッチャー政権が誕生し、政府の役割を縮小する「小さな政府」路線を推進します。規制緩和もその一環として行われ、金融、通信、運輸などの分野で規制が緩和されました。

このように、アメリカやイギリスなどの先進国で規制緩和が進められ、それが経済成長につながったことで規制緩和が世界的な潮流となったのです。

日本でも、1980年代後半に中曽根政権の時から規制緩和が進められました。1985年に航空規制緩和が実施されたのを皮切りに、日本専売公社(JT)日本国有鉄道(JR)日本電電公社(NTT)が民営化され自由化路線が始まりました。

規制緩和4つのメリット

規制緩和が行われると、それまであった各業界の秩序と安定は失われ、毎年同じような利益が見込める平和な状態が終わります。企業にとっては死活問題でしたが、私たち消費者にとっては今までより安く良いものが手に入るようになります。

規制緩和には3つのメリットがあります。

  • 価格の低下
    価格競争が活発になり商品の価格が低下します。これは消費者にとってのメリットとなります。
  • サービスの多様化
    規制がなくなると新規参入が促進されサービスの多様化が進み、消費者の選択肢が広がります。
  • 競争の活性化
    たくさんの企業が競うことで市場が活性化し、企業の効率化や生産性の向上が図られます。
  • 政府の役割の縮小
    規制緩和は政府の役割が縮小され、経済の効率化が図られます。これは、民間活力の促進につながります。

具体的には、以下のような事例が挙げられます。

  • 航空規制緩和
    国際線を日本航空だけが独占していましたが複数社制への変更そして日本航空の民営化、国内線2 社または3社の同一路線競合乗り入れを可能にしました。これにより航空運賃が大幅に下落し、消費者の利便性が向上しました。
  • 通信規制緩和
    通信業界の規制緩和はテクノロジーの爆発的な進化をもたらしました。それは新規参入を妨げず、各社が自由に価格を決められること、また提供するサービスを自由にさせることなどです。それによって革新的な技術がうまれ携帯電話やネットビジネスが大きく花開きました。このように通信の規制緩和は、世界の情報通信産業の成長と消費者サービスの向上に大きく貢献したのです。

このような規制緩和がなくても科学技術は進歩するものなので規制緩和は関係がないんじゃないか? と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、例えば電話は1870年代に発明されてからその姿形がほとんど変化しませんでした。それから100年後のわずか20年の間にこれだけの進化が起きたのは偶然ではありません。もし規制が続いていたらここまでの変化が起きていたかわかりません。
規制緩和は私たちの暮らしを大きく変化させる可能性のあるものなのです。

規制緩和のデメリット

もちろん規制緩和にもデメリットはあります。

いちばん大きい問題は、今までの規制によって守られていた業界で働いていた人が競争に巻き込まれることです。
新しい業界が生まれ新しい雇用が生まれたとしても、人は簡単に転職できるものではありません。それまで平和に働いていた人が急に給料カットや解雇という憂き目にあいます。

しかし、規制によって競争を避け、消費者に高い価格を押し付けて守られていた高い給料は、規制がなくなればもろく崩れ去ってしまうのはある意味当然のことなのです。

その以外にも競争が激しくなり安全対策を怠る企業が出たり、環境への負荷のリスクが高まる恐れや、失業者の増加や格差の拡大をもたらす可能性もあります。

規制緩和は、メリットとデメリットの両面を十分に検討した上で実施することが重要です。

発送電の分離 有効な規制緩和へ

業界丸ごと規制緩和するのではなく、一部を規制緩和するという方法もあります。

日本でも有名な「発送電の分離」という考え方です。
電力会社は独占になりやすい業種です。そのためどこの国でも強く規制がかけられています。電力の供給には電気を起こす大規模なダムなどの発電所が必要ですし、また発電したら各家庭に電気を送る送電という業務も欠かせません。

発送電の分離とはイギリスで初めて考え出された考え方で、1990年に国営の中央電力公社(Central Electricity Generating Board)が3つの発電会社と1つの送電会社に分割されました。1999年には、一般家庭も含めたすべての需要家を対象に小売電力の自由化が全面的に実施されたのです。これにより、消費者は、電力会社を自由に選択できるようになりました。

日本で2020年4月1日から発送電分離が実施されています。これによって電力市場の競争を促進し、電力料金の低下や風力地熱などの様々な発電の開発を促し電力品質の向上につながることが期待されています。

規制の緩和が必要な時とは

では、いったいいつ規制の緩和が必要になるのでしょうか? ここでは2つのきっかけを上げます。

  • 景気が悪くなった時
    景気が悪くなると検討されます。緩和によって競争がまた復活し新規参入が生まれ技術革新が期待できます。
  • 社会が変化したとき
    社会の変化によって従来の規制が時代遅れになる可能性があります。緩和することで社会の変化に対応し国民の生活の向上につなげるのです。

競争は作業の効率化や技術革新をうながし、消費者に大きなメリットを与えてくれます。しかし競争が上手くいかない業界では政府の管理や調整が必要になってきます。また政府には安全基準を定めたり、公正な会計処理や情報公開を義務付けるなどといった役割もあります。
けれど競争がうまく働かず機能不全に陥っているときは、その奥にひそむ隠れた問題を見極め本質的な対策を用意しなければいけません。独占やカルテルなどの競争的でないことから起きているのか? 規制が強すぎて起きているのか? 低所得者に対するサービスが不足しているのか? などその問題によって理由はさまざまです。

単純に規制に賛成、反対と単純に考えずに根底にある問題に目を向けることが大切なのです。

まとめ

規制緩和について見てきました。
規制緩和は景気が悪くなったとき、また社会が変化したとき行われます。規制緩和によって競争を復活させ、新規参入やイノベーションを促すことが目的です。しかし競争だけに任せておくと業界によっては上手く働かない場合があるので規制は必要です。

ある業界の競争が上手く働いていないとき、その本質的な問題を見極め規制をかけていかなければ規制は「絵に描いた餅」になってしまいます。市場原理を理解し、無理のない規制または緩和しなければいけません。

参考文献

経済学入門 ティモシー・テイラー
航空輸送産業の規制緩和 (tohoku.ac.jp)
中高の教科書で分かる経済学 菅原晃

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