となりの生き物

小さな漏斗が愛らしいジョウゴゴケ類のひみつ

ちいさな漏斗が愛らしいジョウゴゴケの仲間

あなたは近所を散歩している時植え込みの中に、小さなコップのようなものをみつけたことがありますか?
まるで妖精の漏斗を見つけられたら、わくわくしますよね!

今回は、ちょっと見過ごされがちですが、とても面白い生き物、ジョウゴゴケの仲間をご紹介します。
その控えめな姿とは裏腹に、実は驚くべき生態を持っているのです!

ジョウゴゴケの仲間は、一見するとコケのように思えますが「地衣類(ちいるい)」という生き物に分類されています。

「地衣類」は、菌類と藻類(またはシアノバクテリア)が協力して生活するユニークな生物です。
菌類と藻類は、まるで仲の良いパートナーのように、お互いに助け合いながら一つの体をつくっています。菌類は藻類が光合成によって作り出す栄養を受け取り、藻類は菌類が作り出す構造の中で乾燥や強い光から守られています。
この不思議な共生関係こそが、地衣類の魅力の一つです!

もしかしたら、あなたはすでに地衣類に出会っているかもしれません。
じめじめしたコンクリートの壁や、街路樹の幹などに張り付いている、黄色や薄緑色のものが「地衣類」です。
私たちの身近な環境にも、たくさんの種類の地衣類が生息しています。

そんな生命力豊かな「地衣類」の世界を徹底解説します!

中心にある漏斗状のものがジョウゴゴケの仲間

じっくり観察!ジョウゴゴケの仲間の特徴

ジョウゴゴケの仲間の最も目を引く特徴は、その名の通り、小さな漏斗(ろうと)のような、あるいはコップのような形をした構造を持っていることです。
これは「子柄(しへい)」と呼ばれるもので、生殖に関わる大切な部分です。
この可愛らしいカップ状の形が、ジョウゴゴケの仲間の名前の由来となっています。

大きさは、一般的に高さが0.5cmから2cm程度と、とても小さいです。
そのため、注意深く観察しないと見過ごしてしまうかもしれません。
けれど、その小さな体に、自然の精巧な技が凝縮されています。
カップの直径は約5mmから6mmほどで、小指の先ほどです。

色は、灰色がかった緑色や、やや明るい緑灰色をしています。
地味な色合いではありますが、よく見ると繊細な美しさがあります。
そして、カップの表面や内側には、小さな粒(顆粒)に覆われています。

カップの足元には、小さな鱗片状の葉のようなものが広がっていることがあります。
これは「基本葉体(きほんようたい)」と呼ばれ、長さは1mmから5mm、幅は1mmから2mm程度。乾燥すると、先端がわずかに反り返り、白い裏面が見えることもあります。

ジョウゴゴケの仲間には、ヒメジョウゴゴケやジョウゴゴケ、先の赤いアカミゴケなど多くの種類がありますが、一見しただけでは正確な種を見分けることは難しいと言われています。
「地衣類」の仲間は未だによく分かっていないことが多い世界なのです。

ヒメジョウゴゴケのひっそりとした暮らし

けれど、私たちの身近に多く分布しているジョウゴゴケの仲間がいます。
それが「ヒメジョウゴゴケ」です。

ヒメジョウゴゴケは、都市から低い山の、岩の上や地面、木の根元などで見つけることができます。
特に、日当たりの良い、やや乾燥した、切り通しの斜面や、石垣の隙間に溜まった土の上、あるいは庭の植え込みの根元に生息しています。

もし、あなたが散歩中に小さな漏斗を見つけたら、それは「ヒメジョウゴゴケ」かもしれません。
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知れば知るほど面白い!ジョウゴゴケの仲間の豆知識

ジョウゴゴケの仲間は「地衣類」という仲間の生き物です。
よく間違われる「苔」たちは、植物です。
植物は光合成をして養分をつくることができます。
光合成でつくられた養分を使って苔は生きています。

そして「地衣類」は、菌の仲間です。
菌の仲間は養分を作ることができません。
そこで藻類という光合成できる小さな生き物と共に生活して養分をもらって生きています。
この共生という生き方が、自然界の多様性を示す素晴らしい例なのです。

驚くべきことに、世界には約2万種、日本には約1000種もの地衣類が存在すると言われています。
その中でも、ジョウゴゴケ類は比較的よく見られる種類の一つです。

苔と地衣類の違い

多くの人がこんがらがってしまうのは、地衣類と苔類に違いです。
地衣類と苔はどこが違うのでしょうか?

苔と地衣類は、どちらも岩や木の上などでよく見かけられ、見た目も似ていることがありますが、実は全く異なる生物です。
一番大きな違いは「体のつくり」です。
苔と地衣類の体のつくりに注目してみましょう。

苔の細胞の並び方

苔は「植物」という仲間に分類されています。

  • 表面の層:一番外側を覆う細胞の層があります。
  • 内部の層:内部には、光合成を行う細胞が集まった層や、水分や栄養を運ぶ、あるいは体を支える細胞が集まった層があります。

地衣類の細胞の並び方

地衣類は「菌類」という仲間に分類されています。
その菌類の中でも「藻類(またはシアノバクテリア)」と共生して生活しています。

  1. 上部皮層(じょうぶひそう)
    一番外側の表面の層で、主に菌類の菌糸が密に絡み合ってできています。体を保護する役割があります。
  2. 藻類層(そうるいそう)
    上部皮層のすぐ内側にある層で、ここに藻類(またはシアノバクテリア)の細胞が集中しています。光合成を行って栄養を作り出す中心となる層です。菌類の菌糸がその間に入り込んでいます。
  3. 髄層(ずいそう)
    藻類層の下にある、地衣体の大部分を占める層です。
    主に菌類の菌糸がまばらに絡み合ってできています。
    通気性や水分の貯蔵、栄養の運搬などの役割があると考えられています。
  4. 下部皮層(かぶひそう)
    地衣体の裏側にある層で、上部皮層と同様に菌類の菌糸が密に絡み合ってできています。
    種類によっては、これで岩や木に付着するための仮根(かこん)のような構造を出すこともあります。

例えるなら、地衣類の体は、パン生地(菌類)の中にレーズン(藻類)が散りばめられたようなもの、または、骨組み(菌類)があって、特定の部屋(藻類層)に住人が集まっているようなイメージです。菌類が骨組みを作り、藻類が栄養生産の担当として特定の場所に配置されている、という構造です。

このように、両者の細胞の層は、その生物としての成り立ちと構造が異なるために、全く違うものとなっています。

ヒメジョウゴゴケを探してみよう!

ジョウゴゴケの仲間は、身近な場所に生息している可能性が高い生き物です。
公園の岩場や、庭のちょっとした空き地、あるいは散歩道の脇の地面などを注意深く観察してみてください。
特に、やや乾燥した、開けた場所で見つけやすいかもしれません。

見つける際には、小さなコップのような形に大注目です!
そして、その表面の粒状の質感、そして足元の鱗片状の葉に注目してみましょう。
ルーペなどがあれば、より細部まで観察することができます。

もしも苔と見分けがつかないな・・・と感じたときの見分けかたのポイントは、苔はふっくらとしていたり、小さな葉のようなものが集まっていたりすることが多いのに対し、地衣類はカサカサしていたり、岩に張り付いたペンキのようだったり、枝状になっていたり、様々な形があります。
また、地衣類の方が乾燥に強く、より過酷な環境でも見られます。

ただし、観察する際は、そっと見守るように心がけてくださいね。
採取したり、むやみに触ったりすることは、彼らの生活を妨げることにつながります。

自然の中で、ジョウゴゴケの仲間が静かに生きている様子を観察するだけでも、きっと新たな発見があるはずです!

まとめ:足元の小さな芸術に目を向けて

普段何気なく見過ごしてしまうような小さな生き物の中にも、驚くべき生態や美しい姿を持つものがたくさんいます。

ジョウゴゴケの仲間もその一つです。

菌類と藻類の不思議な共生、特徴的なカップ状の形、そして身近な場所にひっそりと生きる姿は、私たちに自然の奥深さと面白さを教えてくれます。

今度、身近な公園や道端で小さなコップのようなものを見かけたら、もしかしたらジョウゴゴケの仲間かもしれません。その時は、少し足を止めて、この小さな芸術作品をじっくりと観察してみてください。
このブログが、皆さんの日常に、ささやかな「発見」の楽しみが増えたきっかけになればとても嬉しいです。

参考文献

街中の地衣類 ハンドブック 大村嘉人 文一出版
植物の不思議 ガイ・バーター 北綾子訳 河出書房新社
ハナゴケ - Wikipedia 

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