ぽれぽれ経済学

失業者が増えるとなぜ困るのですか?

失業

失業とはなんでしょうか?

そんなことは決まっているように思えますが、あまり深く考えたことがない方も多いかもしれません。

ここでは「失業」とは、どのようなことを指すのか?
そして「失業」が増えると何が困るのか、解説していきます。

金融関係に携わる人にとって失業率とは、その国の景気を判断するための大きな材料の一つです。
失業にまつわる知識を増やせば経済のしくみの理解が深まるだけではなく、自分の将来のリスクについてイメージしやすくなり、投資判断の精度を高めることが出来ます。

失業とはなんですか?

失業とは、働く意思と能力があるにもかかわらず、仕事に就けない状態を指します。
具体的には、以下の3つの条件を満たす人が失業者と定義されています。

  1. 調査期間中に仕事がなくて、少しも仕事をしなかった人
  2. 仕事があればすぐ就くことができる人
  3. 調査期間中に、仕事を探す活動や事業を始める準備をしていた人

政府の労働力調査が発表する日本の失業率は現在職がなく、かつ仕事を探している人の数を毎月調査して発表したものです。

仕事をしていない人は「非労働力人口」と呼ばれ失業者の数に数えられません。
2022年の日本の非労働力人口はおよそ4100万人です。およそ半分近くの人は働いていないし、職を探してもいません。

失業中なのか非労働力者なのかはっきり分けられないケースもあります。
例えば、職探しに疲れてあきらめてしまった人 → 非労働力人口にあたります。
アルバイトをしているけれど、フルタイムで働きたい人 → 労働者にあたります。
まったく働く気がないのに「求職中」と答える人 → 失業者にあたります。
統計局ホームページ (stat.go.jp)

失業と需要と供給

私たちが失業といったら「仕事を探しているのに見つからない状態」を指しますが、経済から見る失業はちょっと違います。

経済学から見た失業とは「需要と供給が合っていない状態」です。
どういうことでしょうか?

例えば、失業とリンゴの販売について比較してみましょう。
需要と供給の関係から、リンゴを欲しがる人が減ると、リンゴの需要が下がって値段が安くなります。
同じように失業を考えてみるとどうでしょうか?
労働力を欲しがる人が少なくなると、その値段(賃金)が低くなる・・・わけではありません。

リンゴの場合は欲しい人が減れば価格が下がりましたが、労働の場合は働いてほしいと思う人が少なくなったとしても、労働者の賃金が急に下がることはありません。
これを「需要と供給があっていない状態」と表現しています。

リンゴは価格が下がって均衡しましたが、賃金の場合、労働者の賃金は下がりません。
そうなるとどうなるかというと「失業者」が増えるのです。
自分の経験やスキルに合った給料の仕事を探しても、仕事が見つからないので失業の状態になるのです。
リンゴなら価格が高いので売れずにあまってしまう分です。

つまり、失業とは、賃金が均衡点より高い状態に固定されて動かなくなっているので、労働の供給量が需要量より上回っている状態といえます。

失業している人を減らすなら、全体の賃金を下げれば解消します。なぜなら均衡点が下がって過剰な分がなくなるからです。

けれど実際には賃金は簡単には下がりません。
なぜ賃金は下がらないのでしょうか?

賃金が下がりにくい理由の一つは最低賃金法や労働組合の取り決めで、下げたくても下げられないということがあります。

それよりも大きな理由は、給料を下げてしまうと従業員のやる気がなくなってしまいます。一般的にこれが最大の理由と考えられています。企業側は社員のモチベーションが下がることはできるだけ避けたいと思っています。給料が下がれば優秀な人はすぐに別な仕事を見つけて出ていってしまうからです。

企業は労働力が過剰になったとしても給料は現状を維持しようとします。その代わりに新しい人の採用をやめたり、仕事ができない人の解雇する方を選ぶため失業者がでてしまうのです。

失業のコスト

私たちにとって失業とはとても大きな問題です。生活が困窮するだけではなく、精神的に大きな傷になります。

もしも失業に立ち向かうことになった方は、こちらの ハローワークインターネットサービス - トップページ (mhlw.go.jp) ハローワークに相談してください。受けられる給付金もあります。

ここでは「失業」別な視点「コスト」として考えてみましょう。
失業したことによって、どこにどのような不利益がかかってくるのでしょうか?

失業者が増えると、個人、企業、政府それぞれに様々なコストが発生します。

個人レベル

  • 経済的なコスト
    • 収入の減少:失業給付は雇用されていた時の収入よりも低いため、生活水準が低下します。
    • 貯蓄や資産の減少:収入が減ることで、貯蓄や資産を取り崩さなければ生活できなくなる可能性があります。
    • 借金の増加:生活費をまかなうために借金をせざるを得なくなるケースも増えます。
    • 貧困の増加:失業が長期化すると、貧困また犯罪に陥るリスクが高まります。
  • 非経済的なコスト
    • 健康問題:失業によるストレスや不安は、心身の健康に悪影響を及ぼします。
    • 社会的な孤立:職場の仲間との交流が減り、社会的な孤立を感じ、犯罪に走ることもあります。
    • スキルや知識の低下:働いていない期間が長くなると、スキルや知識が陳腐化してしまう可能性があります。
    • 自尊心の低下:失業は自尊心を低下させ、精神的なダメージを与えます。

企業レベル

  • 人材流出
    • 優秀な人材が離職してしまう可能性が高くなります。
    • 再採用コスト:失業した人材を再び採用するには、採用活動や教育訓練にコストがかかります。
  • 生産性の低下
    • モチベーションの低下やスキル不足により、生産性が低下します。
    • イノベーションの停滞:新しいアイデアを生み出すための活力が低下します。
  • 労使関係の悪化
    • 失業への不安から、労働組合の活動が活発化し、労使関係が悪化する可能性があります。

政府レベル

  • 社会保障費の増加
    • 失業給付や生活保護などの社会保障費が増加します。
  • 税収の減少
    • 失業者が増えると、所得税や住民税などの税収が減ります。
  • 犯罪率の増加
    • 貧困や社会的な孤立は、犯罪率の増加につながります。
  • 経済成長の停滞
    • 消費や投資が減退し、経済成長が停滞します。

その他の影響

  • 地域経済の衰退
    • 失業者が増えると、地域経済が衰退します。
  • 政治的・社会的な不安定化
    • 失業による不満や不安が高まると、政治的・社会的な不安定化につながる可能性があります。

失業者が増加することは、個人、企業、政府にとって大きなコストとなります。これらのコストを最小限に抑えるためには、景気対策や雇用創出政策など、様々な対策が必要となります。

自然失業

また失業には景気に影響されていない理由で失業している場合もあります。
これを「自然失業」と呼んで区別をしています。

自然失業の具体例

  • 家庭の事情で仕事を辞める
  • より良い条件の仕事を見つけるために転職活動をする
  • 起業するために仕事を辞める

ただ注意が必要なのが「自然失業」が景気に左右されない失業ということになってはいますが、私たちの労働意欲は社会にあるさまざまな制度、ルールによって変わってきます。

例えば、企業は規制が強いとその場所に新しく産業を興すのが難しくなり、人を雇うのは難しくなります。また従業員への福利厚生を充実が義務づけられている場合、企業は採用が負担になってしまいでしょう。
逆に労働者は失業給付金の大きさやその期間などによって、労働者は次の仕事を探そうとする気持ちが左右されるでしょう。

つまり、自然失業とはいっても自然とはいえず、人為的な部分が多く、社会の規制やルールも労働市場に大きな影響を与えているのです。

失業を減らすために

失業を減らすためには、政府や社会全体で取り組むことが重要です。ここではいくつかの施策をご紹介します。

  • 経済成長の促進
    経済成長は、雇用創出に不可欠です。政府は、公共事業への投資や中小企業への支援などの財政政策や金利を下げる金融政策によって、ローンを組みやすくして産業活動を活発にさせます。
  • 職業訓練
    労働者のスキルや経験を向上させることは、企業が求める人材になるために必要です。訓練費の軽減や質の向上などの職業訓練制度を充実させ、労働者がスキルアップできる環境を整備します。
  • 労働移動の促進
    労働者が、希望する仕事を見つけられるよう、労働移動を促進することも重要です。政府は転職支援サービスや移住支援制度の充実、労働市場情報を充実させ労働者が転職しやすい環境を整えます。
  • 雇用環境の改善
    長時間労働や過労死などの問題を解決し、働きやすい雇用環境を整備することも欠かせません。法改正による労働時間規制の強化、企業の働き方改革の推進、ワークライフバランスの支援などが進んでいます。
  • 社会福祉制度の充実
    失業した人が生活を維持できるよう、社会福祉制度を充実させなければいけません。失業保険の拡充、生活保護制度の充実、ひとり親家庭への支援などで精神的に支えます。
  • 社会全体の意識改革
    失業は個人の責任ではなく、社会全体の問題であるという意識を共有します。
    メディアや教育機関を通じて失業問題に関する情報発信を行ったり、企業や労働組合と協力して、雇用創出に向けた取り組みを進めるたりするなどの、社会全体の意識改革を推進していくことが重要です。

まとめ

失業について解説しました。
失業は経済に与える影響が大きいものの一つです。

失業は景気が悪くなったので賃金を下げなければいけないところを、下げられないため市場の調整が効かないため起きるものです。
失業には個人的なコストが大きいだけではなく、企業にとっても人材の流失、国は社会保障費の増加、社会全体にとっても不利益になるのでできるだけ失業は減らさなければいけません。

失業を減らすには、政府や社会全体で取り組むことが大切です。
経済成長の促進、職業訓練、労働移動の促進、雇用環境の改善、社会福祉制度の充実、社会全体の意識改革など、さまざまな施策を組み合わせることで、失業問題の解決を目指していく必要があります。

失業の根本的な解決は経済の成長です。
そのためには生産性を向上させなければいけません。
労働者すべての生産性が上がっていけば、市場全体の賃金も上がっていきます。

そのためには教育、設備投資、そして技術革新です。

社会全体が伸びていけば、より良い条件のいい仕事が見つかりやすくなり失業が少なくなります。

参考文献

経済学入門 ティモシー・テイラー
統計局ホームページ (stat.go.jp)

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