大昔から比べると、私たちの暮らしはとても豊かになりました。
経済成長はどの国でも良いものとされ、望ましい目標として掲げられています。
日本では戦後、すばらしい経済成長の末現在に至っていますが、ここで一つ疑問があります。どの国も経済成長を望ましいものとしているのに、何年たっても成長できずに最貧国のままの国があるのはなぜでしょうか?
ここでは経済の成長とはどのように進むのか解説し、経済成長の限界と「知の進歩」について考えます。
経済成長の進み方
経済成長はある経済の活動規模が長期にわたって拡大していくことです。一般的には、実質国民総生産(GDP)の増加率で表されます。
例えば、2023年の主要各国のGDPの伸び率は以下の通りです。
- アメリカ:1.7%
- 中国:3.2%
- 日本:1.1%
- ドイツ:1.2%
- フランス:0.7%
- イギリス:0.6%
- インド:7.2%
このように各国も数パーセントの伸び率ですが、このわずかな伸び率が将来の生活水準に大きな影響を与えることになります。
将来の経済成長
将来の経済の大きさを、ざっと予測したいときは次のような計算式を使います。
現在のGDP ×(1+成長率)
実際に計算してみましょう。
例えば、今GDPが100、成長率が年間1%が国があるとします。
1年後 100 ×(1+0.01)= 101
2年後 101 ×(1+0.01) = 102
︙
この国のGDPは10年後に110になります。
ではGDPの伸び率が2%、3%、5%、10%の場合を比べてみます。
2% | 3% | 5% | 8% | |
10年後 | 121 | 134 | 163 | 216 |
25年後 | 165 | 209 | 339 | 685 |
40年後 | 271 | 326 | 704 | 2172 |
ここで注目していただきたいのは、初めの数字が100だったものが年を重ねるごとに大きくなっていることです。
GDPの伸び率が毎年2%とは2013年に日本政府が掲げた目標です。もしもこの目標が達成されたら40年後には2.5倍以上になります。
GDP伸び率3%とは、アメリカの1980年から今までの実際の成長率、またGDP伸び率8%とは、1970年から80年代の日本の実際の成長率です。
8%の成長率を長い間続けられる国はありませんが、毎年8%で伸びると、わずか10年間でGDPが2倍になる計算になります。
GDPが8%で増えるた場合、例えば子供のころ親の給料は1000円だったのが、自分が働くころには給料が2万円になります。買えるモノが増えるので、その国の人たちの生活水準は劇的に変化しているはずです。
最貧国と先進国のGDPの差は開いている
ある程度の時間の間にGDPが伸びていけば、生活水準を改善させることができることが分かりました。
では、最貧国の生活水準が先進国に追いつくことはできるのでしょうか?
2023年現在最貧国と言われている国は、南スーダン、ブルンジ、中央アフリカ共和国、ニジェール、南スーダン、チャドなどの、アフリカ大陸にある国々です。これらの国では政治的不安定、内戦、自然災害などの問題を常に抱え、教育や医療のアクセスが限られ、多くの人が貧困の中で暮らしています。
先ほどのGDPの伸び率をみると、毎年成長していけばいずれ先進国に生活水準が追いつくのも時間の問題のように思われます。
けれど、実際はそのような動きは全く起こっていません。
1960年と2020年の豊かな国と貧しい国とのGDPの差
1960年と2020年の豊かな国と貧しい国とのGDPの差は、指標や対象国によって異なりますが、一般的に以下の傾向が見られます。
1. 一人当たりGDP
- 1960年:豊かな国の平均一人当たりGDPは貧しい国の約10倍
- 2020年:豊かな国の平均一人当たりGDPは貧しい国の約50倍
2. GDP格差
- 1960年:世界のGDPのうち、豊かな国が占める割合は約70%
- 2020年:世界のGDPのうち、豊かな国が占める割合は約80%
3. 具体的な例
- 1960年:アメリカの一人当たりGDPは約2,800ドル、インドの一人当たりGDPは約80ドル
- 2020年:アメリカの一人当たりGDPは約69,000ドル、インドの一人当たりGDPは約2,000ドル
このように1960年から2020年の間に、世界のGDP格差は拡大しています。
最貧国の事情
昔最貧国であった国、例えばインドや中国はめざましい経済成長をして先進国との差を縮めています。
しかしそのような成長が見られない国もあります。最貧国が最貧国のままの状態である理由は、複合的な要因が絡み合っていて単純な答えはありませんが、いくつかの重要な要因があると言われています。
- 植民地主義の歴史
多くの最貧国は、かつて欧米諸国によって植民地支配を受けていました。植民地支配によって、これらの国々は資源を搾取され、経済発展が阻害されました。独立後も、植民地支配の影響が残っており、経済発展の基盤が弱い状態です。 - 政治的不安定
多くの最貧国では、内戦やクーデターなどの政治的不安定が続いています。政治的不安定は経済発展を阻害し投資を抑制します。 - 腐敗
多くの最貧国では、政府の腐敗が深刻な問題となっています。腐敗は政府の資金が国民の生活向上ではなく、一部の権力者による私物化に使われる原因となります。 - 自然災害
多くの最貧国は、干ばつ、洪水、地震などの自然災害が発生しやすい地域に位置しています。自然災害は人々の生活を破壊し、経済発展を阻害します。 - 人口増加
多くの最貧国では人口増加率が非常に高くなっています。経済成長を伴わない人口増加は、貧困問題を悪化させ経済発展の足かせになります。 - 教育の不足
多くの最貧国では教育へのアクセスが限られています。教育の不足は人々の能力開発を阻害し経済発展を妨げます。 - 医療の不足
多くの最貧国では医療へのアクセスが限られています。医療の不足は人々の健康状態を悪化させ、経済発展を阻害します。 - 国際社会の支援不足
国際社会からの支援は、最貧国の貧困問題解決に重要な役割を果たしています。しかし、現状では、必要な支援が十分に行き届いていないという課題があります。
これ他の状況が複合的に絡んで最貧国から抜け出せない状態が続いています。
最貧国の生産性向上
継続的に経済成長していくには、生産性の向上が欠かせません。
一人一人の時間当たりの生産量を高めていくことが経済成長の原動力になります。
生産性の向上のためには3つのポイントがあります。
- 仕事でつかえる設備を多くすること
政府が集めた税金は、市民が経済活動をしやすくなるように使うこと
経済活動を阻害するようなルールはつくらない - 働く人が教育を受けられること
教育レベルの向上は労働者のスキルアップにつながり、生産性を向上させます
新しい技術や知識を習得し、イノベーションを促進することが出来ます - より効率的に生産できるようになること
以前より生産過程で変化がおきること
新しいやり方で生産性を上げていくこと
生産性の向上はこれらの3つの要素が大切ですが、実はその影響力には差があります。
経済成長のおよそ25%が設備投資、おなじく教育レベルの向上が25%の影響力しかありません。一番大きな要因は3番の技術の進歩です。つまり経済成長のおよそ半分は新しい技術革新によってもたらされていることが分かっています。
一方貧国ではもともと教育水準が低く、設備も少ないためこの2つが急激に伸びていきます。技術の進歩による部分が割合に少なく設備と教育が経済成長を推し進めていきます。
知の進歩へ
私たちの社会は経済成長をすることを目標にしてきました。
しかし、ほとんどの経済活動には資源や土地がなければ成立しません。限りのある材料が必要な活動はいずれできなくなるでしょう。資源に依存した経済成長は、資源枯渇や環境問題などの課題に直面し持続可能性が危ぶまれています。
私たちは資源に依存しない経済活動を模索していかなければなりません。
最近の人工知能や情報技術の技術革新には目を見張るものがあります。この人工知能や情報技術によって強化されるはずの「知の進歩」は、資源の制約を受けずに、無限の可能性を秘めた持続的な成長の鍵となるでしょう。
ここで、「知の進歩」が実現する可能性のある未来について、具体的な例を交えていくつかご紹介します。
- 科学技術の進歩による新たな資源の獲得
宇宙開発
月や小惑星などの天体から希少資源を獲得することで、地球上の資源不足を補う
深海資源開発
深海に眠る豊富な資源を安全かつ効率的に採掘する技術開発
人工資源の創出
太陽光や風力などの再生可能エネルギーを活用して、従来の資源に依存しない人工資源を製造する - 生産性向上による経済成長
AIやロボット技術
製造業やサービス業などの様々な分野で、自動化や効率化を進め、労働生産性を大幅に向上させる
バイオテクノロジー
農業や医療などの分野で、新たな品種開発や治療法の開発など、生産性や効率性を飛躍的に向上させる
ナノテクノロジー
材料科学や電子デバイスなど、様々な分野で革新的な技術開発を促進し、生産性向上に貢献する - 人間能力の拡張による新たな価値創造
AIとの協働
AIの得意分野と人間の得意分野を活かした協働によって、新たな価値創造や問題解決が可能になる
脳科学の発展
脳機能の理解を深め、記憶力や集中力などの能力を向上させる技術開発
遺伝子編集技術
人類の健康寿命を延ばし、潜在能力をさらに引き出す可能性 - 社会システムの革新による持続可能な社会の実現
情報技術の活用
情報共有や意思決定の効率化、透明性の向上など、社会全体の効率化と持続可能性を高める
シェアリングエコノミー
所有から利用へ、モノやサービスの共有化を進め、資源の有効活用と環境負荷の低減を実現
分散型社会
中央集権型の社会から、個人がより自立し、協調する分散型社会への移行 - 新たな価値観や倫理観の確立
持続可能性への意識
地球環境や社会全体の持続可能性を重視した価値観や倫理観の確立
テクノロジーとの共存
人間の尊厳や幸福を尊重しながら、テクノロジーと共存していくための倫理観の構築
多様性の尊重
個人の個性や文化、価値観の多様性を尊重し、共生していく社会の実現
これらの例はほんの一例であり、知の進歩は、私たちが想像を超えるような未来社会を生み出す可能性を秘めています。
重要なのは、知の進歩を人類全体の幸福に繋げるために、倫理的な問題や格差拡大などの課題にしっかりと向き合い、適切な社会システムを構築していくことです。
資源に制限のある従来の経済成長を超えて「知の進歩」によって人類の創造性と協調性を発揮して、持続可能でより豊かな未来を築き上げなければならないでしょう。
まとめ
最貧国と先進国の経済成長を解説しました。
経済成長はどの国でも政府の目標になっています。その為政者が権力を持っていられるのも人々の生活が良くなっていくから支持しているのであって、悪くなっていったらその権力者を引きずり降ろそうとするでしょう。
毎年少しずつ経済成長できれば、計算上はどんな経済状況にある国でも先進国に近づくことができます。しかし実際には貧国には政治の腐敗や戦争、教育不足で経済成長が出来ない国が多くありました。
経済成長するには「生産性」を上げることが唯一の道です。そのため仕事がスムーズに行えるような設備づくり、人々への教育、そして昨日より今日の方が効率な仕事ができるようになることを目指していくことが必要です。
しかし、経済成長は地球にある資源に依存しているため、いつまでも成長できるわけではありません。地球の資源は有限です。これからは人工知能や情報技術を活用した「知の進歩」をどの国も目指すことになるでしょう。資源の枯渇のない「知の進歩」に向かって私たちは進んでいかなければならないのです。
参考文献
世界銀行 | 日本 (worldbank.org)
国際通貨基金 (imf.org)
日本 | United Nations Development Programme (undp.org
学者が斬る・視点争点:経済成長はなぜ必要なのか | キヤノングローバル戦略研究所 (cigs.canon)
ホーム : 日本銀行 Bank of Japan (boj.or.jp)
経済学入門 ティモシー・テイラー