短かった日が少しづつ長くなってくると、春に咲く花たちが芽をだして、花が咲き始めます。
オオイヌノフグリは春に咲く花の中でも一番早く咲きます。
オオイヌノフグリの花は8mmほどの小さな青い花で、なぜか触ると花びらがポロッっと落ちてしまうはかない花です。
けれどオオイヌノフグリは、明治時代初期に日本にやってきて、あっという間に北海道から九州まで広がった繁殖力の強い植物でもあります。
ここではそんなはかなげの中にも強さを持つ、オオイヌノフグの秘密をご紹介します!
オオイヌノフグリ
植物界
被子植物門
双子葉植物綱
ゴマノハグサ科
クワガタソウ属
オオイヌノフグリの生態
オオイヌノフグリは、ヨーロッパ原産の2年草です。
日本には江戸時代に帰化し、大正時代末期には全国に広がりました。
春の野原を代表する青い花として親しまれていますが、実は非常にたくましい生態を持つ植物です。
形態
- 草丈:10~30cm
- 葉:全体に柔らかい毛があり、葉は上部のものは互生して、下部の葉は対生して柄があります
- 花:1月から6月ごろにコバルト色の花を咲かせます。花の柄は1㎝~4㎝ほど
がく:4つに分かれ長さが6mm。花は直径約8mm~1cm
花弁:花びらは4つに分かれて下側につく花弁が少し小さいです
めしべ1本 おしべ2本 - 果実:平らで中心がへこみハート形をしています。種は長さ1.5mmの楕円形
生育環境
- 日当たりと水はけの良い場所
- 乾燥にも比較的強い
- 芝生、公園、道端など、様々な場所で生育できます。
生活環
- 秋に芽生え、冬の間はロゼット状で越冬
- 春に茎を伸ばし、花を咲かせる
- 花期は1~6月
- 種は風や雨、昆虫などによって広がることが出来ます。
- 夏は地上部が枯れ、種子で過ごします。
繁殖方法
- 虫媒花だが、自家受粉も可能
- 種子は土壌中で5年以上発芽能力を維持
分布
- ヨーロッパや、アフリカの温帯地域に分布
- 日本では全国的に見られる
オオイヌノフグリの花びらはなぜ取れやすいの?
オオイヌノフグリの青い小さな花に触れて花びらを落してしまった経験を持つ人もいらっしゃるかもしれません。
オオイヌノフグリの花は、なぜ触っただけで花びらが取れてしまうのでしょうか?
それには深い理由があります。
オオイヌノフグリのの花びらはちょっと触られるとふらふらと揺れ、しっかり茎についていません。
小さな虫がオオイヌノフグリの花粉を食べようとオオイヌノフグリの花に乗ると、花びらは虫の重さで下向きになってしまいます。すると虫は急いでおしべにしがみつかなければなりません。
するとしっかりしがみついた虫のお腹には花粉がぺったり付くので、オオイヌノフグリはたくさん花粉を運んでもらえるようになるのです。
このようにオオイヌノフグリは、虫が少ない春先に確実に花粉を運んでもらおうと、ゆるーくついた花びらの仕掛けを用意しています。それでも、虫に運んでもらうだけでは繁殖力が弱いので、オオイヌノフグリは自家受粉もします。
虫と自家受粉の2つの方法で受精を確実に行うことが、オオイヌノフグリの繁殖力の強さの秘密です。
原産地のヨーロッパでの利用法
この繁殖力の強いオオイヌノフグリは原産地ヨーロッパで、食用や薬として使われてきました。
その代表的な例をいくつかご紹介します。
食用
- 若葉や花をサラダやスープに混ぜて食用にする
- 乾燥させた葉をハーブティーとして飲用
- 苦味成分があるため、食用にする場合はあく抜きが必要でした
- 家畜の飼料や染め物の材料として使った
薬用
- 民間療法ですが、咳や喘息などの呼吸器系の症状を緩和するために使用されていました。
- 抗炎症作用や抗菌作用があると言われています。
オオイヌノフグリは、人によってはアレルギーを引き起こす可能性があり、特に妊娠中や授乳中の女性は、食用や薬用として利用しないことをお勧めします。
おしべが2本しかないのはなぜですか?
おしべの数は植物によってまちまちですが、オオイヌノフグリのようにおしべが2本しかない花はゴマノハグサ科、シソ科、アカバナ科の一部しかありません。
おしべ数の進化
おしべの数は、進化の過程で変化してきたと考えられています。
原始的な被子植物(例えばモクレンや朴の木など)には、多数のおしべがあります。その後、進化が進んでいくと受粉の効率化や花粉の節約などの理由で、おしべの数が少ない植物も現れたと考えられています。
おしべの数は、花の形態や機能に様々な影響を与えます。
例えば、おしべの数が多い花は、より多くの花粉を生産することができ、受粉の成功率を高めることができます。
一方、おしべの数が少ない花は、花粉の生産量が少ない代わりに、花粉を効率的に運ぶことができるというメリットがあります
残念ながら、オオイヌノフグリのおしべが2本になった理由は、まだ完全には解明されていません。
けれど、おしべの数が少ないことは、オオイヌノフグリにとって必ずしも不利というわけではありません。
むしろ、花粉の生産量を減らすことで資源を節約することができますし、花粉の散布を効率化することで、確実に受粉することができます。
オオイヌノフグリは、おしべが2本という特徴的な花を持つ、興味深い植物です。おしべの数の少ない植物は、まだまだ謎に包まれています。今後、さらなる研究によって、オオイヌノフグリを含むこれらの植物の進化の謎が解き明かされるのがたのしみですね。
ちなみにオオイヌノフグリの学名にはヴェロニカ(Veronica)とは、キリスト教カトリック教会の聖人の名前です。
ヴェロニカはゴルゴダの丘に向かうキリストに汗と血をぬぐってもらうために布を渡しました。するとその布に奇跡が起こって布にキリストの顔が描かれた。という伝説の女性の名前です。
オオイヌノフグリは、身近な植物でありながら、奥深い生態を持つ興味深い植物です。春の野原で見かけたら、ぜひじっくりと観察してみてください。
参考文献
原色日本植物図鑑 保育社
あした出会える雑草の花 山と渓谷社
小学館NEO 植物 小学館
野草図鑑 保育社
オオイヌノフグリ - Wikipedia
オオイヌノフグリ / 国立環境研究所 侵入生物DB (nies.go.jp)
野生植物[民間療法で利用されている種](和名順)一覧表示 (amami.or.jp)
オオイヌノフグリ,大犬の陰嚢,Veronica persica,ゴマノハグサ科クワガタソウ属 (e-yakusou.com)