ぽれぽれ経済学

分業のメリットとデメリット

分業のメリット・デメリット

私たちの身の回りにあるものは、一見単純そうに見える商品でも、世界中から素材を取り寄せて複雑な工程でつくられていることがほとんどです。

例えば、鉛筆はどうでしょうか?
鉛筆をつくるための木は、カリフォルニア州のシエラ・ネバダ山中に育つヒノキが使われています。この木が加工されて、スラッドと呼ばれる板になって日本に運ばれてきます。

鉛筆の芯は中国の天然黒鉛とドイツ産の粘土を混ぜて作られます。

表面には油性の塗料が塗られています。

鉛筆の先についている消しゴムと接続部分には真鍮を使います。
真鍮をつくるためには、銅と亜鉛をそれぞれ掘削し、輸送して、精錬しなければいけません。

消しゴムは生ゴムが使われているのでインドネシアやタイから輸入しています。
このように単純に見える鉛筆でも多くの工程と原料が必要になります。

鉛筆をつくるのはたいへんだニャー

さまざまな材料と工程でつくられる鉛筆

分業の3つのメリット

鉛筆は私たちの持つモノのなかでも単純なものですが、世界中から集められた材料と多くの工程を経て作られていました。

このようにモノをつくるとき、たくさんの人が役割を分担して作り上げることを、経済学用語で「分業」と呼んでいます。私たちの身近な製品は「分業」で出来たものばかりですが、「分業」にはどんなメリットがあるのでしょうか?

  • 効率の良さ
    「分業」が行われれば、労働者は特別な仕事に集中でき、そして企業はその土地にあった事業に集中できます。

    例えば、
    日本では車の生産量が世界でトップクラスですが、車のデザインをする人と、その材料を世界中から集める人、それを組み立てる人ではそれぞれ別な技術を持ち、各自それぞれが専門の仕事を行います。

    同じように企業なら、
    愛知県の豊田市の近くでなにか事業を行おうとすれば、自動車関連の事業が圧倒的に有利です。

    このようにそれぞれの人や、土地柄に合わせた仕事を行えば生産効率がぐっと良くなります。
  • 習熟が速い
    「分業」で一つの作業に集中すると、その仕事に早く習熟することができます。

    慣れた人に仕事をまかせると、よい仕事をするな・・と思うことはよくありますよね。企業も同じで、その道に特化した企業にはほかの会社がまねできない技術やノウハウをもっているものです。あちこちに手を出す企業より良い仕事をすることが多いのです。
  • 規模の経済
    「分業」は「規模の経済」を活用できる
    「規模の経済」とは、大きな工場をつくって生産量を大きくした方が、一つの商品をつくるためのコストが下がる傾向のことを言います。

    小さな工場で年間100個の製品をつくる工場より、大きな工場で年間1万個作る方が1個当たりの生産コストが大きな工場のほうが小さくなります。
    また、仕入れの量を増やして、コストを抑えたり、たくさん売ることで1個当たりの広告費を抑えることができます。

分業の歴史

その昔、人々は自分の食べるものを、自分で野山へ分け入って探したり、畑を耕して作っていました。ほかの人の手を借りることはありましたが、その人たちはみんな顔見知りで同じ共同体の人です。自分の着ている服、住んでいる家、そういうモノを顔見知りの人たちと一緒につくります。
作れるものは多くはなく、使える材料は身近に生えている植物や動物だけなので構造は単純でした。

それから、大きな船ができ、世界中で取引ができるようになると、もっと広い世界から材料を交換しあって、複雑なものがつくれるようになります。
しかし、複雑なものをつくる技術は習得するもの大変なので、特定の人が行った方が効率よく作れることになり、「分業」という仕事のスタイルが生まれました。

この「分業」が広まったおかげで、私たちは多くのモノを簡単に手に入れられるようになりました。

分業のデメリット

分業は多くのものを簡単に手に入れられるようになりましたが、気になるデメリットもあります。

  • 個人の能力低下
    全ての作業を自分で行う必要がなくなるため、多様な能力が求められる場面で対応が難しくなる可能性があります。
  • 主体性の低下
    分担された仕事のみを行うようになり、全体的な状況を把握し、自ら考え行動する力が弱まる可能性があります。
  • 人間関係の希薄化
    各個人が自分の仕事に集中するため、他のメンバーとのコミュニケーションが減り、人間関係が希薄化する可能性があります。
  • 変化への対応力の低下
    常に同じ作業を繰り返すことで、変化に対応する能力が低下する可能性があります。

分業には、困難な状況を乗り越え、自己実現を達成するための能力が失われる可能性があります。
けれど、分業によって得られる専門性や知識は、別の形で「生きる力」に繋がる可能性も考えられます。

分業のデメリットをメリットに変えていくためには

分業のデメリットをできるだけ抑えていくためにはどのようなことができるでしょうか?

分業が進むことで個人の「生きる力」は、必ずしも弱まるわけではありません。重要なのは、分業のメリットを享受しつつ、個人の能力や主体性を高めるための取り組みを同時に行うことです。

例えば、

  • 多様な経験を積む
    ボランティア活動や趣味など、普段の仕事とは異なる活動に参加することで、多様なスキルを身につけることができます。
  • チームワークを重視する
    分業の中で、他のメンバーと協力し、共同で目標を達成する経験を積むことで、コミュニケーション能力や協調性を高めることができます。
  • 自己学習を習慣化する
    新しい知識やスキルを積極的に学ぶことで、変化に対応する能力を向上させることができます。

分業は、社会の発展に不可欠な要素ですが、同時に、個人の成長を阻害する可能性も秘めています。分業と個人の成長のバランスをどのように取っていくかが、これからの社会において重要な課題になっています。

昔の人たちは自分が食べているもの、身につけているものがどこからきて、どのように加工されたかよく知っていたでしょう。けれど、私たちはよく知りません。けれど、知らなくても快適に暮らせるようになりました。それらを買うお金は、また専門家された仕事で稼いで購入しています。

分業は、生産性向上や品質向上など、多くのメリットをもたらしますが、専門性が高くなり、作業全体をみて状況を把握するのが難しいことや、他の人とのコミュニケーションが希薄になること、また変化に対応する力が弱まるなどのデメリットも存在します。

分業を成功させるためには、メリットとデメリットを理解し、それぞれのの状況に合わせて最適な分業体制を構築することが重要です。

まとめ

私たちの身の回りにある製品はすべてが「分業」という工程で作られていることを見てきました。「分業」のメリットは3つあります。
1つはその土地や人にあった仕事に集中すれば生産性があがります。
2つ目は集中して行った仕事はよりよいモノを生み出しやすいこと。
3つ目はある仕事に特化してその規模を大きくすればさらに効率よくモノが生み出せることでした。

また、デメリットもありました。
作業する人が分かれているため、コミュニケーションが希薄になり情報の共有や調整に時間がかかります。
単純な作業が多くなりがちなので、モチベーションが下がります。
また全体が見えにくく、作業全体を把握する力が失われがちです。

分業の進んだ社会は人々は豊かな暮らしができますが、生活に必要なモノを自分自身で作ろうとする力が失われることでもあります。

分業のデメリットを抑えるために、個人が多様な経験や知識を吸収をできるよう支援したり、共通の目標を設定し、コミュニケーションの取りやすい環境を整え、企業の成長だけではなく、個人の成長も支援することが、これからの企業には強く求められています。

参考文献

経済学入門 ティモシー・テイラー
えんぴつができるまで|特集|三菱鉛筆株式会社 (mpuni.co.jp)
消しゴムについて|文具館タキザワ (takiprit.com)
鉛筆のできるまで (jwima.org)
消しゴムの原料 | 株式会社トンボ鉛筆 (tombow.com)

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