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3びきのくま

3びきのくま

イギリスの童話に「3びきのくま」という有名なお話があります。

「3びきのくま」は日本ではほとんど知られてはいませんが、ヨーロッパでは絵本やアニメ、映画や観劇などさまざまな作品につかわれている人気のおはなしです。
シンプルな内容で子供にも理解しやすく、多くの人が知っている内容なので、そこに含まれるメタファーは芸術作品だけではなく生物学や経済学にまで使われています。

日本人の感覚だと、この作品はちょっとなじまないのではないかと思いますが、欧米の人たちはこの感覚を大切にしていることを知っておくのは、意味があります。

ここでは有名な「3びきのくま」の教訓を通して「選択の難しさ」について見ていきます。
なにかを選択すると、必ず誰かが損をするとき、何を優先すべきなのかは難しい問題です、特に国の政策はその代表です。

失業率を下げたいと思ったとき、経済を活性化させるために税金優遇、公共投資、金融緩和を推し進めれば、その副作用としてインフレが起きる可能性が高くなります。

インフレ対策と失業対策の知識は、日常生活において様々な場面で役立ちます。
これらの知識を身につけることで、経済的な安定を確保し、将来の不安に備えることができます。
ぜひご覧ください。

3びきのくま

初めに簡単に童話「3びきのくま」のあらすじを確認しておきましょう。
 
ある日、ゴルディロックスという女の子は森の中で迷子になります。
森の中でゴルディロックスは一軒の家を見つけます。
そこは「大きいくま」と「中くらいのくま」と「小さなくま」の3びきが住んでいる家でした。
ゴルディロックスが着いた時、3匹のクマは散歩中で家にはいませんでした。

誰もいない家の中をゴルディロックスは興味本位で探検し始めると、テーブルに大きさが違うお皿に入った3つのお粥がありました。
ゴルディロックスはお腹がすいていたのでテーブルのお粥を食べようと近づきます。
一番大きなお皿のお粥は冷たすぎました。
一番小さなお皿の お粥は熱すぎて食べられませんでした。
中くらいのお皿の お粥はちょうど良い温度だったので全部食べてしまいます。

次に、ゴルディロックスは横にあった3つの椅子に座ってみます。
一番大きな椅子は高すぎて座り心地が良くありませんでした。
一番小さな椅子は座ると壊れてしましました。
けれど 中くらいの椅子はちょうど良い座り心地だったので、座って休憩しました。
ゴルディロックスは椅子の座り心地が良すぎて、つい眠ってしまいます。

それからしばらくすると散歩から3びきのクマが返ってきました。
3びきのくまは、食べられたお粥、壊れた椅子、そして眠っているゴルディロックスを見て驚きます。

ゴルディロックスは慌てて逃げ出し、3びきのくまは追いかけます。
ゴルディロックスは、何とか川を渡って逃げ出すことに成功し、3びきのくまはあきらめて家に戻りました。

3びきのくまの教訓

この物語には、いくつかの教訓が込められています。

  • 人のものを勝手に取ってはいけません
    ゴルディロックスは、許可を得ずに3びきのくまのお粥を食べたり、椅子に座ったりしました。
    これはいけません。
  • 自分の居場所をわきまえる
    ゴルディロックスは、3びきのくまの家に勝手に上がり込み、迷惑をかけてしまいました。
    自分の居場所をわきまえて行動しなければいけません。
  • 「ちょうど良い」を見つける
    この物語では、3つの大きさのものが登場します。
    自分にとって「ちょうど良い」を見つけることが大切です。

このお話からヨーロッパでは「ゴルディロックス」という言葉の意味が、何かを選ぶときは自分にとって大きすぎたり、小さすぎたりしない適度な大きさを選ぶことが大切という意味を持つ言葉になっています。

ゴルディロックス経済

ゴルディロックスという言葉は、経済でもその言葉は使われています。
それは「ゴルディロックス経済」というもので「経済活動は適当な温度を保っている活動が理想的である」という意味です。
ゴルディロックス相場 - Wikipedia

ゴルディロックス経済という言葉を誰が初めて使ったかについては諸説あって起源は明確ではありませんが、1960年代にアメリカの経済学者ウィリアム・ノードハウスが講演の中で似たような表現を使ったとか、1970年代に、経済学者のチャールズ・キンデルバーガー氏が自身の著書の中で使ったとか、1980年代に、ジャーナリストのウォルター・B・ワトソンがイギリスの経済誌で使った、など様々な人が使ってこの言葉を使って広めたと言われています。

そのなかでも1990年代後半に、元FRB議長のアラン・グリーンスパン氏が、当時のアメリカの経済状況を「ゴルディロックス経済」と表現したことが、この言葉の広まりに大きく貢献したと言われています

ゴルディロックス経済の特徴

ゴルディロックス経済には、以下のような特徴があります。

  • 適度な経済成長:経済成長率が過度に高すぎず、かといって低すぎない。
  • 低インフレ:物価上昇率が低く、安定している。
  • 低金利:金利が低く、企業や家計の資金調達が容易。
  • 安定した雇用:失業率が低く、多くの人が仕事に就いている。
  • 企業収益の安定:企業の業績が安定しており、投資家心理が良好。

ゴルディロックス経済がもたらすメリット

ゴルディロックス経済は、以下のようなメリットをもたらします。

  • 企業の投資活動の活発化:企業が将来の成長に期待して、設備投資や研究開発投資を積極的に行う。
  • 家計の消費拡大:家計が将来への不安を感じることなく、消費を積極的に行う。
  • 株価上昇:投資家心理が良好になり、株価が上昇する。
  • 経済全体の活性化:企業の投資活動や家計の消費拡大によって、経済全体の活性化につながる。

ゴルディロックス経済のリスク

また逆にゴルディロックス経済は、以下のリスクがあります。

  • 持続可能性:持続可能かどうかが不透明。
  • 政策ミス:中央銀行などの金融政策のミスによって、経済が過熱したり、冷え込んだりすることがある。
  • 外部ショック:世界経済の混乱や自然災害などの外部ショックによって、経済が不安定化することがある。

失業率は上げずに物価は安定していてほしい

私たちの生活のためには失業する人はなるべく少ないこと、またモノの値段は急激に上下することなく安定していることが、私たちの一人一人の安心した暮らしのために必要ですし、また政府の願いであり、経済学の目標でもあります。

つまり理想的には失業率が低く、物価上昇率が安定している経済状態が望ましいわけです。
しかし、失業率と物価上昇率はトレードオフの関係にあり、一方を改善するともう一方が悪化する傾向があります。

トレードオフとは、「何かを得るためには、何か別のものを犠牲にしなければならない関係」を指します。言い換えると、「一方を達成するためには、もう一方を諦めなければならない」という状況です。

失業率が低い状態が保てれば

  • 企業が人手不足になり、賃金が上昇しやすくなる
  • 労働者の購買力が高まり、消費が活発になる
  • 経済成長が加速する

物価上昇率が安定していれば

  • 家計の支出計画が立てやすく、経済活動が安定化する
  • 企業の収益が安定し、投資が活発になる
  • 将来への不安感が少なく、経済全体の活力が向上する

理想的な経済状態とは

  • 失業率が自然失業率(経済全体の効率的な運営に必要な失業率3%前後と言われています)の水準に近づく
  • 物価上昇率が低く安定し、デフレやハイパーインフレを回避できる
  • 経済成長と物価安定の両立ができる

なぜ失業率とインフレ率はちょうどよい関係にならないの?

なぜ失業率とインフレがトレードオフの関係になっているのでしょうか?

経済が好調な時は、失業率の低下とインフレの上昇は、次ように進んでいく傾向があります。

  • 経済が成長しさらに総需要が増えると、生産可能な限界より需要が多くなり、モノよりもお金があまる状態になります。
  • そして企業はより多くの労働者を必要とするので失業率は低下します。
  • 需要があるのに働き手がいないと企業は労働者を獲得するために賃金を引き上げざるを得なくなります。
  • また、財市場ではモノがすくなくお金があまっていますから、価格が上がっていきます。

このような時は、需要が高まり物価上昇(インフレ)につながります。

逆に経済が低迷している場合はどうでしょうか?

  • 経済が低迷し、工場は持っている生産力より低くしか動いていません。
  • 仕事を失っている人、使われていない設備が存在する状態になります。
  • 失業者の職探しは競争が激しくなるので、賃金が低く抑えられます。
  • 財市場では需要が少なく、お金よりもモノがあまります。

このような時は失業率が高くインフレは起こりません。

これらのメカニズムにより、失業率とインフレはトレードオフの関係にあると考えられています。

失業率とインフレ対策をバランスよく組み合わせるには

インフレ対策と失業率をバランスよく組み合わせるのは、経済政策における永遠の課題であり、簡単な答えはありません。
しかし、いくつかの重要なポイントがあります。

  • インフレと失業率の関係
    まず、インフレと失業率は短期的にはトレードオフの関係にあることを理解する必要があります。
    つまり、インフレを抑えるためには失業率を増加させ、失業率を減らすためにはインフレを許容する必要があります。
    これは、フィリップス曲線と呼ばれる経済学の理論で説明されています。
  • 中長期的な視点
    しかし、中長期的な視点では、インフレと失業率のトレードオフ関係は必ずしも成立しません。
    経済成長率を高めることで、インフレを抑えながら失業率を減らすことが可能になります。
    そのため、政府は経済成長を促進するための政策を同時に実行する必要があります。
  • 経済状況に応じた政策
    これらの政策は、経済状況によって適切な組み合わせが異なります。
    例えば、インフレ率が非常に高い場合は、インフレ対策を優先する必要があります。
    逆に、失業率が非常に高い場合は、失業対策を優先する必要があります。
  • 国際的な協調
    近年グローバル化の影響により、インフレや失業問題は一国だけでは解決することが難しくなっています。
    そのため、国際的な協調に基づいた政策が必要になります。
  • 情報共有と国民の理解
    政府は、政策の目的と効果について国民に丁寧に説明し、理解を得ることが重要です。
    また、経済状況の変化に迅速に対応できる体制を整備する必要があります。

インフレ対策と失業率のバランスは、常に調整が必要となる難しい課題です。
しかし、政府、企業、国民が協力することで、より良い経済環境を実現することができるでしょう。

まとめ

3びきのくまという童話はヨーロッパの人が小さなころから親しんでいる有名なお話です。
この童話では「自分にとってちょうどいい大きさのものを選ぶ大切さ」という教訓を教えてくれます。
また「見ず知らずの人の家に勝手に入り込んではいけない」ことや「自分と他人とは違うということを知ること」などを伝えています。

ちょうどいい大きさのものを選ぶのは、経済政策を考えるうえでも大切です。
特に、失業対策とインフレ対策はお互いが相容れない関係になっているので、2つのバランスをとるのは、経済学永遠の問題を言われるほど難題です。

経済が好調な時な失業率も下がります、失業率が下がると人件費を上げなければいけなくなり、また需要があるのに生産できない状態になり、モノよりお金があまった状態になるので価格が上がっていきます。

逆に経済が鈍化しているときは、失業率が上がります。失業率が上がると人件費が下げられ、また供給はあるのに需要がない状態になり、お金よりモノがあまった状態になるので価格は下がっていきます。

失業率とインフレ対策はお互いがトレードオフの関係になっているため、経済の状況をみてバランスよく対策することが求められます。
また近年ではグローバル化が進んでいるので、対策には国際的な協力も大切です。

そして何よりも重要なのは国民一人一人の理解を得ることです。
国民の協力がなければどんな政策も実を結ぶことはありません。

政策の必要性を丁寧に国民に説明できる政府なら、国民は政府と協力してより良い社会を作っていくことができるでしょう。

参考文献

経済学入門 ティモシー・テイラー
3びきのくま - Wikipedia

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