お店を開く場合、まず商品を並べなければお店にならないので、並べる商品をつくるためにもまずお金が必要です。
それは小さな個人店であっても、フリーマーケットのようなお店でも、大きな企業であっても同じです。ただ、フリーマーケットのような小さな店舗だと、すべて自分の持っている資金で賄えるかもしれません。
けれど、規模が大きくなってくると、自己資金では賄えきれずに、他の手段を使わなければならないことも多くなるでしょう。
ここでは、企業の資金の集め方について解説します。
「企業の資金の集め方」と聞くと「企業が勝手にすることで私たちにはまったく関係がない」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、私たちが銀行にしている貯金は、銀行を通じて企業に貸し出されています。もちろん自由気ままに貸し出ししてはいませんが、私たちの預金は間接的に企業に使われています。
私たちが銀行に預けているお金が、企業に使われていると知ったら、無関心ではいられません。
また、株式とは企業が資金調達するための方法の一つです。
投資を検討する場合はぜひ企業の資金調達は押さえておきたい知識です。
さらに、企業の資金調達は、世の中のお金の流れをつくっています。
お金の流れをつかめば、経済の流れを簡単につかむことができます。
ぜひ、企業の資金の流れをつかんで投資にお役立てください。
企業が資金調達しなければいけない3つの理由
そもそも、企業はなぜ資金調達をしなければならないのでしょうか?
その理由は、大きく分けて以下の3つが考えられます。
1. 事業の拡大
- 新規事業の立ち上げ
事業拡大のために、新しい商品やサービスを開発、新しい市場に進出などのために、多額の資金が必要になります。 - 設備投資
新しい工場や機械を導入したり、既存の設備を更新したりすることで、生産性を向上させ、事業規模を拡大することができます。 - M&A
競合他社を買収したり、関連企業と合併したりすることで、一気に事業規模を拡大し、市場シェアを拡大することができます。
2. 運転資金の確保
- 仕入資金
商品や原材料を仕入れるために、資金が必要です。 - 人件費
従業員の給料や福利厚生費を支払うために、資金が必要です。 - 家賃・光熱費
オフィスや工場の家賃、光熱費を支払うために、資金が必要です。
3. リスクヘッジ
- 緊急時の備え
自然災害や経済危機など、予期せぬ事態に備えて、資金を確保しておく必要があります。 - 借入金の返済
以前借り入れたお金を返済するために、資金が必要です。
リスクを抑えつつ、事業を拡大していくために、企業は資金を必要としています。
企業というものは、利益を出し、成長していくことが目標です。
しかし、利益が出たとしてもその利益は、運転資金や借金の返済に回ったりするので、設備投資や新しい事業に使えるとは限りません。
そこでなんらかの方法で資金を調達をすることで、企業はより迅速に、そして大規模に事業を拡大したり、新たな挑戦をすることができます。
資金調達方法その1 内部留保
では、企業の設備投資の具体的な例を見ていきましょう。
ここでは、代表的な4つの資金の調達方法を見ていきます。
まずは「内部留保」という聞きなれない方法からご紹介します。
「内部留保」とは、企業がこれまでに行ってきた事業活動で生み出した利益のうち、配当金として株主に支払ったり、事業の拡大に投資したりせずに、社内に蓄えられたお金のことを「内部留保」といいます。
いわば、企業が将来のために蓄えている「貯金」のようなものです。
内部留保のメリット
- 安定的な資金調達
外部からの借入や増資に頼らず、自社の資金で事業を拡大したり、不測の事態に備えたりすることができます。 - 財務体質の強化
内部留保が増えることで、自己資本比率が向上し、企業の財務体質が安定します。 - 金融機関からの評価向上
自己資本比率が高い企業は、金融機関から信頼され、有利な条件で融資を受けることができます。
内部留保のデメリット
- 株主への還元不足
内部留保を多く抱え込むと、株主への配当が少なくなり、株主の不満につながる可能性があります。 - 投資機会の損失
内部留保を有効活用せずに放置していると、より高い収益を生み出す投資機会を逃してしまう可能性があります。 - 非効率な資金運用
内部留保をどのように運用するかによって、その効果は大きく変わります。適切な運用がされないと、資金が眠ったままになる可能性もあります
内部留保は、企業にとって安定的な資金調達の手段であり、財務体質の強化にもつながる重要な要素です。
しかし、一方で、株主への還元や投資機会とのバランスを考慮する必要があります。企業は、自社の状況に合わせて、内部留保を効果的に活用していくことが求められます。
企業の資金調達方法 その2 銀行からの借り入れ
企業は資金が不足したとき、銀行からの借り入れすることがあります。
銀行からお金を借りることは、企業が資金調達を行う上での一般的な方法の一つです。
銀行からお金を借りるメリットとデメリット
メリット
- 迅速な資金調達
審査に通れば、比較的短期間でお金が手に入ります。 - 柔軟な返済計画
企業の状況に合わせて、返済期間や返済方法を調整できることが多いです。 - 信用力向上
銀行からお金を借りられるということは、企業の信用力が高いことの証明にもなります。
デメリット
- 金利負担
借りたお金に対して、利息を支払う必要があります。 - 担保や保証人
銀行からお金を借りるには、通常、不動産や有価証券などの担保や、保証人が必要になります。 - 審査の厳しさ
企業の財務状況や事業計画によっては、融資が受けられないこともあります。
資金調達方法その3 社債
社債とは、企業が資金調達のために発行する有価証券の一種です。
簡単にいうと、企業が投資家からお金を借りる際に発行する「借用証書」のようなものです。
株式と異なり、債券を購入した投資家は、企業の株主になるのではなく、企業にお金を貸している立場になります。
社債の特徴
- 借入金である
株式と異なり、社債は企業の借金です。
企業は、一定期間後に元本と利子を返済する義務があります。 - 利息の支払い
債券には、あらかじめ利率が設定されており、投資家は定期的に利息を受け取ることができます。 - 償還
一定期間(満期)が経過すると、企業は投資家に元本を返済します。 - 安全性
一般的に、株式に比べて安全性が高いとされています。
これは、債券は企業の経営状況に関わらず、利息と元本の返済が約束されているためです。
ただし、企業の経営状況が悪化すると、債券の価値が下がる可能性もあります。
社債の種類
社債には、様々な種類があります。代表的なものとしては、以下のものが挙げられます。
- 普通社債:最も一般的な社債で、満期時に元本が返済されます。
- 転換社債:一定の条件下で株式に転換できる権利が付与された社債です。
- 新株予約権付社債:新株を購入できる権利が付与された社債です。
企業が社債を発行するメリット
- 大規模な資金調達:株式と比較して、一度に大規模な資金を調達することができます。
- 経営の安定性:株式のように経営権が希薄になることがありません。
- 資金調達コストの抑制:株式発行に比べて、手続が比較的簡単で、費用も抑えられる場合があります。
企業が社債を発行するデメリット
- 財務負担の増加:利息の支払いや元本の返済は、企業の財務負担となります。
- 経営の硬直化:社債の発行は、企業の経営を硬直化させる可能性があります。
- 信用リスク
企業の信用力が低下すると、社債の発行が困難になったり、高金利で発行せざるを得なくなったりする可能性があります。
社債は、企業が資金調達を行う上での重要な手段の一つです。
投資家にとっても、安定した収入を得ることができる魅力的な投資商品です。
ただし、社債にもリスクは伴いますので、投資する際には、しっかりと情報収集を行い、自分の投資目的に合った社債を選ぶことが重要です。
資金調達方法その4 株式の発行
企業が事業を拡大したり、新しい設備投資を行うために、一般の人々からお金を集める方法の一つが株式発行です。
株式を発行することで、企業は出資者(株主)からお金を得ることができます。
株主は、出資した金額に応じて企業の一部の所有者となり、企業の経営に参加したり、利益を配分されたりする権利を得ます。
株式発行のメリット
- 返済不要
銀行からお金を借りる場合と違い、株式発行で集めたお金は、原則として返済する必要がありません。 - 財務体質の改善
株式発行によって集めたお金は、会社の自己資本となります。
自己資本が増えることで、会社の財務体質が改善され、銀行などからお金を借りやすくなります。 - 多様な投資家から資金調達
株式は、一般の投資家だけでなく、機関投資家など、様々な層から資金を集めることができます。
株式発行のデメリット
- 経営の自由度が制限される
株主は、会社の経営に参加する権利を持っています。
そのため、株主の意向を考慮しながら経営を行う必要があり、経営の自由度が制限されることがあります。 - 株価の変動リスク
株式の価格は、市場の状況や会社の業績によって変動します。
そのため、株価が下落することで、会社の評価が下がる可能性があります。
株式発行の種類
株式発行には、大きく分けて以下の種類があります。
- 新規株式公開(IPO): 未上場の会社が初めて株式を一般に公開することです。
- 増資:上場している会社が、既存の株式数に加えて新たに株式を発行することです。
株式発行の手続き
株式発行の手続きは、会社法や証券取引法などの法律に基づいて行われます。
- 定款の変更:株式発行に伴い、会社の定款を変更する必要があります。
- 証券会社との契約:証券会社と契約し、株式の引受や販売を依頼します。
- 目論見書の作成:投資家に会社に関する情報を提供するための目論見書を作成します。
- 金融庁への申請:金融庁に有価証券報告書を提出します。
- 株式の引受・販売: 一般投資家から株式を引き受け、販売します。
初心者向け!株式発行のポイント
- 株式は企業の一部を所有する権利
株式を持つということは、その企業の一部を所有しているということです。 - 株主は企業の経営に参加できる
一定数の株式を持つ株主は、株主総会で議決権を行使し、企業の経営に参画することができます。 - 株主は利益を配分される
企業が利益を出した場合、その一部が株主に配当金として支払われます。
株式投資を検討されている方へ
株式投資は、高額な利益を得る可能性がある一方で、元本を失うリスクも伴います。
投資をする前に、しっかりと知識を身につけ、ご自身のリスク許容度に合わせて投資を行うようにしましょう。
会社の規模によって資金調達方法がちがう
企業の資金調達は、その企業の稼ぐ力によって違いがあります。
設立したばかりの小さな会社は、資金調達方法として株式の発行がよく使われます。ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家などが小さな会社にとって頼れる有望な株主です。そのような若い会社に積極的に融資する証券会社や個人の理解が得られれば、新しい会社も資金が受けやすくなります。
会社がある程度大きくなると、成長を支えるためにもっと多くの資金が必要になります。そこで株式を公開して市場で買えるようにします。株式を公開すると経営の自由度が下がりますが、より多くな資金調達が可能となります。
そして老舗の大企業になると売り上げ規模が大きくなり、内部留保を資金調達に回せるようになります。また銀行からの信用も厚くなり金利が低くなるので、銀行の融資を使うことが多くなってきます。
企業の資金調達のしやすさが経済に与える影響
企業の資金調達のしやすさは、経済全体に大きな影響を与えます。
これは、企業が資金を調達しやすくなると、新たな事業への投資や雇用創出が活発化し、経済全体の活性化につながるからです。
- 投資の活性化
企業が容易に資金調達できるようになると、新しい設備投資や研究開発への投資が活発化します。これにより、生産性の向上や新製品・サービスの開発が促進され、経済成長の原動力となります。 - 雇用創出
設備投資や事業拡大に伴い、企業は新たな人員を雇用する傾向にあります。
雇用が増加すれば、家計所得が増加し、消費が活発化することで、経済全体が潤います。 - イノベーションの促進
資金調達のしやすさは、ベンチャー企業など、革新的なアイデアを持つ企業の成長を後押しします。これらの企業は、既存の産業構造を変革し、新たな市場を開拓することで、経済全体に活力を与えます。 - 経済成長の加速
上記の要因が複合的に作用することで、経済全体が活性化し、GDPの成長率が上昇する傾向があります。
資金調達が難しい場合の影響
逆に、企業が資金調達を難しい状況になると、経済全体に以下のような悪影響が及ぶ可能性があります。
- 投資の抑制
企業が資金調達に苦労すると、設備投資や研究開発への投資が抑制され、生産性の低下や国際競争力の低下につながる可能性があります。 - 雇用減少
投資が減ると、それに伴い雇用も減少する傾向があります。 - 経済成長の鈍化
投資や雇用が減少することで、経済全体が停滞し、GDPの成長率が低下する可能性があります。
資金調達のしやすさを左右する要因
- 金利
金利が低いほど、企業は低コストで資金を調達できるため、投資意欲が高まります。 - 経済状況
景気が良いときは、金融機関も積極的に融資を行うため、企業は比較的容易に資金調達できます。 - 政府政策
政府が中小企業向けの融資制度などを導入することで、資金調達のしやすさを向上させることができます。 - 企業の信用力
企業の財務状況や事業計画などが評価され、信用力が高い企業ほど、有利な条件で資金調達を行うことができます。
企業の資金調達のしやすさは、経済全体の活性化や雇用、そして技術革新のアイデアを生み出すためにも重要な要素です。
そのため、政府や金融機関は、企業が円滑に資金調達できるような環境を整えることで、経済成長を促進させていくことを目標にしています。
まとめ
企業の3つの資金調達方法について解説しました。
企業は運転資金の確保、また事業の拡大のため資金を補うために資金を調達する必要があります。
その方法として、会社の利益を使う「内部留保」そして「銀行からの融資」「社債の発行」「株式の発行」があります。
企業がお金を借りるということは、経済にとって極めて重要です。
投資の結果として得られる設備や技術は、生産性の向上につながり、やがて私たちの生活の水準を引き上げてくれるからです。
日本のすべての貯蓄額は世界でもかなりの水準ですが、企業への投資は、欧米や中国に比べてとても低いです。産業の発展を国内で支え、経済を安定して成長できるかどうかは、企業の資金の調達のしやすさが鍵を握っています。
そのため政府や金融機関では、調達のしやすさの決め手になる金利の値に常に注意して、企業が資金を借りやすい環境を整えています。
参考文献
証券投資に関する世論調査 (gov-online.go.jp)
資本市場 - Wikipedia
図録▽主要国の家計貯蓄率の推移 (honkawa2.sakura.ne.jp)
ティモシー・テイラー 経済学入門