ぽれぽれ経済学

資本市場と時間

利子と時間と割引現在価格

前回は、資本市場で大切な用語「利子」「投資」について解説しました。

「利子」とは資本市場における価格でした。
「投資」とは利益を見越して先にお金を投入することです。

ここでは資本市場の「時間」の役割について解説します。

モノを買うとき、その場でお金の渡してモノを受け取ったらそこで取引が終了します。また、賃金も受け取る時間が違うからといって多くなったり、少なくなったりすることはありません。

けれど、資本市場は「時間」が大きな威力を発揮します。
資本市場は時間がなければ成立しません。
なぜなら、お金を借りるとき、返すときの時間差が利益になるからです。

投資時とって時間はリスクとリターンのバランスを取る上でとても大切です。時間の価値を理解して投資活動にお役立てください。
では見ていきましょう。

資本主義と時間

資本市場の一番の特徴は、お金を借りるときと、返すときの「時間」が違うことです。

日用品の買い物は、買った時に取引は終了します。
労働も働いた時の分だけ賃金をもらって終わりです。
しかし、資本市場の取引は時間差があります。
お金を借りたときと、返すときには時間差があるということが資本市場の一番の特徴です。

例えば、レンタル業がこれにあたります。
何かを借りるとき、その借りる日数分の支払いを先に済ませたら、返却の日まで自分の手元に置いて好きに使えます。そして期限になったら借りたときと同じ状態で返却します。

レンタル業と資本市場の違いは、レンタル料の支払い日です。レンタル業では、まずレンタル料を先に支払ってモノを借ります。

資本市場ではお金をレンタルしますが、そのレンタル代は後払いです。とりあえずお金を借りてから、返すときレンタル料込みで返すのです。そこがレンタル業界と資本市場の大きな違いです。

このように資本市場では時間の感覚を意識することがとても大切なのです。

さまざまな時間

資本市場では、あらゆる取引に時間が大きな意味をもってきます。具体的な例を挙げてみていきましょう。

  1. 時間の価値(タイムバリュー)
    • 現在価値と将来価値 
      資本市場では、資金の価値は時間とともに変わります。
      例えば、今日の1ドルは、将来の1ドルよりも価値があると考えられます。
      これは、現在の1ドルを投資することで将来のリターンが得られるためです。
      金融資産の評価には、割引率を用いて将来のキャッシュフローの現在価値を計算する方法が一般的です。
  2. 投資の期間(タイムホライゾン)
    • 短期投資
      短期投資は1年以内に利益を目指す投資戦略で、株式、短期債券、マネーマーケットファンドなどが含まれます。短期投資は流動性が高く、リスクも比較的低いですが、リターンも限定的です。
    • 長期投資
      長期投資は1年以上の期間で利益を目指す投資戦略で、株式、長期債券、不動産、インフラなどが含まれます。長期投資はリスクが高くなる可能性がありますが、時間とともに資産価値の増加を期待することができます。
  3. 利子と時間の関係
    • 複利効果
      資本市場では、時間が経過することで利子が利子を生む複利効果が働きます。
      複利は、投資元本に対する利子が再投資されることで、時間とともに投資のリターンが増加します。この効果は、投資期間が長いほど顕著になります。
  4. 債券の満期
    • 短期債券と長期債券
      債券にはさまざまな満期があります。
      短期債券(1年未満)、中期債券(1年から10年)、長期債券(10年以上)などがあります。満期が長いほど、利子率の変動リスクや市場の変動リスクが高まる一方、一般的に利子率も高く設定されることが多いです。
  5. 株式市場のボラティリティと時間
    • 短期のボラティリティ
      株式市場は短期間では価格が大きく変動することがあり、リスクが高いです。短期的な価格変動は、市場のニュース、経済指標、政治イベントなどの影響を受けやすいです。
    • 長期の安定性
      長期的には、株式市場は経済の成長に伴い上昇する傾向があります。時間が経つにつれて、一時的な市場の変動は平滑化され、長期的な成長が反映されることが多いです。
  6. 経済サイクルと資本市場
    • 景気循環
      経済は景気拡大と景気後退のサイクルを繰り返します。これらのサイクルは資本市場に大きな影響を与えます。
      例えば、景気拡大期には株式市場が好調になることが多く、景気後退期には債券市場や安全資産へのシフトが見られることが多いです。

資本市場と時間の関係は、投資の価値評価、投資戦略、利子率、債券の満期、株式市場のボラティリティ、経済サイクルなど、その影響は多岐に渡ります。私たちは時間の感覚を意識してのリスクとリターンのバランスを取る必要があります。

お金のレンタル料

資本市場では時間の感覚を持つことがとても大切です。
時間が長くなれば長くなるほど、お金の価値は変化していくからです。

先ほどのレンタル会社の例にもありましたが、モノをレンタルする場合のレンタル料はその企業が決められます。

それでは、お金のレンタル料金は、どのように決まっているのでしょうか?

お金のレンタル料は「金利」と呼ばれていて日々変動しています。
固定金利、変動金利、そして借りる長さによってさまざまに決められています。
そしてその「金利」自身は日々変化しています。

割引現在価値

金利はそれぞれの銀行によって違います、また、買う品物によって銀行側からのリスクが低いと判断されれば金利は安くなり、リスクが高いと判断されると高くなったり、とさまざまです。

経済学では金利を計算する数式「割引現在価値」という計算式があります。
この計算を行うと、異なる時点でのお金の価値を比較することが出来ます。
現在割引価値とは、将来ある時点で受け取れるはずのお金を、現在の価値に換算したものです。
よく企業価値評価や投資判断に使われています。

少し計算してみましょう。
例えば、1年後に100万円受け取れるお金は、今どのくらいの価値があるのでしょうか?
ここで分かりやすく金利を10%として考えてみます。ちなみに日本の2023年の金利は0.003%、1975年は8%近くでした。
金利が10%だと、今の時点の価値は90万9100円になります。

1年後の100万円は今の時点では90万9100円の価値しかない、ということです。言い換えると、今90万9100円を金利10%の銀行に置いておいたら1年後には100万円になっているわけです。

では、2年後の100万円はどうなるでしょうか? 金利が10%だとすると、82万6400円になります。

100万÷(1 +0.1)² = 82.64

割引現在価値の計算方法

将来の価値 ÷ (1+利率)年数乗

現在価値と将来の価値はちがう

割引現在価値は企業や金融の世界ではよく使われる考え方です。
企業がもしも新しく工場などの設備をつくろうとする場合、大きな金額を出す前に「現在割引価値」を計算します。
つまり、将来その工場が生産したものが、どれだけの価値にになるかということを考えてから新しい工場などへの投資を判断します。

もし、ある企業が2億円かけて新しい工場を建てるとしましょう。
5年後に3億円の収益が見込めると計算しました。
この場合5年後の3億円をそのまま現在の3億円として考えてはいけません。
5年後の3億円は現在の価値でどのくらいなのか、検討する必要があります。

住宅ローンはどうでしょうか? 
住宅ローンは人によっては返済期間が30年など長いため、割引現在価値に注目するとなぜあんなにも高い金額を支払わなければいけないのかが見えてきます。

例えば、30年ローンの場合、支払総額は購入価格よりずっと大きい価格になってしまいます。
けれど、割引現在価値を考えてみると、その価格は仕方のない価格だということが分かってきます。利息を払うのが嫌なら、一括ですぐに支払うしかありません。そうすれば時間による割引が発生しないので、現在価格だけで購入することが出来ます。どちらにしても、一括で払っても、時間をかけて利息分も多めに払っても、トータルの価値は同じなのです。

政府の政策についても、将来の利益を期待して何かを買ったり、建てたりするものがたくさんあります。
例えば、温暖化対策は将来の気候変動をできるだけ抑え、将来の人々の生活を守るために今からコストをかけています。エネルギー政策は、将来にわたって安定したエネルギーの確保は国の安全保障上必要だからです。また子供たちへの教育はやがて優秀な人材になってもらうために必要なコストです。

こうした政策を立案するときには、割引現在価値を利用した損益の見積もりが欠かせないのです。

まとめ

資本市場の利子と時間、そして割引現在価値について解説しました。

資本市場では時間という考えがとても重要です。
お金は時間が経つとその価値が上昇します、投資の期間によって金利は変化しますし、複利の効果もあります。投資の期間が短い場合と長い場合では、一時的な問題の影響を受けやすくなります。

お金を借りる場合は、利子を上乗せして返却しなければいけません。その利子は各銀行のサービスによって、その期間によって割合が決められています。

経済学には割引現在価値という考え方があります。
これは、将来のお金の価値を現在の価値にしたらどのくらいになるのかを計算する式です。
つまり、お金を貸し出すと金利が付くのでその金利から現在の価値が分かるとう計算式です。

この金利という仕組みがあることで、現在の1万円と未来の1万円は同じ価格ではなくなりました。手元の1万円は未来の1万円と比較すると1万円以下の価格です。この価格差が資本市場を成り立たせているのです。

参考文献

ティモシー・テイラー 経済学入門
利子 - Wikipedia
かんたんな経済学/資本市場とは?わかりやすく解説。 | 資本主義の奴隷 (capitalism-slaves.com)
投資の基本 : 金融庁 (fsa.go.jp)
1.金利の推移 | なぜ今、資産運用が必要なの? | お金を育てる研究所 (nomura-am.co.jp)
資源エネルギー庁WEBサイト|資源エネルギー庁 (meti.go.jp)

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