ぽれぽれ経済学

株価は予想できるのか?

株価の予想

前回はほとんどリスクのない資産運用について見てきました。
銀行の普通預金や定期預金、国債はリスクが少なく資産運用できます。けれどリスクが全くないというわけではありません。普通預金は保護されるとは言っても限度がありましたし、国債の利息は毎年税金がとられてしまいます。

そこでここでは、もう少しリスクの度合いを上げた株式投資を使った資産運用を見ていきましょう。

でもその前に株に投資するときに知っておきたいことをお話しします。

株について知っておきたいこと

まず、投資といったら「株式投資」というイメージをお持ちの方も多いと思います。

どこかで株を買ったら大儲けする人がいた。
ということを耳にしたこともあるかもしれません。
書店に行けばそのような本はたくさん並んでいます。

もし、確実に株で儲けたいならインサイダー取引です。
インサイダー取引取引とは株価に影響する情報、例えば新商品の開発が成功したとか、社長が不祥事で新社長に交代するらしいなどの、社内でしか知らない重要な情報を得て、みんなより先にその株を買うことで確実に利益をだす方法です。

実は、インサイダー取引の歴史は株式市場の歴史と同じくらい古く、古代ギリシャの時代にはすでにインサイダー取引の類似事例が記録されています。紀元前4世紀頃のギリシャの哲学者アリストテレスは「株式市場の価格変動は内部者情報の流出によって引き起こされる可能性がある」と指摘しているほどです。

繰り返し起こるインサイダー取引にたびたび規制がかけられ、現在、日本では刑事罰の対象です。

いまでは、ネットが発達したおかげで企業の財務情報や世界で起こっている様々なニュースは、瞬時に世界中の人が共有出来るようになっています。なので証券会社に働いているアナリストでも、私たちが手にできる情報以上に知ることはできません。

今は、インサイダー取引で儲けるということはできないのです。

株価を予想することはできるのか?

では、株価を完全に正確に予想することはできるのでしょうか?

それは現時点では不可能であると考えられています。
株価は企業の業績や経済状況、政治情勢など、さまざまな要因によって変動します。これらの要因は予測が難しく、それにつられて動く株価の動きも予測が難しいのです。
しかし、過去の株価の動きや経済指標などを分析することで、ある程度の予測は可能です。

例えば、景気サイクルが拡大期にある場合、株価は上昇する傾向があります。また、金利が低い場合、株価は上昇する傾向があります。また、テクニカル分析を用いて、過去の株価の動きから、将来の株価の動きを予測することもできます。

テクニカル分析とは

過去の株価の動きや出来高、出来高比率などの客観的なデータをもとに、将来の株価を予測する手法

ただし、テクニカル分析は、過去の株価の動きに基づいて将来の株価を予測する手法であるため、将来の株価が必ずしも過去の動きと一致するとは限りません。したがって、テクニカル分析を使って株価を予想するときは、過去の株価の動きや経済指標などを参考にしながら、あくまでも参考程度に留めておくことが重要です。

また、株価は、短期的な変動だけでなく、長期的な変動も重要です。短期的な変動に惑わされることなく、長期的な視点に立って投資を行うことが大切です。

プロの株価予想

投資の世界には投資を本業にしているプロがいます。
彼らは一日中世界中の市場の動向をチェックし、世界中の経済の動き、政治の駆け引き、新しいテクノロジー、気象、自然災害、地政学上のリスク、企業の業績、各国の政治家の不祥事や発言、為替・・・・・・などの情報を集めています。それを元に状況を分析し、判断していきます。

プロの機関投資家と言われる方々がどのようなことをして、毎日株価を分析し予測しているのか見ていきましょう。

ファンダメンタル分析

  1. 財務諸表分析
    企業のバランスシート、損益計算書、キャッシュフロー計算書などを詳しく分析します。
  2. 企業の収益性
    過去の業績や将来の収益予測を基に、企業の収益性を評価します。
  3. 経済指標:
    GDP成長率、失業率、インフレ率などのマクロ経済指標を考慮します。
  4. 業界分析
    業界全体の動向や競争環境を分析します。

テクニカル分析

  1. チャートパターン
    株価チャートのパターン(例:ヘッドアンドショルダー、ダブルトップ)を識別し、価格の動向を予測します。
  2. テクニカル指標
    移動平均線、RSI(相対力指数)、MACD(移動平均収束拡散)などの指標を使用します。
  3. トレンド分析
    株価のトレンドを特定し、それに基づいて売買のタイミングを決定します。

定量的アプローチ(クオンツ)

  1. アルゴリズム取引
    数学的モデルやアルゴリズムを使って取引戦略を構築します。
  2. ビッグデータと機械学習
    大量のデータを解析し、パターンを見つけ出して予測モデルを作成します。

その他の要因

  1. ニュースとイベント
    経済ニュースや企業のプレスリリースなどの情報を常にチェックします。
  2. 市場のセンチメント
    投資家の心理や市場のムードを分析します。
  3. インサイダー取引の動向
    企業内部の情報を基にした取引の動向を監視します。

これらの方法を組み合わせて、機関投資家は株価の予測を行い、投資戦略を立てます。各機関によって重視するアプローチや具体的な手法は異なりますが、総じてこのような多角的な分析を行っています。

ウォール街のランダムウォーク

バートン・マルキール氏の著書「ウォール街のランダム・ウォーカー」で有名な、チンパンジーがダーツで選んだ銘柄で構成されたポートフォリオの話をご存知でしょうか?

この話は、投資におけるランダムウォーク仮説をユーモラスに表したもので、チンパンジーが株式投資でプロの投資家よりも良い成績を収めたという逸話は、投資の世界における重要な概念を理解する上で非常に興味深い話なので詳しく見ていきましょう。

  • 1973年、マルキール氏はダートマス大学の学生たちと実験を行いました。
  • 実験内容は、学生たちが目隠しをした状態で新聞の株式欄から銘柄をランダムに選び、その銘柄を購入するというものでした。
  • 一方、プロの投資家たちは、それぞれの分析に基づいて銘柄を選んでいました。
  • 5年間の実験の結果、目隠しをした学生たちのポートフォリオは、プロの投資家たちのポートフォリオよりも高いリターンを上げたのです。

この結果は、市場が効率的であり、個々の銘柄を分析しても、市場全体のパフォーマンスを上回ることは難しいことを示唆しています。つまり、長期的な投資においては、個別の銘柄を選ぶよりも、インデックスファンドなどの分散投資の方が有利であるということです。

市場の効率性

マルキール氏は市場の効率性について次のようにシンプルに表現しています。

市場以上のことを知っている人はいない

バートン・マルキール

ここで表現されている市場の効率性とは、すべての情報はすぐに市場価格に反映されているというマンキール氏の立てた仮説です。

市場に影響がある次のような情報は市場価格に反映されると考えられています。

  • 企業業績に関する情報:業績予想、決算発表、新製品発売など
  • 経済指標::GDP成長率、失業率、金利など
  • 政治・社会情勢:政変、戦争、テロ事件など
  • 投資家心理:楽観・悲観、リスク許容度など

これらの情報が市場に反映されると、投資家は将来の株価変動を予想し、売買判断を行います。その結果、株価は常に適正な水準に調整されると考えられています。

市場の効率性が成立していると次のようなことが期待できます。

  • 投資家は、市場平均のリターンを超えることはできない
    すべての情報がすぐに価格に反映されるため、投資家が市場を打ち負かすことは難しいと考えられています。
  • インデックスファンドなどの低コストな投資信託が有効
    個別銘柄よりも、市場全体の動きに連動するインデックスファンドに投資する方が効率的と考えられています。
  • 市場は短期的には変動するが、長期的に見ると上昇する
    市場は常に新しい情報を取り込み、適正な水準に調整されるため、長期的に見ると上昇していくと考えられています。

しかし、市場の効率性には、以下のような批判もあります。

  • すべての情報が市場に反映されるわけではない
    一部の情報は、限られた投資家しかアクセスできない場合があります。
  • 投資家心理が市場に影響を与える
    投資家心理は必ずしも合理的ではなく、市場の変動性を高める可能性があります。
  • 市場には摩擦が存在する
    取引コストや税金などの摩擦が、市場の効率性を低下させる可能性があります。

このように、市場の効率性には完全なものではなく、様々な課題も存在します。しかし、市場の効率性を理解することは、投資判断を行う上で役立つと考えられています。

マンキール氏の仮説から得られる教訓

マンキール氏の逸話と仮説から私たちは教訓を得ることができます。

  • 市場は効率的である
    個々の銘柄を分析しても、市場全体のパフォーマンスを上回ることは難しい。
  • 分散投資が重要
    個別の銘柄に集中するよりも、インデックスファンドなどの分散投資の方がリスクを抑え、安定的なリターンを得やすい。
  • 長期的な視点を持つ
    短期的な値動きに惑わされず、長期的な視点で投資することが重要。

バートン・マルキール氏は、アメリカの経済学者であり、ランダムウォーク理論の提唱者として知られています。マルキール氏は、投資において個別の銘柄を選ぶよりも、インデックスファンドなどの分散投資の方が有利であると主張しています。マルキール氏の理論は、多くの投資家によって支持されており、現代の投資理論に大きな影響を与えています。

ウォーレンバフェット氏の言葉

また、個別株の値動きを当てられないことを指摘しているのは、バートン・マルキールだけではありません。アメリカの著名な投資家、ウォーレン・バフェットは、1990年にニューヨーク・タイムズ紙のインタビューで、以下のように述べています。

個別銘柄の値動きを予測するのは、天気予報よりも難しい

ウォーレン・バフェット

天気予報はだいたい当たりますが、完全に当たっていることはありません。
個別銘柄の値動きはそれ以上に難しいということをバフェット氏は言っています。

では、株価の予想ができない私たちは投資をすることができないのでしょうか?

バフェット氏は、株価を当てようとするのではなく、つまり個別銘柄の値動きを当てることにではなく、長期的な視点に立って優良な企業を見つけて投資することが重要と言っています。

どういうことなのでしょうか?

ウォーレン・バフェットの考えかた

ここで少しウォーレン・バフェット氏をご紹介いたします。
彼は1930年アメリカ生まれ「投資の神様」ともいわれる著名な投資家であり、世界最大の投資会社であるバークシャー・ハザウェイのCEOを務めています。バフェットの投資方法は、長期的な視点に立って、優良な企業に投資する「バリュー投資」と言われる手法をとっています。

バリュー投資

企業の財務状況や経営体質を徹底的に分析し、本来の価値よりも割安に取引されている企業に投資する手法です

バフェットの率いるバークシャー・ハザウェイの過去50年の株価は、年率が20.0%以上という驚異的なリターンを達成しています。
BERKSHIRE HATHAWAY INC.

11歳から投資を始めた彼の経験は投資家の間で「投資のバイブル」といわれるほど参考にされています。

彼の投資に対する姿勢は謙虚で冷静です。自分のやっていることを客観的に見つめ、常に情報を得て、先人から学び、自分の行動を変えること、そしてそれを続けていくことです。明日どうなるかわからない個別の銘柄の値動きをあてに行くのではなく、10年後も優良であるだろうと思う企業に投資すること、それが彼の姿勢です。

マルキール氏やバフェット氏は銘柄の動きを当てようとしたのではなく、10年、20年後の業績がどうなるのか検討して投資を行い成功しています。彼らのように行動するのは難しいでしょうけれど、少しでも取り入れて投資に役立てたいですね。

まとめ

株式投資をする前に知っておきたいことを解説しました。
株の価格は上がったり下がったりするもので、それを当てるのは私たちにはできないこと。でもそれを当てに行こうとしなくても株式投資で利益を上げることはできることを見てきました。

ただ、個別の株を選ぶのは本当に楽しいことです。
次はどんな技術が来るのか考えたり、たくさんの企業が切磋琢磨しているのを比べて次はここが上がるだろう・・・などと予想するのはとても知的な作業です。

私たちの多くにとって、市場を推測しようとすることは楽しすぎて、諦めることができません。 平均以上の成績を収めることはできないと確信していたとしても、ギャンブル気質な人のほとんどは、投資資金の一部で『個別株投資』というゲームを続けたいと思うでしょう。

バートン・マルキール

リスクを覚悟できているなら、自分の許せる範囲でリスク楽しむのは悪いことではありません。

最後にウォーレン・バフェットの名言をご紹介します。

ルール その1:絶対に損をするな。ルール その2:絶対にルール1を忘れるな

ウォーレン・バフェット

次回は「インデックス投資」について解説します。お楽しみに!

参考文献

バートン・マルキールとは【経歴や提言、名言を紹介】 - スパコンSEが効率的投資で一家セミリタイアするブログ (hyoshionnu.com)
経済学入門 ティモシー・テイラー
お金以前 土屋剛俊
ウォーレン・バフェット - Wikipedia

おすすめの記事

-ぽれぽれ経済学