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完全競争:ユートピア市場の真実

ユートピア市場の真実

企業は常に競争にさらされています。
皆さんのお手元にあるスマホも競争の激しい業界です。

例えば、スマホの格安プランの競争は非常に激しくおこなわれています。
競争が激しいことは、企業にとっては厳しいですが、利用者にとっては選択肢が多くなり、料金も比較的安価に抑えられるというメリットがあり歓迎されます。

ここでは企業の激しい競争について解説します。
企業が他社と競争することは、企業にとって大きな問題ですが、私たちにとっても身近な問題です。企業の競争の姿を知れば、モノを買うときにその価格について考えを深められますし、企業の戦略を見抜くための重要なツールにもなります。
さらに、政府の規制や補助金についての評価するときにも「完全競争」の知識は役に立ちます。

企業の競争とは

企業は、その規模や業種にかかわらず、常に競争していますが、その競争のレベルには強弱があります。
その競争の度合いは、大きく分けて4種類に分けられます。

一番競争が激しいのは「完全競争」です。
「完全競争」とは、小規模の会社が同じようなものを作っていて差がない状態を指します。

反対に、ほとんど競争が全くない状態にある企業もあります。これが有名な「独占」です。
「独占」にある企業は、大企業が市場の売り上げをほぼ独占していて独り占めしている状態です。

そして、完全競争と独占の間にある競争の形が「独占的競争」と呼ばれる状態です。
「独占的競争」と呼ばれる状態は、多くの企業が少しづつ異なったものをつくって競争をしている状態です。
例えばどこのレストランでもカレーライスはあると思いますが、それぞれちょっとづつ違いがあって値段もさまざま、というような場合のことです。

それから、独占的競争よりも少し独占寄りに「寡占」があります。
一つの企業が独占しているわけではありませんが、少数の大企業がその産業のほとんどを独占し支配している状態のことを指しています。

このように企業の競争の度合いは、その業界によって強弱があります。
まず初めにここでは、競争が一番活発に行われている「完全競争」に注目していきます。

完全競争とは

「完全競争」とは、下の4つの条件のすべて満たされている市場のことを指します。

  • 多数の売り手と買い手が存在する
    市場には非常に多くの売り手と買い手がいて、個々の取引が市場の価格に影響を与えることはありません。つまり、誰も価格を操作できない状態です。
  • 市場への参入と退出が自由である
    どんな企業でも、その業界に自由に市場に参入したり、市場から撤退したりすることができます。参入障壁や退出障壁がない状態です。
  • 同質な商品が取引されている
    市場で取引される商品はすべて同じ品質、同じ性能を持っており、商品間に差異はありません。消費者はどの企業の商品を選んでも同じだと考えています。
  • 完全な情報が共有されている
    売り手も買い手も、市場に関するすべての情報を共有しています。商品の価格、品質、供給量など、すべての情報が透明に公開されている状態です

これらの条件がすべて満たされている市場では、価格は需要と供給のバランスによって決まり、効率的な資源配分が実現すると考えられています。
経済学ではこの「完全競争」にある市場を理想的な状態とみなしています。

完全競争の例

けれど、現実には「完全競争」が成立している市場はほとんどないのですが、次にあげる業界は「完全競争」に近い状態にあります。

  • 農産物市場
    米、小麦、野菜などの農産物は、多くの農家が生産しており、品質も比較的均一です。また、市場への参入も比較的容易です。
  • 外国為替市場
    世界中の多くの銀行や投資家が通貨の取引を行っており、情報も比較的豊富です。

完全競争の中にある企業の行動

もしも、完全競争の中にある業界にある企業があるとすると、その企業は利潤を最大化するために、できるだけ安く商品を提供しなければなりません。
なぜなら、少しでも高く売ろうとすると、他の企業に顧客を奪われてしまうからです。

そのため、完全競争の中にいる企業は市場の価格をそのまま受け入れるしかありません。利益を出そうとして価格を上げようとしてもあげられないのです。
また、企業は効率的に生産しないと利益を上げられないため、結果として品質の良い商品が提供される傾向があります。

完全競争と消費者の行動

完全競争にある商品を前にした消費者はどうでしょうか?
完全競争にある商品は、どれも性能がほとんど同じで見分けがつきません。
つまり、消費者にとって、その企業の製品はたくさんある選択肢の一つに過ぎなくなります。

完全競争になる商品は、コピー用紙やネジといった開発が特に難しくない一般的な製品です。このような製品をつくるのは簡単ですし、また新しく参入する企業も多いです。

つくるのが簡単な製品は、だいたい誰がつくっても似たようなものができます。そして生産費用もどこも似たような価格です。すると消費者は、似たような商品について「価格」を比べるようになります。
その価格が他の商品と比べて1円でも高いと、買うのをやめて他の割安の商品を買おうとします。

そのような消費者が多くなると、企業はきりぎりまでコストを下げざるをえなくなります。

その結果、市場に参加する企業はどこも同じような低い利益になってしまうのです。

完全競争市場のメリット

消費者にとってうれしい「完全競争」ですが、「完全競争」が行われることにはどんなメリットがあるでしょうか?

  • 資源の効率的な配分
    価格は需要と供給によって決定されるため、資源は最も効率的に配分され過剰生産や不足がありません。企業は利潤最大化を目指して生産量を調整し、消費者は自身の効用最大化を目指して消費量を決定するため、無駄な資源の浪費が少なくなります。
  • 低い価格
    企業間の激しい競争により、価格は限界費用(追加で1単位生産するのにかかる費用)に近づきます。そのため、消費者は低い価格で商品を購入することができます。
  • 消費者の利益
    同質な商品が多数存在し、商品のメリットデメリットなどの情報も完全に共有されているため、消費者は自由に商品を選択できます。また、価格も低く抑えられるため、消費者の利益が最大化されます。
  • イノベーションの促進(限定的)
    長期的には経済的利益が得られないため、企業は常にコスト削減や効率改善のためのイノベーションを追求するインセンティブが働きます。ただし、短期的な成功が長期的な収益に結びつきにくい場合、イノベーションへの投資意欲が阻害される可能性もあります。

完全競争には消費者にとっては、商品が安く手にはいるというメリットがあります。
また、企業は利益を最大にするため効率に資源を使うことに心がける必要があるので、無駄な浪費を避けることができます。

完全競争市場のデメリット

しかし、次のようなデメリットもあります。

  • 長期的な利益の欠如
    自由な参入と退出、同質な商品の存在により、企業は長期的に経済的利益を得ることが困難です。短期的に利益が出ても、新規参入によってすぐに利益が相殺されてしまいます。
  • イノベーションの阻害(可能性)
    長期的な利益が見込めないため、研究開発などの長期的な投資が抑制される可能性があります。短期的なコスト削減に注力しがちになり、じっくりと取り組まなければいけない、画期的なイノベーションが生まれにくい環境とも言えます。
  • 規模の経済性の実現が困難
    小規模な企業が多数存在する状態が想定されるため、大規模生産によるコスト削減(規模の経済性)を享受しにくい場合があります。
  • 商品差別化の欠如
    すべての商品が同質であるため、消費者は商品の選択肢が限られます。多様なニーズに対応することが難しく、画一的な商品ばかりになる可能性があります。
  • 外部不経済への対応の遅れ
    環境汚染などの外部不経済(市場取引以外で発生するコスト)に対して、個々の企業が自主的に対応するインセンティブが働きにくい場合があります。市場メカニズムだけでは解決が難しく、政府の介入が必要となる場合があります。

完全競争にある業者は利益を出すことが難しく、環境への配慮がおろそかになりやすく、高額になりがちな新規事業や研究開発費などが捻出できな可能性が高まります。

なぜ現実に完全競争が見られないの?

経済学では市場の理想的な状態と言われる「完全競争」ですが、現実にはほとんど見ることがありません。
なぜでしょうか?

それは、先にも見てきたとおり「完全競争」が起こるには4つの条件が必要でした。
たくさんの売り手と買い手がいること
新規参入が簡単で、
同じ商品を作っていること
そして売り手と買い手が同じ情報を共有していること
この4つの条件をみたすことが現実にはあり得ないからです。

完全競争は、下のような現実の超えられない壁があるので成立しません。

  • 製品の差別化
    ほとんどの企業は、自社製品を競合他社と差別化しようとします。
    ブランド、デザイン、品質、サービスなどで差異化を図ることで、価格以外の要素で競争しようとしています。これは完全競争の「同質的な財・サービス」の条件に反します。
  • 参入障壁
    多くの産業では、新規参入が難しい要因が存在します。
    例えば、特許、巨額の設備投資、流通ネットワークの制約、政府の規制などが参入障壁となり、少数の企業による寡占市場や、一企業による独占市場が形成されることがあります。
  • 情報の非対称性
    売り手と買い手の間で情報格差が存在することはよくあります。
    例えば、中古車市場では、売り手は車の状態をよく知っているのに対し、買い手はそうではありません。このような情報の非対称性は、市場の効率性を損なっています。
  • 規模の経済性
    大量生産によってコストが低下する産業では、大規模企業が有利になり、少数の大企業による寡占状態になりやすいです。これは「多数の売り手」の条件に反します。

このように実際には、完全競争の業界というものは見られません。
例えば、コピー用紙のようにどの製品も大きさが一緒で白い紙ですが、製品によって手触りが違います。ネジ一つであっても、いろいろな素材で作られていたり、品質もさまざまです。

また、完全競争ではすべての人に情報が完全に共有されていると仮定されていますが、実際の市場では、売り手と買い手の持っている情報は情報は公平ではありません。ネットによって情報は公平さを増しましたが、情報に偏りがあるのは変わりません。

完全競争の限界

それでも、もし完全競争が実現したとしたら、次のような限界や注意点があります。

  • 品質の多様性
    完全競争では、販売している商品がほとんど同じであることが前提となります。
    けれど、消費者は必ずしも同じような商品を求めているわけではありません。多様な品質や機能を持つ商品を求める場合、完全競争市場ではニーズを満たせません。
  • 技術革新の停滞
    完全競争では企業が利潤を上げるのが難しく、コストのかかる研究開発に投資するインセンティブが低下する可能性があります。その結果、技術革新が停滞し、長期的に見ると消費者の利益を損なう可能性があります。
  • 外部性
    環境汚染などの外部性が価格に反映されない場合、市場の効率性が損なわれる可能性があります。

完全競争は現実には起こりえません。
もし、現実に「完全競争」が起こっているとしたら、その商品に対して消費者は同じものしか買えず、選択の幅が狭まっています。企業は利益の幅が狭いので、研究開発費が捻出できていません。もちろん環境に配慮した製品づくりをしていないことが考えられます。

完全競争を学ぶ意義

市場が完全競争の状態になることは現実にはあり得ませんが、完全競争の概念を理解することは、私たちの日常生活において様々な点で役立ちます。
次に、その理由と具体的な例をいくつか挙げてみましょう。

1. 市場の仕組みを理解する手がかりとなる

完全競争は、市場の理想的な状態を示す理論モデルです。
現実の市場は、完全競争の条件を完全に満たすことはありませんが、完全競争の概念を基準とすることで、現実の市場がどのような状況にあるのか、どのような要因が価格や供給量に影響を与えているのかを分析する手がかりとなります。

例えば、ある商品の価格が急騰した場合、完全競争の視点から「参入障壁が高いのではないか」「情報が十分に共有されていないのではないか」といった仮説を立て、原因を探ることができます。

2. 消費者として賢い選択をするのに役立つ

完全競争の市場では、企業は価格支配力を持たず、消費者は自由に商品を選択できます。この概念を理解することで、消費者は以下のような行動をとることができます。

  • 価格比較:同じような商品であれば、より安い方を選ぶという合理的な判断ができます。
  • 情報収集:商品に関する情報を集め、品質や性能を比較検討することで、より良い商品を選ぶことができます。
  • 代替品の検討:ある商品の価格が高騰した場合、代替品を探すことで、出費を抑えることができます。

これらの行動は、完全競争の市場で消費者が行う行動と類似しており、現実の市場においても有効です。

3. 企業の戦略を理解するのに役立つ

企業は、完全競争の市場では価格支配力を持たないため、差別化戦略やコスト削減戦略などを通して競争優位を確立しようとします。このことを理解することで、消費者は以下のような視点を持つことができます。

  • 広告の意図:企業が広告を通して、商品の差別化を図ろうとしていることを理解できます。
  • ブランドの価値:ブランドが、品質や信頼性の保証として機能していることを理解できます。
  • 新商品の評価:企業が新商品を開発する背景には、市場のニーズに応え、競争優位を確立しようとする意図があることを理解できます。

4. 政策の評価に役立つ

政府は、市場の独占や寡占を防ぎ、公正な競争を促進するための政策を実施します。完全競争の概念を理解することで、以下のような政策の意義を理解することができます。

  • 独占禁止法:市場の独占を防ぎ、価格の高騰や供給量の制限を防ぐための法律であることを理解できます。
  • 情報公開の推進:消費者が商品に関する情報を容易に入手できるようにすることで、市場の透明性を高めることの重要性を理解できます。
  • 新規参入の支援:新規企業の参入を支援することで、市場の競争を促進することの重要性を理解できます。

具体例

  • ガソリンスタンド
    多くのガソリンスタンドが近隣に存在する場合、価格競争が起こりやすく、消費者はより安いガソリンスタンドを選ぶことができます。これは、完全競争に近い状態と言えます。
  • インターネット通販
    インターネット通販では、様々な店舗の商品を容易に比較できるため、価格競争が激しくなります。これも、完全競争に近い状態と言えます。
  • 農産物市場
    農産物は、品質や産地によって価格が異なりますが、基本的には多くの生産者が存在するため、価格競争が起こりやすいです。これも、完全競争に近い状態と言えます。

このように、完全競争の概念は、現実の市場を理解し、消費者として賢い選択をすることができます。
また、企業の戦略を理解し、政府の政策を評価する上で、重要な役割を果たします。

完全競争はあくまで理想的な状態ですが、その概念を理解することで、私たちはより良い経済活動を送ることができるのです。

まとめ

企業の競争の一つ「完全競争」について解説しました。

完全競争とは、売り手と買い手がたくさんいる市場で、新規参入しやすい状態のことです。そこでは、売り手と買い手が商品についての情報を共有し情報が偏っていることがありません。扱う商品はほぼ同じ商品でどれも特徴がありません。

このような完全競争の中にある場合、商品の価格は市場の需要と供給によってのみ左右され、企業は自分の好きなような価格をつけることができません。
なぜなら、多くのライバルが存在していて、製品に差が出にくく、どれもほぼ変わらないものしか作れないからです。

しかし、このような完全競争は空想で、現実世界で完全に成立する市場はほとんどありません。多くの農産物市場や一部の金融市場などは、完全競争に近い特徴を持つと言われていますが、完全な同質性や情報の完全性などの条件が厳密に満たされることはほとんどありません。

現実の市場は様々な要因によって完全競争の条件を満たしておらず、不完全競争市場となっています。不完全競争市場には、独占市場、寡占市場、独占的競争市場など、様々な形があります。

現実に「完全競争」がなかったとしても「完全競争のモデル」は他の市場構造(独占、寡占、独占的競争など)を理解するための基準として重要です。

完全競争の概念は、現実の市場を分析し、より良い意思決定を行うための重要なツールとなります。完全競争が現実には存在しないとしても、その基本的な考え方を理解することで、私たちはより賢い消費者、より戦略的な企業、そしてより適切な政策評価者となることができるのです。

参考文献

ティモシー・テイラー 経済学入門

PR:株式会社レオナビューティー

RP:株式会社イワミズ

PR:ネクステージ株式会社

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