ぽれぽれ経済学

労働市場の需要と供給

労働市場の需要と供給

前回は、労働と労働市場について解説しました。
経済学では、労働は生産のための一要素、企業にとってはコストの一部でした。

また、労働市場は「労働」という要素を提供できる人と、それが必要な人が出会う場所のことです。

ここでは、労働市場についてもう少し詳しく見ていきましょう。労働は個人的なものと捉えがちですが、経済学的な視点をもつことで、また違った視点を持つことができ、選択肢が広がるはずです。

労働市場の需要

労働市場は、労働を提供できる人が「供給」として、そして、雇用したい企業が「需要」として成り立っています。

有名な財市場の「需要と供給のグラフ」があるように、労働市場にも同じ需要と供給の関係が見られます。

労働市場の需要と供給グラフは、横軸に企業が雇用したい労働者の量、つまり求人数、そして、縦軸に賃金の多い少ないを取ります。するとグラフは右下がりの曲線になります。

つまり、求人と賃金の関係は、賃金水準が低いほど、企業が雇用したい労働者数が多く、賃金水準の高いほど労働者の数が少ないということを示しています。
逆に、賃金が高いとき、求人の数は少なくなります。

どうしてこのようなことが起こるかというと、企業は利益を上げるため、またコスト削減のため、労働単価が上がると労働者の数を減らそうとするからです。

労働需要曲線

労働需要曲線を決定する要因

需要曲線は右下がりですが、この下がり具合がどの程度になるのかは、つまり賃金が低くなるとどのくらい求人が増えるのかは、前回まで解説してきた「弾力性」を考えると分かってきます。

弾力性とは

価格が変わったときモノの需要や供給がどのくらい変化するのか、その度合いのこと

労働の需要は、短期的にみると弾力性がありません。
賃金を上げたとしても求人数が、同じ割合で減るということはありません。いったん人を雇うと企業はそう簡単に解雇したりすることはありません。

しかし長期的にみると、労働市場は弾力的になります。
例えば、工場の効率化を進め大規模な労働者の削減を行うことがあります。日本の自動車メーカーが、国内工場を閉鎖し海外に工場を構えると一気に雇用が減ります。また新しいテクノロジーを導入したときも雇用が失われる場合があります。

労働の需要は短期的には弾力性がないので、急に賃金が上下することはありませんが、長期的には弾力性が高くなるので賃金は変動します。

需要曲線がシフトするとき

「労働市場」も需要と供給のバランスで決まっているとしたら、どちらかの量が変化するとグラフ自身も変化するはずです。どのような時にグラフが変化していくのか見ていきましょう。

まず、ある商品がとても人気がでて、欲しい人がたくさん増えたとします。需要が多くなれば労働の需要が高まります。たくさん生産して儲けようとする企業が増えるからです。すると線は右にシフトします。
逆に外出制限がでたり、悪いニュースが出て人気が急になくなると線は左にシフトします。また技術の進歩などで生産性が上がると少ない労働者で生産できるようになるので線は左にシフトします。


企業が人を雇うかどうかは、その生産性にかかっています。
人を雇うことでどれだけのモノが生み出されるのか? 
それは賃金に見合っているのか? 
賃金に見合うだけの売り上げが上がらなければ、企業は人を雇いません。

その他にも下のような要因で需要曲線は変化します。

  • 財・サービスの需要
    財・サービスの需要が高まると、企業は生産量を増やすためにより多くの労働者を雇用する必要があり、労働需要曲線が右にシフトします。
  • 技術進歩
    技術進歩により、労働生産性が向上すると、企業はより少ない労働者で同じ量の財・サービスを生産できるようになります。そのため、労働需要曲線は左にシフトします。
  • 賃金水準
    賃金水準が高いほど、企業は労働者を雇用するコストが高くなります。そのため、労働需要曲線は左にシフトします。
  • その他の要因
    期待される将来の経済成長、政府の政策、労働組合の活動など、その他の要因も労働需要曲線に影響を与える可能性があります。

労働市場の需要に関する考察

近年、日本を含む多くの先進国では、少子高齢化や技術進歩の影響により、労働市場の需給関係が大きく変化しています。

  • 高齢化による労働力人口の減少
    高齢化に伴い、労働力人口が減少しています。
    これは、労働供給量の減少を意味し、労働需要曲線を左にシフトさせる要因となります。
  • 技術進歩による労働需要の変化
    技術進歩により、AIやロボットなどの技術が導入され、従来の労働需要が減少している一方で、新たな需要も生まれています。
  • 非正規雇用の増加
    近年、非正規雇用の割合が増加しています。
    非正規雇用は、正規雇用よりも賃金水準が低く、労働条件も劣悪な場合が多いことから、労働供給曲線を右にシフトさせる要因となります。

これらの変化は、労働市場の需給不均衡を引き起こし、賃金水準や雇用条件に大きな影響を与えています。今後、政府や企業は、こうした変化に対応した労働市場政策を検討していくことが重要となります。

労働市場の供給 家庭から企業へ

次に労働市場の供給に注目していきます。

労働市場とは、求人と働きたい人が出会う場のことです。
労働市場には「市場」という名がついてはいますが、なにか築地市場とか東京証券所、などの特定の場所があるわけではありません。働きたい人が働き口に出会い、企業から家庭に賃金という名のお金が流れる全体のことを指しています。つまり出会いの場や出会い方は、どんな形でもよくて、例えば職業安定所やネットでの就活も労働市場です。

労働市場の供給とは、労働者を供給する「家庭」です。個人と考えても良いでしょう。私たち一人ひとりが持っている、その能力を社会に提供すること、それが労働市場の供給にあたります。

労働市場の供給は需要と同じように、働きたい人(求人数)と賃金の関係で表されます。供給は需要と反対に右上がりの線になることが分かっています。
つまり、賃金が安いと働きたいと思う人は少なく、高くなるほど働きたい人が増えます。

働きたい人は、仕事を選ぶときなにを基準にして選ぶのでしょうか? 

通勤時間、仕事内容、福利厚生、休みのとりやすさ・・・など人によっていろいろな理由がありますが、経済学では、求職者は「賃金」だけを参考にしている、と考えます。

賃金が上がれば働きたい人が増えます。たくさんお金がもらえるなら働きたいと思う人が増えるからです。賃金が安いと働きたい人は減ってしまいます。では賃金はどれくらい上げたら労働の供給、働きたい人が増えるのでしょうか?

この場合も前回お話しした「弾力性」を参考にすることができます。
働きたい人の弾力性とは、賃金が変化した場合、働きたい人がどの程度変化するのかを表します。

働きたい人の弾力性は、その人の働きたい時間、フルタイムなのかパートなのか、その長さによって違います。

フルタイムで働いている人は(週に40時間程度)弾力性がありません。
賃金が10%上がったとしても、労働時間が10%増えることはありませんし、10%働きたい人が増えることもありません。

だれでも一日の時間は24時間しかないので、フルタイムで働いていればそれ以上働く時間を増やすのは法律の関係もあるので、ちょっと大変ですよね。

パートの場合、労働者の供給は弾力的になります。
パートの賃金を10%上げると、労働時間が10%より大きく増える傾向がありますし10%以上働きたい人が増えます。パートタイムで働く場合時間が比較的自由にできるので、時間を延ばすことも簡単にできるからですね。

労働供給量に影響を与える要因

このほかにも労働供給量に影響を与える要因は多数あります。

  • 賃金
    賃金が上昇すると、労働者はより多くの収入を得られるため、労働時間を増やす傾向があります。
  • 非労働所得
    社会保障制度や年金などの非労働所得が充実していると、労働しなくても生活できるため、労働供給量が減少する可能性があります。
  • 人口動態
    人口増加は労働供給量の増加につながりますが、高齢化社会になると労働供給量は減少します。
  • 女性の労働参加率
    女性の労働参加率が向上すると、労働供給量が増加します。
  • 技術進歩
    技術進歩によって労働生産性が向上すると、労働需要が減少する可能性があり、結果的に労働供給量も減少する可能性があります。
  • その他
    上記以外にも、教育レベル、通勤時間、労働条件なども労働供給量に影響を与えます。

供給曲線がシフトする要因

労働市場の供給曲線は、様々な要因によって右にシフトしたり、左にシフトしたりします。

供給曲線が右にシフトする要因

  • 労働人口の増加
    人口増加や、女性の労働参加率の上昇などによって、労働力人口が増加すると労働供給量は増加し、供給曲線が右にシフトします。
  • 教育・技能の向上
    労働者の教育レベルや技能が高まると、より高い賃金で雇用されることが期待できるため、労働供給量は増加し、供給曲線が右にシフトします。
  • 社会保障制度の充実
    社会保障制度が充実すると、労働者はより低い賃金でも働いても生活できるため、労働供給量は増加し、供給曲線が右にシフトする可能性があります。
  • 最低賃金の引き上げ
    最低賃金が引き上げられると、労働者はより低い賃金で働くことを拒否するようになるため、労働供給量は減少して、供給曲線が左にシフトする可能性があります。しかし、最低賃金の引き上げ幅が小さい場合や、労働者にとって魅力的な仕事が増えている場合には、労働供給量は増加して、供給曲線が右にシフトする可能性もあります。
  • 技術革新
    技術革新によって新しい仕事が創造されると、労働供給量が増加し、供給曲線が右にシフトします。例えば、近年では、IT技術の発展によって、在宅勤務やフリーランスの仕事が増加しており、これが労働供給量の増加につながっています。
  • 経済成長
    経済が成長すると、企業はより多くの労働者を雇用するため、労働供給量が増加し、供給曲線が右にシフトします。

供給曲線が左にシフトする要因

  • 労働人口の減少
    少子高齢化や人口流出などによって、労働力人口が減少すると、労働供給量は減少して、供給曲線が左にシフトします。
  • 教育・技能の低下
    労働者の教育レベルや技能が低下すると、より低い賃金でしか雇用されないため、労働供給量は減少して、供給曲線が左にシフトします。
  • 社会保障制度の縮小
    社会保障制度が縮小されると、労働者はより高い賃金でないと働かないため、労働供給量は減少して、供給曲線が左にシフトする可能性があります。
  • 定年年齢の引き上げ
    定年年齢が引き上げられると、高齢者が労働市場に残るため、労働供給量は増加し、供給曲線が右にシフトします。しかし、高齢者の能力や体力によっては、必ずしも労働供給量が増加するとは限りません。
  • 産業構造の変化
    労働集約型産業からサービス産業へのシフトなど、産業構造が変化すると、必要な労働力が変化し、労働供給曲線がシフトする可能性があります。
  • 経済停滞
    経済が停滞すると、企業は労働者を解雇し、失業が発生します。これは、労働供給量>労働需要量という状態であり、労働供給過剰と呼ばれます。

これらの要因は、単独で作用するのではなく、複合的に作用することが多いです。
例えば、少子高齢化と技術革新が同時に進んでいる場合、労働市場への影響は複雑なものとなります。

労働市場の供給曲線のシフトに関する例

労働市場の供給曲線のシフトした、具体的な例をいくつか挙げてみましょう。

  • 1970年代後半から1980年代前半
    この時期には、日本経済が高度経済成長期から低成長期へと移行し、製造業を中心とした企業のリストラが進みました。
    これにより、多くの労働者が解雇され、失業率が大幅に上昇します。
    この結果、労働供給曲線が左にシフトしました。
  • 1990年代後半
    この時期には、バブル経済崩壊後の景気低迷の影響で、企業の雇用控えが続きました。
    また、少子高齢化の影響も出始め労働力人口の減少が進みました。
    これらの要因により、労働供給曲線が左にシフトしました。
  • 2000年代後半
    この時期には、小泉政権の構造改革の影響で、非正規雇用の労働者が増加しました。
    非正規雇用の労働者は、正規雇用の労働者に比べて賃金が低く、福利厚生も充実していないため、労働供給曲線が右にシフトしました。

労働市場の供給に関する問題

近年では、労働市場の供給面では以下のような問題が指摘されています。

  • 少子高齢化による労働力人口の減少
    少子高齢化が進展する日本では、労働力人口が減少していくことが懸念されています。
  • 労働市場のミスマッチ
    求職者のスキルや経験が求人の条件に合致していない場合、労働市場のミスマッチが発生し、労働供給と労働需要の間にギャップが生じてしまいます。
  • 非正規雇用の増加
    非正規雇用労働者の割合が増加しており、雇用不安や低賃金などの問題が指摘されています。

労働市場の供給は、経済全体の成長や安定に重要な役割を果たします。労働市場における供給と需要のバランスを適切に調整していくことが、今後の課題と言えるでしょう。

まとめ

労働市場の需要と供給について解説しました。
労働市場で供給とは働きたい人の数で、供給元は「家庭」でした。
需要では働いてくれる人が少ない場合、賃金が高く、働いてくれる人が多い場合賃金が安くなります。
供給では働きたい人は賃金が高いと増え、低いと減りました。

フルタイムで働いている人は賃金が変化してもその数があまり変化しませんが、パートタイムで働く人は賃金を少し高く変化させると、働きたい人の数がそれ以上に増えます。

労働の供給を増やすには人口を増やすことが主な政策になりますが、日本でもヨーロッパなどの先進国では、人口は打ちどまって減っていく傾向がみられます。どこの政府税収確保のため、人口減少に歯止めをかけようと政策を練ってはいますが、決め手はありません。アメリカでは移民を受け入れているため人口は増えています。

日本では2022年に55万人人口が減りましたが、これはだいたい鳥取県と同じ人口数です。日本の人口減少数は、鳥取県の人たちが毎年すべていなくなってしまう、そんなレベルになっているのです。

労働の問題は、経済全体の成長や安定に重要な役割を果たします。
そのため、労働市場における供給と需要のバランスを適切に調整していくことが、今後の課題と言えるでしょう

参考文献

ティモシー・テイラー 経済学入門
厚生労働省 アメリカ (mhlw.go.jp)
統計局ホームページ/人口推計 (stat.go.jp)

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