ぽれぽれ経済学

企業がお金を借りるとき

企業のお金の借り方

前回まで、資本市場の基本的なしくみをみてきました。

資本市場は、とりあえず使う当てのないお金を、新しく事業を始めたいと思っている人へ橋渡しする場所でした。貸し出すときと返却するときの時間差が資本市場の大きな特徴で、その時間差が長いほど借りるのにお金がかかるようになっています。

資本市場の「需要」はお金を借りたいと思っている企業、「供給」はお金が余っている貯蓄しているところつまり家計です。

資本市場の登場人物を押さえたところで、次に企業がどのようにお金をかりるのかを解説します。

企業の資金調達と聞くと「企業が勝手にすることで私たちにはまったく関係がない」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、私たちが銀行にしている貯金は、銀行を通じて企業に貸し出されています。もちろん自由気ままに貸し出ししてはいませんが、私たちの預金は間接的に企業に使われています。

企業の資金調達方法を知ると、世の中のお金の流れをイメージすることができます。

なぜ設備投資が必要なの?

そもそも企業はなぜ設備投資を行うのでしょうか?

  • 売り上げを拡大させるため
    企業が設備投資をする一番の理由は、売上を拡大させるためです。
    今ある設備では、需要に応じた生産量を賄いきれないと思った場合、新しく設備を導入すれば、生産能力を拡大し、売上を増やすことができます。
  • 生産性を向上させるため
    企業は、設備投資によって、既存設備の生産性を向上させることもできます。
    例えば、従来よりも効率的な設備を導入することで、生産量を増やしたり、原材料や労働力の使用量を削減したりすることができます。
  • 新商品やサービスの向上のため
    新しい商品やサービスを開発するには設備投資が必須です。
    例えば、新しい製造技術を導入するために、新たな設備を導入したり、研究開発施設を整備したりすることがあります。

企業の設備投資は、社会全体の経済成長の原動力です。
設備投資が増えれば、企業の売上や生産性が向上し、雇用や所得の増加につながります。
また、新たな技術や製品の開発を促進し、経済の活性化にもなります。

ただし、設備投資は、企業にとって大きな資金負担となるため、慎重に検討する必要があります。設備投資の費用回収を図るためには、将来の収益見通しを十分に考慮しなければ赤字を増やすだけにもなりかねません。設備投資の時期や内容についても、市場環境や技術動向などを十分に分析した上で、最適な判断を行う必要があるのです。

資金調達方法その1 内部留保

では、企業の設備投資に必要な調達資金はどのように集めたら良いのでしょうか?
ここでは、代表的な3つの資金の調達方法を見ていきます。

1つめは「内部留保」です。
「内部留保」とは、企業が商品を売って儲けを得た場合、儲けから、材料費、人件費などを差し引いた分が利益になります。そして、この利益を会社の持ち主である株主に配当金として株主に還元します。そして、その残った分が、企業の内部に取っておくことができる「内部留保」になります。

「内部留保」は「貯金」と似ていますが少し違います。
貯金は自由に使ったり貯めたりでき、誰に説明する必要もありません。
しかし「内部留保」は株主に対してなぜ内部留保を積み立てたのか、どのように使用したのかを明らかにする必要があります。また、利益として税金がかかります。

企業にとって内部留保があれば、設備投資や研究開発にその資金を投じることができ、企業の成長を加速することができます。また、内部留保が多い企業は、財務的に健全であると評価され、資金調達がしやすくなります。
つまり、内部留保は企業にとって「貯金」以上の存在と言えます。

資金調達方法その2 銀行の融資と債券

2つめは、資金を外部から借りる方法です。
企業もお金の足りないときは借金をして、その不足分を賄おうとします。

その方法は「銀行からの借金」または「債券」の発行の2つです。

銀行から借金するのは、感覚として分かりやすいと思いますが、「債券」というのは少し耳慣れない方も多いと思います。

「債券」とは、国や企業が不特定多数の人から資金を借りるために発行する借用証書のことです。債券は「額面価格」と「利子」と「期間」が決められています。

例えば、額面価格は100万円で、利子は8%、期間は10年と書いてある債券があるとします。この債券は10年の間ずっと1年間に8%の利子が支払われ、10年後の期限がやってきたら額面価格の100万円が返却されるということです。

債券は銀行の融資と同じお金を借りる手段にすぎません。
債券と銀行の違いは、銀行はその契約した銀行から借りますが、債券はたくさんの人から借りることが出来ます。債券を買う人は個人だったり、年金機構だったり、投資会社だったりします。

もちろんリスクもあります。期間内に債権の支払いができずに破産し、債券の価値がぐっと低くなることもあります。このために債券を発行する企業側も、十分な利益が出ることを計算したうえでお金を借りなければいけません。借りたお金で設備投資してもその利益が支払う利子よりも大きくなければやる意味がありません。

債券の利率はその企業が抱えるリスクの大きさによって変わります。
老舗の大企業ならリスクが低いと判断されて利率が低くなります。企業は安い価格でお金を借りることが出来ますが、貸す側にとっては安全ですが、利益が低いということになります。

反対に新しくできたばかりの企業や経営に不安のある企業の債券の利率は高くなります。貸す側にとってはリスクは高いですが、利益は高くなります。

資金調達方法その3 株式の発行

企業の資金調達方法の3つめは、株の発行です。

企業が株を発行するということは、会社の「所有権」を一部付与する、ということです。
例えば、ある企業の株の総数が100株だとします。あなたが10株もっていたとしたら、あなたはその企業の10%を所有している、ということになります。株を持っている人は、企業が生み出した利益を配当としてもらうことができます。配当金は株を持っている割合に応じて受け取ることが出来ます。
また、会社が買収されたとき、株主はその所有割合に応じて売却価格の一部を受け取ることが出来ます。

株式と債券の違いは、株式には決まった利率はありません。
なので定期的に支払いがおこなわれる保証は一切ありません。
さらに株を持っていても何も利益がないこともあります。
また株の売買は、債権よりも大きいですが、小さいこともありますし、大損することも少なくありません。

会社の規模によって資金調達方法がちがう

企業の資金調達は、その企業の稼ぐ力によって違いがあります。

設立したばかりの小さな会社は、資金調達方法として株式の発行がよく使われます。ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家などが小さな会社にとって頼れる有望な株主です。そのような若い会社に積極的に融資する証券会社や個人の理解が得られれば、新しい会社も資金が受けやすくなります。

会社がある程度大きくなると、成長を支えるためにもっと多くの資金が必要になります。そこで株式を公開して市場で買えるようにします。株式を公開すると経営の自由度が下がりますが、より多くな資金調達が可能となります。

そして老舗の大企業になると売り上げ規模が大きくなり、内部留保を資金調達に回せるようになります。また銀行からの信用も厚くなり金利が低くなるので、銀行の融資を使うことが多くなってきます。

まとめ

企業の3つの資金調達方法について見てきました。
会社の利益を使う「内部留保」、株式の発行、銀行からの融資でした。

企業がお金を借りるということは、経済にとって極めて重要です。投資の結果として得られる設備や技術は、生産性の向上につながり、やがて私たちの生活の水準を引き上げてくれるからです。

日本のすべての貯蓄額は世界でもかなりの水準ですが、企業への投資は、欧米や中国に比べてとても低いです。産業の発展を国内で支え、経済を安定して成長できるかどうかは、人々の貯蓄と投資にかかっているのです。

参考文献

証券投資に関する世論調査 (gov-online.go.jp)
資本市場 - Wikipedia
図録▽主要国の家計貯蓄率の推移 (honkawa2.sakura.ne.jp)
ティモシー・テイラー 経済学入門

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