前回までは、モノづくりの分業化が進むと、市場という交換の場が必要になったこと、
そしてモノの値段は、それを欲しい人に対してそのモノがどのくらいあるのかで決められることを見てきました。
経済学では、モノの価格とその量だけに注目します。
私たちがモノの価値と言ったら、自分にとってどのように役に立つのかとか、心を満たしてくれるのか、などがとっても大切ですが、経済学の視点は違います。
経済学では価値よりも価格に注目します。人によって価値の違うものには注目しないで値段だけに注目して単純化して、モノの値段がどのように変化するのか考えていくのです。
ここでは、モノの値段がどのように変化するのか理解するため、まず「需要」について解説します。
需要とは
まずは「需要」という言葉ですが、はっきり言って日常生活で全くなじみがなく、濁音が混じり、なにかとっつきにくい感じかします。この「需」という漢字は、「雨」の下に「而」がついています。「而」とは巫女の意味で、巫女が雨が降るように神様にお願いする姿を現した形からきています。雨が欲しい、雨をもとめる、という意味から「人が求める」という意味をもっています。
需(漢字)とは? 意味や使い方 - コトバンク (kotobank.jp)
人が求めるものはいろいろなものがありますが、経済学用語で「需要」と言ったら、注目するのは「人が商品を欲しがる量」と「その価格」の2点だけです。
下のグラフを見てください。グラフの横軸は「商品やサービスの量」です。右に伸びるほど量が多くなった時のことを示します。縦軸は「価格」です。

これは需要曲線と呼ばれるもので、1838年数学者で哲学者でもあった、オーギュスタン・クールノーという人が初めて描いたものです。需要曲線はこのように右下がりになります。価格が下がればモノやサービスの量が増えていきます。
なぜ、価格が下がるとモノやサービスの量が増えて、価格が上がるとモノやサービスの量が減るのでしょうか? これには2つの理由があると考えられています。
- 代替効果
例えばオレンジジュースが安くなれば、他の飲み物を飲んでいた人もオレンジジュースを飲み始めます。ガソリン価格が下がれば車に乗る機会を増やすのでガソリンが以前よりも売れるようになるのです。 - 所得効果
あるモノの価格が下がると、人々は財布のひもを緩めます。月々の給料から買えるモノが多くなるからですね。逆にあるモノの価格が上がると財布に紐はきつくなります。そうなるといつもと同じようにモノを買うわけにはいかないので、何かをあきらめたり、買う回数を減らしたりするからです。
曲線を見るときのポイント
需要曲線を見るときに注意したいポイントは、曲線全体と曲線上の点は別々のものであると意識しましょう。
曲線の中にある点は「ある特定の価格の時に」人々がどのくらいそれを買うのか、ということを表します。これを「需要量」と呼びます。曲線そのものは「需要」で価格とモノの量の関係性を表しています。一つの線の中で「需要量」はいろいろ動きますが「需要」は変わりません。要するに「点と線」は違うということでOKです。
ここで一つ疑問がわきます。「需要」、つまり曲線そのものが動くことはないのでしょうか?
実は「需要」そのものも変化します。曲線のかたちを保ったまま右や左にシフトすることがあります。
- 社会全体で所得水準が上がったとき
人々の所得、給料が上がって使えるお金が社会全体で増えると、商品が多く売れるようになります。すると特定の価格の時だけじゃなく、どの価格でも需要量が増え曲線は右にシフトします。逆に全体に所得が減ると曲線は左へシフトします。 - 人口が増えたとき
出生率が上がって人口が増えると、商品やサービスを買う人が増えるので、すべての価格で需要量が全体的にアップして曲線は右にシフトします。逆に人口が減ると左にシフトします。 - 流行や好みが変化したとき
あるモノがブームになったり、人気がなくなったりすることがあります。例えば、みんながお米よりもバンを食べるようになっていますよね。するとコメの需要量が少なくなり、小麦粉の需要量が増加します。 - 代替品の価格が変化したとき
例えば人々は牛肉が食べたいけれど価格が高いので、いつも我慢をして鶏肉を買っているとします。もしも鳥インフルエンザなどの影響があって鶏肉の出荷量が減り価格が上がってしまうと、人々は牛肉を買うようになります。つまり牛肉の需要が上がります。逆に鶏肉の需要は減ります。
まとめ
需要について見てきました。経済学で需要と言ったら人々がどのくらいその商品を欲しがっていて、その価格がいくらになっているか?ということを表します。それを横軸と縦軸に表したものが需要曲線と呼ばれるものです。価格が上がればほしい人が減り、価格が下がれば欲しい人が増えます。
そして曲線そのものが、右と左にスライドすることもあります。社会全体で所得が増えたり、人口が増えたり、ブームが来たり、代替品の価格が上がったりすると、曲線そのものがスライドし以前と価格は変わらなかったとしても、欲しい人が増えるということもあります。
次回は「供給」について解説します。
参考文献
経済学入門 ティモシー・テイラー
【需要曲線シフトの要因】実例を使って分かりやすく理解する どさんこ北国の経済教室 (kitaguni-economics.com)