前回は株式をつかった資産投資についてみてきました。
株式投資は普通預金に比べるとリスクが高いですが、資産形成を考えたら検討したい方法です。
株式投資のリスクは価値が上がったり下がったりを繰り返し、その動きが読めないことでした。投資を1日中考えているような投資のプロでも、その動きを正確に当てることは難しく、継続して利益を出し続けるには非常に難しいです。
企業は利益を上げなければ業務を続けていけませんので、市場全体としては業績は伸びていくものです。
しかし、個別の企業の株価は、思うように業績が伸びずに急転直下する可能性があります。
なので、そのリスクをなるべく避けようとして、株式市場全体を押さえておえば、それなりにリスクを抑えて資産形成できるのではないか?と考えた人たちがいました。
ここでは、そんなリスクを抑える方法として、考えだされた「インデックスファンド」の歴史について詳しく解説します。
インデックスファンドとは
インデックスファンドとは、特定の指数と(日経平均株価、NYダウ、S&P500指数など)同じ値動きを目指して運用する投資信託のことです。その運用コストは、銘柄選定や売買判断などの手間がかからないため、アクティブファンドに比べて低く抑えられてるため人気があります。
インデックスファンドの歴史
インデックスファンドの概念は1960年代にアメリカ出身経済学者のウイリアム・シャープによって提唱されました。
彼は、現代のインデックスファンドの理論の枠組みになっている「現代ポートフォリオ理論と資本資産価格モデル(CAPM)」を提唱し金融経済学に大きな影響を与えました。
その功績が評価され1990年にノーベル経済学賞を受賞しています。
少しややこしいのですが、ここでシャープのCAPMについて簡単に見ていきましょう。
CAPMとは、投資におけるリスクとリターンを分析するために使用される数学モデルです。このモデルは、投資家が市場リスク(市場全体の変動リスク)に対して要求するプレミアム(上乗せされる利益)を決定するために使用されます。
具体的には、以下の式で表されます。
期待収益率 = 無リスク利子率 + ベータ × 市場リスクプレミアム
ここで、
- 期待収益率:特定の資産の予想されるリターン
- 無リスク利子率:政府債のようなリスクフリー資産の利回り
- ベータ
資産の市場リスクに対する感度. ベータが1より大きい場合、その資産は市場よりも変動が大きくなります。逆に、ベータが1より小さい場合、その資産は市場よりも変動が小さくなります。 - 市場リスクプレミアム:市場ポートフォリオの期待収益率と無リスク利子率の差
CAPMは、投資家がリスク許容度に基づいてポートフォリオを最適化するために使用することができます。また、CAPMは、個々の資産の価格を評価するのにも使用できます。
しかし、CAPMはいくつかの重要な仮定に基づいていることに注意することが重要です。これらの仮定は常に現実世界で満たされるわけではなく、CAPMの予測精度が損なわれる可能性があります。
CAPMの主要な仮定
- 投資家はすべて合理的であり、十分な情報に基づいて意思決定を行う
- 投資家はリスク回避者であり、より高い期待収益を得るためにはより高いリスクを要求する
- すべての資産は完全に流動であり、取引コストはない
- すべての投資家は同じ投資機会にアクセスできる
- 市場は摩擦がなく、効率的である
つまり現実にはあり得ないという、これらの仮定の制限があるにもかかわらず、今でもCAPMは投資理論における重要な理論として広く使用されています。
CAPMの新しさ
1960年に開発されたCAPMは、それまでの投資理論と比べて、なにが新しく、画期的だったのでしょうか。
市場リスクと個別リスクの区別
CAPM以前の投資理論では、資産のリスクは個別リスクのみを考慮していました。
個別リスクとは、個々の資産に固有のリスクであり、企業業績の悪化、新製品の失敗、訴訟問題などによって発生します。
一方、CAPMは、市場全体のリスクである市場リスクと、個別リスクを区別しました。市場リスクとは、景気後退、金利変動、政治情勢不安など、市場全体に影響を与えるリスクです。
CAPMでは、投資家は市場リスクに対してのみ報酬を受け取ると考えます。
つまり、個々の資産を分散投資することで、個別リスクを限りなく小さくすることができると仮定し、投資家が実際に受け取る報酬は、市場リスクの大きさであるベータによって決まると考えました。
ベータと期待リターンの関係
CAPMでは、資産の期待リターンは、リスクフリー金利と市場リスクプレミアム、そしてベータによって決まると考えます。
この式から、ベータが大きいほど、つまり市場リスクが大きいほど、期待リターンも高くなります。これは、投資家がより高いリスクを取ることで、より高いリターンを得られるという投資の基本的な原理を反映しています。
投資ポートフォリオのリスクとリターン
CAPMは、個々の資産だけでなく、投資ポートフォリオ全体のリスクとリターンについても分析することができます。
ポートフォリオ全体のベータは、構成資産のベータの加重平均で計算されます。そして、ポートフォリオの期待リターンは、ポートフォリオ全体のベータと市場リスクプレミアムによって決まります。
CAPMを用いることで、投資家は、リスクとリターンのバランスを考慮しながら、効率的な投資ポートフォリオを構築することができます。
CAPMの具体例
CAPMは、以下のような様々な場面で応用されています。
- 個別銘柄の投資判断
- 投資ポートフォリオの構築
- 資産価格の評価
- 資本コストの計算
- リスク管理
CAPMへの批判
CAPMは、多くの投資家や金融機関で広く利用されている理論モデルですが、以下のような批判も存在します。
- 市場リスクプレミアムの推定が難しい
- ベータの計算方法が複雑で、必ずしも正確ではない
- 市場が完全競争市場であるという仮定が現実的ではない
- 個別リスクや非市場リスクを考慮していない
CAPMは、市場リスクと個別リスクを区別し、ベータと期待リターンの関係を明らかにしたことで、投資理論に大きな貢献をしました。また、投資ポートフォリオのリスクとリターンについても分析できるため、効率的な投資ポートフォリオの構築に役立ちます。CAPMには批判もありますが、現在でも多くの投資家や金融機関に活用されている重要な理論モデルです。
1970年代以降のインデックスファンド
インデックスファンドの論理は1960年代に提唱されていましたが、金融商品として発売したのは1970年代になってからでした。
1970年代の米国のウォール街は、有名トレーダーの行うアクティブファンドが主流であり、運用者が独自の銘柄選定や売買判断によって市場平均以上のリターンを追求し実績をあげていました。
しかし、1970年代後半からアクティブファンドの運用成績が市場平均を下回る傾向が見られるようになります。その理由はさまざまですが、主な理由として挙げられるのは株価指数や債券指数などの指数の精度が上がり、市場全体の値動きを正確に反映するようになったからとも言われています。
そのような状況の中で、1971年、米国の資産運用会社ウェルスファーゴが機関投資家向けに最初のインデックスファンドを設立しました。初めニューヨーク取引所が取り扱っている1500銘柄すべて等しく組み入れたポートフォリオでしたが、維持管理が難しかったので、S&P500を時価総額比で組み入れるインデックスファンドを導入します。
続いて米国の投資家のジョン・ボーグル氏も、市場平均と同じ値動きを目指すインデックス投資を提唱します。ボーグル氏は、アクティブファンドの運用コストが高すぎること、そして、市場平均を下回ってしまう投資家が多いことを指摘し、インデックス投資こそが、長期的な資産形成に適した方法であると主張しました。
そして、1976年にボーグル氏はバンガード・グループを設立し、米国初の個人向けインデックスファンドを設定します。このファンドは、低コストで運用されるという特徴から多くの投資家に支持されインデックス投資の普及を後押しすることになります。
その後、インデックス投資は米国から世界へと広がり、日本では、1985年に国際投信委託(2004年11月5日金融庁より行政処分を受け業務停止。2015年7月1日、三菱UFJ投信と合併した)が、国内初のインデックス・ファンドを設定しました。
インデックス投資の歴史のまとめ
- 1970年代:アクティブファンドの運用成績が市場平均を下回る傾向が見られるようになる。
- 1976年:ジョン・ボーグル氏がバンガード・グループを設立し、米国初の個人向けインデックスファンドを設定。
- 1985年:日本で最初のインデックスファンドが設定。
- 1990年代:インデックス投資の普及が加速。
- 2000年代以降:インターネットの普及により、インデックス投資がより身近なものに。
インデックス投資は、長期的な資産形成に向いた投資方法です。低コストで運用でき、分散効果が高いため、初心者でも始めやすい投資と言えます。
インデックスの指数はどんなものがあるの?
インデックスファンドの指数(ベンチマーク)の具体例をご紹介します。
- 株式インデックスファンド
- 日本
- 日経平均株価(日経225)
- TOPIX(東証株価指数)
- MSCI 日経225
- 日経225 インデックスファンド
- 米国
- S&P 500
- Nasdaq 100
- ダウ・ジョーンズ工業株30種平均
- ラッセル2000
- 日本
- 債券インデックスファンド
- 日本
- JGB総合指数
- JGB銘柄別指数
- 国内債券インデックスファンド
- 米国
- 米ドル建て米国政府債券指数
- 米ドル建て米国社債指数
- 日本
- バランスファンド
- 日本
- MSCI 日経225 インデックスファンド(60%)+JGB総合指数(40%)
- 日経225 インデックスファンド(40%)+MSCI 日経225 インデックスファンド(30%)+JGB総合指数(30%)
- 米国
- S&P 500(60%)+米ドル建て米国政府債券指数(40%)
- S&P 500(40%)+米ドル建て米国社債指数(30%)+米ドル建て米国政府債券指数(30%)
- 日本
上記は、代表的な例であり、他にもさまざまな指数が存在します。インデックスファンドを選ぶ際には、投資の目的やリスク許容度に合わせて、適切な指数を選ぶことが重要です。
以下に、各指数の特徴を簡単に説明します。
- 日経平均株価(日経225)
東証一部に上場する225銘柄で構成される株価指数です。日本を代表する指数として、広く用いられています。 - TOPIX(東証株価指数)
東証1部に上場する全銘柄で構成される株価指数です。日経平均株価よりも幅広い銘柄を対象としているため、より市場全体の動向を反映した指数と言えます。 - MSCI 日経225
MSCI社が算出する、日経225に連動する指数です。日経平均株価とほぼ同じ構成銘柄で構成されていますが、信託報酬が低く設定されている点が特徴です。 - 日経225 インデックスファンド
日経225に連動するインデックスファンドです。日経平均株価の値動きとほぼ同じ値動きを実現します。 - S&P 500
米国を代表する株価指数です。米国を代表する500銘柄で構成されています。 - Nasdaq 100
米国のナスダック市場に上場する100銘柄で構成される株価指数です。ハイテク銘柄の比率が高いのが特徴です。 - ダウ・ジョーンズ工業株30種平均
米国の工業株30銘柄で構成される株価指数です。最も歴史のある株価指数の一つです。 - ラッセル2000
米国を代表する小型株指数です。時価総額が小さい2,000銘柄で構成されています。 - JGB総合指数
日本の国債の総合的な値動きを示す指数です。 - JGB銘柄別指数
日本の国債を銘柄別に分類した指数です。 - 国内債券インデックスファンド
日本の国債で構成されるインデックスファンドです。 - 米ドル建て米国政府債券指数
米国の政府が発行する債券の総合的な値動きを示す指数です。 - 米ドル建て米国社債指数
米国の民間企業が発行する債券の総合的な値動きを示す指数です。
このように、投資家の異なるリスク許容度、投資目的、運用方法など、様々なニーズにあわせた多様な指標は、投資家が自分に合った投資判断を行うための情報を提供しているのです。
まとめ
インデックスファンドについて解説しました。
インデックスファンドとはたくさんある株の中からいくつかとりだして、ある指数に合わせた動きをする金融商品の総称です。
日経平均株価やダウなどの指数を参照して、その比率に合わせて組み合わせ、値動を指標と同じように動くよう調節します。個別の株に投資するのと違って値動きの上下が少なく、リスクが低いのが特徴です。
インデックスファンドの論理は、1960年のアメリカの経済学者ウイリアム・シャープのCAPMというモデルから始まります。個別銘柄への投資のリスクと市場全体のリスクを分けて考えて、投資家がリスクをどの程度許せるのかを計算し、効率的なポートフォリオを構築することを目標にしています。
インデックスファンドが実際に金融商品として発売されたのは、1970年のアメリカです。アクティブファンドの成績が悪くなってきたのを境にウェルスファーゴ、バンガード社などが次々とインデックスファンドを発売しました。
自分一人では指数全体の株をすべて購入することは、コストがかかるのでできませんでしたがインデックスファンドならコストも低くまたリスクも抑えられるということもあり、多くの人に支持され世界中に広がります。
インデックスファンドは、その低コスト、シンプルな運用方針、そして市場全体のリターンを追求する戦略により、長期的な投資手段として広く支持されています。
参考文献
お金以前 土屋剛俊
国際投信投資顧問 - Wikipedia
発足から40年を迎えるインデックスファンド—その軌跡と今後の展開— (toushin.or.jp)
ウィリアム・フォーサイス・シャープ - Wikipedia
インデックスファンド - Wikipedia
資本資産価格モデル - Wikipedia