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独占ってなんだろう?

独占ってなんだろう

前回は、競争状態にある企業同士が、その競争の度合いが一番高い「完全競争」についてみてきました。

企業は、一般的に競争的な環境の中で活動していますが、必ずしもすべての企業が常に激しい競争にさらされているわけではありません。市場の状況や企業の戦略によって、競争の度合いは異なります。

ここでは逆に、一番競争度の低い状態「独占」について見ていきましょう。

「独占」ですから文字通りその業界を独占しています。
競争度がすくない状態は、企業にとって敵がいないので理想的な状態です。

けれど、どんな業種でも儲かっていれば、必ずライバルが出てきて独占できなくなるはずです。特定の企業が独占し続けられるとき、それはさまざまな条件があります。

独占ってなんですか?

企業の「独占」を見ていく前に、企業はどんな目的があって競争をするのかおさらいしましょう。

なぜ企業は競争するのか?

  • 市場シェアの獲得:より多くの顧客を獲得し、売上を伸ばすため。
  • 利益の最大化:収益性を高め、企業の成長を図るため。
  • 競争優位性の確立:他社との差別化を図り、自社の強みを活かすため。
  • 技術革新の促進:新しい製品やサービスを開発し、市場をリードするため。
  • 顧客満足度の向: 顧客のニーズに応え、顧客との関係を深めるため。

企業は利益を上げるために、より多くの顧客を満足させ、自身の地盤を固め、他者との差別化させようとします。自社の競争力が高まれば次の製品の技術開発費に多くのお金をかけることができ、さらなる利益が見込まれます。

企業同士の競争の形

企業間の競争は、様々な形で現れます。

技術開発競争
新しい技術を開発し、市場にいち早く投入しようと競い合う。

製品・サービスの競争
品質、価格、機能性などで競い合う。

価格競争
より低い価格で製品やサービスを提供することで競い合う。

ブランドイメージの競争
自社のブランドイメージを向上させ、顧客に選ばれるように競い合う。

顧客獲得のための競争
広告やプロモーション活動を通じて、顧客を獲得しようと競い合う。

新しい技術によって生まれた商品の品質や価格、機能性などの魅力を広告を通じてアピールして、顧客に訴えます。

独占企業とは

では、競争をすることなく、その業種で市場を占有している率が高い状態の「独占」とは、どういう状態を指すのでしょうか。

「独占」とは、ある産業や市場で他の競争者を排除して、1社のみが利益を受けている状態です。

つまり、独占企業になると、他の競争者がいないため、自らの利益を最大化できる価格を設定しやすいため、高収益体質となることが多いのです。

独占企業の具体例

まず世界的に有名な独占企業は「マイクロソフト」です。

マイクロソフトは、1990年年代後半から2000年代初頭にかけてWindows OSやOfficeなどのソフトウェア製品で市場を独占していました。独占禁止法違反の疑いで、米国やEUから複数の訴訟を起こされたこともあり、マイクロソフトは、これらの訴訟において、一部の行為について違反を認め、罰金を科されています。
けれど2023年現在、マイクロソフトの独占状態は、徐々に緩和されています。Windows OSのシェアは低下していますし、GoogleやAppleなどの競合企業もソフトウェア製品でシェアを伸ばしています。

競争を阻害した罪に問われたマイクロソフトですが、クラウドコンピューティングやゲームなどの分野で強力な地位を築いています。そのため、今後も完全に独占が崩壊する可能性は低く、一定のシェアを維持し続ける可能性は高いと考えられます。

そして日本にも日本郵便株式会社とい独占企業があります。いわゆる郵便局です。

日本郵便はたくさんの業務を行っていますが、その中の「第一種郵便物(書簡、葉書、はがき、ゆうパケット、ゆうパックなど)」事業を独占しています。第一種郵便物における国内シェアは、2023年3月時点で約99.9%です。2位の佐川急便は約0.1%で、日本郵政グループと2位の差は約99.8%もあります。
日本郵便は、2007年に民営化されましたが「郵便法」により、日本郵政グループが第一種郵便物の取扱を行うことが義務付けられています。新規参入には一定の条件を満たす必要があり、参入許可には高い障壁があるため今後も日本郵便の独占が続くと考えられます。

独占はどのように生まれるのですか?

独占は、以下の3つの要因によって生まれると考えられます。

  1. 自然独占

自然独占とは人為的な要因ではなく、経済的な要因によって自然に発生する独占のことです。事業の規模が大きければ大きいほど利益が大きくなる事業によく見られます。

例えば、自動車工場をつくるには巨額な費用が掛かります。工場で生産量を増やすためには小規模の工場よりもより大きい工場の方が一台当たりのコストが下がります。いったん大規模な投資によってつくられた事業が動き出すと、新たに参入することが困難です。初めに規模で負けてしまうと、利益を握られてしまってそれを覆すことが簡単にできません。

自然独占は水道や電気などの公共サービスによく見られます。大規模に整備されてしまうと、次に参入するのが難しい状態になり特定企業の独占を生むことになります。

  1. 技術的優位性

技術的優位性とは、ある企業が他の企業よりも優れた技術力や製品を有している場合を指します。例えば、マイクロソフトは、Windows OSやOfficeなどのソフトウェア製品において、技術的優位性を有しており、独占状態を維持しています。

  1. 政府による規制

政府による規制とは、政府が特定の企業に対して、市場の独占を許可したり、新規参入を制限したりする場合を指します。例えば、さきほどの日本郵便は、郵便法に基づき、第一種郵便物の取扱を独占しています。
また「特許」も新規参入を阻む障壁になっています。「特許」とは有用な発明をした人は、一定期間その発明を独占的に使用しうる権利を国が一定期間付与するものです。

例えば、ある企業が新薬を製造する特許を取得したら他の企業はその薬に手を出すことはできません。少なくとも特許期間はその企業が市場を独占することになります。
一定期間独占を認めることで、さらなる新薬の開発が促進される面もありますが、高い代金を払わなくてはいけません。人々の利益と引き換えに技術の進歩を促すというトレードオフが存在しています。

独占のメリット

企業にはその市場を独占することで、多くのメリットがあります。

  • 規模の経済効果
    独占企業は、大規模な生産が可能になり、生産コストを大幅に削減できます。
    これにより、製品価格を低く抑えたり、高品質な製品を提供したりすることが可能になります。
  • 研究開発への投資
    独占企業は、安定した収益を得られるため、研究開発に積極的に投資することができます。
    新しい技術や製品の開発を加速させ、産業の発展に貢献することもあります。
  • 大規模なインフラ整備
    独占企業は、大規模なインフラ整備を行う資金力があります。
    例えば、電力会社が全国規模の送電網を整備するなど、社会全体のインフラ整備に貢献することもあります。

このように生産規模の大きさから、利益も多くなり、得られた利益を使ってさらなる技術開発に資金を潤沢に使用することができます。

独占のデメリット

けれど「独占」には社会全体にとって、また消費者にとってさまざまなデメリットがあります。

  1. 価格上昇

独占企業は、完全競争の場合とは違ってライバルがいないため、生産した費用の上に上乗せして価格を設定することができます。価格をどの程度まで上げられるのかは、需要の価格の弾力性によって決まってきます。
もしも、製品の需要が非弾力的(価格を上げても売り上げが減らない商品)なら独占企業は、好きなように価格を引き上げることが出来ます。そうなると消費者はより高い価格で商品やサービスを購入しなければなりません。

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  1. 品質低下

また独占企業は、競争相手がいないため、消費者のニーズを満たすために努力する必要がありません。そのため、品質が低下する可能性があります。生産者は怠惰で非効率になって消費者は高い価格に苦しむことになりかねません。

  1. イノベーションの阻害

独占企業は、競争相手がいないため、新たな技術や製品の開発に取り組む必要がありません。そのため、イノベーションが阻害される可能性があります。

このように独占状態は、企業にとってはメリットが大きい一方で、消費者や社会全体にとってはデメリットが大きい可能性があります。そのため、多くの国では独占禁止法などによって、独占状態を抑制する法律が整備されています。

独占状態が問題視される主な理由

  • 消費者の利益が損なわれる
    価格の上昇や品質の低下により、消費者の負担が増加します。
  • 市場の効率性が低下する
    競争がないため、企業は効率的な経営に努める必要がなく、結果的に社会全体の生産性が低下する可能性があります。
  • 技術革新が阻害される
    競争がないため、企業は新しい技術や製品の開発に消極的になり、産業の発展が遅れる可能性があります。

独占状態を防止するための対策

  • 独占禁止法の厳格な執行:独占的な地位の乱用を禁止し、競争を促進します。
  • 新規参入の障壁の撤廃:新しい企業が市場に参入しやすい環境を整えます。
  • 国による規制:特定の産業において、独占状態を避けるために国が規制を行う場合があります。

独占状態は、一概に良いか悪いかという単純な問題ではなく、様々な側面から考える必要があります。

まとめ

企業の独占について見てきました。

企業は利益を得るために、より多くの顧客を満足させ、自身の地盤を固め、他者との差別化させようとします。自社の競争力が高まれば次の製品の技術開発費に多くのお金をかけることができ、さらなる利益が見込まれます。

「独占」とは、ある企業が一つの事業の市場の利益を独占し続けている状態のことを指します。独占が起こりやすいのは鉄道や通信、郵便、水道、電気などの公共サービスです。公共事業は初期投資が莫大なため、一度投資されてしまうと、新しく参入者は先行者に良いところを持っていかれてしまうため利益を出すことが難しく、新規参入しにくいため「独占」が起こりやすくなる業種です。

また、公共事業の利益は政府が先に押さえていることも多く、規制がかけられて新規の事業者が入りにくくなっています。また独占している企業は自由に価格を設定できるため価格が高くなりやすく、競争相手もいないので品質も落ちがちになり消費者にとって不利益です。
そのようなことから多くの国では独占禁止法が設定され、競合他社との競争を阻害するような行為は違法になっています。

独占は企業の規模が大きくなりやすいため、その利益も莫大になり、潤沢な利益を使ってさらなる技術革新が進みやすい、というメリットがあります。
しかし、企業が価格設定を自由にできることから、経営の効率化が進みにくく、競争の必要性がないため品質の悪化や新製品の開発に消極的になる場合場合があります。

私たちは企業の経営状態を知り、不正のない効率な経営が行われているか、短期的な利益も大切ですが、長期的な成長を得られる経営をしているのか、厳しい目を向けることが大切です。

参考文献

pmi.com
特許 - Wikipedia
ティモシー・テイラー 経済学入門

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