ぽれぽれ経済学

環境保護と経済成長

経済成長と環境問題

「経済成長」と聞くと皆さんはどのように感じますか?
「希望に満ちている」と感じる方もいらっしゃると思いますが、逆に「意味がない」と悪い印象を持つ方も多いかと思います。

環境保護を主張する人には「市場経済が環境悪化を助長している」と主張する人もいます。
産業革命以降、人が変えてしまった環境を守っていくには経済活動をしてはいけないのでしょうか? 
経済発展は地球環境の敵なのでしょうか?

ここでは経済発展と環境保護について考えていきます。

経済発展と環境

経済活動は自然環境に悪い影響を与えるのでしょうか? 

残念ながら経済活動は環境に悪い影響を与える可能性があります。
経済活動には、資源の採取、生産、消費、廃棄などの環境に負荷を与える活動が多く含まれます。これらは、大気汚染、水質汚染、土壌汚染、生物多様性の損失、気候変動などの環境問題を引き起こしているのは明らかです。

たとえば、資源の採取は、森林伐採、鉱山開発、漁業などの形で行われ、自然環境に大きな影響を与えます。またそれを加工したり生産するとき、化学物質や廃棄物の排出が環境汚染の原因となり、そして消費者の手に渡れば、大量のエネルギーと資源の消費が環境負荷を増大させます。最後の廃棄する過程では、廃棄物の処理が環境汚染や資源の浪費につながります。

自由に商売ができる自由市場では、企業も私たち買う側もそれぞれが自分たちの利益のために動くことで成立しています。けれどそのような自由な行動によって、取引にかかわっていない人たちに悪影響を及ぼすなら「一人一人の利益が全体の利益につながる」という市場経済の大前提が崩れてしまいます。

市場経済はやはり悪いものなのでしょうか?

外部費用とは

例えば、排気ガスの場合を考えてみましょう。

車から排気ガスが出て空気が汚れます。
その汚い空気を吸うことによって私たちの健康が害された場合、経済学ではこの健康悪化を「費用(コスト)」として考えます。
つまり、こんなふうな流れで考えます。

  • 健康被害を受けた人は体を健康な状態に戻さなければいけない
  • 正常に戻すにはお金(費用またはコスト)がかかる
  • そのお金は取引に関係のない第3者が負担している

そして、健康被害を受けた人が病院などで支払った費用(コスト)を、経済学用語で「外部費用」と呼んでいます。

外部費用とは、ある商品を売買したことによって、その売り買いにまったくかかわっていない人にその取引の影響が及んだので、その影響を修復したり、損失を補填したりするために必要となる費用を指します。

経済の取引は買い手と売り手の間で行われますが、その取引によって第三者に意図しない影響が及ぶことがあります。
これを「外部性」と呼びます。

外部性には、プラスの外部効果があります。
例えば、美しい庭園が近隣住民に喜びを与えることや、新しい駅ができるとその周辺の不動産は活発に動き、人の行き来も多くなり、商店の売り上げがアップするようなとき、「正の外部性」を受けた、と言います。

反対に問題になるのが、マイナスの外部効果の時です。
例えば、工場の排ガスが大気汚染を引き起こすこと、また工場の排水などの水質汚染によって人々に悪影響があったときは「負の外部性」を受けた、と言います。

外部費用は、このマイナスの外部効果に焦点を当てた概念です。

影響を受けるのは第三者
外部費用は、取引当事者ではなく、取引に直接関わっていない第三者が負担することになります。

費用として評価
負の外部効果によって生じた損害を金銭的に評価したものが外部費用です。
例えば、大気汚染による健康被害の医療費や、環境修復費用などが挙げられます。


市場経済の理論で行けば、企業側は排気ガスや汚水など考えずに利益を最大化しようとします。
周辺住民の健康被害は、市場取引に何の関係もありません。
企業は利益の外部に置かれているの排気ガス問題の費用を負担しません。

つまり、市場経済だけに任せておくと、企業は排出を適切に抑制せず、環境汚染が拡大しまうことになります。

環境について何の制約もなければ企業は生産にかかる費用だけしか見ません。
環境汚染は社会の大きな費用になりますが、企業の直接の利益にならないので当然負担しないからです。

外部費用が問題になるとき

外部費用が問題となるのは、経済活動によって生み出されたコストが、その活動に関わる当事者だけでなく、社会全体に負の影響を与え、結果として社会全体の福利が低下してしまう場合です。

具体的に外部費用が問題となるケースとしては、以下のようなものが挙げられます。

  • 環境汚染
    工場からの排ガスや廃水による大気汚染や水質汚染は、周辺住民の健康被害や生態系への悪影響をもたらし、医療費や環境修復費用といった外部費用が発生します。
  • 騒音
    工場の騒音や交通騒音は、周辺住民の睡眠障害やストレスの原因となり、生活の質を低下させます。
  • 交通渋滞
    自動車が増加することで発生する交通渋滞は、通勤時間の長時間化や経済活動の停滞を引き起こし、社会全体に損失を与えます。
  • 資源の枯渇
    過度の資源採掘は、将来世代の資源利用を制限し、経済成長を阻害する可能性があります。

なぜ外部費用が問題になってしまうのか?

市場経済は外部費用の問題まで解決できるシステムではありませんでした。

市場の失敗
通常、市場経済では、供給と需要が均衡することで価格が決定され、資源が効率的に配分されると考えられています。
しかし、外部費用が存在する場合、市場メカニズムだけでは、汚染などの負の外部効果を適切に考慮することができず、社会全体の福利が最大化されないという問題が生じます。

外部費用の問題は社会全体に及びます。

社会全体の損失
外部費用は、汚染対策や被害補償など、社会全体で負担しなければならないコストです。
このため、外部費用を考慮せずに経済活動が行われると、社会全体の損失が大きくなってしまいます。

外部費用は、市場経済における重要な問題であり、環境問題や社会問題、そして持続可能な社会をつくるためは欠かせないのです。

外部費用を解決するために

外部費用はどのように解決したらいいのでしょうか?

もし、排気ガスを自由に出してよければ、排気ガスは出続けるでしょう。
けれど、もし排気ガスを出したらお金がかかる、ということになったらどうでしょうか? 企業は一転して経費削減のために排気ガス抑制について考え出すはずです。

負の外部費用の解決には、政府の介入が有効です。
政府はガスの排出量にあわせて課税して企業に負担させたり、また補助金を出して環境負荷の低減を促進することもできます。

日本では2023年現在、いくつかの環境政策が実施されています。

  • 環境保全の目標と計画の策定
    環境保全に関する多くの目標と計画を策定しています。例えば、日本の政府は、2050年までに温室効果ガスの排出実質ゼロを目指す「2050年カーボンニュートラル宣言」があります。
  • 環境規制の実施
    環境汚染や環境破壊を防止するために環境規制があります。「資源有効利用促進法」という法律や「日本工業規格」の規格を決めて工場からの排出物質の規制や、ゴミの排出量規制などを実施しています。
  • 環境対策の財政支援
    環境対策に取り組む企業や団体への支援や、個人にも例えば断熱性の高い素材にリフォームしたときや、熱効率の高い給湯器にリフォームした場合に補助金を交付しています。
    デコ活(脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動) (env.go.jp)
  • 環境教育の推進
    環境に対する国民の理解と行動を促すために、環境教育を推進しています。例えば、日本の政府は、小学校や中学校での環境教育の充実や、環境に関する情報の提供などを行っています。

公害のもとになる物質を発生させていた場合、その処理費用や健康被害にかかった医療費は本来汚染元になった企業が負担する費用です。その企業が対策をしなかったため本来必要な費用が価格に含まれずに安く供給されて、大量に供給されているはずです。
この本来支払うはずの費用を政府の権限で企業に課税や賠償で負担させ問題を解決することができます。

外部費用の解決には、政府の規制以外にもさまざまなアイデアがあります。

  • 課税
    汚染税や炭素税など、汚染の原因となる活動に税金を課すことで、企業に汚染対策の費用を負担させ、外部費用を内部化することができます。
  • 排出権取引
    汚染物質の排出量に上限を設定し、その排出権を企業間で取引させることで、より効率的な汚染対策を促すことができます。
  • 訴訟
    被害者が企業を訴え、損害賠償を求めることで、企業に責任を負わせることができます。

外部費用をどのように誰がどのように負担するのかを解決するには、これからもっと様々なアイデアが必要です。
環境問題に一番進んでいると言われている北欧の政策を見てみましょう。

北欧の環境政策と日本

日本でも環境政策を取り組んではいますが、環境政策で最も進んでいる国はフィンランド、スウェーデン、デンマークなどの北欧諸国です。
これらの国々は、環境保護に対する意識が高く、政府や国民が一体となって環境対策に取り組んでいます。

例えば、フィンランドは、2050年までにカーボンニュートラルを達成することを目標に掲げています。
そのため、再生可能エネルギーの導入を積極的に進めており、2022年には風力発電と水力発電の合計が電力供給の76%を占めました。また、廃棄物のリサイクル率は95%を超えており、世界トップクラスの水準です。

スウェーデンは、2045年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする目標を掲げています。
その目標に向けて、再生可能エネルギーの導入を進めており、2022年には風力発電と水力発電の合計が電力供給の65%を占めました。また、電気自動車の普及を促進しており、2022年には電気自動車の販売台数がガソリン車の販売台数を上回りました。

デンマークは、2030年までにエネルギー自給率を50%に引き上げる目標を掲げています。
他の北欧諸国と同じように、再生可能エネルギーの導入を進めており、2022年には風力発電が電力供給の56%を占めました。また、バイオ燃料の利用を促進しており、2022年にはバイオ燃料の利用量がガソリンの利用量の約30%に達しました。

日本は、2030年までに温室効果ガス排出量を2013年度比で46%削減する目標を掲げていますが、2022年度の排出量は2013年度比で24.4%削減にとどまっており、目標達成に向けてさらなる取り組みが必要です。

今後も、各国は環境問題への対策を強化していくことが予想され、環境政策で最も進んでいる国は、今後も世界をリードしていく存在となるでしょう。

まとめ

環境問題と政府の政策について解説しました。

自由な市場経済ではそれそれが自分の利益を考えて振舞えば、適正な価格と量が生み出されると考えられています。けれどいつもそれがうまく働くわけではありません。特に環境問題は「市場経済の失敗」の一つです。

企業の活動は時に環境に負荷をかけ有害になることがあります。その問題を解決するためには、政府が規制をかけて企業に注意を促したり、補助金を用意して環境問題に取り組む企業を助けることで問題が解決できる場合があります。

しかし、どんなに注意深く活動したとしても環境への負荷はゼロになることはないでしょう。私たちは生きている限り環境への負荷はなくなりません。環境問題をゼロにすることはできませんが、改善していくことは可能です。

経済は技術革新しなければ成長できません。
そして環境問題は技術革新によってでしか解決できません。

つまり、経済成長と環境問題は両輪のように進んでいかなければいけないものなのです。

参考文献

経済学入門 ティモシー・テイラー
中高の教科書で分かる経済学 菅原晃
日本産業規格 - Wikipedia
カーボンニュートラルとは - 脱炭素ポータル|環境省 (env.go.jp)

PR:株式会社レオナビューティー

RP:株式会社イワミズ

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